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番外編
外伝 雪の降る地で⑥
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雪がしんしんと降り続く。
しかし町には数年前までなかった活気に溢れていて、最近居辛さを感じる。
少し前までは王都の騎士団本部にバレなきゃ何をしても大丈夫だった。しかし今はフリューゲル公爵や新しい北方本部長が目を光らせていて、前のようには振る舞えない。
その上で折角の金づるであったゲフリーレン伯爵は『刑受の森』に流刑され、ライフ男爵もそろそろ捕まるだろう。
なら最後にとっておきの情報とバレないように少しライフ男爵に協力して巻き上げるだけ巻き上げてしまおう。そしてその金であの方を連れて国外に逃げてしまおう。
賑やかになった大通りを曲がり、大人一人が通るにも狭い路地裏を通ると寂れた酒場が顔を出す。
立て付けの悪い扉を開くと俺と同じ考えの騎士達がもう既に酒を片手に集まっていた。
「遅いぞ、シューゲル。」
「本部長の尻にでも敷かれてたか? 情けねぇ。」
「俺はあの尻なら敷かれてぇな。」
「男だぞ。」
「美人は別腹。」
ゲラゲラと下品に笑う騎士達。
あの潔癖そうな本部長はこの姿を見たらあの綺麗な顔をどんな風に歪めるのだろうか。
主人の為に『刑受の森』まで行った忠義の騎士はゴミ虫を見るような軽蔑の目で見てくれるかもしれない。
そう想像するだけでゾクゾクする。
「とっておきの話がある。アルヴィンっていう本部長のお友達がライフ男爵邸の悪事を暴きに潜入しているそうだ。」
「ヒュー、カッケェねぇ。ボコボコにしてぇわ。」
「今のご時世、フリューゲル公爵の所為で俺達生き辛いだろう? 」
「おっ、何だ? ついにあの元王子の若造を殺しちゃう? 」
「泣いちゃうよー。我らが本部長。だって旦那様にゾッコンでしょ? 夜な夜な男なのに男に抱かれてさ。」
ゲラゲラとまた下品な笑いを浮かべて騎士達は酒を煽る。俺も仲間から渡された酒をグッと飲み干し、ニンマリと笑う。
「アルヴィンって奴捕縛してライフ男爵に恩売ってさ、金をたんまり貰うのさ。その金で国外逃亡しよう。それでみんなであの本部長襲って連れ去って、長い旅路の捌け口にしよう。きっと楽しい旅になる。」
「そりゃあいい。」と皆んなでゲラゲラ笑っているとふと肩を叩かれた。
「僕の伴侶をどうするって? 」
その声に振り向くと閉めた筈の扉から冷たい外の風が入ってきて、黄金の髪が風に乗って揺れていた。
にっこりと黄金の髪をたなびかせてその男は微笑んでいたが、何故だか全然笑ってない気がした。
「フリューゲル…公爵。」
いきなり現れたフリューゲル公爵。
こんな寂れた所に元王族の貴族様が来るなんて想像すら出来ず、皆口をあんぐり開けて状況を理解出来ずにいる。
「僕の伴侶をどうするって? 」
再度そう問われて、口を開こうとした瞬間、元王族の貴族とは思えない重い拳が放たれ、気付くと俺は床に尻を付けていた。
「っで、僕の伴侶をどうするって? 」
そうフリューゲル公爵は俺に問うがきっと答えなんて求めていない。問答無用で殴り飛ばす気だ。
「坊ちゃん風情が舐めやがってッ!! 」
そう仲間の一人が剣を抜いて斬りかかろうとしたが、ピタリと首に炎のように波打っている刃をつけられて固まった。
「私の伴侶に手を出すなら問答無用で跳ねるがどうする? 」
ブワッと酒場にえげつない殺気が放たれる。
仲間の首に剣を突き付けたその方は冷え冷えとしたアメシストの瞳で俺を一瞥した。
どれだけの死戦を潜り抜ければこれ程の殺気が放たれるのか。俺達なんかより遥かに若い筈の『白百合の騎士』は簡単にその殺気だけで俺達の戦意を折ってくる。
「勝手に先行しないでくださいよ。」
殺気で俺達を威圧しつつも『白百合の騎士』は主人をたしなめる。そんな『白百合の騎士』の髪を一束とり、主人は愛おしそうに撫で、口付けを落とした。
「確かに君に頼まれてこの作戦を考えたのは僕だけど流石に聞くに堪えないよ。考えたのは僕だけど、君とアルヴィンを囮に使うなんて反対だったんだからね。」
『白百合の騎士』は一瞬顔を真っ赤に染めたが、ゴホンッと咳払いをした。そして懐から紐で結われた紙の束を取り出した。
「お前達の犯した騎士ならざる行いは全て上がっている。……本当に王家の影は仕事が早いですよ。たった数日でここ数年の悪事を全て上げてくるなんて。」
「フェルゼンに持たせちゃいけないものだよね……。」
「……言わないでください。血縁ながら恐ろしい。」
溜息をつき、ピュイッと口笛を吹くと酒場の周りで人の気配が強まった。囲まれている。
フリューゲル公爵は『白百合の騎士』を抱き寄せて俺達を見て、寒々とした笑みを浮かべた。
「大人しく捕まるかここで一戦交えるか考えて? ちょっと僕、容赦出来そうにないけど。れ
「いや、貴方は下がっててくださいよ。…まぁ、私も最初の発言に頭に来てますがね。……誰だ。私の伴侶を殺すとか、友をボコボコにするって言った奴。」
先程から出ていた殺気が可愛く感じる程の殺気が放たれ、炎のように揺らめく剣が空を斬る。仲間の中には失神している者もいた。
「投降します。」
気付けばそう口が勝手に動いていた。
しかし町には数年前までなかった活気に溢れていて、最近居辛さを感じる。
少し前までは王都の騎士団本部にバレなきゃ何をしても大丈夫だった。しかし今はフリューゲル公爵や新しい北方本部長が目を光らせていて、前のようには振る舞えない。
その上で折角の金づるであったゲフリーレン伯爵は『刑受の森』に流刑され、ライフ男爵もそろそろ捕まるだろう。
なら最後にとっておきの情報とバレないように少しライフ男爵に協力して巻き上げるだけ巻き上げてしまおう。そしてその金であの方を連れて国外に逃げてしまおう。
賑やかになった大通りを曲がり、大人一人が通るにも狭い路地裏を通ると寂れた酒場が顔を出す。
立て付けの悪い扉を開くと俺と同じ考えの騎士達がもう既に酒を片手に集まっていた。
「遅いぞ、シューゲル。」
「本部長の尻にでも敷かれてたか? 情けねぇ。」
「俺はあの尻なら敷かれてぇな。」
「男だぞ。」
「美人は別腹。」
ゲラゲラと下品に笑う騎士達。
あの潔癖そうな本部長はこの姿を見たらあの綺麗な顔をどんな風に歪めるのだろうか。
主人の為に『刑受の森』まで行った忠義の騎士はゴミ虫を見るような軽蔑の目で見てくれるかもしれない。
そう想像するだけでゾクゾクする。
「とっておきの話がある。アルヴィンっていう本部長のお友達がライフ男爵邸の悪事を暴きに潜入しているそうだ。」
「ヒュー、カッケェねぇ。ボコボコにしてぇわ。」
「今のご時世、フリューゲル公爵の所為で俺達生き辛いだろう? 」
「おっ、何だ? ついにあの元王子の若造を殺しちゃう? 」
「泣いちゃうよー。我らが本部長。だって旦那様にゾッコンでしょ? 夜な夜な男なのに男に抱かれてさ。」
ゲラゲラとまた下品な笑いを浮かべて騎士達は酒を煽る。俺も仲間から渡された酒をグッと飲み干し、ニンマリと笑う。
「アルヴィンって奴捕縛してライフ男爵に恩売ってさ、金をたんまり貰うのさ。その金で国外逃亡しよう。それでみんなであの本部長襲って連れ去って、長い旅路の捌け口にしよう。きっと楽しい旅になる。」
「そりゃあいい。」と皆んなでゲラゲラ笑っているとふと肩を叩かれた。
「僕の伴侶をどうするって? 」
その声に振り向くと閉めた筈の扉から冷たい外の風が入ってきて、黄金の髪が風に乗って揺れていた。
にっこりと黄金の髪をたなびかせてその男は微笑んでいたが、何故だか全然笑ってない気がした。
「フリューゲル…公爵。」
いきなり現れたフリューゲル公爵。
こんな寂れた所に元王族の貴族様が来るなんて想像すら出来ず、皆口をあんぐり開けて状況を理解出来ずにいる。
「僕の伴侶をどうするって? 」
再度そう問われて、口を開こうとした瞬間、元王族の貴族とは思えない重い拳が放たれ、気付くと俺は床に尻を付けていた。
「っで、僕の伴侶をどうするって? 」
そうフリューゲル公爵は俺に問うがきっと答えなんて求めていない。問答無用で殴り飛ばす気だ。
「坊ちゃん風情が舐めやがってッ!! 」
そう仲間の一人が剣を抜いて斬りかかろうとしたが、ピタリと首に炎のように波打っている刃をつけられて固まった。
「私の伴侶に手を出すなら問答無用で跳ねるがどうする? 」
ブワッと酒場にえげつない殺気が放たれる。
仲間の首に剣を突き付けたその方は冷え冷えとしたアメシストの瞳で俺を一瞥した。
どれだけの死戦を潜り抜ければこれ程の殺気が放たれるのか。俺達なんかより遥かに若い筈の『白百合の騎士』は簡単にその殺気だけで俺達の戦意を折ってくる。
「勝手に先行しないでくださいよ。」
殺気で俺達を威圧しつつも『白百合の騎士』は主人をたしなめる。そんな『白百合の騎士』の髪を一束とり、主人は愛おしそうに撫で、口付けを落とした。
「確かに君に頼まれてこの作戦を考えたのは僕だけど流石に聞くに堪えないよ。考えたのは僕だけど、君とアルヴィンを囮に使うなんて反対だったんだからね。」
『白百合の騎士』は一瞬顔を真っ赤に染めたが、ゴホンッと咳払いをした。そして懐から紐で結われた紙の束を取り出した。
「お前達の犯した騎士ならざる行いは全て上がっている。……本当に王家の影は仕事が早いですよ。たった数日でここ数年の悪事を全て上げてくるなんて。」
「フェルゼンに持たせちゃいけないものだよね……。」
「……言わないでください。血縁ながら恐ろしい。」
溜息をつき、ピュイッと口笛を吹くと酒場の周りで人の気配が強まった。囲まれている。
フリューゲル公爵は『白百合の騎士』を抱き寄せて俺達を見て、寒々とした笑みを浮かべた。
「大人しく捕まるかここで一戦交えるか考えて? ちょっと僕、容赦出来そうにないけど。れ
「いや、貴方は下がっててくださいよ。…まぁ、私も最初の発言に頭に来てますがね。……誰だ。私の伴侶を殺すとか、友をボコボコにするって言った奴。」
先程から出ていた殺気が可愛く感じる程の殺気が放たれ、炎のように揺らめく剣が空を斬る。仲間の中には失神している者もいた。
「投降します。」
気付けばそう口が勝手に動いていた。
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