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王都進出

23.神なんて居ないと思うんだが

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「ここがそうか。」
「おそらく、中にサギルスともう一人居ますわ。」
「うん、気配は確かに二人だぞ。」
扉の前に着いて、小声で会話をする。しかし、もともとワーウルフの能力なのか、エリサの気配察知能力は高い。これはこれで便利な気がする。薬草を見分けるのに便利かと思っていたんだが、最近はその戦闘向きの能力を目の当たりにする事で、やはりそっち方面なんだと思い知らされる。
普通に考えれば、ワーウルフと言ったらそうなのかもしれない。ファンタジーじゃだいたい雑魚モンスターなんだが。
「サギルスには聞きたい事がありますので、拘束でお願いしますわ。」
「分かってる。だがそうなると、もう一人はどうする?」
「わたくしが押さえます、リアさんはその間に針を。エリサさんはサギルスの拘束をお願いしますわ。」
「分かったぞ。」
しかし、小声とは言え堂々と扉の前で話す内容じゃないよな。出て来たらどうすんだよ。
「で、どっちがサギルスとかいう奴なんだ?」
・・・
そう言えば、顔を知ら無いよな。エリサの疑問も尤もだ。
「わたくしが向かわない方がそうですわ。」
何という原始的な・・・
「うん、分かった。」
いいのかそれで?判断している間に迎撃準備なんかされないだろうな。

「誰だそこにいるのは!?」
・・・
バレたじゃねぇか。これはまずいんじゃないのか?誰だよ、こんなところで会話なんか始めやがったのは。大体事前に話しておくことだろうが。
「私が見て来ましょう。」
おいおい、しかもこっちに来るじゃねぇか!
その声が聞こえた当時に、メイニは俺とエリサを廊下の両端に押しのけ、扉に手を掛ける。
まさか、独りで行く気か?
と、思った瞬間、観音扉を両手で勢いよく引き開けた。押しのけられた俺とエリサは、扉で隠れ、中からは見えていないだろう。

「わたくしですわ。」
「なっ!?閃紅・・・」
「その呼び方は好きではありませんの。止めてくださいます?」
センコウ?墓前とかで焚くやつだな。
そりゃメイニに失礼だろうが!
と思ったが、イントネーション的には閃光だったな。
「何故此処に居る、約束なんかしてないだろ。下の奴らはどうした?」
「話しが通じそうにありませんので、黙って頂きましたわ。それよりも何故と仰いました?わたくしがここに居る理由、分からないと言いますの?」
「・・・」
何故黙る・・・
隠れている方にとって、沈黙は辛いから止めてくれ。緊張する。物音を立てたらバレるじゃねぇか。
俺は我慢出来そうだからいいが、エリサがじっとしていられるか疑問だ。が、扉が邪魔で反対側は見えない。
「カメリか・・・」
「そうですわ。こうなる事は分かっていて手を出したのでしょう?」
「たかがメイドに何を熱くなってんだ?替えならいくらでも居るだろうが。」
「たかがですって?」
・・・これは殺気か?扉越しだがかなりの威圧を感じる。そう言えばギルドにも似たような威圧を放つ奴が居たな。俺の回りは危ない奴らばかりじゃねぇか。しかもいいものを持ってるんだよなぁ、これじゃ迂闊に事故を装って触れもしねぇじゃねぇか。

「彼らはそれぞれ自分の得意分野がある職人です。それ相応の働きをするからこそ、、わたくしは仕事をお願いして対価を支払っています。つまり、対等な立場ですわ。故に、わたくしに手を出したのと同じ事。」
やべぇ、マジで惚れそうだぜ。
いや、出会った時から惹かれていたのかも知れないな。
決して豊満な果実にじゃねぇぞ!
「それはあんたが金を持っているからだろう。」
「その口、塞がれたいんですの?」
「いやいや、別に敵に回すつもりは無かったんだ。」
もう手遅れだがな。
「そう。では貴方に依頼した人は誰かしら?」
「・・・そ、そんな奴は居ねぇ!」
顔は見えないが、今明らかに動揺したよな。
「話しになりませんわね。」
「だったらお前が死ね!」
多分サギルスだろう、咆えた瞬間扉がこつんと叩かれる。それが合図だろう思い俺は飛び出して、エリサにも合図をする。
「何だこのガキどもは!?」
サギルス、だろう奴は俺とエリサを見て硬直するが、もう一人は躊躇せずにメイニを剣で突きに来ていた。

いやぁ、剣を持った人間相手とか、ちょっと勘弁してほしいな。
そんな事を思って見ていると、メイニは日傘で剣を搦め取り叩き落す。
おぉ、すげぇ!
続いて殴りに来た腕も傘で搦めるようにして態勢を崩すと、踏み込んで腹の辺りに掌を打ち付けた。男は吹き飛び、棚に激突して床に叩きつけられる。
「今ですわリアさん。」
俺が男の方に走って向かう頃には、エリサがサギルスを押さえつけていた。仕事が早い事で。
男に近付いた俺は、今までのように首筋に針を刺す。痙攣する男を見ると、サギルスの表情に恐怖のようなものが浮かんだように見えた。
「殺すなら、早く殺せ・・・」
メイニはサギルスの言う事を無視すると、男の口の中に薬を突っ込んだ。吐き出さないように、エリサに口を押さえつけさせる。

「なにを、した・・・」
薬の効果が現れたサギルスが唸るように声を出す。
「身体の自由が利かないのでしょう?」
メイニは言うと、サギルスの手の甲を踏みつけた。
俺も踏まれてぇ!
いや、そういうプレイをした事はないんだ。それどころか、何が楽しいのかさっぱりわからん。だが、メイニだったら良いかなと思えるところが凄いよな。
「ご主人、難しい顔をしてどした?」
うっせぇ。
「いや、今夜の晩飯をだな。」
「もう食ったぞ。」
・・・
「お二人とも、今は静かにしてくださいません?」
「すまん・・・」
クソ犬の所為で怒られたじゃねぇか。
そう思ってエリサを睨むと、目を逸らしやがった。
その間にメイニは日傘の生地の部分を掴むと、手元を捻った。カチッという音がすると、手元を引き抜く。その先にはかなり細い両刃が付いていた。
仕込み杖?
先端を踏んだサギルスの指先に当てると、弾くように上げる。
「ぐああぁぁぁっ・・・」
「言うより理解が早いでしょう?痛覚は残っておりますわ。」
「・・・」
冷たい目で見下ろすメイニを、サギルスは睨み付けるだけだった。

「さて、話す気になりましたか?」
「きいてどうする?いうきもねぇがな。」
いや、言えよ。何で痛みに耐えてまで黙り続けるかな、俺には無理だ。だったらさっさと死んだ方が楽だろ。
「此処に居るのは薬師ですの、そう簡単には死ねませんわ。」
「だからなんだってんだ。」
「痛みにも種類はあります。爪などは取るに足らない場所ですわ。」
おいおい。
想像するだけで恐ろしいな、出来ればもうサギルスの絶叫も聞きたくねぇんだが。
「試してみます?わたくしには、そこまで耐えてまで黙す理由はわかりませんが。」
「・・・」
まったくだな。
だが、サギルスはそれでも口を開こうとせず、メイニを睨み付けるだけだった。メイニはその姿を見て、溜息を吐くように口を開いた。
「そうですか、マールなのですね。」
「なぜわかった!?」
本当かよ、すげぇな。今の間でどうやってそこまで察したんだ?
「今知りましたわ。」
・・・
騙されたぜ。
「次は、あなた方がした事を話しなさい。」
「なにも、してねぇ。さらうのと、したいしょりを、たのまれただけだ。」
サギルスの言葉を聞き終わると、メイニは剣をサギルスの眼球に突き刺した。うわぁ、痛そう・・・
「見て分からないと思ってますの?あの娘は擦過傷だらけで、打撲痕も体中にありましたわ。しかも、それだけじゃありません。」
「・・・わかってるなら、もういいだろ、ころせよ。」
「あの娘はわたくしの家族も同然、それ相応の報復を受けて頂きます。さぁ、言いなさい。」
「・・・」
だが、それ以上サギルスは口を開こうともせず、逸らした目もメイニに戻る事はなさそうだ。

メイニの顔は酷く哀しそうな表情をしていた、今にも泣きだしそうなほどに。俺たちが居るにも拘わらず、目の前でこれだけの事をするほど、悔しかったのだろう。
多分、それはメイニ自身が何も出来なかった事なんじゃないだろうか。

「リアさん、針を・・・」
潤み始めた目を俺に向けて、メイニはそれだけ言った。
「本当は、死ぬまであらゆる苦痛を与えたいのですが、貴女たちにそれを見せるわけにはいきませんもの。」
メイニの差し出した手を、俺は払うとサギルスの首に針を刺した。
「リアさん?」
「俺も背負ってやるよ。」
メイニの方を向いて微笑んで言うと、メイニは持っていた剣を離した。渇いた音を立てて床に落ちた剣と一緒に、メイニの膝も床を打った。
「・・・」
声にならない声を出して俯くメイニの肩に、俺は手を回すと胸元に顔を引き寄せる。
「今までずっと堪えて来たんだろ。今だけは、普段のメイニの事は忘れておくよ。」
「・・・ありがとう、リアさん・・・」
そう言ってメイニは堪えていた涙を溢れさせたが、殆ど声は上げずに静かに泣いた。どこまで気丈なんだよ、まったく。

それから少しして、起き上がったメイニは何時もの顔に戻っていた。剣を傘に戻すと、俺たちはサギルスの屋敷を後にする。



「少し見直しましたわ。」
大分離れた路地まで来ると、メイニが口を開く。
しっかし、この世界の夜は何もねぇな。生前なら遅くに仕事が終わったら飲み屋か、コンビニでビールを買って速攻飲んでたんだが。
「惚れなおしたか?」
「そもそも惚れてなんていませんわ。」
ち・・・
「わたくしはリアさんの事、いやらしい中年か何かと思っていましたわ。」
まぁ、概ね正解。
「違うぞ、ご主人は性格が悪ぶゅ・・・」
黙れクソ犬。
「あぁ、しかし、ひと仕事終わった後は打ち上げとかしたいよな。って、メイニはそんな気分じゃねぇか。」
さっきあんな事があったばかりだもんな。
「いえ、人間何処かで区切りが必要なのですわ。でしたら、今日のうちに整理を付けるのがいいかもしれません。付き合ってくださいます?」
「当たり前だ。」
微笑んで言うメイニだが、瞳にはまだ揺らぎが見えたような気がした。そんな簡単に切り替えられるものでもない、それでも前に進もうとしているのだろう。
あと微笑んだ顔も可愛い。
「あたしも行く!」
「ってか、こんな時間に何処か在るのか?」
「わたくしを誰だと思っていますの?」
そりゃそうだ。自分の行動範囲しか把握していない俺とは、大違いだよな。

「お疲れ。」
葡萄酒の入ったグラスを、メイニと掲げて口を付ける。本当はビールが良かったが、この世界で見た事が無い。麦酒なんて何処にでもあるかと思ったが、そんな事はないらしい。
それでも、こうして飲めるのは幸せなんだろうな。特に今は、隣に美人が居るから尚更だ。
「こんな場所があったなんてな、かなり洒落た酒場じゃないか。」
「貴族も利用しますのよ。」
なるほど。そりゃ確かに、雰囲気の良い店じゃないとダメだな。
「貴族なんて、家で贅沢に飲んでいるのかと思ったよ。」
「飽きるのでしょうね。それとも、日常とは違う刺激を求めてか。」
「なるほどね。」
味の違いはあれ、葡萄酒ってのはこっちの世界でもそんなに変わらないもんだな。味に慣れたら、これが当たり前になるんだろう。
「わたくし、兄にひとつだけ感謝している事がありますわ。」
ふと生前に飲んでいたワインとの違いを考えていると、メイニがそんな事を言った。
「あれにか?」
「えぇ。今、この時間がある事ですわ。」
何を意図して言っているのか、いまいちわからないな。もしかすると、俺との時間って事か?そうなると、酔ってお持ち帰り!?

「兄の愚行が無ければ、わたくしも王都に来る決断をしていなかったかも知れない。」
そっちか。
まぁ、そうだよな。
「それに、リアさんともこの関係になっていなかったでしょう。」
「かもな。たまに安定剤渡すだけの、薬屋と客というだけの関係だった可能性はあるな。」
「えぇ。」
俺にとっても、メイニに協力した事は大きな分岐点だったと思える。もちろん、メイニが美人だという事もあるが、現状を作っているのはその選択肢をどう選んだかで人生が変わるわけだ。
俺は、その分岐点で当たりを引いたと思っている。
やっぱり俺、きてるよな。
「ご主人~、あたし、ちょっと熱くなってきたよ。」
うっせぇ、邪魔すんな。
「メイニはこの後、どうするんだ?」
俺は今大事なところなんだよ。
「帰りますわ。」
つまらん。
「俺と朝まで過ごすって選択肢もあるぞ。」
「無いですわ。」
即答かよ!
少しはもったいぶれよ!
「ご主人~、ちょっと変な気分だぞ。」
「酒の影響だ、だから気のせいだ。」
エリサの方を見て言うと、シャツの片方が肩から落ちている。胸元が開いてかなり見えているが、何も無いのでただの酔っぱらいだ。
見なかった事にしよう。
「それじゃ仕方がないな。今日のところはおとなしく帰るとするか。」
このクソ犬も連れて帰らなきゃならないし。そう思うと、俺はグラスの残りを飲み干した。

「リアさん、今日の事は本当に感謝しておりますわ。」
「何言ってんだよ、手を貸すのは当然だろ。」
俺がそう言うと、メイニは笑みを浮かべて小さく頷いた。なんて可愛いんだ、くそ!やっぱりこのまま持ち帰りてぇ!
「ご主人~、あははは。」
このクソ犬!
・・・
このクソ犬!!
背後から抱き着いて来たエリサを引きはがす。
「ここは、わたくしが持ちますわ。報酬は、近いうちに。」
「あぁ、分かった。ありがとな。」
「それは、わたくしの台詞ですわ。」
まぁでも、良い時間を過ごせたよ。メイニは気持ちの切り替えのためと言っていたが、それは俺にとっても同様だ。
人、殺しちまったもんな。
「ほら、帰るぞ・・・」
俺は言うと、エリサの耳を引っ張る。
「痛いよご主人、そこは、ダメ・・・」
・・・
なんかムカつく。
「痛い痛い!なんでこんな意地悪をするんだ。」

俺はメイニに片手を上げて挨拶をすると、エリサを引っ張って店を出た。そんなに飲んでいなかったが、身体に酔いは回ったのだろう、夜風が心地よかった。
「気持ち悪い・・・」
知るか。





数日後、メイニが菓子とお茶を持って現れた。
「お茶をしに来ましたわ。」
どういう風の吹き回しだ?
「ちょっと意味がわからん。」
「あら、友人が遊びに来てはいけませんの?」
・・・
友人?
誰と誰が?
何時から?
「そういう事なら、奥に行くか。」
そういう関係として認められたという事か。つまり、知人から友人になったんだ、それはその先の敷居が下がったという事じゃないか!
俺があの果実を手にする日も近付いたって事だよな!

俺はメイニを中庭に案内する。
「あら、こんな場所は想定していませんでしたわ。」
大きくはないが、中庭にテーブルと椅子を置いてある。エリサが薬草を育てながら手入れをしているので、悪く無い感じだ。
「悪く無いだろ?」
「えぇ、素敵ですわ。」
「あ、私お茶淹れますね。」
「お願いしますわ。」
一緒に着いて来たマーレが言って、メイニから茶葉を受け取ると台所に向かっていく。
「お、メイニ。あたしの秘密基地によく来たな。」
秘密基地とか言うな、台無しじゃねぇか。

マーレが茶を淹れている間に、俺は灰皿を用意する。メイニは持参した菓子を広げたが、中身は焼き菓子のようだった。
「当家の料理人に作って頂きました、味は保証致しますわ。」
「そりゃ楽しみだ。」
「やったぁ。」
「待て!」
早速手を伸ばしたエリサの手を叩く。
「全部揃ってからだ。」
「ごめん。」

「これ、美味しいわ。」
「当然ですわ。」
お茶も揃い、俺も一つ味わったが、普通に驚いた。生前食べた事のある焼き菓子と遜色は無い。まぁ、どうしても比べてしまうのは、記憶があるからだろうが、本当は純粋に楽しめたらいいんだけどな。

「で、ただお茶をしに来たわけじゃないだろ?」
一通り楽しむと、俺は煙管に詰めた煙草に火を点けて、紫煙を吐き出すとメイニに言う。
「いえ、本当にお茶をしに来ただけですわ。その中で、どんな話しが出るにせよ。」
ものは言い様だな。
「それでマーレさん。」
「はい?」
「材料の発注は終わりましたわ。畑の方に直接資材が届きます。」
「ほんと?嬉しい、楽しみだわ。」
メイニの報告に、マーレは目を輝かせて言った。まさかここまではまるとは思わなかった。これで生産性が上がれば、煙草も資金源となる可能性も出て来る。
「人手はどうします?」
「それについては、ちょっと考えがあるの。」
「分かりましたわ。もし必要なら言ってください、当てはありますから。」
「うん、何から何までありがとう。」
「わたくしも当事者ですから、協力するのは当たり前ですわ。」
順調なようで何よりだ。

それから他愛もない会話をして、お開きにした。今日は珈琲を飲みに行かなくてもいい時間が過ごせたのは良かった。たまには、違う時間もいいものだ。
会話の中で、昨日の話しが出なかったのは、メイニなりの気持ちの切り替えなのだろう。だから、誰もその事には触れなかった。

エリサは満足したのか、芝生の上で眠ってしまった。本来なら蹴り起こしているところだが、今は放っておく事にして、メイニを店先まで見送る。
昨日の報酬はその前に受け取ったが、中身は確認していない。
「では、また何かありましたらお願いに来ますわ。」
「あぁ、何時でもいいぞ。」
「そう言わず、遊びに来たらいいのに。途中経過の報告もしたいし。」
「気が向いたら来ますわ。」
「うん、待ってる。」
マーレもメイニとは大分仲良くなった気がする。
だがお前にはやらん。

「で、さっき言ってた考えってなんだ?」
メイニを見送って店内に戻ると、気になって仕方がないから扉の前で、俺はマーレに聞いてみる。人手を当てにしないで、どうやって建てるのか。
「それなんだけど、私が建物の設計をして、ホージョ達に建ててもらおうと思うの。」
は?
設計だって?
「待て待て、素人がそんな事をして失敗したらどうすんだよ。」
下手に建てて倒壊されても困るんだが。
「それなのよ。」
「どういう事だ?」
「私ね、大学では工学部の建築学科だったの。卒業したら2級建築士の資格も取るつもりだったのよ。」
なんてこった・・・
まさか、そんな都合のいい話しだとは思わなかったぜ。
「マジか?」
「うん、マジ。」
なるほど、それならば有りだ。むしろ、余計な出費もなくて済む。それに、自分たちに都合の良いような建物も出来るじゃねぇか。
「実際に建物を建てた事があるわけじゃないの。そこだけは心配なんだけど、折角覚えたんだからやってみたい。こんな機会、死んでから無いと思っていたから。」
確かにそうだよな。
「だったら、是非やってみるべきだ。こんなチャンスに出会えるなんて、なかなか無いからな。」
「うん!ありがとう。」

だけど、俺は本当に運が良いな。まさか、マーレにそんな特技があったとは。特技かどうかはまだ微妙なところだが、確実に良い方向に向かっているのは間違いない。
「私ね、リアと出会えて本当に良かったと思っているの。」
「そりゃ、エリサに言え。俺は無視したんだっての。」
「そのエリサを連れていたのはリア。最終的に私を此処に置いてくれたのもリア。だからね。」
そういうのは、要らねぇっての。俺の柄じゃねぇんだよ。
「でも、俺たちかなり運が良いんじゃねぇか?」
「うん。本当にね。」
「神なんか信じちゃいねぇが、導きとかありそうな気がしてくるよ。」
「同じく。私なんか、殺された上にホームレスとか、本当に全てを呪っていたもの。」
あぁ、そう言えばそうだったよな。
「なんか、生前より充実してきた気がするわ。」
「わりとやりたい放題だもんな。」
「だね。神様に感謝でもしたら?居るかわかんないけど。」
「いや、いねぇし、言いたくもねぇ。」
神なんて偶像だったり想像の産物だろう、大昔にも中二病が居たんだよ、そいつらの戯れで出来た産物だろうと俺は思っている。
まぁ、この世界じゃどうか分からないが。
「しょうがない、私が代わりに言ってあげるよ。」
「止めとけよ、損するぜ。」
「神様!」
と言って、マーレは手を組むと天井を仰いだ。止めときゃいいのに・・・

「呼びましたか?」
突然、扉が開いて何かが聞こえたので、俺は全力で扉を閉めると鍵を掛けた。
「痛いです!鼻が、鼻が・・・」
何かに当たったようだ。
「リアさん、酷くないですか!どうして私に冷たくするんですか!」
「何か聞こえるか?」
「ううん、何も。」
マーレはそう言うと、慌てて組んでいた手を解いて苦笑した。
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