寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ

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もう勘弁してください

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フラフラと身体が揺れる。

三日間寝込んでようやく体調が良くなってきた筈なのに、今日来る厄災の所為で私の身体は拒絶反応を起こしている。

汚い話。何度も戻し掛けている。
それでも優しい兄が私を心配しているので必死に戻したい気持ちを抑えて、胃に食べ物を流し込む。


自分で言うのもなんだが、シュネーはとても良い子だ。

身体が弱くて家族や使用人達に心配を掛けているので、これ以上迷惑掛けたくないと一心で何時も痩せ我慢をしている。食が細くて入らない食事でもシュネーは残した事はない。皆んなに心配掛けたくなくて。身体が弱い分、勉学だって人一倍頑張っている。

「守ってあげなきゃ。」

我ながらあまりに健気過ぎてそんな事を思った。

正直、私になる前のシュネーの意識がどうなったのかは分からない。

私に統合したのか眠っているのか。幾ら衝撃的な出来事とはいえ、で消滅したとは考えたくない。

きっと眠ってるだけ。その内起きてくれる。

そう自分に言い聞かせ、私は目の前に転がる問題をシュネーの為に片付ける事にした。



「顔色悪いね。」

部屋に入ってきて邂逅一番のエリアスの言葉。一見、心配そうにこちらを見ているが、何処かその目は獲物を狩る狩人の様なギラギラとしたな光を帯びている気がした。果たして彼は本当に私を見舞いに来たのかさえ怪しい。

ー 何だろう。もう既に戻しそう。

ぶわりと上がってくる嫌悪感を必死に奥に仕舞い込む。兄はアイツの目に宿すものが見えていないのか。

「良い人そうだね。僕はちょっと用があるから席を外すけど大丈夫そうだね。」

と呑気に狼の前に兎を置いて出ていってしまった。

シュネーの為に頑張る所存だけども、ちょっとは頼りにしていた兄が消え、更に気分が悪くなっていく。

ー 落ち着け私。

私はこの変態からシュネーを守る使命がある。本当であればあの日あの時に倒れずに見なかった事とにして素通りすればきっと興味なぞ持たれなかった筈だ。

可もなく不可もなく。
記憶に残らなければきっと侯爵の嫡男であるエリアスが伯爵家次男のシュネーに興味なぞ持たない筈だ。

しかし、分かっていても拒絶反応は止まらない。

恋も愛も人それぞれだとは思う。
だが、それは私とシュネーの知らない所で勝手に私とシュネーを巻き込まないでやって欲しい。

「君は本当に不思議だね。」

エリアスが不思議なものを見る様な目で私を見る。何が不思議なんだか分からないが取り敢えず興味を更に持たれた事に絶叫しかけた。

「俺のあんな姿を見て、欲情を覚えないなんて。」

ー は?

さも不思議そうに、さも興味深げに艶やかな黒曜石の瞳が私を見つめる。

つい頭のオカシイ事を言われて、嫌悪感も恐怖も飛び去り、コイツの頭を本気で心配してしまった。

ー お前の何処を見て欲情すんだよ。
     そもそも九才で欲情って言葉使うな!
     早すぎんだろッ!!


ふわりとエリアスのきめ細やかな白い手が私の頰を触れた。ニンマリと人の悪い笑みが徐々に近付いてくる。

「ねぇ、俺をみてよ。俺の虜になってよ、シュネー・ハースト。じゃないと俺の気が済まない。」

そうして薔薇色で柔らかそうな唇がゆっくりと私の唇に落とさ………れてたまるか!

パンッ!!

初めて人を平手打ちした手がジンジンと痛み、眉を潜めた。マシュマロの様に柔らかい白い頰にバッチリともみじマークが浮かび上がり、人形みたいに美しいその顔が驚きの色に染まる。

ー やってしまった。

咄嗟に身を守った事に後悔は無い。

とても痛いが、手の痛みもシュネーを守れた勲章だ。だが、こんな盛大に頰を平手打ちして世間体的に大丈夫だろうか。御家間で問題に発展しないだろうか。

サーと頭から血の気が引いていく中、頰を抑えて呆けてた変態がすっと立ち上がる。表情は艶のある黒髪に隠れて分からない。だが正直、表情を確認する勇気は無い。

「………手に入れる。」

ボソリと意味を分からない事言って、エリアスは黙って部屋を出ていった。それがとても不気味で寒気が全身を駆け巡る。

「ごめん、シュネー。もう限界ッ。」

ふわりと意識が遠のく。
意識を飛ばしている場合では無い。
そんな事は分かってる。

ー 何とかしなければ。

しかしそう思う一方で、身体も精神も思っていた以上に限界を迎えていた。
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