『歌い手』の私が異世界でアニソンを歌ったら、何故か世紀の歌姫になっちゃいました

駆威命(元・駆逐ライフ)

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第101話 二人だけの閉じた世界

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「むぅ……おっきい……」

 この世界における寝巻きは、簡単に言うなら薄布で出来たバスローブって感じだ。

 だから多少大きかろうと結んでしまえば問題ないと思っていたのだが……。

 妊娠五カ月よ~ってくらい、お腹の部分に布が集まり動きにくいわ寝にくいわでちょっとダメだ。

 自分の部屋に取りに行くのもめんどくさいし……。

 そう思って顔を上げると、グラジオスの背中が見えた。

 私がまだいいよって言ってないので律儀にこちらを向いていないらしい。

「あ」

 ふと、グラジオスが脱ぎ捨てたシャツが目に入った。

 形的にはワイシャツみたいなちょっと固めのシャツなのだが、材質が違うのか地球のものよりだいぶ柔らかそうである。

 実は海外ドラマみたいでちょっとやってみたいなって思ってたんだよね。

「借りるね~」

 グラジオスの大きすぎる寝巻きを引きずりながら移動して目的のブツをゲットする。

 何に使うつもりだ、なんてグラジオスの言葉は無視し、さっそくワイシャツを着こんでみた。

 相変わらず大きくて、袖は萌え袖になるし裾は膝辺りまで来るし肩幅もだいぶ違ってぶかぶかだ。でも引きずるほどではないので、寝巻きにはちょうどいいかもしれない。

 私はプチプチっとボタンを留めていき……上三つは留めずに開けたまま、

「いいよ~」

 とグラジオスに振り向いていいと伝えた。

「何をして……」

「んふふ~、これぞ裸ワイシャツ~。どう、萌えた? 可愛い? 欲情した?」

 腰と頭の後ろに手をやって、ちょっとグラビアアイドルがやるようなポーズをとってみる。

 胸元の隙間からはちらちらと素肌が覗き、健康的でカモシカのような私の足がワイシャツから伸びていてるため、ちょっとは誘惑になってるかな~なんて格好だ。

 ちなみにきちんとショーツは履いているので完全な裸ではない。

 これでグラジオスが食いついたらロリコン確定だから衛兵に危険人物としてつき出そう。なんて思っていたのだけど……。

「……目がマジなんだけど」

 ちょっと怖い。

「ぐ、グラジオス~?」

 私の呼びかけに返答すらしないグラジオスが一歩、また一歩とロボットのような動きで近づいてくる。

 お前はターミネ○ターかって思わず突っ込みそうになって……ってそんな場合じゃないって。ホントのホントに貞操の危機!?

「あ、あのね? お、おちつこ?」

 私は慌ててボタンを全て留め、袖をまくり上げて手を出す。

 更に足元に落ちている寝巻きを拾い上げて腰から下に巻き付ける。一応これでせくしー()なポイントは潰したはずだ。

「グラジオス~。そ、それ以上近づいたら悲鳴あげるよ?」

 というか通報するよ?

 やばいよグラジオス、私が言うのもなんだけど病気だよ。

 こんな子ども体型に理性が切れるほど欲情しないでよ。

 そんな私の必死の説得が効いたのか、グラジオスはピタリと動きを止める。

 数秒後、かふーー……としか聞こえない何の作動音だよって突っ込みたくなるようなため息がグラジオスから漏れて……。

「今度からそういう事は結婚してからにしてくれ」

 なんて言われてしまった。

 結婚したらして欲しいんだ……。

 気が向いたらしてあげない事も無いけど。

「えっと、このまま同衾してあげようかなって思ってたけど大丈夫?」

 襲わない?

「努力する」

 そう言うグラジオスは、拳を握り込んで――。

「きゃっ」

 思いきり自分の頬を殴りつけた。

 ボコッと、結構痛そうな音が響いたけど大丈夫だろうか。

「え、えっと……そこまでだったらホント、私自分の部屋に……」

「大丈夫だ、寝よう」

 ぜんっぜん大丈夫に見えないんだけど。

 仕方ない、グラジオスの自制心を信じよ。

 今までも何度か一緒に寝てるしね。

 とりあえず何かあった時のためにグラジオスを壁側に寝かせた後、ランタンとろうそくを消して私もベッドに潜りこんだ。

 一人用のベッドなのでちょっとだけ狭いけれど、無理やりなら入れない事もない。

 私達は額がくっつきそうなほど近くに体を寄せ合う。

 グラジオスの息が頬に触れる。

 胸が高鳴るようなシチュエーションのはずなのに、私は不思議と安らぎを覚えていた。

「えへへ、なんでだろ。安心する」

「……そうだな」

 私がこの世界に来てから、よく二人でこうして眠ったからかもしれない。

 何にせよ、グラジオスも私と同じ様に感じてくれて居る様で嬉しかった。

 しばらく二人で見つめ合う。

 グラジオスの青い瞳は水晶の様に綺麗で、じっと見つめていても飽きる事はない。

 むしろ永遠にこんな時間が続けばいいのにと願ってやまなかった。

「……ねえ、なんで私の事好きになったの?」

「……なんだ、藪から棒に」

「えっと、実はずっと聞きたかったんだよね。からかったりイタズラしたり引っ張り回したり迷惑かけたりで私を好きになる要素なんてどこにもないよな~って思っててさ」

 ……ってなにその可哀そうな人を見る様な目。

「それは全部雲母の魅力だろうが」

 ……やっば。私今絶対変な顔してる。

 何そのナチュラルな殺し文句。

 グラジオスそんなキザな事言えたの?

 もしかして影武者と入れ替わってる?

「……雲母、今失礼な事考えて居るだろう」

 うぐっ、なんでバレるの。話題変えなきゃ。

「え、えっとね。私ちびっ娘だしツルペタすっとんとんじゃん」

 自分で言うのか……なんてグラジオスが呆れているが、今は無視だ。

「グラジオスってもしかしてそういう趣味の人なのかなってことも考えてたり……。ほら、今も私に目の色変えてたじゃん」

「お前な……俺がお前にどれだけ惚れてるか分かって言ってるのか? 惚れた女が誘惑してきて耐えられるか馬鹿」

「あ、久しぶりの馬鹿」

「俺の話を聞け」

 ……聞いてるもん。まともに相手してたら恥ずかしくって死にそうになっちゃうだけだもん。

 も~、なんでさっきからそういう事平然と言っちゃうかなぁ。

「とにかく俺にそんな趣味はない。雲母以外に欲情しないなんて事はないが、雲母と同じ体型をした雲母じゃない女が目の前に居たとしても絶対に欲情はせん。それについては断言できる」

「そっか、良かった…………じゃない、良くない! それって遠回しに私の体型馬鹿にしてるでしょ!」

「じゃあ子ども体型に欲情するようになればいいのか?」

「それはダメ」

 というか欲情も私以外しちゃダメって言いたいけど……それはさすがに難しいってこと知ってるから……。

 うぅ、でも言いたい。

「とにかくお前意外に目移りすることは絶対にない。俺にとって最高の女性はお前だけだ」

「き、今日のグラジオス変! なんでそんなに私を口説く様な事言うの!? いつもならこんなに言わないじゃん!」

 私に突っ込まれたグラジオスは視線をそらして数秒考えた後、真剣な顔で私を見て、

「さっきので気分が盛り上がってしまったからだろうな。お前が可愛いのが悪い」

 またキザな言葉をかけてくる。

 グラジオスはもう色々変なスイッチが入っちゃって止まれなくなってるみたいだ。

「だからぁぁぁっ! そーゆー事言うなぁっ!!」

 私は怒鳴り付けた後、掛け布団の中に頭を潜りこませる。

 もうこれで変な事は言われないはず。

 なんて考えていたら、頭の上からグラジオスの楽しそうな笑い声が降って来た。

 腹立たしかったが、今顔を出したらもっととんでもない事になりそうだったのでそのまま潜航を続ける事にする。

 布団の中には私とグラジオスの体温が籠っていて少し熱かったが、我慢できないほどではなかったしこのぬくもりは別に嫌いではない。

 私はグラジオスの厚い胸板に額を押し当て、しばらく不貞腐れていた。

 ゴソゴソっとグラジオスが身動きをする。

 何をするのかと思っていたら、グラジオスの大きな手が降りてきて私の頭を撫で始めた。

 悪い気分はしなかったのでそのまま素直に撫でられたままで居る。

「……雲母が甘えてくる時は、大概何か辛い事を我慢しているんだよな」

 私は何も言わない。返さない。

 でもグラジオスはそれが返事だとでも言うかのように続ける。

「俺にはこうして一緒に居る事しかできないが……」

 それがいいんだよ。居て欲しいときに居てくれるのが。

 私は心の中でそう言うと、グラジオスに縋りつき……ちょっとためらってからグラジオスの襟首を引っ張る。

「なんだ?」

 私に引っ張られた事でグラジオスが布団の中に潜り込んでくる。

「これだけね」

 大好きなその人の唇に、私は口づけを落としたのだった。
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