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Side Story
罪と罰
しおりを挟む神は天界にいる。その天界も、創造神であり絶対神であるケイノンが創った世界の一つだ。
あまねく、全ての世界を見守ることができるこの場所で、神々たちは生命の終わりを察しその魂を迎え、次の生へと送り届ける。
見守るだけのこの世界でも、神という存在であったとしても、痛ましい出来事を目の当たりにして何も感じないわけではない。
歯がゆい感情に耐え、皆、神という存在であり続けているのだ。
そんな天界には、ケイノンが慈しむもう一つ存在がいる。
それが天使だった。
ある時、ケイノンを愛する天使の一人が、神々の代わりに少しでも世界の傷を減らす手助けをしようと地上に降り立ち、天使という存在から生命になった。
それが光の天使・リュシア。
その魂は神々の迎えを待たず、自ら必要な生にたどり着き輪廻を繰り返す。
そして『光の乙女』となって、幾度も世界に救いをもたらしてきた。
光の乙女は神の愛し子。
その生命を傷つけることは、何人たりとも許されない。たとえそれが、神だったとしても……。
◇◇◇
レイニードから一つの魂を連れ帰ったアリアは、彼を一時だけ元の姿に戻した。
「アリア……痛い……体中が痛い……。これが苦痛なの?……助けて……助けてよ……。」
紅い髪に紅い瞳……。
ゼッドはアリアの前で初めての痛みにうずくまり、体を震わせる。
「ゼッド、貴方はあの子が光の乙女だと知っていたでしょう?それなのにシャーロットを傷つけようとした。」
「シャーロットは狙わなかったっ。彼女に怪我はさせてない!」
「ゼッド、体に怪我を負わせることだけが『傷つける』ということではないのよ。」
「どういうこと?」
アリアの表情は慈愛に満ちて、ゼッドを見つめた。
しかし、彼女の口から告げられた『罰』は、彼にとって残酷すぎるものだった。
「ゼッド、貴方はもはや神ではない。魂を持つ一つの生命となったの。生命は必ずいつか尽きるわ。」
「……っ、……やだ…そんなっ!……ヤダよ!」
「最初の生で、その魂を輪廻させるのか、一度きりの生命として消滅させるのかが決まるのは知っているわね?」
「……アリア……助けて……お願いだ……イヤだよ……。」
彼にもいつか、心が理解出来るだろうか?
その時はきっと、『後悔』がわかるはず。
アリアは静かな願いを込めて、神だったゼッドを消し、始まりの魂をケイノンの世界へと送った。
「大変な役目を任せてしまったね。」
「いいえ、ケイノン様。しかし、本当にあの場所でよろしかったのですか?」
「え?ダメだった?孤独な魔王が愛を知るなんて、あの子にピッタリじゃない。」
「ケイノン様は、あの子に甘すぎます。本来なら存在を消滅させるところなのですよ?」
「……あの子は本当に純粋だ。純粋すぎてしまった。存在の危うさに気付けなかった私の責もある。」
あまねく世界を見渡せる不思議な場所。
天界から愛し子を見つめ、ほのかな口づけに頬を緩めた父なる神は、いたずらげにアリアを振り返る。
「それに、あの子が行った世界、コメディ風味もあってなかなか面白かったよ?」
「ケイノン様!また物語から世界を創られたのですか!?本当にお止めください。収拾が……私たちの負担が増えるばかりではありませんかっ!」
「大丈夫だよ、アリア。懸命に生きる美しいあの子たちに比べたら、神なんて存外、暇なものだよ。」
無邪気に笑う父を見て、アリアは大きく嘆息してこめかみを押さえた。
彼女はケイノンがゼッドの新たな生に、神であった頃の記憶を残したことをまだ知らない。
そんな魔王のお話は、またきっと、別のどこかで……。
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