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42.まさか来るとは、困惑
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あれから数日、マリアの動きに変化は無い。あの態度は、言葉はなんだったのか、まったくわからない。
ゲーム内でも何時もと変わらずに行動している。単に俺をからかっただけかもしれないが、本名を知られているところが気持ち悪い。
でも俺から何かを出来るわけでもなく、なんとも言えない気分のまま時間だけが過ぎている感じだ。
DEWSではスニエフの街を起点に行動するようになった。
新しいクエスト、新しい装備品、新しい敵。やっと進んだ事で、やる事も多く充実しているし、楽しめている。
オルデラ戦はかなり苦労したが、その先の敵は今のところそこまで強くはない。まぁ、一人で戦えるかというと無理だけど。
設定としてはスニエフの街からさらに、地底へと世界が広がっている。魔獣はそこから来ているという話しではあるのだが。
正直、スニエフの街が出来た経緯については、知ってしまうとなんとなくそうかなと感じていた部分もあり、あまりいい気分の話しではない。まぁ、あくまで俺個人の感想でしかないが。
「ねぇ雪待。」
学校に行くと、登校してきた中島が声を掛けてくる。いつもよりは声音が低く、表情も浮かない感じだから、いい話ではないだろう。
「おはよう、どうした?」
「あ、うん、おはよ。」
それだけ言うと、席にカバンを置いて座り込む。なんか歯切れの悪い挨拶に、はっきりしない態度だな。
「マリアにでもふられたか?」
「まだだよ!」
そこに関してははっきりと否定したな。というか、脈があると思っているところがすごい。マリアの態度を見る限り、相手にしているようにはまったく思えないが。
「そうじゃなくてさ。」
「なんだよ。」
「城之内の見舞いに行ったんだけどさ、症状がまったく変わってないんだって。」
謎の頭痛に苦しまされているクラスメートの状態は、なんら改善していないらしい。確かに、友達がそんな状態じゃ気分も沈むわな。俺も他人事じゃなない、一緒のクラスで一緒にDEWSをプレイしていたんだ。
友達の中島ほどじゃないが、それを聞くとなんとも言えない気分になる。
「でね・・・」
中島が話しを続けようとする。この話しにはまだ続きがあるようだが、本人の態度はやはり浮かない。
「あぁ・・・」
釣られて俺の返事も重くなった。
「ちょっと調べてみたんだ。他に似たような症状の人がいるかもと思って。」
そんな病気なら、症例とかあってもよさそうだもんな。
「病気に関しては医者の方がよく知っているんじゃないのか?素人が医療関係者以上の情報を得られるとは思わないが。」
「いや、そっちじゃなくてさ。」
病気の話しじゃない?となると、想像がつかないので中島が話しを続けるのを待つ事にする。
「ネットのまとめ記事で見かけただけだから、信憑性は全然無いんだけど。」
そこまで聞いても話しの概要すら見えてこない。単に、城之内の頭痛に関係しているのか、いないのか程度だ。
「DEWSをプレイしていて、死んだ人がいるらしいんだ。」
はっ?
一瞬思考が止まる。DEWSをプレイしている人が死んだ?それって、DEWSは関係あるのか?
「プレイしっぱなしで、過労死とかか?やりすぎで、寝不足になって事故とか?」
ゲームだから過労ではないだろうが、他に表現が見つからない。
「いや、そうじゃなくて、プレイ中に具合が悪くなって、救急搬送されたんだけど死んじゃったらしいんだ。」
・・・
俺が言っている事と大差ないじゃねーか。それは本当にDEWSが原因か?本人に突発性の症状が出たとか、持病があったとかじゃねーの?
「それで?」
「いや、それ以上の情報は・・・」
「DEWSが原因かどうか不明じゃねーか。」
「だから、信憑性は無いって最初に言ったじゃん。」
だったら話さなきゃいいじゃないか、とは思っても言わない。それ以上は会話になりそうな気がしないから。
「まぁ、本人が死んでしまったら、何も分からないわな。」
「そうだね。」
「例えば家族がその情報を書いたとしても、ゲーム中に急に具合が悪くなって、病院に行ったけど間に合わなかった、となるよな。」
「どこまで詳細に書くかによると思うけど、そんなものかな。」
ゲームに原因があるとするなら、もっと大事になっていてもいい気はする。それこそ、ニュースにだって取り上げられるだろうし、訴訟問題になっていても不思議じゃない。
まぁ、中島が城之内を心配しているのはよくわかった。今回の話しはその結果なんだろう。
「噂程度にしたって、そんな話しが出たら心配にもなるわな。」
「うん。」
だけど、城之内の頭痛が、DEWSによるものだという確証も無い。あの光景を目の当たりにしたからこそ、そういう不安が過るのも仕方がないと思う。
ただ、俺に出来ることはないから、関係者が原因をはっきりさせてくれない限りは、この手の不安は尽きそうにない。
「なんにしても、僕らが出来る事って、見守るしかないよね。」
「そうだな。」
先生が来たからか、自然と終わったのかわからないが、話しはそこで終わりとなった。その後、帰るまではいつもの他愛ない会話で終わり、鳳隆院が帰りがけに召集をかけ下校。という日常の流れだった。
自転車に乗り校門を出ると、俺の行くてを塞ぐように一人の女性が現れる。びっくりしたけど、自転車の補助ブレーキが作動してぶつかる事はなかった。
「危ない・・・」
だろうが!って言いそうになったが、女性の顔を見るとその言葉は霧散してしまう。
ゲーム内の見た目と何も変わらない。むしろ、現実の方が遥かに綺麗に見えた。
「晶社くん、やっと会えたね。」
マリアはそう言うと、柔らかい笑みを浮かべた。午後の陽光に煌めくマリアの髪はとてもきれいで、その微笑みはまるで天使のようだった。
「あら、分からない?」
「いえ、どうして此処が?」
自分でも驚いていた。女性に見とれるなんて経験した事なんて無かったからだ。だから、今の状態がそうだったのか不明だが、当てはめるとすればそうじゃないかと思えた。
「名前を知られている、という事は住所も知られている、そう思った方がいいわ。」
・・・
いや、どんな世界だよそれ。探偵かなにかか?
「少し、時間をもらえない?」
まさか、本当に来るなんて思わなかった。あれから時間も経っていたので、単なる冷やかしだとも思っていたし。何より、目の前に現れるなんて予想外でしかない。
「えと、いいけど。」
「そう、じゃぁ場所を変えましょう。ついて来て。」
此処じゃないのかと思ったが、こちらの反応を待つ事もなく、マリアは踵を返して歩き始めていた。
それから15分ほど歩かされ、個人でやってそうな洒落たカフェに連れていかれた。俺なんか絶対に選ばないだろうなってカフェだ。
まず入店するのに抵抗がある。恥ずかしくて入れないだろう。
そんな店内に、恥ずかしながらもマリアについて入っていく。
「何飲む?お姉さんがご馳走してあげる。」
マジか。
それは嬉しいけど、いいのか、奢ってもらって?
そんな疑問もあったが、マリアの微笑みに抵抗出来なかったのか、素直に答えていた。
「コーラ・・・」
「そう。デザートは要る?」
「いや、大丈夫。」
くそう・・・自分らしく居られない。なんか、居心地が悪いな。
「それで、何で俺なんかに会いに来たんだ?」
注文したものが揃ったところで、俺はマリアの目的を聞いた。早いところ済ませて帰りたいのが本音だ。ここにいると、落ち着かないから。
「その前に自己紹介してなかったね。私は黒咲麻璃亜。一応社会人ね。」
社会人。
確かに言われてみれば、そんな感じ・・・あんまりしねーな。それに黒咲、麻璃亜?ブラックマリア・・・ねぇ、まんまかよ。いやまぁ、俺も人の事は言えないし、アヤカみたいにストレートなのも居るからな。突っ込んでもしょうがないか。
「すいません。ついゲームのノリで話してました。それで、黒咲さんは何故、俺に会いに来たんでしょうか?」
俺だって一応、言葉の使い方くらいは多少なんとかなる。現実の社会人とかに
タメ口きくほど馬鹿じゃない。
「あぁ、敬語はやめてくれる、嫌いなの。それと麻璃亜のままでいいよ。黒崎さんとか許さないよ。」
やりづれぇ・・・。いっそ敬語のままの方が楽だっての。なんか面倒くさくなってきたな。
「で、理由ね。」
「俺にとってこの状況は、あまりに不自然に感じるんだが。」
「確かにそうね。オルデラを倒すために組んだ相手が、現実の名前どころか住所も知っていて会いに来る。普通、気持ち悪いわよね。」
「あぁ。」
いや本当に、麻璃亜の言った通りなんだが、それを実行している本人が何を言ってんだ。
「管理者権限。」
はっ?
何を言い出してんだ。というか、何を言いたいのかすらわからん。
「晶社くんの情報を知った経緯。」
あぁ・・・最初からそう言え。
「つまり、CAZH社の人?運営?」
「じゃないのよねぇ。構築側の管理者から依頼されてゲームをしているの。」
よくわからん。
それがどういう状況なのか、学生で普通にゲームをしてるだけの高校生には理解出来ない。
それ以前に・・・
「そういう情報、話していいのか?」
「うん、ダメ。」
アホか!やっぱちょっと変な奴なんじゃないか、こいつ。
「まぁ、晶社くんなら黙っててくれると思ったから話したのよ。」
こうやって人は騙されていくんだな。いや、俺はしないけど。
「で、俺に会う意味は?」
まだ麻璃亜が訪ねてきた本質が分からない。
「私、特定のパーティは入っていないって言ったでしょ?」
「そう言えば言ってたな。」
それと俺になんの関係があるんだ?と思った瞬間、温和だった麻璃亜の瞳が変わった。表情は微笑んだままだが、瞳だけ刺すような冷たさを携えた。というか、なんて表現していいかわからないが、蛇に睨まれた蛙はこんな感じかと思わされる。
「現実の本人を知らないと、信用出来ないからよ。」
そう言った後、麻璃亜の瞳から威圧感は消えていたが、その言葉に対して何も言葉が出てこなかった。
経験の差・・・かもしれない。まだ高校1年の俺に、その言葉は理解できる範囲ではなかったんだろう。
「私ね、仮想って好きじゃないの。」
麻璃亜は続けてそう言うと、頼んだ紅茶を一口飲んだ。
「精々わかっても感情くらい。それも正しいかどうか分からない。」
好きじゃないならなんでDEWSをやっているんだと思ったが、愚問だった。麻璃亜は仕事でやっているんだよな。
「それで、肝心の俺に会う理由は。」
「多くは無いけれど、幾つかのパーティに参加したの。で、居心地は悪くなかったからかな。でも、もし今後もパーティに入るなら、本人を確かめておきたかった。それが理由。」
言っている事はわかるが、そこまでする必要があるのだろうか。
「流石に一人で進むの、きつくなってきたもの。何処かのパーティに入るのもありじゃない?まぁ、晶社くんがいいって言えばだけどね。」
確かに、ソロでも上手い奴は進めるのだろうが、時間がかかってしょうがない。その辺は俺もわかる。だが、ただの学生パーティに拘る必要があるのか?
「他の奴にも会うのか?」
本人を知らないと信用ならないなら、俺以外にも会う必要はあるだろう。そう思って聞いてみたが、麻璃亜は首を横に振った。
「ずっとパーティ組んでいるんでしょ。だったら、中心的存在一人を確認出来れば大丈夫。ダメな奴はパーティが瓦解するし、メンバーが入れ替わるもの。」
なるほど。
「別に俺はリーダーでもなんでもないぞ?」
「そんな事、ないわよ。これでも私は、人の観察には長けているのよ。明確に決めたわけじゃなくても、そう回っているのは分かるわ。」
ふーん、そんなものなのか。
「俺らのとこは、身内みたいなもんだからな。長く続けられているんだろう。そこへ麻璃亜が入って揉めないという保証はないんじゃないか?」
さっき麻璃亜が言った内容からすれば、そういう懸念は当然出てくる。まさか自分は違いますって事はないだろう。
「あら、お姉さん一本とられちゃった。」
おい・・・
「心配しなくても大丈夫よ。そうならないように気を付けるし、そうなりそうなら当たり障りのない理由でちゃんと離れるから。」
何処か寂しげな目をしながら麻璃亜はそう言った。俺にはその理由は分からないが、何か色んな経験とかあるんだろう。
「それで、晶社くんはお姉さんの事、欲しい?」
「聞き方!」
「ふふっ。」
くそ、最後はからかわれたな。ただ、悪い気は全然しなかった。胡散臭さは残っているが、人としては嫌な感じが全然しない。
「まぁ、俺はいいけど。あとは他の奴がなんと言うか。」
「わかった、自分で聞いてみるね。中島くん以外。」
麻璃亜はそう言ってニコっと笑って見せる。
「バレバレじゃねぇか。」
俺も釣られて笑ってしまった。名前を知ってる云々はもういい、ただ中島の行動は見透かされているのが可笑しかった。
「じゃ、これからもよろしくね。私の素性は話しちゃダメよ。」
「それくらいは、弁えてるよ。」
「ならよし。」
「ご馳走様。」
「いえ、どういたしまして。これでも社会人ですから。」
お店を出ると、お礼を言う。いくら俺でもそれくらいの礼儀は弁えている。結局、ケーキまでご馳走になってしまったし。
「じゃ、改めてよろしくね。」
「あぁ。」
「気を付けて帰ってね。」
「それくらい分かって・・・」
と、言いかけて、DEWSの発売日に轢かれそうになった事を思い出した。それを考えると、麻璃亜の言葉を鬱陶しそうには出来ないな。
「まぁ、気を付けて帰るわ。そっちもな。」
一応、その言葉にちゃんと応えておく。
「あら、ありがと。それじゃ、またデートしてね。」
「おい!」
訂正してやりたかったが、こちらが戸惑った事をいいことに、さっさと行ってしまった。
慌てて周囲を確認すると、通行人の何人かが俺の方と、去っていく麻璃亜を見ていた。
・・・
最後にしてやられた。
いや、終始麻璃亜のペースだったか。それを覆せる気は全然しなかったし、終わってみれば悪い気もしていない。
ただ、緊張はしたけれど。
(やべ、帰ってはやくDEWSやろ。)
携帯で時間で確認すると、既に18時を廻っている事に驚き、俺は家まで自転車飛ばして帰った。
ゲーム内でも何時もと変わらずに行動している。単に俺をからかっただけかもしれないが、本名を知られているところが気持ち悪い。
でも俺から何かを出来るわけでもなく、なんとも言えない気分のまま時間だけが過ぎている感じだ。
DEWSではスニエフの街を起点に行動するようになった。
新しいクエスト、新しい装備品、新しい敵。やっと進んだ事で、やる事も多く充実しているし、楽しめている。
オルデラ戦はかなり苦労したが、その先の敵は今のところそこまで強くはない。まぁ、一人で戦えるかというと無理だけど。
設定としてはスニエフの街からさらに、地底へと世界が広がっている。魔獣はそこから来ているという話しではあるのだが。
正直、スニエフの街が出来た経緯については、知ってしまうとなんとなくそうかなと感じていた部分もあり、あまりいい気分の話しではない。まぁ、あくまで俺個人の感想でしかないが。
「ねぇ雪待。」
学校に行くと、登校してきた中島が声を掛けてくる。いつもよりは声音が低く、表情も浮かない感じだから、いい話ではないだろう。
「おはよう、どうした?」
「あ、うん、おはよ。」
それだけ言うと、席にカバンを置いて座り込む。なんか歯切れの悪い挨拶に、はっきりしない態度だな。
「マリアにでもふられたか?」
「まだだよ!」
そこに関してははっきりと否定したな。というか、脈があると思っているところがすごい。マリアの態度を見る限り、相手にしているようにはまったく思えないが。
「そうじゃなくてさ。」
「なんだよ。」
「城之内の見舞いに行ったんだけどさ、症状がまったく変わってないんだって。」
謎の頭痛に苦しまされているクラスメートの状態は、なんら改善していないらしい。確かに、友達がそんな状態じゃ気分も沈むわな。俺も他人事じゃなない、一緒のクラスで一緒にDEWSをプレイしていたんだ。
友達の中島ほどじゃないが、それを聞くとなんとも言えない気分になる。
「でね・・・」
中島が話しを続けようとする。この話しにはまだ続きがあるようだが、本人の態度はやはり浮かない。
「あぁ・・・」
釣られて俺の返事も重くなった。
「ちょっと調べてみたんだ。他に似たような症状の人がいるかもと思って。」
そんな病気なら、症例とかあってもよさそうだもんな。
「病気に関しては医者の方がよく知っているんじゃないのか?素人が医療関係者以上の情報を得られるとは思わないが。」
「いや、そっちじゃなくてさ。」
病気の話しじゃない?となると、想像がつかないので中島が話しを続けるのを待つ事にする。
「ネットのまとめ記事で見かけただけだから、信憑性は全然無いんだけど。」
そこまで聞いても話しの概要すら見えてこない。単に、城之内の頭痛に関係しているのか、いないのか程度だ。
「DEWSをプレイしていて、死んだ人がいるらしいんだ。」
はっ?
一瞬思考が止まる。DEWSをプレイしている人が死んだ?それって、DEWSは関係あるのか?
「プレイしっぱなしで、過労死とかか?やりすぎで、寝不足になって事故とか?」
ゲームだから過労ではないだろうが、他に表現が見つからない。
「いや、そうじゃなくて、プレイ中に具合が悪くなって、救急搬送されたんだけど死んじゃったらしいんだ。」
・・・
俺が言っている事と大差ないじゃねーか。それは本当にDEWSが原因か?本人に突発性の症状が出たとか、持病があったとかじゃねーの?
「それで?」
「いや、それ以上の情報は・・・」
「DEWSが原因かどうか不明じゃねーか。」
「だから、信憑性は無いって最初に言ったじゃん。」
だったら話さなきゃいいじゃないか、とは思っても言わない。それ以上は会話になりそうな気がしないから。
「まぁ、本人が死んでしまったら、何も分からないわな。」
「そうだね。」
「例えば家族がその情報を書いたとしても、ゲーム中に急に具合が悪くなって、病院に行ったけど間に合わなかった、となるよな。」
「どこまで詳細に書くかによると思うけど、そんなものかな。」
ゲームに原因があるとするなら、もっと大事になっていてもいい気はする。それこそ、ニュースにだって取り上げられるだろうし、訴訟問題になっていても不思議じゃない。
まぁ、中島が城之内を心配しているのはよくわかった。今回の話しはその結果なんだろう。
「噂程度にしたって、そんな話しが出たら心配にもなるわな。」
「うん。」
だけど、城之内の頭痛が、DEWSによるものだという確証も無い。あの光景を目の当たりにしたからこそ、そういう不安が過るのも仕方がないと思う。
ただ、俺に出来ることはないから、関係者が原因をはっきりさせてくれない限りは、この手の不安は尽きそうにない。
「なんにしても、僕らが出来る事って、見守るしかないよね。」
「そうだな。」
先生が来たからか、自然と終わったのかわからないが、話しはそこで終わりとなった。その後、帰るまではいつもの他愛ない会話で終わり、鳳隆院が帰りがけに召集をかけ下校。という日常の流れだった。
自転車に乗り校門を出ると、俺の行くてを塞ぐように一人の女性が現れる。びっくりしたけど、自転車の補助ブレーキが作動してぶつかる事はなかった。
「危ない・・・」
だろうが!って言いそうになったが、女性の顔を見るとその言葉は霧散してしまう。
ゲーム内の見た目と何も変わらない。むしろ、現実の方が遥かに綺麗に見えた。
「晶社くん、やっと会えたね。」
マリアはそう言うと、柔らかい笑みを浮かべた。午後の陽光に煌めくマリアの髪はとてもきれいで、その微笑みはまるで天使のようだった。
「あら、分からない?」
「いえ、どうして此処が?」
自分でも驚いていた。女性に見とれるなんて経験した事なんて無かったからだ。だから、今の状態がそうだったのか不明だが、当てはめるとすればそうじゃないかと思えた。
「名前を知られている、という事は住所も知られている、そう思った方がいいわ。」
・・・
いや、どんな世界だよそれ。探偵かなにかか?
「少し、時間をもらえない?」
まさか、本当に来るなんて思わなかった。あれから時間も経っていたので、単なる冷やかしだとも思っていたし。何より、目の前に現れるなんて予想外でしかない。
「えと、いいけど。」
「そう、じゃぁ場所を変えましょう。ついて来て。」
此処じゃないのかと思ったが、こちらの反応を待つ事もなく、マリアは踵を返して歩き始めていた。
それから15分ほど歩かされ、個人でやってそうな洒落たカフェに連れていかれた。俺なんか絶対に選ばないだろうなってカフェだ。
まず入店するのに抵抗がある。恥ずかしくて入れないだろう。
そんな店内に、恥ずかしながらもマリアについて入っていく。
「何飲む?お姉さんがご馳走してあげる。」
マジか。
それは嬉しいけど、いいのか、奢ってもらって?
そんな疑問もあったが、マリアの微笑みに抵抗出来なかったのか、素直に答えていた。
「コーラ・・・」
「そう。デザートは要る?」
「いや、大丈夫。」
くそう・・・自分らしく居られない。なんか、居心地が悪いな。
「それで、何で俺なんかに会いに来たんだ?」
注文したものが揃ったところで、俺はマリアの目的を聞いた。早いところ済ませて帰りたいのが本音だ。ここにいると、落ち着かないから。
「その前に自己紹介してなかったね。私は黒咲麻璃亜。一応社会人ね。」
社会人。
確かに言われてみれば、そんな感じ・・・あんまりしねーな。それに黒咲、麻璃亜?ブラックマリア・・・ねぇ、まんまかよ。いやまぁ、俺も人の事は言えないし、アヤカみたいにストレートなのも居るからな。突っ込んでもしょうがないか。
「すいません。ついゲームのノリで話してました。それで、黒咲さんは何故、俺に会いに来たんでしょうか?」
俺だって一応、言葉の使い方くらいは多少なんとかなる。現実の社会人とかに
タメ口きくほど馬鹿じゃない。
「あぁ、敬語はやめてくれる、嫌いなの。それと麻璃亜のままでいいよ。黒崎さんとか許さないよ。」
やりづれぇ・・・。いっそ敬語のままの方が楽だっての。なんか面倒くさくなってきたな。
「で、理由ね。」
「俺にとってこの状況は、あまりに不自然に感じるんだが。」
「確かにそうね。オルデラを倒すために組んだ相手が、現実の名前どころか住所も知っていて会いに来る。普通、気持ち悪いわよね。」
「あぁ。」
いや本当に、麻璃亜の言った通りなんだが、それを実行している本人が何を言ってんだ。
「管理者権限。」
はっ?
何を言い出してんだ。というか、何を言いたいのかすらわからん。
「晶社くんの情報を知った経緯。」
あぁ・・・最初からそう言え。
「つまり、CAZH社の人?運営?」
「じゃないのよねぇ。構築側の管理者から依頼されてゲームをしているの。」
よくわからん。
それがどういう状況なのか、学生で普通にゲームをしてるだけの高校生には理解出来ない。
それ以前に・・・
「そういう情報、話していいのか?」
「うん、ダメ。」
アホか!やっぱちょっと変な奴なんじゃないか、こいつ。
「まぁ、晶社くんなら黙っててくれると思ったから話したのよ。」
こうやって人は騙されていくんだな。いや、俺はしないけど。
「で、俺に会う意味は?」
まだ麻璃亜が訪ねてきた本質が分からない。
「私、特定のパーティは入っていないって言ったでしょ?」
「そう言えば言ってたな。」
それと俺になんの関係があるんだ?と思った瞬間、温和だった麻璃亜の瞳が変わった。表情は微笑んだままだが、瞳だけ刺すような冷たさを携えた。というか、なんて表現していいかわからないが、蛇に睨まれた蛙はこんな感じかと思わされる。
「現実の本人を知らないと、信用出来ないからよ。」
そう言った後、麻璃亜の瞳から威圧感は消えていたが、その言葉に対して何も言葉が出てこなかった。
経験の差・・・かもしれない。まだ高校1年の俺に、その言葉は理解できる範囲ではなかったんだろう。
「私ね、仮想って好きじゃないの。」
麻璃亜は続けてそう言うと、頼んだ紅茶を一口飲んだ。
「精々わかっても感情くらい。それも正しいかどうか分からない。」
好きじゃないならなんでDEWSをやっているんだと思ったが、愚問だった。麻璃亜は仕事でやっているんだよな。
「それで、肝心の俺に会う理由は。」
「多くは無いけれど、幾つかのパーティに参加したの。で、居心地は悪くなかったからかな。でも、もし今後もパーティに入るなら、本人を確かめておきたかった。それが理由。」
言っている事はわかるが、そこまでする必要があるのだろうか。
「流石に一人で進むの、きつくなってきたもの。何処かのパーティに入るのもありじゃない?まぁ、晶社くんがいいって言えばだけどね。」
確かに、ソロでも上手い奴は進めるのだろうが、時間がかかってしょうがない。その辺は俺もわかる。だが、ただの学生パーティに拘る必要があるのか?
「他の奴にも会うのか?」
本人を知らないと信用ならないなら、俺以外にも会う必要はあるだろう。そう思って聞いてみたが、麻璃亜は首を横に振った。
「ずっとパーティ組んでいるんでしょ。だったら、中心的存在一人を確認出来れば大丈夫。ダメな奴はパーティが瓦解するし、メンバーが入れ替わるもの。」
なるほど。
「別に俺はリーダーでもなんでもないぞ?」
「そんな事、ないわよ。これでも私は、人の観察には長けているのよ。明確に決めたわけじゃなくても、そう回っているのは分かるわ。」
ふーん、そんなものなのか。
「俺らのとこは、身内みたいなもんだからな。長く続けられているんだろう。そこへ麻璃亜が入って揉めないという保証はないんじゃないか?」
さっき麻璃亜が言った内容からすれば、そういう懸念は当然出てくる。まさか自分は違いますって事はないだろう。
「あら、お姉さん一本とられちゃった。」
おい・・・
「心配しなくても大丈夫よ。そうならないように気を付けるし、そうなりそうなら当たり障りのない理由でちゃんと離れるから。」
何処か寂しげな目をしながら麻璃亜はそう言った。俺にはその理由は分からないが、何か色んな経験とかあるんだろう。
「それで、晶社くんはお姉さんの事、欲しい?」
「聞き方!」
「ふふっ。」
くそ、最後はからかわれたな。ただ、悪い気は全然しなかった。胡散臭さは残っているが、人としては嫌な感じが全然しない。
「まぁ、俺はいいけど。あとは他の奴がなんと言うか。」
「わかった、自分で聞いてみるね。中島くん以外。」
麻璃亜はそう言ってニコっと笑って見せる。
「バレバレじゃねぇか。」
俺も釣られて笑ってしまった。名前を知ってる云々はもういい、ただ中島の行動は見透かされているのが可笑しかった。
「じゃ、これからもよろしくね。私の素性は話しちゃダメよ。」
「それくらいは、弁えてるよ。」
「ならよし。」
「ご馳走様。」
「いえ、どういたしまして。これでも社会人ですから。」
お店を出ると、お礼を言う。いくら俺でもそれくらいの礼儀は弁えている。結局、ケーキまでご馳走になってしまったし。
「じゃ、改めてよろしくね。」
「あぁ。」
「気を付けて帰ってね。」
「それくらい分かって・・・」
と、言いかけて、DEWSの発売日に轢かれそうになった事を思い出した。それを考えると、麻璃亜の言葉を鬱陶しそうには出来ないな。
「まぁ、気を付けて帰るわ。そっちもな。」
一応、その言葉にちゃんと応えておく。
「あら、ありがと。それじゃ、またデートしてね。」
「おい!」
訂正してやりたかったが、こちらが戸惑った事をいいことに、さっさと行ってしまった。
慌てて周囲を確認すると、通行人の何人かが俺の方と、去っていく麻璃亜を見ていた。
・・・
最後にしてやられた。
いや、終始麻璃亜のペースだったか。それを覆せる気は全然しなかったし、終わってみれば悪い気もしていない。
ただ、緊張はしたけれど。
(やべ、帰ってはやくDEWSやろ。)
携帯で時間で確認すると、既に18時を廻っている事に驚き、俺は家まで自転車飛ばして帰った。
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