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Episode 26

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「言われた通りシャーロットに魔力吸収の魔石を持たせた。」

 宵闇に紛れた密やかな訪れに、ロウエルは低く告げる。

「そちらも約束を果たしてくれ。」

 そう詰め寄る彼に差し出されたのは、朽ちかけた羊皮紙の巻物だった。
 ロウエルはそれを確認すると、右耳のピアスに触れる。

「このピアスも……。」
「それは、私が目的を果たした後だ。」
「っ、それじゃ約束が!」
「お前に抗議する権利などないだろう?」
「………っ………。」

 苦悩を噛み締めるロウエルに目を細めた男は、愉悦に浸りながらグッと体を近付け、彼の耳にまるで呪いのように言葉を流し込む。

「決して私の名前は口にするな。それは最後のお楽しみだ。……もし私の邪魔をすれば……。」

 男の声に呼応するように、ピアスの黒い石がミシミシと音を立てロウエルの顔が蒼白になる。

「っ、やめっ!」

 ピタリと止む不穏な音。

を守りたくば、その禁術を己のものにして、大人しく時を待て。」

 背筋に流れる冷たい汗の気持ち悪さと、思考にまとわりつく男の言葉……。
 ロウエルは吐き気を堪えながら、その場にただ……立ち尽くしていた──。




 ◇◇◇



 アリアの夢を見て目覚めたシャーロットは、それからもう一度ベッドに横になってはみたものの微睡むことすら出来ず、小さくうずくまったままソフィーの訪れを待っていた。

「おはようございます、シャーロットお嬢様。」
「おはよう、ソフィー。」

 出発の支度もあり普段より少しだけ早い時間に寝室へとやって来たソフィーは、明らかに顔色の悪いシャーロットを一瞬心配そうに見つめたが、あえて何も聞かず、いつも通りの柔らかな笑みで彼女の身支度を始める。

「領地までは長い道のりでございます。ご気分が優れないときには、必ず早めに仰って下さいね。」
「うん。」

 朝食も半分ほどしか食べられず、ぼんやりとしたままシャーロットはエントランスホールへと降りた。
 セシルは既に仕事のため出掛けており、代わりにホールには侍従長を筆頭に使用人達が見送りのために並んでいる。

「お嬢様、どうぞお気をつけて。」
「ありがとう。セシル殿下にはくれぐれもよろしくお伝えしてね。」
「かしこまりました。」

 カティアローザと一緒に公爵領へ行くのを楽しみにしていたはずのシャーロットは、心許ない笑顔で挨拶をして俯きながら翡翠宮の外へと出た。
 そんな彼女は、予想もしていなかった声が耳に届いたことで、胸が大きく波打ちハッと顔を上げる。

「おはよう、シャーロット。」
「……っ、ユ…リウス、殿下……?どうして……。」
「叔父上から聞いてない?今回の休暇にはがつくって。」
「えっ?あの……。」

 不意打ち過ぎて理解が追いつかないシャーロットは、次第に目の前の現実としてユリウスを認識しだし、みる間に耳まで赤くしてしまった。

 ──で、殿下に、どんな顔したら……!?

 あの日、ユリウスに女の子として抱き締められて以来の再会。

 ──ちゃ、ちゃんと、お礼を言わなきゃ……。

 そう思って口を動かすのに言葉が声にならず、シャーロットは恥ずかしさが積み重なって、あちこちに視線を彷徨わせる。
 そうして周りをよく見れば、ユリウスだけでなく、オスカーとアーネストも控えていた。

「あ、あの、カティ様は?」

 小さな小さな声でやっとそれだけ言葉にしたシャーロットに、ユリウスはとろけるような笑みをこぼす。

「カティはマルセル邸で待ってるよ。これから、一緒に迎えに行こうか。」

 そう言って当たり前のように手を差し出し馬車へとエスコートしようとするユリウスに、彼女は色々な意味で固まってしまった。

 ──む、無理です……殿下に触れるなんて……。それに、カティ様という婚約者が……。で、でもお断りするのも……っ、どうしよう……。

「シャーロット?」

 不思議そうにシャーロットの顔を覗き込んだユリウス。
 ふいに彼と視線が重なってしまったことで、完全に思考停止してしまった彼女に助け舟を出したのは、ソフィーだった。

「恐れながら殿下。シャーロットお嬢様は少々ご気分が優れず、馬車の中でお休み頂きたいのです。」

 シャーロット付きのレディースメイドから、暗に「別々の馬車に乗れ」と圧をかけられた形になってしまったユリウスは、ソフィーに怒るでもなく軽く肩をすくめて微笑んでみせた。

「気づかずにゴメンね、シャーロット。それじゃ、出来るだけ休憩を取るようにしよう。」
「……ありがとうございます、殿下。」

 結局ソフィーに手を引かれ馬車に乗り込んだシャーロットは、ドキドキとうるさい鼓動に泣きそうになりながら翡翠宮を出発したのだった……。












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