【完結】殿下、5回目の婚約破棄は私の方からさせて頂きます!~やりたい放題していたら、いつの間にか逆ハー状態でした~

ゆきのこ

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本編 第一部 ~騎士の娘は茶会にて~

殿下、このドレス如何ですか?

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「こちらがフローラ嬢の控え室です。茶会の準備が整うまでの暫しの間、この部屋をお使い下さい。」

殿下に案内された控え室は、広いお部屋に絢爛豪華な家具や調度品ばかりが並んだ・・・流石王宮!と言いたくなる様な素敵なお部屋だった・・・
だがしかし!私はこの部屋に案内されるのも5回目なので、驚きも感動も無く〝無〟だった。

「有難うございます、殿下。」

勿論、前回迄の私は見飽きている筈のこの部屋を見る度に「素敵なお部屋で感動ですぅ!」とか言って、何なら殿下の腕をスリスリしたり、ぴょんぴょん飛び跳ねたりもしていたが、今からが本番なのだ。無駄な体力は消耗したくないし、別に殿下に好かれる必要も無いので、殿下の腕からさっさと手を離しソファーへと腰掛けた。

すると、何故か殿下が私の向かい側に座ったので思わず驚いてしまった。

「良い茶葉を用意したのですが、如何ですか?」

「ーえ?えぇ、頂きますわ。」

(おかしい・・・。前回迄の流れだと、私をこの部屋に案内したらすぐに退室していた筈なのに・・・。紅茶など、何故・・・?)

「殿下、私はここで大人しくしておきますから、お迎えに来て頂けたら宜しいのですよ?お忙しい事は私も存じておりますから・・・お気になさらずどうぞ行って下さいませね?」

あくまでも笑顔で、婚約者を気遣っているように伝えたつもりだが・・・直訳すると〝1人にして欲しいから早く出て行って?〟だ。

「フローラ嬢・・・、何だか雰囲気が変わりましたね?何か有りましたか・・・?」

ええ、ええ、有りましたとも!貴方が18歳前日に婚約破棄してくるもんだから、こちとら昨日からを何回もやり直してるんですよ!!!

「本日の茶会に緊張しているだけですわ。」

「なら良いのですが・・・」

メイドが運んで来てくれた紅茶に手を伸ばすと、殿下も同じように紅茶を飲もうと、ティーカップに指を掛けていた。

(あれ?行かないの・・・?じゃあ逆に前回迄は急いで何処に行っていたの・・・?)

そこまで考えると、紅茶の味と共に前回迄の・・・1人この部屋に取り残された哀れな自分を思い出してしまい、何だか居た堪れない気持ちになってしまった。
殿下の気を引こうと朝早くから、マッサージをして貰い、とっておきのオイルを塗り、殿下にプレゼントされたこのドレスに合う、アクセサリーや髪型をアーニャと何日も考えて・・・。

(それなのに・・・案内を終えたら決まって、さっさと何処かへ行ってしまって・・・、ドレスすら一度も褒めて頂け無かったわね。)

とても素晴らしい味と香りの紅茶の筈なのに、ちっとも美味しくないのは・・・きっとこの部屋と目の前に居るのせいだ・・・。

(フローラ、決めた筈よ!5回目の今世では、〝私らしく〟過ごすと!婚約破棄だって、こちらから言ってやると!)

私は美味しくない紅茶をソーサーに戻すと、立ち上がった。そのままテーブルの横まで移動すると、殿下に向かいドレスを広げて見せた。

「そうそう!お礼が遅くなってしまい申し訳ありません、殿下。この様な素敵なドレスを頂きまして・・・、私、とても気に入ったので、早速、着て来てしまいましたわ!」

「そうか・・・。それは、良かったです。」

チラリとだけ見て、適当にあしらう殿下の様子に、ブチっという音と共に、私の顬が一瞬引き攣ってしまった。
笑顔こそ崩していないが、もしかしたら口角も引き攣ってるかもしれない・・・。

「特にこのお色がとても気に入っていて・・・珍しいお色なので、もしや他の令嬢と被らない様にと殿下が気遣って下さったのでは?」

「まぁ・・・そうですね。」

ブチブチブチッという音と共に、私の顔の筋肉が令嬢スマイルをキープ出来る、ギリギリの状態に陥ってしまう。

(こうなりゃ意地よ・・・!こちとら勝手にとは言え、貴方に褒められたいが為に5回も頑張ったんだから!!1回位、言わせたって罰はあたらない筈よ!)

「殿下、今日のドレス如何ですか・・・?似合ってますよね?そうですよねぇ?」

私の顔が余程怖い顔になっていたのか、殿下は私の方を見るなり、すぐに俯いてしまい、顔色が見る見る悪くなっていっていた。

「へっ?!あぁ!・・・とてもお似合」

「きちんと!!見て頂けます?」

満面の笑みで手を差し出すと、殿下は恐る恐る私の手を取り、上にあげるとダンスの要領で私は優雅にターンして見せた。

「とっとてもお似合いです。フローラ嬢・・・」

「有難うございます、殿下。・・・髪型とアクセサリーはどうですか?このドレスに合わせて、それはもう・・・何日も前から頭を悩ませましたの・・・!」

ドレスをきちんと褒めて終わった・・・!と思っていた殿下は、目を見開き額に汗を浮かべながら、一生懸命アクセサリーや髪の毛を凝視している。

「フローラ嬢らしさが出ていて、とても良いと思います・・・。」

(何じゃそりゃ!それってどのドレス着てても言える、凡庸な言葉じゃないの!)

欲しい言葉がいつまでたっても出て来ないので、痺れを切らした私は、直球ストレートド真ん中で勝負を仕掛ける事にした。

「・・・・・・可愛いですか?」

「へ?」

「今日の私、殿下から見て・・・その、可愛いですか?どうですか?」

(言葉にすると物凄く恥ずかしくなって来た・・・!)

「勿論、初めて会った時から・・・貴女はとても可愛らしいですよ・・・?」

ようやく殿下からの〝可愛い〟を勝ち取った筈なのに、目の前の殿下があまりにも蕩ける様な笑顔で、私に甘い言葉を囁くので、脳内でガッツポーズすら出来なかった。

私は顔が真っ赤になってしまい、恥ずかしさのあまり、顔を仰ぎながらソファーに戻り、残っていた紅茶を一気飲み干した。

その紅茶は、今まで飲んだどの紅茶よりも甘く芳醇な香りがしたーーー。
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