最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ

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狂犬姫救世編

8-16

 最後の力を使い果たした私はその場に膝をつきます。
 太陽神を倒したせいでしょうか。
 空を見上げれば、陰っていた太陽は凄まじい勢いで沈み。
 夜にも等しい暗さが領域全体に訪れていました。
「ふぅ……さて、後はどうやってここから脱出するかですね」
 呼吸を整えてから周囲を見渡します。
 そこには前にも後ろにも無限の大地が続くのみでした。
 困りましたわね。太陽神もブッ飛ばしてしまいましたし、脱出方法が分かりません。
 さてどういたしましょうか。
「――私が地上まで送ってあげよう」
 背後から聞こえてきた声に振り返ります。
 いつでも叩きこめるように拳を握り締めながら。
「……次から次へと。もうこの領域にいる貴方は、全員地上に降りたのかと思っていましたわ」
 そこに立っていたのは、白衣を着たイカロスでした。
 でも黄金の髪は真っ白で、顔も明らかに年老いた老人のように見えます。
 こんな個体は今まで見たことがありませんでした。
「随分年をお召しになっておりますが、そろそろ寿命の複製体ホムンクルスですか?」
「残念ながら私は複製体ホムンクルスではない。ロマンシア大陸においての太陽神の初めの使徒であり、すべてのイカロスの元となった名も無い人間の科学者だ。見た通り、そろそろ寿命というのは間違っていないがな」
 イカロスは皺だらけの顔をくしゃりと歪めて、愉快げに笑いました。
「くはは。君には感謝している。不完全な領域内だったとはいえ、まさか人間が太陽神を打倒するところが見られるとは。ごほっごほっ!」
 苦しそうに咳き込んだ後、彼は口元を手で覆いながらもやはり笑います。
「長生きした甲斐があったぞ。神が企んだ盤上遊戯ゲームなどよりもよっぽど愉快だった。勝って当たり前の勝負ほどつまらないものはないからな。よくやってくれた」
 このお方……とんでもない裏切者がいたものです。
 ただ、この愉快犯的な思考と物言いはやはり太陽神を彷彿とさせますわ。
 信用や信頼を置く相手とは思わない方が良いでしょうね。
 今、機嫌良く話してくれる内に、聞き出せるだけの情報を聞き出してしまいましょう。
「やはりここは、本当の神の領域ではなかったのですね」
 正直、途中から薄々はそうなのではないかと思っておりました。
 最初はこの場所がクロノワ様の世界や、創造神の世界と似た雰囲気を持っていたので騙されかけましたが。
 私の加護が中途半端に使えたり、神樹を破壊した後にあからさまに弱体化した太陽神を見た時に、もしやと疑問が生まれました。
 だってすべてが思うがままなはずの自らの世界なのに、あまりにも太陽神の支配力に綻びが多すぎましたから。
 最後など普通に私の拳と蹴りで領域外まで吹っ飛んでいきましたし。
「ここは地上と天界の丁度狭間といったところだ。複製体ホムンクルスを大量に生成し、地上に送り込むためには天界は遠すぎたからな」
 イカロスがゆっくりとした所作で手をかざします。
 すると私の眼前に空間の歪みが生まれました。
 彼らイカロスが使うところを何度も見てきた、空間転移のための術式ですわね。
「太陽神は自らの力が弱まることを知りながらも、不完全な領域をここに立てた。それでも人間などには自分をどうすることもできないという慢心があったのだろうな。君に殴られた時の彼の顔は実に痛快だったよ。いやはや、良い物を見せてもらった。君をこうして地上へ送るのは、その礼だと思ってくれ」
 歪みの向こうには、王都のどこかにある通りと建物が見えます。
 まだ向こうは皆様がクズ掃除の真っ最中でしょうし、一刻も早く私も参戦しなければ。
 でもその前に、私はまだこの最初のイカロスに聞いておかなければならないことがありました。
「お礼のおまけに聞かせてくださいな。一応思い切りブッ飛ばしはしましたが、太陽神は結局どうなったのでしょう。それと私が地上に戻った後、盤上遊戯ゲームとやらはいずれ再開されるのですか?」
 私の問いにイカロスは「良いだろう」と答えて語り出します。
「不完全とはいえ、本来起こり得ない自身の領域内でダメージを受けるということは、神にとっては少なからず存在の根本を揺るがすものだ。君はただ殴り、蹴っただけだと思っているだろうが、その手応え以上に太陽神は力を失った。回復するまでは以前と同じように好き勝手にはできないはずだ」
 太陽神を蹴り飛ばす時に二度と帰って来るなとは言いましたが。
 本当に二度とあのムカつく顔とクソみたいな煽りを見ることはなさそうで、安心いたしました。
「そして核コアである神樹が破壊された以上、この領域はじきに消滅する。再び同じような場所を作るためには太陽神の力をもってしても、少なくとも千年以上の時を要するだろう。こうなっては最早悪党共や私の複製体ホムンクルスは量産できず、今地上にいる分で打ち止めだ。つまり彼が当初計画していたような盤上遊戯ゲームの継続は――実質不可能だ」
 そこまで分かれば十分です。
 また無限に湧き上がる複製体ホムンクルスなどという、殴り飽きたクズ共のお掃除をしなくて済むわけですから。
「教えて頂きありがとうございました。貴方には正直思うところもありますが――」
 彼が過去に太陽神と協力していたであろうことは事実です。
 でも老い先短く最早敵意もないのであれば、わざわざブッ飛ばす必要もありません。
 見た目がムカつくからと老人のお肉を殴っても、罪悪感があるだけで気持ちよくはなれませんからね。
「これでお別れです。残りの人生、二度と人々に悪さをしてはいけませんよ。貴方達イカロスを殴るのはもう飽きましたので」
「くはは。君が太陽神をブッ飛ばした以上に面白い見世物など、もう二度と見られないだろうからな。老い先短い人生で悪事に加担して、愚かな蛇足で最高の結末を汚すことなどしないさ」
 イカロスの言葉を聞いて安心した私は、空間の歪みに近づきます。
 あと一歩で王都に転移するというその時。
 イカロスは今までにないほどに穏やかな表情を私に見せました。
「感謝するぞ、スカーレット……この世に生まれ落ちてからずっと、私は見たかったのだ。神の絶対的な支配さえも乗り越える、人々の意志と希望の物語を。数千年にも及んだ私の退屈はここにようやく満たされた――さらばだ」
「貴方の退屈を紛らわすために数千年もひっかき回された私達は、とても良い迷惑でしたわ。でも心置きなく逝けるようで良かったですわね。さようなら、イカロスさん」
 一気に空間の歪みに飛び込みます。
 その瞬間、世界を移動した反動でしょうか。
 凄まじい風が前方から吹きつけ、一瞬目の前が真っ白になった後。
 気づけば私の身体は、王都の中央通りに立っていました。
「……本当に何事もなく地上に返してくれたのですね」
 周囲を見渡すと、床の石畳はところどころが砕け、通りの左右に立ち並ぶ建物はかなりの数が崩壊しております。
 しかし太陽神の領域で見た光景とは違って、王都全体を巻き込んだ戦いは既に終わっているようでした。
 剣戟や魔法を放つような騒々しい音はすっかり止んでおり、辺りには敵側の複製体ホムンクルスが生気を失ったかのように白目を向いて大勢倒れています。
 戦っていた味方側の騎士の方々はその傍に立ち、複製体ホムンクルス達が起き上がって来ないかを警戒しているようでした。
 そんな場所に突然空間の歪みが開いて、深紅のドレスを翻しながら私が現れたのです。
 皆様は口をあんぐりと開けて、何事かと呆然としていました。
 驚かせて申し訳ございませんわね。
 たとえ空間転移で突然現れても、戦いの渦中なら目立たないと思っておりましたので。
「――スカーレット!」
「――マスター!」
 背後から二人の少年の高い声が聞こえてきます。
 振り返ると人化したナナカとレックスがこちらに走って来て、勢いよく抱き着いてきました。
「今までどこにいたんだ! 城に一人で突入してから行方不明になったって聞いて、心配してたんだぞ!」
「えっへへー! ボクはナナカと違って、マスターのことだから絶対ヘーキって信じてたけどねー!」
 ふふ。甘えん坊さんですわね、まったく。
 ぐりぐりと頭を押し付けて懐いて来る二人をよしよししてあげます。
「心配をかけましたね。少々お空の上で太陽神をブッ飛ばしておりました」
「は?」
 抱き着いていた二人が私を見上げて、怪訝な表情をしました。
 あら。真実を告げただけですのに、何をそんなに不思議そうなお顔をしているのでしょう。
 そんな風に首を傾げておりますと――
「神をブッ飛ばし……? おお父上、母上……また我が妹が何かとんでもないことをしでかしたようです……!」
「は、はは……さすがはスカーレット様だ。俺もまだまだ修行が足りないな。この戦いが終わったらまた己を鍛えなおさねば」
 ナナカ達が来た方向から、レオお兄様とシグルド様が引き攣った顔でやってきました。
 レオお兄様……この王都の惨状ではしばらく胃薬は仕入れられないでしょうし、お兄様の胃が心配です。
 行商人の方がいらっしゃったら、いち早く取り寄せていただきましょう。
 シグルド様。貴方の肉体や技のキレは、最早加護を持たない人間の極みに達しています。
 それなのにまださらなる高みを目指そうだなんて、本当に自分に厳しいお方ですね。
 心から尊敬致しますわ。
「皆様も王都に突然送り込まれた数十万にも及ぶ複製体ホムンクルスを、見事に制圧されたようで流石ですわ。お疲れ様でした」
「えっ、それは事実ですが……」
「スカーレット。ここにいなかったお前がなぜそれを……?」
 私の言葉にシグルド様とレオお兄様が、不思議そうに目を丸くします。
 ああ、太陽神の領域で私がすべてを俯瞰していたことを皆様は知りませんものね。
 レオお兄様の胃痛を軽減するためにも、一度ちゃんと説明しておきましょうか。
 ほら、丁度通りの向こうから、さらに見知った方々がこちらに歩いてきましたし。
「疲れたなんてもんじゃないっすよまったく。ただ戦えば良かった他のみなさんと違って、俺達は王様やお偉いさんまで守らないといけなかったんすからねー」
「ディーオースー! 必死に戦ってくれた人達に向かってアンタはなんてことを! あっ、スカーレットお姉様ぁ! ふえ~ん! こわかったよぅ!」
 ディオス様にサーニャ様ですね。
 お二方がこちらにいらっしゃっているということは、貧民街での戦いにも無事決着がついたのでしょう。
「ディオス様、お疲れ様でした。サーニャ様、ずっと天上で見ておりましたよ。聖女ディアナとして立派に戦う貴方のお姿は、まさにパリスタン王国の守護天使でした。たくさん頑張りましたね」
「……っ! うん! みんなのために私、たくさん頑張ったわ! えへへ!」
「いやホントそれっすよ! 俺のサーニャ頑張って偉すぎ……って、俺はお疲れだけ!? なんか前にも増して扱いが酷くないっすか!? でもそういう冷たいとこもまた魅力的っ!」
 やかましいディオス様を押しのけて、サーニャ様をよしよしして差し上げます。
「本当に感謝しなければなりませんね。この国を守るために戦って下さった皆様に。そして――国を越えて駆けつけて下さった戦友に」
 そう言って、サーニャ様の後ろにいたお二方に声をかけます。
 そこには上機嫌のアルフレイム様と、逆に不機嫌そうなお顔の人化したヘカーテ様が立っていました。
「見たか聞いたかヘカーテ! スカーレットの実に勇ましきことよ! 太陽神を屠る人間の女など、この世のどこを探しても他におらんぞ! さすがは業火の花嫁よな! わっはっはっはごぉ!?」
「デカい声で叫ばなくても聞こえておるわ戯け。何が花嫁か。そんな可愛げのある呼び名が似合う女ではないわ、この神殺しめ」
 まあヘカーテ様ったら。
 業火の花嫁は論外ですが、神殺しだなんて流石に誇張しすぎですわ。
 そんな呼び名よりも、もっと私にふさわしい淑女らしい通り名があるでしょう。
「たとえばそう、おひさまさんさんぼんぼこ姫とか――」
「――やめておけ。一文字足りともまったく似合っていないぞ」
 突然背後から聞こえてきた、聞き覚えのない少年の声に振り返ります。
 そこにはだぼだぼの黒いローブを纏った、灰髪の美少年が立っていました。
 年の頃はナナカと同じくらいでしょうか。
 一度も会ったことがないはずなのに、真っ赤なルビーのような鋭いその目に、私は見覚えがありました。
「もしや……ダンテさん、ですか?」
「そうだ。見忘れたか? 我こそ魔大陸の支配者にして、人類の敵――魔王ダンテロードである」
 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべるダンテさんに、その場の全員の表情に緊張が走ります。
 このお方、皆様を驚かせるためにわざとこんな名乗り方をしましたわね。
 いつからこんなに意地が悪くなられたのでしょう。
 身体が子供になってしまったので心も引っ張られているのでしょうか。
「お久しぶりですわね。ご無事を信じておりましたわ。しばらくお会いしない内に随分と可愛らしいお姿になられましたわね」
「極大暗黒魔法の反動だ。ロキの群れを消すのにかなりの力を使ってしまったからな。魔大陸から逃げ落ちた後、休眠を経てようやく回復してきた魔力が台無しだ」
 太陽神の領域で見ていましたが、確かにあれは凄まじい魔法でした。
 勝利を確信した太陽神を驚かせるほどに。
「感謝いたします。ダンテさんの助力がなければ、あの段階で千を超えるロキの群れに対抗する手段はなかったでしょう。魔王である貴方のおかげで、人類は救われました」
「……借りを返しただけだ。貴様ら人間の協力がなければ、我々魔族はリンドブルグと勇者共に滅ぼされていただろう。魔大陸が滅んだ時に大分減ってはしまったが、それでも次の世代はかなりの人数が逃げ延びれた。ミンクも貴様には感謝していたぞ」
 魔族の方に多くの被害が出てしまったことは、本当に悲しむべきことです。
 でもあの状況下で未来に繋がる次の世代――若者や子供が逃げられたことに、私は安堵しました。
 誰も生き残れない可能性だって、いくらでもありましたから。
 村で良くして頂いたミンクさんが無事に逃げられたことも、喜ぶべきことですわね。
「この方は確かに魔王様ですが、魔大陸では私達と共に太陽神の尖兵達と戦った仲間でもあります。先程も邪竜ロキの大軍とお一人で戦っていらっしゃいました」
 ヘカーテ様とアルフレイム様に向き直ります。
「ずっと魔大陸の魔物と戦ってきたヴァンキッシュのお二方には、思うところがあるかとは思いますが……どうか私の顔に免じて、この場では争わないようにお願いいたします」
 ヘカーテ様は眉を顰めてあからさまに警戒した表情を。
 アルフレイム様は興味深そうにダンテさんを見ていました。
「……二度と見たくはない顔だったが、まさかこの国で相まみえることになるとはな」
「昨日の敵は今日の友だ。殺し合っていたのはお互い様であるし、今更許さぬなどと器の小さなことは言うまい。それにしてもこれが魔王か。世界を脅かしていた男がこのような小兵だったとは驚きだな」
 そんなお二方にダンテさんは目を閉じて、淡々と答えました。
「安心しろ、黒竜の姫よ。数百年前ならいざ知らず、最早我ら魔族から竜族に対しての遺恨は一切ない。それと……低地病だったか」
 目を開いたダンテさんは、アルフレイム様の方を見て言いました。
「あれを克服する方法を知りたがっているのだったな。スカーレットとの約束だ。ヴァンキッシュの皇帝よ、後程貴様に解呪の秘術を授けてやる」
「何!? それは本当か!?」
 大抵のことは笑って動じないアルフレイム様も、これには目を見開いて驚きます。
 そして彼よりも、もっと感情を露にしたのは傍にいたレックスでした。
「低地病が治るの!? やったー! これで前みたいにずーっと、パリスタンのお家でマスターと一緒に暮らせるんだ! わーいナナカー! あはははっ!」
「分かった分かった……まったく、子供みたいにはしゃいで。良かったな、お前」
 抱き着かれて面倒そうにしながらも、やっぱり嬉しいのでしょうね。
 ポンポンとレックスの頭を撫でながら優しく微笑むナナカの姿を見て、思わず私も笑顔になってしまいました。
 ダンテさんがちゃんと約束を覚えていて下さって良かったですわ。
「――なんだお前達。こんな場所で一同に集まって。祝勝会にはまだ気が早いぞ」
 盛り上がる私達に水を差すような腹黒そうな声が聞こえてきて、振り返ります。
 そこにはいつから様子を見ていたのか、ジュリアス様が腕を組んで立っていました。
 いたならもっと早く声をかけて下されば良かったですのに。
「あらジュリアス様、遅かったですわね。それとも最後に登場して一番目立とうという魂胆ですか?」
「そんなつもりはなかったが……フッ。そう見えてしまったのなら申し訳なかった」
 挑発するように髪をかき上げるジュリアス様。
 あまりにも意図的な鼻につくその仕草に、ジト目でジュリアス様を睨みつけます。
 しかし当の本人はまったく気にした様子もなく、彼は私達を見渡した後、真面目な表情で口を開きます。
「王都の各所にいる指揮官と今の状況について連絡を取っていた。結果、敵対勢力全体の無力化を確認した。太陽神やイカロスが何をして来るか分からない以上、まだ楽観視して良い状況ではないが、ひとまずのところ――」
 一呼吸置いたジュリアス様は、私達を労うように穏やかに微笑みました。
「――我々の勝利だ。皆、ご苦労だったな」
 直後、その場にいる全員が「おおー!」と歓声を上げます。
 私達だけではありません。
 周囲にいる味方側で戦ってくれたパリスタン、ヴァンキッシュ、ファルコニア、エルドランド。
 すべての国の戦士達が皆、肩を組んで笑顔で喜びの声を上げていました。
 ああ、なんと素晴らしい光景でしょうか。
 元々は敵として憎み合い、争ったこともあったでしょう。
 そんな他国の皆様と、世界の敵を前に助け合い団結して戦い。
 かつてのしがらみを忘れて、勝利を喜び合っているのです。
 このような光景が見れたのも、すべては太陽神をブッ飛ばしたおかげですわね。
「ああ――やっぱり神様をブン殴って良かった」
 王都すべてに降り注ぐ勝利の余韻という祝福を目の当たりにして、思わずそんな言葉が零れてしまいました。
 そんな私と同様に、周囲の皆様が勝利に酔いしれて浮かれている中。
 ジュリアス様やダンテさんだけは空を見上げて、太陽神の動向を警戒しているようでした。
 それも仕方ありません。
 警戒心が強く人を導く王たる資質を持つお二方にとっては、確定していない未来の脅威に備えるというのは、当然のことでしょうから。
 でも彼らと違い、私は太陽神の領域を出る時に最初のイカロスから話を聞いて、もうこれ以上太陽神が地上に大した干渉はできないということを知っています。
 ブッ飛ばしたとだけ言って後回しにしていましたが、本当の意味で皆様に安心して頂くためにも、改めて事の顛末をこの場でしっかりと伝えることにいたしましょう。
「皆様、お話を聞いて頂いても――」
 私が口を開いたその時でした。
「――役者は全員揃ったようだね?」
 その男はどこから湧き出たのか。
 誰にも見とがめられることもなく、白衣と黄金の髪をなびかせて。
 いつの間にか私達の中心に立ち、不敵に笑っていました。
「それじゃあ始めようか。盤上遊戯ゲームの終幕エンディングを」
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