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『命令』

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獄塔からてらっと脱出して、先ずやろうと思った事はモモの中にまだ居やがるクエなんちゃらとかいう寄生虫(虫かは知らねぇが)への催促。

出て行くっと言ったのに分離に時間が掛かるとモモの身体からとっとっと出ていかないもんだから。
ちゃっちゃと出て行くように催促プラス出て行かないのなら強硬手段(モモには悪いが一発入れて気絶させる)。

だが、あの寄生虫。
あの忌々しい男(ソレーユ)ソレーユ忌々しい男から一切離れない。
べったりと後ろをついて周り、やっと離れたと思ったら大きな箱の中にモモごと入った。

箱の隙間からニュッと赫い液体が出てきて鍵の形を形成したかと思えば箱に付いていた鍵穴に挿さり、鍵を閉めやがった。

監禁だ。
野郎。モモを監禁しやがった。

「ふざけんなよ。」と赫い液体を鷲掴みにしようとしたが液体だから掴めなかった。

ニヤッとムカつく笑い方でこちらを小馬鹿にして赫い霧となって霧散した。

チッと舌打ちをして、モモの入った箱を開けようとするが頑丈で全くびくともしない。モモに呼び掛けてもモモから返事はなかった。

「くそっ…。あの野郎ッ。」

どうせ、あの寄生虫は主人のもとに行ったに違いない。主人もろともぶん殴んなきゃ気が済まない。
そうあのソレーユ忌々しい男を追って殴ろうと決めた瞬間、白く光るあの糸が見えた。

その糸を触ればあのソレーユ忌々しい男が何処に行ったか頭の中に浮かぶ。身体が勝手に奴の元へと歩き始めた。

それが自然であるかのように奴を見つけた時はとても不快だったが、それでもやる事はひとつだ。

そう思って矢鱈、人が集まっている広間に入った。
大の大人達がこんな真っ昼間から集まって、クスクスと笑って中央を見ていた。


中央には肉食動物の姿をした獣人達が玉座に踏ん反り返る偉そうな男。そして見世物のようにその獣人達を人間達は指差して笑っていた。

ただでさえ、腹が立っているというのにその光景はとても不快で、ざわりと神経を逆撫でる。しかし、もっとムカついたのは…。

ライオンの獣人がミドリアイツを悪だとほざくからだ。

それが無性に腹立たしくて、気付けばライオンを伸していた。伸してもまだ腹立たしい。

本当はもう一発入れてやろうと思ったのに視界にあのソレーユ忌々しい男の姿が入り気が散った。


『俺の新しい召喚獣で、俺の伴侶ですので。』

そして聞き捨てならない言葉が耳に入った。
ギラついた目で喉元に唇を寄せる姿はまるで獲物を捕食する野生の獣のようだった。
まるで自身が完全にこの男の手中に落ちたみたいでそれもまた腹が立った。









「まだ怒ってるの?。」

全力の嫌悪感を乗せて、そう嬉しそうに笑みを浮かべて聞くソレーユ忌々しい男を睨む。しかし、この男は本当に意に介さない。

俺の反応一つ一つに興味深そうに観察しては頰に触れたり、髪に触れたり。

気付けばあの酒好きの牢番は遂に解雇されたのか牢から消えていた。

流石に少し悪いとも思ったが、よく考えりゃあ、そこは自業自得なのでもう気にしない。むしろ、よくここまでクビをつなげてたもんだ。ある意味尊敬するよ…。

したがって、部屋には二人きり。
あのクエなんちゃらもモモの身体ごと追い出されて本当に二人きりだ。

おまけに足枷の鎖はベッドの足に繋がれ、『この部屋から出てはいけない。』という命令まで下った。

この男曰く、お仕置きらしい。
『ハウス。』と『待て。』が出来なかった俺へのお仕置き。
「君には痛みよりもこっちの方がよっぽど効きそうだから。」…だそうだ。


確かに一週間ずっとこの獄塔の中から出られず、鎖がベッドに繋がれているからほぼ身体を動かせないのが相当ストレスだ。

唯一の運動が性懲りも無く俺の所に来たコイツに蹴りを喰らわす事。しかし、それも身体がコイツを害をなす事に拒絶反応を起こすのでキレのいい蹴りが放てない。くそぅッ、腹立たしい!!


だが、追撃をするにも命令を無視する事に全て気力が持ってかれてどうにもならない。


『俺を求めろ。』


そう耳元で囁かれ瞬間、何故かミドリの姿がコイツに重なって見えた。

こんな奴に触れられるなんて嫌悪感しかない筈なのにその手をはたき落とす事が出来ず、受け入れてしまう。
知っている傷だらけの無骨な手ではなく、傷一つない手に触れられて、ふと正気に戻り、手を振り払った。

気を抜くと奴を受け入れてしまう。
似てない筈なのに奴とミドリが重なって、上手く拒めなくなる。


ー そういや、ミドリアイツ、どうしてるかな。

ちゃっちゃっと全て片付けて戻るつもりだったから、アイツの部下のアヴァなんちゃらに伝言だけ残して来ちまったな。アヴァなんちゃらはきちんと伝言してくれただろうか?


しょっちゅう触れられていたからかあの傷だらけの手が恋しく感じる。
心臓が少し早く鼓動を刻み、胸の辺りがギュッと苦しくなる。
その感情は日に日に膨らみ続け、自身の手には余る。

頭からつま先まで余す事なく、傷だらけのあの手で優しく触れられて。とてつもなく恥ずかしいのに気持ち良くて。

こちらに向ける紫色の瞳に見られるとなんだかこそばゆくて目を逸らす。

溢れ出しそうなその感情にただ戸惑い、安心を求めて自身の膝を抱いた。
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