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王都進出

12.内容が入って来ないんだが

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王都に来てから数日、開店準備に慌ただしくしていた。
流石に家具までは運べなかったので、現地で調達する事に。食器類もそうだが、生活必需品の必要な量と言ったら。
この家に家具類が残されていた理由が、引っ越してからはっきりと分かった。余程の事がない限り、運びたくねぇんだ。だから不要な物は残して引っ越していく。荷馬車を借りるのもタダじゃないし、生前の頃のようにトラックで運べるわけでもない。
人の住むスペースは変わらないのに、運べる量は段違いだ。管理云々より、運べないが正解なんだと、俺も自分が引っ越すときに痛感した。

「よし、何とか明日から開店出来そうだ。」
結局、必要最低限の生活必需品と家具で、貯まっていた銀貨もそれなりに消費した。特にエリサに関しては俺と服が共通だったので新しく購入。何で今まで買ってやらなかったんだろ。身長も体形も大差ないから、あまり気にしなかったというのもある。お互い胸もないし。
やかましいっ!!
好きで無いんじゃねぇよ!
「私も明日から働きに出るね。」
「当たり前だ!」
「う・・・」
ろくに金も貯めてないアニタの家具まで買う羽目になったからな。少しは返せ。本当に銀貨10枚でなんとかしようと思っていたこの女は、ある意味すげぇよ。その場凌ぎどころか、世の中舐め切ってるとしか思えねぇ。
「あたしは何をするんだ?」
このアホ犬。昨日説明したじゃねぇか。横で話しを聞いていたエリサの問いに、俺は半眼を向ける。
「力仕事と薬草栽培だ。」
「あ、そうだった。」
・・・

エリサには庭で薬草を育てさせようと思った。俺が状態を見るよりも、エリサの方が正確に把握出来るからだ。鮮度や質なんか、匂いで分かるらしい。これは適任以外の何物でもねぇ。
「お、そうだ。これをちょっと噛んでみろ。」
メイニを掘り起こした時に気付いた事、エリサの狼化についてだ。あれから試しに薬を作っていたのだが、まだ試してすらいなかったので、いい機会だから試しておく。
本当は引っ越しの時に実用化出来ていれば、もっと楽だったかもしれんが、それには間に合わなかった。
「なんだ?」
エリサは錠剤を受け取ると、何の疑いもなく口に入れた。
・・・
少しは疑う事も覚えさせないといけないな。俺が遊んでやる分には面白いからいいが、誰かに良いように使われて、俺が不利を被るのだけはごめんだ。
「おぉ!ご主人!あたしはついに進化したぞ!」
「え、なになに、どういう事?」
錠剤と言っても、唾液で溶け即効性が出るようにしてある。それでも変化が出るまでは2分から3分といったところか。その時間は、有事の時に待つには長いな。やはり液体が一番いいんだが。
だからお前が凄いんじゃない、俺が凄いんだ。
「次にこれを噛んでみろ。」
「おう!」
驚いて状況についていけてないアニタは放置で、俺は次の錠剤をエリサに渡す。

「あたし、ちょっと何もやる気がしないから寝てるな・・・」
人間に戻ったエリサは、意気消沈したような状態で部屋に戻って行った。普段ならふざけんなと言っているところだが、今回は仕方が無い。
「どういう事なの?」
そのエリサを見てアニタが聞いて来る。
どうやら鎮静剤の方は、効果が強かったようだ。もう少し成分調整する必要があるだろう。となると、ベゾジアーゼの量をもう少し減らしてみるか。時間も興奮剤にくらべて早かったのも、その辺の分量が一因だろうな。
「狼化と元に戻る事は、自分じゃコントロール出来ないって言うからさ。薬でなんとかしようと思ってな。」
「する必要あるの?」
「しないで誰が力仕事をするんだ?」
「あ、そうよね。必要よね。」
と、にこやかに納得した。自分がやりたくねぇだけだろ。俺は当然やりたくない、全部エリサに押し付ける。

アニタに半眼を向けていると、店の扉が鈴の音と共に開いた。誰が考えたか知らないが、分かり易くていいよな。それが当たり前の生活になると、無い方に違和感を感じる。だから、今回も付けておいた。
「すいません、まだ開店前なんです。」
「嗅ぎつけるのが早いな。」
アニタはそう言うが、俺はそれを制して入って来た人物に言う。
「商売は情報が命ですわ。」
「なるほど。しかし、変わらず女神の如き美貌。」
こんなに早く神の産物に再び出会えるとは。しかも向こうから出向いて来るなんて思いもしなかったぜ。
「当たり前ですわ。」
メイニは得意げに胸を張って肯定した。
それは飛び込んで来いって事ですか!?
・・・
落ち着け俺。
しかし、普通であれば俺の発言は社交辞令で、相手は謙遜するものだ。だが、肯定すれば調子に乗るなバカヤローって普通は思うものだが、メイニの場合はそんな事を感じさせない。
それだけの自尊と見た目が、相手を納得させるのだろう。

「まさか・・・メイニ・アルダースト?」
なんだ?
驚きを表情に出して名前を口にするアニタを見る。知っている事に驚きだが、そんなに有名なのか?
「知り合いか?」
有名じゃないとすれば、そんなところだろう。
「違うわよ!セルアーレでテオドラ商会に匹敵するほどの資産家なのよ。だけど違うのは、テオドラ商会はグループだけど、メイニ・アルダーストは個人でその財を築いているの。」
へぇ、どうでもいい。
メイニや金がどうでもいいわけじゃなく、アニタの背景説明に興味が無い。それは俺の今後の人生に影響するとは思えないからな。
「ってかリア、知り合いなの?」
「まぁな。」
驚くほどの人物ならもっと俺を敬え。
「気になりますのお嬢さん。」
「え、えぇ・・・」
メイニの視線を受け、アニタは緊張しながらも頷く。ってかお嬢さんって年でもねぇだろ。俺の見立てからして同じくらいだな。
「秘密を共有する仲、かしら?」
言うならはっきり言えよ、俺に同意を求めんな・・・
「まぁ、そんなところか。」
「え、どういう事?」
後で面倒な事になりそうな言い回しをしやがって。
「秘密だから言えませんわ。探ろうとしない方が、賢明ですわよ。」
「は、はい。」
やめろ、そういうのは気になってしょうがなくなるんだ。わざとだろ、この女。

「で、まだ開店直前なんだが。」
「これからもお世話になるかと思い、先駆けて開店祝いに来たのですわ。」
ほう。
やはりメイニに協力して正解だったようだな。今後も依頼があれば、それなりの報酬を見込める可能性は高い。
「とりあえずいつもの薬を頂けるかしら?」
「すまねぇ、常備薬じゃねぇから調合しないと無いんだ。」
「分かっていますわ。代金は先に置いていきます。そのうち取りに来ますわ。」
メイニはそう言うと、金貨を1枚渡してくる。
「開店祝い込みですわ。」
なるほど。
「まいど。準備はしておく。」
「宜しく。それでは、そのうちまた来ますわ。」
メイニは微笑んで言うと、鈴の音と共に扉の外へ消えて行った。
王都に引っ越したのは間違いじゃないと思わされる時間だった。薬なんてのは需要があるものだが、そんな常用だけじゃなく依頼が来そうな気がする。
メイニはその一人であり、それが伝手となってくれりゃ尚更良い。

「凄い、金貨を置いていくなんて、一体どんな薬なの?」
「ただの安定剤だ。寝付けない時があるんだとよ。」
「それで金貨?」
「開店祝い込みって言ってただろうが。」
「あ、そっか。でも、まさか知り合いだなんて本当に驚いた。」
俺もそんな大物だとは思ってなかったから、多少は驚いている。
「そう思うならもっと俺を敬え。」
「あ、私そろそろ新しい仕事に行かなきゃ。」
聞いてねぇ・・・
「リアは開店するんでしょ?」
「いや、開店前にこっちのギルドに顔を出しておこうと思ってな。」
「そか。迷子にならないでよ。」
お前に言われたくねぇ。

さて、ギルドに行くとしても、まずあのアホ犬を起こしてからだな。多少の危険は伴っても、エリサが居れば対応可能な依頼も出て来るだろうと思っている。
そのためには、エリサにもギルド通いをしてもらう必要はあると思っていた。





「あ、もしかしてリアちゃん!?」
ギルドのアイエル支部に入って、中を見渡しているとそんな声が聞こえた。幼さの混じる可愛らしい声だが、俺の好みじゃねぇ。
そんな事を思って声のした方を見る。
(ガキじゃねぇか・・・)
ただ顔はメリアに似ていたから、あれが聞いていた妹なんだろう。身長が小さくて本当にガキかと思ったぜ。
確か名前はサーラだったか。
そのサーラがカウンターを回り込んで、俺の方に小走りで近付いて来る。ガキが走っているのを見てもなんとも・・・

な・・・なんてこった!?
これは、危険物所持の現行犯じゃないか!
警察に通報を!
いや、そんなものこの世界にねぇ!
やはり、俺が現行犯逮捕を。現行犯逮捕なら一般人にも逮捕権利が存在する。
だからここは日本じゃねぇ。
落ち着け、俺!
「どうしたご主人、変な動きをして。」
うるせぇクソ犬。
「リアちゃんだよね?」
「あ、あぁ、そうだ。」
「緊張してるの?メリアから聞いてるよ、私が妹のサーラ。」
屈託のない笑顔で挨拶してくるが、危険物を所持している事には変わりねぇ。胸元に存在するそのデカい2つの凶器は本物でしょうか?
聞けるかバカヤロー!
「いや、緊張しているわけじゃ・・・」
「そう。今は忙しくないから、ギルド内の案内しようか?」
「そうだな、頼む。」
くそぅ。まさかこんな凶器を持っているとは予想外だったぜ。メリアの方は至って普通だったからな。
たが、妹のサーラも可愛いっちゃ可愛いが、童顔は好みじゃねぇ。いくら凶器を持っているとはいえ・・・
凶器を持っているとはいえ・・・
歩くたびに揺れるんだよ、くそ。ギルド内の情報が全然頭に入ってこねぇ!

「落ち着きがないぞご主人。」
黙れクソ犬、お前に言われたくねぇ。
「ギルドの雇用年齢はいくつからだ?」
「リアちゃん失礼だよ、私はこれでも21だからね。リアちゃんよりお姉さんなの。」
う・・・
絶対嘘だろ。
だが俺の質問の意図を察して反応して来るあたり、よく言われるんだろうな。
「ところで兄さんに変な事とかされてない?リアちゃん可愛いから。」
俺が可愛いかどうかはどうでもいい。
って、兄さん?
「兄貴も居るのか?多分、会った事は無いぞ。」
「あぁ・・・あのバカ兄、やっぱり言ってないのね。」
言ってない?
まだ話しが分からん。
「メリア兄さんの事。変なちょっかい出されてない?」
・・・
・・・
・・・
はぁ、今日もいい天気だ。
って此処屋内!
やべぇ、全身鳥肌だらけだ。ぶつぶつだよ。寒気がする。ぞわぞわしてきた。
男?
はぁっ!?
「マジで?」
「うん。」

俺は、男を食事に誘っていたのか。人生の汚点じゃねぇか。しかも気付かなかっただと・・・
はっ?食事について奴から何度も聞いてきたのは、そういう事か?俺は、狙われていたのか?しかもあの見た目で、股間に凶器をぶら下げてるって事だよな?そんなものにロックオンされていたのか?
忘れよう。
そうだ、メリアの記憶を抹消しよう。
そんな薬を・・・無いわ!
「どうしたのリアちゃん。やっぱ何かされた?」
「いや、されてたら俺はここに存在していない。」
ついでにメリアも存在していないだろう。
「それならいいんだけど。」
何も良くねぇ!
全っ然良くねぇよ!
「サーラごめんなぁ、今日のご主人ちょっと変だ。」
何てこった、エリサにそんな事を言われるとは。俺はそこまで挙動不審になっているのか?
「いや、多分兄さんの所為だから、気にしなくていいよ。」
その通りだ。
しかし、媚薬とか使わなくて良かった、本当に。そう思うとまた寒気が込み上げて来る。

「大体こんな感じ。ゆっくりでいいから慣れてね。」
「あぁ、ありがとな。」
まったく内容は入ってませんが!この兄妹恐るべし。
「あ、それとね、冒険者登録しておいたから。」
・・・
何て言いやがったおい。
「聞き間違いじゃなければ、冒険者登録をしておいたと聞こえたんだが?」
「うん、そう言ったよ。」
何勝手な事をしてくれてんだよチビ女。
いや、デカ女?
大きいのは胸だけで身長は小さい・・・どっちでもいいか。
「誰も頼んでないが?」
「でも、ギルドの依頼も受けるってメリアから聞いてるよ。」
「それはそうだが。」
「王都は依頼の数も多いし、受ける人も多いの。だからね、信頼性と管理の面から、登録している人以外に依頼を受けさせないようにしているの。」
あぁ、なるほど。それなら納得するわ。
メリアやサーラのような訳の分からない存在よりも、ちゃんと理解できる。
確かに、何処の誰か分からない奴に依頼して、反故にされたらギルドしての信用に関わるもんな。その辺の管理がしっかりしているなら、俺も別に問題ない。
「それは分かった。ついでなんで、こいつも登録して欲しいんだが可能か?」
そう言ってエリサの方を向く。
「大丈夫だよ。リアちゃんのギルド証は出来ているけど、今から登録だと明日になるかな。」
「あぁ、それでいい。」
ギルド証ねぇ。あれか、社員証みたいなものだろうな。
「とりあえずギルド証渡すから、カウンターまで行こうか。」
「分かった。」

「はいこれ。」
サーラは言いながらカードの様なものを渡して来た。一応、金属で出来ているようだが。ギルド証には名前とランクが掘り込まれている。
なるほど、メリアが言っていたのはこういう事か。このランクによって受けられる依頼が変わるわけだな。
「一応、書類上は薬師で登録したけど問題ない?」
「あぁ。それでいい。」
「それと、スキル登録が必要なんだけど、分かる?」
スキル?ゲームとかである技とかか?
「いや、さっぱり。」
そう言うと、ファイルを俺の方に見せて、スキルの部分を指さした。
「えっとねぇ、薬師に求められるスキルは、植物の知識、成分の知識、調合の知識、調合技術、地学の知識、医療の知識かな。格闘能力とかもっとあるんだけど、最低限この辺が無いと仕事を回せないかな。」
面倒臭ぇ。そんなもん適当に書いとけよ。しかも格闘って何だよ、薬師に何を求めてんだ。
「リアちゃんは現在、どれも該当なしだからLV0だね。」
LVとかあんのかよ。本当にゲームみたいだな。
「それを上げないと仕事は受けれない?」
「そう、こっちも信用があるからね、今の状態だと紹介出来ないかな。」
「つまり、どうしたらいいんだ?」
それは困るので、どうにかしたいところだ。
「職業ごとに導入検定があって、初回はそこで判断されるの。それ以降は昇格検定で自己更新していく感じかな。」
おいおい、この年になって検定かよ。だが受けるしかないよな。
「仕方ねぇな。どこで受けるんだ?」
「導入はこのギルドでいつでも受けれるよ。」
なるほどね。
「良かったら、お連れさんも登録して一緒に受けたらいいんじゃない?」
あぁ、それはありだな。よし、そうしよう。
「んじゃ、それで頼む。」
「分かった。」

サーラは一度カウンターの奥に行くと、別の書類を持ってくる。
「それじゃ、登録するね。まず名前から教えて。」
「あたしか?」
「そう。」
眠そうにしていたところを、急に話し掛けられてきょとんとしている。
「ギルドに登録しないと仕事が出来ないんだとさ。エリサも登録するんだ。」
「おう、分かった。あたしはエリサ。」
サーラは聞くと、それを書類に書いてまたエリサに顔を向ける。
「職業は何にする?」
「なぁご主人、職業って何だ?」
人間の生活をしていたわけじゃないもんな。職業とか聞かれても分かるわけがないか。仕方が無い、代わりに答えておくか。
「犬。」
「犬じゃない!狼だ!」
凄い速さで反応したな。
「あの、それは職業じゃなく種別ですよ。」
言われてみればそうか。そうなるとワーウルフも種族扱いになるんだろうな。
「何か得意な事とがあれば、近いので登録できるけど。」
得意ねぇ・・・
「あれだ、臭い師。」
「そんな職業は無いから・・・」
ねぇのかよ。
「だからあたしは犬じゃないぞ。」
「だけどよ、臭いを嗅ぎ分ける能力は一流じゃねぇか。」
「えへへ、そうかな。」
お、ちょろいな。一流って言葉を混ぜりゃ煽てられてる気分になるんだな。
「あの、そういう問題じゃないから。」
・・・

「だったら、登録可能な職業って何があるんだ?」
逆に聞くと、サーラは困った顔をする。
「それもねぇ、いっぱいあり過ぎて・・・」
言うのが面倒なんだな。そうなると、大体のものはありそうな気がして来たな。調理師、理容師とかもありそうな気がしてきた。薬草を育てるのを任せるなら、庭師とか?いや違うな。
俺の知っている庭師という職業があるとするならば、そんな繊細な事をエリサに出来るとは思えない。難しいな・・・
まず出来る事から考えるか、エリサが出来る事と言えば・・・食う、寝る、嗅ぐ・・・他に何かあるか?
「うーん、ワーウルフだったら戦闘とか出来ない?」
「出来るぞ!」
おぉ、なるほど、そういうのな。生前の生活じゃ戦闘とか必要ないからな、そこまで考えが至らねぇよ。
「武器は使う?」
「爪なら使うぞ。」
「それじゃ、格闘家あたりかなぁ。」
それっぽい職業が来たな。
「それで。」
「うん、なんかちょっとカッコいいな。」
気のせいだからな、でも本人が満足そうならそれでいいか。後は如何に煽てて使うかだな。

「よし、これで登録するから明日にはギルド証が出来るよ。」
そのギルド証は胸の谷間に挟んで渡してくれるのでしょうか?エリサに説明しているだけでも揺れるその膨らみを見ながら、そんな事を聞いてみたくなった。
それには胸元が開いた服が必要だが、ギルドの制服なのか、サーラが来ているのはがっつりと襟付きの服なのが惜しい。
「聞いてる?」
「え、なんだっけ?」
うっかり考え事をしていて聞いてなかった。つまり、これは俺の所為ではない。
「導入検定。リアちゃんはもう受けれるけど、エリサはギルド証を受け取ってからになるけどって。」
「あ、あぁそうだな。明日一緒に受けに来るわ。今日は店の開店もあるし。」
「そう。分かった。準備はしておくね。」
「頼んだ。」

今すぐに依頼を受ける事は出来ないので、今日のところはそれで店に戻る事にした。もともと、挨拶というか、様子見だけのつもりだったのでそれは別にいい。
ただ登録制というのが面倒だ。組織に組み込まれるという事は、それなりの柵も発生する。俺はそういうのから解放されたと思っていたんだがな。そう考えると、前のセルアーレのギルドの方が気楽だった。
・・・
いや、あのギルドの事は記憶から抹消しよう。



ギルドからの帰り道は、散策がてら別の道を歩いてみた。
そこでカフェのような店を見付ける。
「エリサ、昼飯だ。」
「待ってたぞ!」
親指で店をくいっと指さし言うと、エリサも目を光らせて応じる。
メニューを見て思い出したが、セルアーレではコーヒーが見つからなかったから飲んでいない事に。だが、このカフェにはコーヒーが存在した。生前はもちろん、毎日飲んでいたんだが、そんな事すら忘れていたんだな。

「ご主人、なんだこの苦いのは。そもそも色がマズイぞ。」
「バカめ、これが大人の飲み物だ。この苦みを味わってこその大人だぞ。それじゃ何時まで経っても子犬のままだな。」
「だから犬じゃないぞ!・・・でも、これが大人の味なら要らないぞ。」
エリサの事はどうでもいい。後は煙草でもあればいいんだがな。
・・・
そうか、自分で作ればいいのか。
「仕方が無いな、導入編だ。」
エリサが首を傾げている前で、俺はミルクと砂糖を多めに入れてやる。その行動を見ていたエリサは凄く嫌そうな顔をしていた。
「ついでに、先にこれを食って見ろ。」
似たような色をした固形物を差し出す。いわゆるチョコレートだが。
「いやだ。」
食わず嫌いめ・・・
「そっかぁ、それは残念だな。子供も大好きな食べ物なのに。」
「ご主人はよく意地悪をするからな。」
信用されてねぇ。
「いいから食え。」
「うぅ・・・」
回りくどいのが面倒になったので、ストレートに言うと渋々口にする。途端、目を見開いた後、嬉しそうな顔をする。
「甘いのだ!」
「だろ。」
「これはいいな!」
「そこでもう一度、コーヒーを飲んで見ろ。」
チョコレートの件で少しは安心したのか、それでも戸惑いながらエリサはコーヒーを口にした。先ほどの反応とは別に、今度は首を傾げてコーヒーをまじまじと見る。
「さっきと味が全然違うぞ。」
「そうやって慣れていくもんだ。飲みたくなるかならないか、後は好みの問題だな。」

コーヒーを見付けたおかげで、今後の課題が一つ増えた。それは煙草だな。後はコーヒーが家で飲めればいいんだが、それは今度探してみるか。

それから俺たちは家に戻り、午後から開店初日を迎えた。もの珍しがって来る客がほとんどだったが、それでも多少の常備薬が売れたのと、数件の薬の依頼があった事は順調な滑り出しだと思えた。
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