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32.これクエストか?、再会
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「お嬢様っ!!」
メイドが大きな声で言うと、走り出したんだ。何事かと思ってびっくりするだろう?その場の全員が、そのメイドに視線を集中させたのは言うまでもない。
ただ、どっちだ?
「エ、エメラ?・・・」
お前か!
メイドの名前だろう、それを口にしたアリシアも驚きの表情をしている。そのアリシアに飛びつくように、メイドは抱き着いた。
「お嬢様、生きていると信じておりました。」
言いながらアリシアの頭を抱えて涙を流し続けるメイド。
「ほ、本物ですよね?幻じゃないですよね?」
続けて肩を掴んで距離を取ると、アリシアの顔を覗き込みながらメイドは不安を口にする。
「良かった・・・私、もう会えないんじゃないかと・・・」
また抱き寄せては嗚咽混じりにメイドは言った。
「わたくしも、再びエメラに出会えるとは思いませんでしたわ。このまま帰れないんじゃないかと不安でしたの。」
アリシアも安堵なのか、嬉しさなのか、泣いていて表情が崩れているから分からないが、メイドの背中に手をまわして言う。それだけ、会えた事が嬉しいのかもしれない。
「お嬢様の無事が確認出来るまで、私は死んでも死にきれないって思ってました。」
「大袈裟ね、そこまで思い詰めなくてもいいですわ。」
どうやら、感動の再会を果たせたようだ。
「さて、俺の仕事も終わったし帰るか・・・」
アリシアとエメラに気を奪われていると、さっきのおっさんがそうぼやいて街の門の方へ向かって行った。
アリシアとエメラを引き合わせる事が仕事?
あのおっさんはどう見てもプレイヤーだ。ただ、一般プレイヤーが知らない何かがあるのかも知れないが、プレイヤーだったとしら一般じゃないだろうな。
今までプレイしてきて、アリシアのようなイベント情報は何処にも載っていない。プレイ日記とかネット上に載せている奴や、攻略情報を確認したが見つからなかった。
という事は、特殊なイベントなのか、別の何か思惑に巻き込まれているのか。
考えすぎか・・・?
ま、いいか。
「よし、クエストクリアだな。」
そう思う事にしておこう。
「え、そうなの?」
タッキーが多少驚きの表情で疑問を口にする。
知るか。
「そういう事にしておこうぜ。ってことで、話しもまとまった事だし、クエストに行くか。」
「そだね、邪魔しちゃ悪いし。」
「むしろお守りから解放されて、気が楽になりましたわ。」
お守りなんかしてねーだろうが。アヤカの場合、ただ張り合ってただけだろ。歩き始めた俺にタッキーとアヤカが続く。
「何々、どゆこと?」
「気にする事じゃないですよ月下、ただの茶番ですから、後で教えてあげますね。」
そういやそうか、月下は今までパーティに居たわけじゃないし、始めたのも最近だ。アリシアの事を知らなくても当然だから、何の事か分からないんだろう。続いて月下と姫が着いて来る。
だが、姫もなかなか言う・・・ただの茶番・・・。
あの感動の再会?を見る限り、そんな風には思えないが。でも、俺の知りえる範疇の出来事じゃなさそうだからな。茶番という可能性も否定できない。
「え、アリシア嬢は放置なのか?」
アリシアの方を振り返りながら、最後にミカエルが続く。
ヒーラーが抜けるのは痛いが、そこまで気になるなら残ってもいいんだが。ミカエル無しでオルデラには勝てたんだ。あの時より装備も充実してるし、問題ないだろう。
「別に残ってもいいぞ。」
「オルデラなら、僕たちでもなんとかなるし。」
「あの赤髪なんて瞬殺ですわ。」
それは無理だろ。
「はい、私の我が儘ですから、お好きにしていて問題ないです。」
「ごめんなさい、LV9に上がったら頑張るので。」
うわぁ、言い出した俺が言うのもなんだが、ミカエルに対する反応が割とドライだなみんな。本人も予想外だったのか狼狽えてるし。
「ま、待ってくれ、俺も行くって・・・」
慌てて着いて来るが、アリシアの方を振り返りながらってのが未練がましい。そこまで気になるなら本当に残ればいいのに。
「待ちなさないユアキス。」
えぇ・・・
感動の再会に浸ってろよ。何故呼び止めるかな。
「わたくしに黙って何処に行く気ですの。」
お前の許可は要らないだろうが。
「クエストに行くんだよ、いいから感動の再会を続けてろよ。」
「従者のくせに生意気ですわ。」
だから従者じゃねーっての。いい加減面倒になってきたな。
「あの、気になっていたのですが、こちらの方々は?」
「わたくしの従者とその他下民ですわ。」
おい・・・
クエスト、何時になったら行けるんだよ。
「聞き捨てなりませんわ、いつ私が田舎娘の下になったのかしら?」
「やめろ!話しが進まねぇ!」
いつものアヤカとアリシアの言い合いは、始まると話しが進まない。それは当事者以外にはまったく興味の無い話でしかない。放置しておけばいいだけの話しだが、クエストに行くとなるとそうもいかない。お嬢様の都合なんか待ってられるか。
「誰に向かって言っているのかしら?」
「そういうところが進まねぇって言ってんだよ、続けるなら置いていくぞ。」
今度は俺に矛先を向けたアヤカに、付き合ってやる義理はない。続けるなら置いていくまでだ。まぁ、今ならオルデラも主力無しでなんとかなるだろう。
火力担当なら月下に任せておけばいい。もともとこいつのクエストだしな。
「何をしているんですの?早く行きますわよ。」
どの口が・・・
俺が言った後、すかさず先頭に移動してアヤカが言いやがった。その程度で覆るようなら、最初からアリシアに噛みつくなよ、面倒くせぇ。
「まだ話しは終わっていませんわ。」
話しがまとまったかと思ったところに、アリシアの阿呆が引き戻す。もう勘弁してくれ。
「お嬢様、ここは私に。」
そう言って、まだ目を赤く腫らしたままのエメラが、アリシアの前に出て行動を制する。
「わ、わかりましたわ。」
アリシアはそれに渋々従った。
話しの通じるメイドで助かった。エメラは俺らに、アリシアの事は任せて行く所があるなら行ってくれと促してくれた。少しだが会話をした感じ、主と違ってまともだった。
そう言えば、アヤカのところの運転手も似たようなものか。
それはさておき、ここは遠慮なくオルデラをぶっ飛ばしに、アーニルケの街へと移動を開始する。
ただ、エメラに関してはアリシアとの再会を、邪魔されたく無かったんじゃないだろうか。本心は分からないが、それならそれでいいと思う。
「ところでエメラ、馬車は何処にありますの?やっと帰る事が出来ますわ。」
ユアキス達がクエストに向かい、アリシアとエメラが二人になったところで、アリシアがそう切り出した。
「あの、お嬢様・・・」
「何かしら?」
アリシアの問いに、エメラは言い難そうに口開いた。来るだろうと思っていた問いではあったが、いざ言われると出会えた喜びも消沈してしまう。
「申し上げにくいのですが、この場所が何処なのか私にもわからなく・・・」
「え・・・」
エメラの言った内容に、アリシアは目を見開いて硬直した。当然、自分を探し出して来たものだと思い込んでいたからだ。
「実はその、お嬢様と同様に・・・」
「ま、まさか、エメラも突然この場所に来てしまったんですの!?」
エメラがそこまで話すと、察したアリシアは驚きで声を大きくした。探して来たわけでもないどころか、まさか同じ境遇だなんて思いもしなったのが態度に出たのだろう。
「はい、急に意識が揺らいだかと思ったら、別の場所に居まして・・・」
「エメラまでわたくしと同じ状況になってしまうなんて。」
アリシアはそう言って肩を落とした。
会えた感動から、同じ境遇への驚き、続いて帰る手段が結局分からないという結果に。
「はぁ、疲れましたわ。」
目まぐるしく変わった感情に、アリシアは溜息をつく。
「申し訳ありません。」
「エメラが気にする事じゃありませんわ。」
それはエメラも同じだろう、そう思ってアリシアは微笑んで見せた。自分よりも、エメラの方が来たばかりで疲れているだろうと思って。
「ところでお嬢様、此処は一体何処なのでしょうか?」
「それが分かるなら、とっくに帰っていますわ。」
「そうですか・・・」
エメラはそれがアリシアの本心かどうかまでは分からなかった。もう3カ月近くも戻っていないのだ、場所は分かっているが、結婚が嫌で帰らなかった可能性も否定できない。
そう考えると、今の言葉でさえも疑ってしまう。
「ユアキスに聞いた名前は、聞いた事の無いものばかりでしたわ。」
「あぁ、先程の方々ですか。」
「えぇ、エメラが知っていればいいのだけど。」
「はい、聞かせてください。」
「初めて聞く名前ばかりです・・・」
これまでの経緯、この場所の地名や街の名前等を聞いたが、エメラにとっても全て初耳だった。
「だから言ったでしょう。」
「はい、聞いた事の無い大陸名です。私たちが知らない大陸が、在ったという事でしょうか?」
「それはわたくしにも分かりませんわ。」
「ですが、実際にこうしている以上、在るのでしょうね。」
知らない土地の知らない地面を踏みながら、エメラは確かめるように言った。
「問題は此処からどうやって、イズ・クーレディア大陸へ戻るかですわ。」
「何か、手掛かりなどはありますか?」
エメラは自分よりも前に来ているアリシアなら、何かを掴んでいるかも知れないと、期待を込めて聞いみる。が、アリシアはエメラの問いに重く首を振るだけだった。
「ユアキスはクエストというものを行うために、色んな場所に行きますわ。丁度いいので着いて行ってるのだけど、今のところ帰る当ては何一つ見つかりませんわ。」
「そうですか・・・」
思い出しながらアリシアは言うが、やはり思い出してもそれらしい手がかりは無かったと再確認した。エメラの表情も暗い。
だがエメラは意を決したようにアリシアを見る。
「ですが、これからは私が一緒に探せます。あの様な素行の悪そうな者たちと行動を共にする必要はありません。」
エメラはアリシアの侍女であるため、付き従う事にはなんの問題も無い。ユアキスたちは確かに下民であり、素行が悪いように見えるのも仕方がない。自分が家に帰るために利用しているだけと、アリシアは思っているが、何故かエメラに言われるのは釈然としない気分だった。
「ユアキス達が居なければ、移動もままなりませんわ。」
「どういう、事ですか?」
「至る所に魔獣が居るんですの。嗜み程度に習ったわたくしの剣技では、太刀打ちできませんわ。」
聞きなれないアリシアの言葉に、エメラは首を傾げる。
「マジュウ?それは一体なんでしょう?」
「人の倍はありそうなイノシシや、炎を吐くトカゲ、氷を飛ばす狼など、様々ですわ。」
だがその内容に、エメラは驚くどころか呆れと哀れみが混じったような表情になった。
「・・・お嬢様、知らない土地に来て寂しかったのですね。その様な妄想を語り出すなんて。」
「エメラ!わたくしを何だと思っていますの?」
「も、申し訳、ありませ・・・く、くるし・・・」
エメラはアリシアに首を絞められながら揺さぶられる。その顔からは血の気が引き始めていた。力の抜け始めたエメラを見て、アリシアは慌てて手を離す。
「・・・はぁ、申し訳ありません。つい口が。しかし、私よりもお嬢様の方がこの場所に詳しいのは事実、ここはお嬢様に従い、様子を見させていただきます。」
首を抑えて呼吸を調えると、エメラは渋々そう言った。本当は納得などしていなかったが、何分知らない土地のため、様子くらいは見た方がいいだろうと。
「当たり前ですわ。」
アリシアは腰に手を当て、胸を反らして言う。でもすぐにエメラに向き直ると、何処か曖昧な表情になって口を開いた。
「ところでエメラ・・・」
「はい、何でしょう?」
「お父様は、あれからどうしていましたの?」
アリシアは自分が居なくなった事で、ルーデリオがどの様な反応をしたか気になって聞いた。政略結婚に不満だったアリシアは清々したが、ルーデリオは家名に傷が付いた事に不満だったのではないかと。娘の自分より、不名誉の方を気にしているのではないかと。
だが、エメラはその問いに苦しそうに表情を歪める。
「ルーデリオ様は、お嬢様の事を酷く心配しておられました。」
「まさか・・・」
思ってもみなかったエメラの言葉に、アリシアは驚きを隠せなかった。
ずっと心配して体力も気力も減っていく様、一人でもずっとアリシアを探し続けていた事、そんな状態なのに自分すらも気にかけていた事など、アリシアが居なくなってからの事をエメラは話した。
「お父様・・・」
エメラの話しを聞いたアリシアは、悔やむように唇を噛んだ。
「私が消えた事で、さらに心労が増えていないか気がかりです。お嬢様と会えた事、二人とも無事である事を伝える方法があれば良いのですが。」
そうしなければ、ルーデリオは更に衰弱してしまうのではないかと、エメラは心配だった。
同時に、自分がルーデリオの目の前で消えた事で、アリシアに起きた事をルーデリオは識る事が出来たのではないか?自分の言っている事が証明出来たのではないか?
そう思えば、生きている可能性を考慮してくれる希望も、可能性としてはあるかも知れないとも思った。
「二人で探さなくてはなりませんわ、その方法を。それもなるべく早く。」
「はい、お嬢様。」
「そのためにも、やはりユアキス達の力が必要ですわ。」
「わかっております。」
目に決意を宿したように言うアリシアに、エメラも同様の態度で従った。
二人とも、これ以上ルーデリオに心配は掛けさせたくないという思いから。
メイドが大きな声で言うと、走り出したんだ。何事かと思ってびっくりするだろう?その場の全員が、そのメイドに視線を集中させたのは言うまでもない。
ただ、どっちだ?
「エ、エメラ?・・・」
お前か!
メイドの名前だろう、それを口にしたアリシアも驚きの表情をしている。そのアリシアに飛びつくように、メイドは抱き着いた。
「お嬢様、生きていると信じておりました。」
言いながらアリシアの頭を抱えて涙を流し続けるメイド。
「ほ、本物ですよね?幻じゃないですよね?」
続けて肩を掴んで距離を取ると、アリシアの顔を覗き込みながらメイドは不安を口にする。
「良かった・・・私、もう会えないんじゃないかと・・・」
また抱き寄せては嗚咽混じりにメイドは言った。
「わたくしも、再びエメラに出会えるとは思いませんでしたわ。このまま帰れないんじゃないかと不安でしたの。」
アリシアも安堵なのか、嬉しさなのか、泣いていて表情が崩れているから分からないが、メイドの背中に手をまわして言う。それだけ、会えた事が嬉しいのかもしれない。
「お嬢様の無事が確認出来るまで、私は死んでも死にきれないって思ってました。」
「大袈裟ね、そこまで思い詰めなくてもいいですわ。」
どうやら、感動の再会を果たせたようだ。
「さて、俺の仕事も終わったし帰るか・・・」
アリシアとエメラに気を奪われていると、さっきのおっさんがそうぼやいて街の門の方へ向かって行った。
アリシアとエメラを引き合わせる事が仕事?
あのおっさんはどう見てもプレイヤーだ。ただ、一般プレイヤーが知らない何かがあるのかも知れないが、プレイヤーだったとしら一般じゃないだろうな。
今までプレイしてきて、アリシアのようなイベント情報は何処にも載っていない。プレイ日記とかネット上に載せている奴や、攻略情報を確認したが見つからなかった。
という事は、特殊なイベントなのか、別の何か思惑に巻き込まれているのか。
考えすぎか・・・?
ま、いいか。
「よし、クエストクリアだな。」
そう思う事にしておこう。
「え、そうなの?」
タッキーが多少驚きの表情で疑問を口にする。
知るか。
「そういう事にしておこうぜ。ってことで、話しもまとまった事だし、クエストに行くか。」
「そだね、邪魔しちゃ悪いし。」
「むしろお守りから解放されて、気が楽になりましたわ。」
お守りなんかしてねーだろうが。アヤカの場合、ただ張り合ってただけだろ。歩き始めた俺にタッキーとアヤカが続く。
「何々、どゆこと?」
「気にする事じゃないですよ月下、ただの茶番ですから、後で教えてあげますね。」
そういやそうか、月下は今までパーティに居たわけじゃないし、始めたのも最近だ。アリシアの事を知らなくても当然だから、何の事か分からないんだろう。続いて月下と姫が着いて来る。
だが、姫もなかなか言う・・・ただの茶番・・・。
あの感動の再会?を見る限り、そんな風には思えないが。でも、俺の知りえる範疇の出来事じゃなさそうだからな。茶番という可能性も否定できない。
「え、アリシア嬢は放置なのか?」
アリシアの方を振り返りながら、最後にミカエルが続く。
ヒーラーが抜けるのは痛いが、そこまで気になるなら残ってもいいんだが。ミカエル無しでオルデラには勝てたんだ。あの時より装備も充実してるし、問題ないだろう。
「別に残ってもいいぞ。」
「オルデラなら、僕たちでもなんとかなるし。」
「あの赤髪なんて瞬殺ですわ。」
それは無理だろ。
「はい、私の我が儘ですから、お好きにしていて問題ないです。」
「ごめんなさい、LV9に上がったら頑張るので。」
うわぁ、言い出した俺が言うのもなんだが、ミカエルに対する反応が割とドライだなみんな。本人も予想外だったのか狼狽えてるし。
「ま、待ってくれ、俺も行くって・・・」
慌てて着いて来るが、アリシアの方を振り返りながらってのが未練がましい。そこまで気になるなら本当に残ればいいのに。
「待ちなさないユアキス。」
えぇ・・・
感動の再会に浸ってろよ。何故呼び止めるかな。
「わたくしに黙って何処に行く気ですの。」
お前の許可は要らないだろうが。
「クエストに行くんだよ、いいから感動の再会を続けてろよ。」
「従者のくせに生意気ですわ。」
だから従者じゃねーっての。いい加減面倒になってきたな。
「あの、気になっていたのですが、こちらの方々は?」
「わたくしの従者とその他下民ですわ。」
おい・・・
クエスト、何時になったら行けるんだよ。
「聞き捨てなりませんわ、いつ私が田舎娘の下になったのかしら?」
「やめろ!話しが進まねぇ!」
いつものアヤカとアリシアの言い合いは、始まると話しが進まない。それは当事者以外にはまったく興味の無い話でしかない。放置しておけばいいだけの話しだが、クエストに行くとなるとそうもいかない。お嬢様の都合なんか待ってられるか。
「誰に向かって言っているのかしら?」
「そういうところが進まねぇって言ってんだよ、続けるなら置いていくぞ。」
今度は俺に矛先を向けたアヤカに、付き合ってやる義理はない。続けるなら置いていくまでだ。まぁ、今ならオルデラも主力無しでなんとかなるだろう。
火力担当なら月下に任せておけばいい。もともとこいつのクエストだしな。
「何をしているんですの?早く行きますわよ。」
どの口が・・・
俺が言った後、すかさず先頭に移動してアヤカが言いやがった。その程度で覆るようなら、最初からアリシアに噛みつくなよ、面倒くせぇ。
「まだ話しは終わっていませんわ。」
話しがまとまったかと思ったところに、アリシアの阿呆が引き戻す。もう勘弁してくれ。
「お嬢様、ここは私に。」
そう言って、まだ目を赤く腫らしたままのエメラが、アリシアの前に出て行動を制する。
「わ、わかりましたわ。」
アリシアはそれに渋々従った。
話しの通じるメイドで助かった。エメラは俺らに、アリシアの事は任せて行く所があるなら行ってくれと促してくれた。少しだが会話をした感じ、主と違ってまともだった。
そう言えば、アヤカのところの運転手も似たようなものか。
それはさておき、ここは遠慮なくオルデラをぶっ飛ばしに、アーニルケの街へと移動を開始する。
ただ、エメラに関してはアリシアとの再会を、邪魔されたく無かったんじゃないだろうか。本心は分からないが、それならそれでいいと思う。
「ところでエメラ、馬車は何処にありますの?やっと帰る事が出来ますわ。」
ユアキス達がクエストに向かい、アリシアとエメラが二人になったところで、アリシアがそう切り出した。
「あの、お嬢様・・・」
「何かしら?」
アリシアの問いに、エメラは言い難そうに口開いた。来るだろうと思っていた問いではあったが、いざ言われると出会えた喜びも消沈してしまう。
「申し上げにくいのですが、この場所が何処なのか私にもわからなく・・・」
「え・・・」
エメラの言った内容に、アリシアは目を見開いて硬直した。当然、自分を探し出して来たものだと思い込んでいたからだ。
「実はその、お嬢様と同様に・・・」
「ま、まさか、エメラも突然この場所に来てしまったんですの!?」
エメラがそこまで話すと、察したアリシアは驚きで声を大きくした。探して来たわけでもないどころか、まさか同じ境遇だなんて思いもしなったのが態度に出たのだろう。
「はい、急に意識が揺らいだかと思ったら、別の場所に居まして・・・」
「エメラまでわたくしと同じ状況になってしまうなんて。」
アリシアはそう言って肩を落とした。
会えた感動から、同じ境遇への驚き、続いて帰る手段が結局分からないという結果に。
「はぁ、疲れましたわ。」
目まぐるしく変わった感情に、アリシアは溜息をつく。
「申し訳ありません。」
「エメラが気にする事じゃありませんわ。」
それはエメラも同じだろう、そう思ってアリシアは微笑んで見せた。自分よりも、エメラの方が来たばかりで疲れているだろうと思って。
「ところでお嬢様、此処は一体何処なのでしょうか?」
「それが分かるなら、とっくに帰っていますわ。」
「そうですか・・・」
エメラはそれがアリシアの本心かどうかまでは分からなかった。もう3カ月近くも戻っていないのだ、場所は分かっているが、結婚が嫌で帰らなかった可能性も否定できない。
そう考えると、今の言葉でさえも疑ってしまう。
「ユアキスに聞いた名前は、聞いた事の無いものばかりでしたわ。」
「あぁ、先程の方々ですか。」
「えぇ、エメラが知っていればいいのだけど。」
「はい、聞かせてください。」
「初めて聞く名前ばかりです・・・」
これまでの経緯、この場所の地名や街の名前等を聞いたが、エメラにとっても全て初耳だった。
「だから言ったでしょう。」
「はい、聞いた事の無い大陸名です。私たちが知らない大陸が、在ったという事でしょうか?」
「それはわたくしにも分かりませんわ。」
「ですが、実際にこうしている以上、在るのでしょうね。」
知らない土地の知らない地面を踏みながら、エメラは確かめるように言った。
「問題は此処からどうやって、イズ・クーレディア大陸へ戻るかですわ。」
「何か、手掛かりなどはありますか?」
エメラは自分よりも前に来ているアリシアなら、何かを掴んでいるかも知れないと、期待を込めて聞いみる。が、アリシアはエメラの問いに重く首を振るだけだった。
「ユアキスはクエストというものを行うために、色んな場所に行きますわ。丁度いいので着いて行ってるのだけど、今のところ帰る当ては何一つ見つかりませんわ。」
「そうですか・・・」
思い出しながらアリシアは言うが、やはり思い出してもそれらしい手がかりは無かったと再確認した。エメラの表情も暗い。
だがエメラは意を決したようにアリシアを見る。
「ですが、これからは私が一緒に探せます。あの様な素行の悪そうな者たちと行動を共にする必要はありません。」
エメラはアリシアの侍女であるため、付き従う事にはなんの問題も無い。ユアキスたちは確かに下民であり、素行が悪いように見えるのも仕方がない。自分が家に帰るために利用しているだけと、アリシアは思っているが、何故かエメラに言われるのは釈然としない気分だった。
「ユアキス達が居なければ、移動もままなりませんわ。」
「どういう、事ですか?」
「至る所に魔獣が居るんですの。嗜み程度に習ったわたくしの剣技では、太刀打ちできませんわ。」
聞きなれないアリシアの言葉に、エメラは首を傾げる。
「マジュウ?それは一体なんでしょう?」
「人の倍はありそうなイノシシや、炎を吐くトカゲ、氷を飛ばす狼など、様々ですわ。」
だがその内容に、エメラは驚くどころか呆れと哀れみが混じったような表情になった。
「・・・お嬢様、知らない土地に来て寂しかったのですね。その様な妄想を語り出すなんて。」
「エメラ!わたくしを何だと思っていますの?」
「も、申し訳、ありませ・・・く、くるし・・・」
エメラはアリシアに首を絞められながら揺さぶられる。その顔からは血の気が引き始めていた。力の抜け始めたエメラを見て、アリシアは慌てて手を離す。
「・・・はぁ、申し訳ありません。つい口が。しかし、私よりもお嬢様の方がこの場所に詳しいのは事実、ここはお嬢様に従い、様子を見させていただきます。」
首を抑えて呼吸を調えると、エメラは渋々そう言った。本当は納得などしていなかったが、何分知らない土地のため、様子くらいは見た方がいいだろうと。
「当たり前ですわ。」
アリシアは腰に手を当て、胸を反らして言う。でもすぐにエメラに向き直ると、何処か曖昧な表情になって口を開いた。
「ところでエメラ・・・」
「はい、何でしょう?」
「お父様は、あれからどうしていましたの?」
アリシアは自分が居なくなった事で、ルーデリオがどの様な反応をしたか気になって聞いた。政略結婚に不満だったアリシアは清々したが、ルーデリオは家名に傷が付いた事に不満だったのではないかと。娘の自分より、不名誉の方を気にしているのではないかと。
だが、エメラはその問いに苦しそうに表情を歪める。
「ルーデリオ様は、お嬢様の事を酷く心配しておられました。」
「まさか・・・」
思ってもみなかったエメラの言葉に、アリシアは驚きを隠せなかった。
ずっと心配して体力も気力も減っていく様、一人でもずっとアリシアを探し続けていた事、そんな状態なのに自分すらも気にかけていた事など、アリシアが居なくなってからの事をエメラは話した。
「お父様・・・」
エメラの話しを聞いたアリシアは、悔やむように唇を噛んだ。
「私が消えた事で、さらに心労が増えていないか気がかりです。お嬢様と会えた事、二人とも無事である事を伝える方法があれば良いのですが。」
そうしなければ、ルーデリオは更に衰弱してしまうのではないかと、エメラは心配だった。
同時に、自分がルーデリオの目の前で消えた事で、アリシアに起きた事をルーデリオは識る事が出来たのではないか?自分の言っている事が証明出来たのではないか?
そう思えば、生きている可能性を考慮してくれる希望も、可能性としてはあるかも知れないとも思った。
「二人で探さなくてはなりませんわ、その方法を。それもなるべく早く。」
「はい、お嬢様。」
「そのためにも、やはりユアキス達の力が必要ですわ。」
「わかっております。」
目に決意を宿したように言うアリシアに、エメラも同様の態度で従った。
二人とも、これ以上ルーデリオに心配は掛けさせたくないという思いから。
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