自称モブ男は、恋愛フラグを回避する(短編集)

葉瀬満月(はせみつき)

文字の大きさ
11 / 12
【第2話】超絶イケメンな恋人は瓜二つ

双子との将来について。

しおりを挟む
 数回ノックして中から返事がしてゆっくり扉を開ける。

「すみません。ヴァローナです」

 中では厳かな黒い椅子に座った教頭の姿がある。空のような髪は少しだけ襟足が長くて後ろで1つに結ばれていた。同種の瞳は柔らかく、魔法学校で女性が教頭の地位まで上がるのは大変だろう。

 一瞬だけ、俺のことを見た教頭から勧められるままソファーへ腰を下ろした。
 スッと背筋を伸ばして立ち上がり、歩いてきた教頭も前に座る。

 少しだけ緊張した俺の表情を見て、教頭は気品のある笑みを浮かべた。

「リラックスしてください。貴方を呼び出したのは他でもありません。先程の件で」
「……申し訳ございません。ですが、俺は第二王子殿下と婚姻は結べませんし……2人と」

 教頭は何も言わずローブの袖で口元を隠して笑っている。叱責されると思っていたが、そうじゃないらしい。

 何かを手にしていた教頭が、テーブルの上で広げて見せてきた。びっしりと文字が書かれた魔法紙だ。内容を読んですぐに理解する。

「これって……」
「ええ。去年から少しずつ制度が変わりまして、恋人同士でしたら同じ学校で教鞭を取ることは禁止しておりません」
「……公にされていなかった理由は?」
「確定するのが今年でした。ですが、第二王子殿下の件で時期を早めることにします」

 全部俺のせいだよな……。なんだか教員として申し訳ない。4年もお世話になっているのに……いや、でも第二王子殿下とは婚姻出来ないから。

 頭を掻く俺を見て、教頭は優しく話をしてくれる。しかも、驚く話まで。

「だから、貴方達を責められる権利はないのです。私達のことで、完全なる私情ですね」
「……まさか、教頭先生と校長先生が。恋人同士とは思いませんでした……」

 去年から交際するようになったらしい。確か、校長は50代前半だったような……。教頭は多分30代前半……。だけど性別も、年だって恋愛に関係ないよな。

 それに、この学校は校長の一族が代々継承しているから、私情だとしてもなんの問題もない。

 俺たちも、歳を重ねてもそんな間柄でいたいな……。
 教頭の馴れ初めを聞いて、元気が出た俺は2人を探す。いつの間にか視察は終わっていて、第二王子殿下は残念そうにしていたらしいけど……別れ際、2人を祝福してくれたとか。

 図書室で何かを真剣に読んでいる双子の姿を見つけて駆け寄る。

「こんなところにいたのか……」
「ん……シュテルン! どこに行ったかって心配してたんだぞ? 神隠しにあったんじゃないかって」
「教頭に呼ばれていたって聞いたよ。何もなくて本当に良かった」

 その割にまったく焦った様子のないルアに手招きされて、自然と空けられた2人の間で足を止めた。
 すぐ両隣から腕を回されて密着する。

 2人に触られると不安が消えていく。心地良い……。

 真剣な表情で2人が覗いていたのは、『王族との婚姻』? 断ったことで罪になるのか……?

「おい……これって」
「ああ、俺たちはどうなっても良い……。だけど、お前だけは渡せない」
「うん……君だけは、僕たちが守るから。それから、学校も去ることになるから心配だよ」

 そんなこと2人で背負わなくて良いのに……。それに、この世界は恋人同士俺たちに優しいと思う。

 何も知らない2人の腰へ俺も腕を回した。驚いた顔をしている姿は珍しくて見物だ。今更だけど、俺から2人に何かすることって少ないかも……。いつも2人が先に触ってくるし。

 そのあと、2人に教頭から聞いた話をした。勿論、校長との関係は伏せた上で。
 残す不安材料は、王族についてだけど……。

「第二王子殿下は、祝福してくれたんだろう?」
「ああ、そうだけどさ。不安材料は、潰しておかないと……」
「うん。僕たちにとって、王族よりも大事なのは、シュテルン……君だけだから」

 さっきよりも密着して額と頬に唇が触れる2人を、不謹慎だけど、好きだなって思った……。
 
 そのあとすぐ、王族であっても結婚を誓い合った恋人同士とは、婚姻出来ないって書いてあるページを見つける。
 俺たちは恋人同士になってまだ半年ちょっとで、これから同棲を考え始めたばかり……。結婚は誓い合ってないぞ――。

「あー……これ」
「それなら、1つしかないよな」
「うん、そうだね」
「「シュテルン。結婚前提で、婚約して欲しい」」

 2人から降り注ぐ声と、同時に伸ばされた手を見て腰から腕を離す。照れ臭さを感じながら俺は2人の手を取った。

「――はい、喜んで」

 2人から熱い抱擁をされたあと、代わる代わる唇を奪われる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

息の合うゲーム友達とリア凸した結果プロポーズされました。

ふわりんしず。
BL
“じゃあ会ってみる?今度の日曜日” ゲーム内で1番気の合う相棒に突然誘われた。リアルで会ったことはなく、 ただゲーム中にボイスを付けて遊ぶ仲だった 一瞬の葛藤とほんの少しのワクワク。 結局俺が選んだのは、 “いいね!あそぼーよ”   もし人生の分岐点があるのなら、きっとこと時だったのかもしれないと 後から思うのだった。

【J庭57無配】幼馴染の心は読めない

すずかけあおい
BL
幼馴染の一志は桜大とは違う大学を志望している。自然と距離ができ、幼馴染の近さが徐々に薄れていく。それが当たり前でも、受け入れられない。 まだ一年ある。もう一年しかない。 高二の秋、恋心は複雑に揺れる。 ***** J庭57の無配です。

自分勝手な恋

すずかけあおい
BL
高校の卒業式後に幼馴染の拓斗から告白された。 拓斗への感情が恋愛感情かどうか迷った俺は拓斗を振った。 時が過ぎ、気まぐれで会いに行くと、拓斗には恋人ができていた。 馬鹿な俺は今更自覚する。 拓斗が好きだ、と――。

可愛いがすぎる

たかさき
BL
会長×会計(平凡)。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

イケメンと自販機と俺と

たかさき
BL
いつも同じ電車に乗っている毎日違う女の子を連れているイケメン。そのイケメンとなぜか一緒にジュースを飲むようになった俺の話。

処理中です...