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『いってらっしゃい』

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その日は変な天気だった。
降り頻る雨を太陽が明るく照らし、キラキラと光の粒が空から降っているように見えた。

もふもふな尻尾と耳をスッポリと雨ガッパで隠し、クルクルと姿見の前で回りながら自身の姿を確認すると「まぁ、悪くはないんじゃない? 」と真顔で変態に答えた。

「……感謝という言葉をしってるかい? リスっ子ちゃん。」

「勿論、知ってるよ。…ああ、アンタの店から何個か使えそうなものもらったから。」

「うん。ないねぇ。僕に対しての感謝の心が一切ないッ。そして一体、何を僕の店からくすねたのかな!? 」

酷いッと、ラヨネ相手に久々にワッと嘘泣きをかます変態にラヨネは凍てつくような侮蔑の眼差しを向けていた。

三日前から途端にラヨネの喧嘩を買わなくなった変態は今日も通常運転。もう既に変態の頭には先程俺に対して変態行為をしようとして殴られたタンコブと噛まれた痕がくっきり残っている。

もうリスっ子ちゃんなんて知らないと見送る事なく、そそくさと自身の部屋に戻っていく。

「ふぅ…。やっと、忌々しいのが消えた。」

満足げに変態の背を見送るとラヨネはトントンッと何時もの食卓の椅子に座るようにと手で叩く。座ると丁度目線が立ってるラヨネの背と同じくらいになる。ラヨネの小さな両手が俺の両頰を包んだ。

「今日も血色がいいね。…はぁ。本当ならコタをここに置いていきたくない。さっさと攫っていきたいんだけどな。」

深く溜息をつき、「ホント、腹立つ。」と忌々しげにもう一度変態が出て行った扉を見た。

「でも、諦めるよ。僕にはまだそれだけの力がないから。だから…。」

ふわりと尻尾が揺れ、山吹色の大きな瞳が俺を映す。顔が近付き、唇と唇が重なった。

それはたった数秒の出来事だったのに時が止まったように長く感じた。

ぷるりとした小さな唇。
まだ幼いからか男なのにとても柔らかい。

動揺で情けなく固まる俺の姿が山吹色の瞳には映っている。名残惜しそうに離れていく唇を嬉しそうに指でなぞり、ラヨネは艶のある笑みを浮かべた。

「力を付けて、全てを整えたら唇以外も奪いに来るから。」

覚悟してね。と耳に口を寄せ囁く。
混乱冷めやまぬ中、「行ってきます。」とラヨネは振り返る事もせず、家を出て行った。

扉が閉まり、ハッと少し平静を取り戻し、慌てて扉を開けた。

「行ってらっしゃい。」

そう声を掛けるとラヨネは振り返った。
キラキラと雨粒が輝く中。濡れる尻尾を嬉しげに上下に揺らし、溢れる程の満面の笑みを浮かべていた。
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