母を探して(完結)

しぎょく

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 パンパンパン!

 花火が打ち上げられた音が聞こえた。
 今日、明日、明後日の三日間、この水の国は国を挙げて大きな祭りが開かれ、花火は祭りの始まりの合図となっている。
 祭りの中心となる場所は、この王都アクアウォーリアと決まってはいるが、この王都に限らず、どの町も賑やかになる事は間違いないだろ。
 「・・・・・つまんねー・・・・面白くも、楽しくもねー・・・・」
 いい加減ベッドの上にいる生活も飽き飽きしていた。
 「文句言わないでくださいウィル。仕方ない事でしょ?」
 「そんなこと、分かってくるって言うんだよ・・・・でも、つまんね!」
 外に出たくて仕方がなかった。でも、そんなことできるような体ではない。
 まだ俺の体は回復しきっていない。
 長い眠りから目を覚ましてからもう、一週間経つけど、現状は、ベッドから体を起き上がらせるのがやっと。
 体調のいい時もあるけれど、不調の時の方が多い。不調の時は高熱を出すのがお決まりになっている。
調子のいい時は、この城の庭に出て散歩することはできる。絶対に誰か一人付き添いがいなければ、自分の足で行くことは出来ないのが事実。
 「後で、マイル様がウィルの好きそうな食べ物を買ってきてくださると言っていたではありませんか?」
 「だけど・・・・」
 城下町には様々な店が出されている。
 食べ物を扱う店が多いけれど、その他多くの店が出されていたはずだ。
 今日は体調はすごく良い。そして、食欲もあった。
 何かを食べるのは今のうちだった。この機会を逃せば、何も食べることができなくなってしまうほど、体調が悪くなってしまうかもしれない。
 体調の良かった次の日は、決まって体調が悪くなる。だから、今のうちしかなかった。
 マイルが俺の為に何かを買ってきてくれるのは、嬉しいけれど、マイルは一応城の兵士たちの隊長を勤めている立場。
 そして、こういった祭りの日は争いごとが耐えないので、町に巡回させている兵士を指示しなければならいため、忙しいという事もよく分かっていた。
 それならば残っている二人はどうしているのだろうと思うけど、二人も忙しい事は分かっていた。
 神官であるユーイは、明日行われる式典の最終準備で追われているし、トーレスもその準備を手伝わなければならなかったはずだった。
 本当は三人も、こんな俺をすごく心配してくれていて、俺の側に付き添っていたいと言ってきた。でも、今の俺にはセルビオが常に付いてくれることになったので、断った。
 俺だって一緒にいたいと思っている。でも、この三日間行われる祭りで三人は忙しいという事は前々から分かっていた事だった。
 まぁ、明日の式典が終われば、翌日あるのは後夜祭だけなので、忙しさも、半減するはずだけど、マイルの忙しさだけは三日間通して変わらないだろう。
 「・・・・・・今日はやたら元気ですよね?その元気が明日なら良かったのですが」
 「そんなこと言っても仕方ないだろう。それだけなどうする事も出来ねーんだから」
 できるのであれば、明日体調がよければいいと俺も思っていた。
 明日行われる祭典は、本当なら王族の一人として俺も出なければならなかった。
 もし、明日も今みたいに体調がよければ、式典が行われる会場に少し顔を出すようにと兄や父に言われたけれど、きっと無理だろう。
 式典に出るということは、多くの人の前に出なければならない。
 国民の前に姿を出すような事はないけれど、明日の式典には、爵位を持つ多くの貴族達が城にやってくる。
 もちろん、セルビオの両親もやって来るはずだ。母を祝いに。
 この三日間行われる祭りは、母の為。
 明日母は、誕生日を迎える。
 前夜祭と後夜祭があるのは、場を盛り上がらせる為。そして、多くの国民に祝してもらう為に誕生日の前後に祭りが開かれる事になっている。
 これは、母だけに限る事ではない。国王である父の誕生日も当然行われるし、俺や兄も誕生日の時も、このようなことになるが、俺や兄の場合、母の失踪や、兄の体調しだいとなるが、それでも、前夜祭と後夜祭らしいモノは行われる。
 「なぁセルビオ・・・・そう言えば、かあさまって、どうやって戻ってきたんだ?」
 気がつけばいつの間にか母は帰ってきていた。
 「言っていませんでしたか?王妃様は、前地王陛下が光の国で偶然見つけられたらしく、わざわざこの国まで連れてきてくださったのですよ。ウィルが目を覚まされた二日後ぐらいに」
 「え?じい様が?」
 たとえ偶然であっても、祖父は母を見つけた。そして、俺に言ったとおり祖父は母をこの国に連れて来てくれた。
 「ええ、まるで猫の首を掴むように王妃様を連れて来られました」
 祖父ならやりかねないと思い、想像してしまった。
 「でも、よかった・・・俺はこんなんだし・・・もし、じい様がかあさまを見つけてくれなかったら、明日の式典は中止するしかなかったよね?」
 俺や兄の行われる誕生式典とは違って、国王とその王妃の誕生式典はよほどのことがない限り中止にする事はできないとされている。だから、母の失踪で式典を中止する事は出来ず、何としても、俺達は二ヶ月という期限内に母を捜しあげなければならなかった。
 祖父のおかげで無事、式典までに母が見つかったけれど、俺はそれを成し遂げることができなかった。
 仕方がないことだと分かっていても、自分の責務を果たす事ができなかった。
 「・・・・ウィル。気分転換に何処か行きますか?少しぐらいなら許可取っていますので、大丈夫ですよ」
 「・・・・いい・・・・」
 魅力的な誘惑だった。
気分転換に外に出ることができたとしても、きっと庭ぐらいだろうと思った。
 「急にどうしたのですか?庭ではありませんよ。あれほど行きたがっていた町に行くことも今でしたら出来るのですよ?」
 「ま・・・・町に?」
 「ええ、そうです。貴方の好きな町にです。どうしますか?」
 行きたかった。少しでもいいから、城から出たかった。
 「その顔は、行きたいと言う顔ですね。分かりました。行きましょう」
 町に出ることが許された。
 いくら体調が良いからといって、それほど長い時間外に出ることはできない。
 少しでも体調が悪くなれば、戻るという条件で、僅かな間ではあるけれど、町に出ることにした。

 「ねぇねぇ、あれ・・・食べて良い?」
 「どちらですか?」
 早速町に出た俺達は、この日の為だけに出店している様々な店の料理を食べ歩いていた。
 こういう所で作られた料理は大勢の人が食べる為、城で食べる料理と違って、何も気にする事なく、食べる事ができる。
 「はい、どうぞ。熱いですから気をつけてくださいね」
 「いっただきまーす!」
 買ってくれた焼きたて、熱々のパイを受け取り、早速一口食べた。
 「あぢっ・・・・・でも・・・うめー!」
 舌が火傷するかと思うほど、熱かった。でも、すっごく美味しかった。
 外はさくさくしているのに、パイの中はとろとろ。
 この日の為だけにこのパイは作られた、限定品らしい。
 あまりにも美味しすぎて、すぐに食べ終わってしまった。
 「幸せそうな顔ですね。では、次行きますか?」
 もう一つ食べたい気分だったけれど、いつまで体力が続くのか分からないので、少しでも、色々見たり食べたりしたいので、我慢する事に決めた。

 気分転換はたったの三十分で終わりを告げた。
 もっと遊びたかった。
もっと、もっと色々な店の物を食べたかった。
三十分の間で、何軒かの店の物は食べる事はできたけれど、満足はしていない。
これだけで満足できるような、俺ではなかった。
でも仕方がなかった。
 今の俺の体力は三十分も持たなかったからだ。
 俺は、セルビオに抱かれて、城に戻る事になった。
 セルビオに抱きかかえられるのはもう慣れた。恥ずかしいとも思わなかった。
 幸いな事に、熱は出していない。ただ疲れただけだった。どうせ、後で熱を出す事になるだろうと思うけれど、出来るのであれば、このまま熱は出ないで欲しい。
 「少し、お休みになりますか?疲れたでしょ?」
 「いや・・・大丈夫だ・・・・それよりもセルビオ、何持ってるんだよ?」
 何やら怪しい小瓶を手に持っていた。
 「これですか?これは、ユーイ様が、ウィルの為にとわざわざ作ってくださった薬ですよ。さぁ、飲んでください。疲れた体によく効くらしいですから」
 「え・・・・あ・・・・・いや・・・その・・・それは・・・・」
 飲みたくなかった。
 どうしても、ユーイの作った薬を飲むのは避けたかった。
 ユーイは神官だけど、神官である前に医術の知識を豊富に持つ、腕の良い薬師でもあったりする。そのため、よく俺の為にとその時の症状にあわせて薬を作ってくれる。
 この城には、兵士達を見てくれる専属の医師や薬師が何人もいるけれど、父や母、兄も、ユーイの薬師としての腕を見込み、何かあるたび、専属の医師には見せず、ユーイに頼んで、薬を作ってもらっているありさまだし、何故か城にいる医師や薬師達は、王族の信頼が厚く、神官でありながら、薬師としているユーイの事を一目も二目も置いている。
 言わばユーイは王族専用の薬師となってしまっているが、本当は薬師ではなく、神官が本業だというのに、いつの間にかそうなってしまっていた。
 元々ユーイは、俺の為に様々薬の事を勉強して薬師になってくれたようなもの。そのはずだったのに、いつの間にか、ユーイは俺だけの薬師ではなくなってしまった。皆にオレのユーイをうばわれてしまった。
 「さぁ、飲んでくださいウィル。飲まないとどうなっても知りませんよ?」
 「嫌だ!ユーイの作った薬は飲まない!」
 かといって、他の薬師が作った薬はさらに飲みたくない。
 「どうしてそんな事を言うのですか?いつもユーイ様が作られる薬を飲んでいるではありませんか」
 ユーイの作った薬は驚くほどよく効く。いつも自分の意思と関係なく薬を飲まされている俺も認めるけど、飲みたくなかった。
 「も・・・・もしかしてウィル、貴方、薬の苦いのが駄目なのですか?」
 「・・・・・・・・」
 「その顔は、どうやら図星のようですね」
 薬は苦ければ苦いほど効果があると聞かされている。だから、薬は苦いものだと思っている。体を治す為にはどんな苦い薬でも我慢して飲まなければならない事も十分分かっているけれど、苦いものは苦い。
 飲まなくてもいいのであれば、なるべく薬は飲みたくないけど、ユーイが作る薬は、どうしても飲まなければならない物ばかりで、飲む以外に道はない。
 「貴方が薬を嫌いなのはユーイ様から聞いてはいました。どうしても嫌と仰るのであれば、この薬は飲まなくても大丈夫だと仰ってはいましたが、明日の事を考えると、飲んで欲しいとも仰っていました」
 飲まなくても言いというなら、俺は飲みたくなかった。
 「明日の式典でユーイ様がどれだけ忙しくても、貴方の為に時間を裂いて、わざわざ今日の為に、明日の事を思って、この薬を作ってくださったのですよ?貴方はその行為を、無駄にするつもりですか?」
 「で・・・・でも・・・・・」
 そんな事を言われると、飲まないわけにはいかないだろう。
 人の行為は無駄にはできない。小さい頃から、その行為が自分にとって良し悪しであっても、その時の状況に応じて行為を受けるようにと教えられた。
 今はまさに、その状態だった。
 今回の場合、どう考えても受けなければならないことは分かっていた。ユーイが俺にしてくれたことは、俺にとって最良の事。それはよく分かっているのだけど、それでも、飲みたくないものは飲みたくなかった。
 「・・・・・・貴方からこの薬を飲ませるのはどうやら無理そうですね。なら、仕方がありません。強行手段を取らせていただきますね。覚悟してくださいウィル」
 何かをたくらんでいるようなそんな笑みをセルビオ浮かべた。
 一体こいつは何をしようとしているのだろう。そして、俺は何をされるのだろう。
 手荒な真似はしないと思うけど、その笑みがすごく怖く感じた。
 「せ・・・セルビオ・・・・な・・・何を・・・・んん!・・・ん・・・・・ん・・・・んくっ」
 自ら薬を飲もうとしない俺に対し、セルビオはとんでもない強行手段を取って、俺に薬を飲ませた。
 信じられなかった。まさか、こんな方法で薬を飲まされるとは思っていなかった。
 「もう少しだけ、飲んでおきましょうねウィル・・・・」
 「んっ・・・・んん・・・・・・・」
 再びセルビオは、同じ方法で俺に薬を飲ませた。
 薬の入った小瓶を口元に持っていても、俺が口を固く閉じている限り、無理矢理でも俺に薬を飲ませることができない。
 でも、セルビオが俺にした方法であれば、いくら薬が飲みたくないという奴でも、飲まざるえない。
 何せこいつは、俺が飲むはずの薬を、一度口の中に含み、その薬を口移しで俺に薬を飲ませたのだから。
 「に・・・・にげーよ・・・・ボケ・・・」
 「それぐらい苦い方がいいのですよ薬は・・・・ですが、本当に苦いですね、この薬は。ウィルが嫌がるのもよく分かりました・・・よく、頑張って飲みましたね。その頑張りに、ご褒美を差し上げますね・・・・・」
 「ん!・・・・んん・・・・・んっ・・・・」
 再び重なり合う唇。今度は、薬を飲ませるためにしているのではなく、ご褒美としてされた行為。でも、俺はそんな行為をされるのは嫌じゃなかった。
 薬を口移しで飲まされるのだって、拒めばすむこと。それなのに、俺は拒まなかった。どこかでそうして欲しいと思っていたから。
 セルビオとこうして唇を重ねあう事は、これで二度目。一度目は俺を元の俺に戻す為にしたことだったけれど、今度は違う。
 今の俺は、あの時の俺ではない。誰もが知っている俺だ。
 俺が嫌だといえば、あの時と違い、止めてくれるだろう。でも、俺は今の俺にこういう事をして欲しいとずっと思っていたので、どういうかたちであろうと、してもらいたかった。それが俺の本望だ。
 「んん・・・・・ん・・・・・・」
 「可愛いですよウィル・・・・もっと、その愛らしいウィルを私に見せてください」
 「るせー・・・・んっ・・・・・・ん・・・・・」
 激しいわけでもない。でも、優しいキスでもなった。
 何度も何度も繰り返されるキス。
 短い時間にどれだけ繰り返したのか分からないほど、こいつは俺にキスをしてくれた。
 「・・・・ウィル、本当はもっと貴方とこうしていたかったのですが、今日はもう、おしまいにしましょう?」
 「え・・・・・?」
 こいつがしてくれるキスは、すごく気持ちがよかった。いつまでもこうしていて欲しかったのに、これからという時に、終わりを告げられた。
 「そんな顔をしないでください。せっかく、貴方の体の事を思い、止めたというのに、そんな顔をされますよ、歯止めが利かなくなってしまいます・・・」
 今の俺がどんな顔をしているのか自分では分からない。分からないけれど、きっと俺の顔はもっとして欲しいと言う顔をしているのではないだろうか。
 実際、もっとして欲しかった。
 いつまでも、いつまでも、セルビオに何かをして欲しかった。貰いたかった。
 「やだ・・・・・別に俺はどうなってもいい・・・歯止めが効かないなら効かなくていいじゃねーかよ・・・・だから・・・してくれよセルビオ・・・・」
 「ウィル・・・貴方って言う方は・・・・本当にいいのですか?止めるのでしたら、今のうちですよ?」
 確認された所で気持ちは変わらなかった。
 俺は、セルビオになら、どんな事をされても構わないと思っている。
 勉強だけは嫌だし、嫌いだから、止めて欲しいと願いたいけど、それ以外のことなら、何をされてもいいと思っている。
 「本当にどうなっても知りませんからね・・・・なるべく、貴方に負担を掛けないよう努力するつもりですが、何故か今の素直で愛らしい貴方を逃がしてしまったら、一生、私は何もできない気がします。ですので、遠慮はいたしませんから、覚悟してくださいウィル」
 ずっとセルビオは我慢していたのだろう。
 こいつは何を俺に求め、何をしたいのか、俺には分からない。でも、それでいいと思う。
 俺だって、溢れる気持ちは止められない。セルビオが好きだという気持ちに気づいた時から、この気持ちは止められなかった。
 今まで俺は、この溢れ出す気持ちを悟られないよう、今まで隠していた。でも、それももう限界だった。
 「明日、熱を出されても、私は知りませんからね・・・・・・」
 「いいよ・・・・・それでも・・・・・」
 全て覚悟の上だった。
 明日がどんな日か分かっている。いくら明日が体調が良くても、明日の式典を一日通して出席する事は、どの道できない。
 明日の式典に出席する貴族たちに挨拶するぐらいしかできないのであれば、母には悪いけれど、こんな状態の俺が出ても出なくても一緒だろうと思った。
 「んん・・・・ん・・・・・・・はぁ・・・・・んん・・・・・」
 今までしてくれたキスの感じと何処か違った。
 優しい感じはするけれど、激しかった。
 キスだけで頭の中が痺れた。
 もう一人の俺もこんな事をされていたのだろうかと思い、少し嫉妬した。でも、もう一人の俺は、セルビオにこうされることを酷く嫌っていた。
 まるで、昔の俺の様だ。昔の俺なら、きっと嫌だったと思う。そう思うと、どこか、もう一人の俺は可愛そうに思えた。
 「何を考えているのですかウィル?考え事をする暇があるのでしたら、こっちに集中しなさい・・・」
 「ん・・・・んん・・・ん・・・あっ・・・・はぁ・・・・・んん・・・・・」
 「そうです・・・・もっと、集中しなさい・・・・・」
 考える暇を与えさせてもらえなった。
 別に考えていたわけではないのだけど、もう一人の俺の事を思っていたのは確かだった。
 もう一人の俺は今一体どうしているのだろうか。存在は微かに感じる事はできるのだけど、俺の中にいるはずなのに、どうしてか、手の届かない、とても深い場所にいる。
 一度でいいから、もう一人の俺と話をする事ができないのだろうかと思っていたりする。
でも、向こうは俺と話す事を拒否していた。
 何度呼びかけても向こうは応じてくれなかった。
 いつでもいい、いつか俺の呼びかけに応じて欲しいと思う。そして、色々話したいと思っている。
 「・・・・ん・・・・・あ・・・やっ・・な・・・・・なに?」
 「・・・・何をまた考えているのですか?私に集中しなさいと今さっき私は言いましたよね?もっとしてと私に言ってきたのはウィルですよ。それなのに・・・ですから、そんな貴方にお仕置きです」
 「やっ・・・・あ・・・・・んん・・・・あ・・・・」
 お仕置きと称され、セルビオはズボンの中に手を入れ、俺の大事な部分を触ってきた。
 「ああ・・・・やだ・・・・・ん・・・・・あっ・・・・・・」
 「何が嫌なのですか?貴方のここは、そんな事を言っていませんよ。もっと私に触って欲しいといって、貴方のここから、次々ととても甘そうな蜜が溢れ出ていますよ。見てみますか?」
 その事を言われた瞬間、顔が真っ赤になった。恥ずかしかった。
 どうしてこいつは、こんな恥ずかしい事を、顔色を変えず、こんなにも楽しそうに言うのだろう。俺はこいつの事が好きだけど、こういう事を平気で言おうとするこいつが少し嫌いだった。でも、こいつのことが好きだ。大好きだ。
 「や・・・・あ・・・・・・ん・・・・・・」
 「こんなに蜜を垂らして・・・・いやらしいですねウィルは・・・・もっと、ウィルの愛らしいここと愛撫して差し上げましょう」
 「いや・・・・あ・・・・・・ん・・・・・あ・・・・あっ・・・・」
 「どうしたのですかウィル。このいたらしい音が聞こえますか?」
クチュクチュという音が聞こえる。こいつはわざと俺にその音が聞こえるように触っている。手を上下に動かして、刺激を与えてくる。
「ん・・・あ・・・・あっ・・・・・や・・・・せる・・・びお・・・・・あっ」
 刺激を与えられる度、体中に甘い電流が走った。
 「ん?どうかしましたかウィル?」
 「もっと・・・・・もっと、触って・・・・」
 触って欲しかった。何処でもいいから、もっと俺を触って欲しかった。
 「おやおや、ずいぶん甘えたさんなのですねウィルは・・・・いいですよ。何処を触って欲しいですか?」
 「どこ・・・でもいい・・・・もっと触ってほしい・・・・セルビオに・・触って欲しい」
 「では、私が好きなように貴方を触ってのいいですか?どうなっても知りませんよ」
 最初、あんな所を触られたとき、驚いたけれど、俺をこんなふうに触る相手がセルビオだったからからなのか、何をされても別に嫌だと思わなかった。
 もし、俺を触ろうとする相手が、セルビオでなければ、きっと俺はこんなふうに触らせようとはしない。セルビオだからこそ、こんなふうに触らせることができた。
 「すいませんかウィル。私のひざの上にまたがって座ってくれませんか?なるべく貴方に負担を掛けたくないのです」
 「わ・・・・わかった・・・・これで・・・いいの?」
 何をどう、俺に負担を掛けたくないのか分からないけど、多分今よりずっとすごい事をされるのは間違いないかもしれない。
 もし、セルビオに何かをされても、さっきみたいに嫌がるかも知れないけど、それは決して嫌がっているわけではない。何故あんな事を俺は言ったのか知らないけど、勝手に口が開いてそう言っていた。
 「ウィル、私にこうやってしがみついていてくれませんか?そして、辛いかと思いますが、少しの間だけ、腰をこう、宙に浮かせて・・・・・そうです・・・いい子ですねウィルは・・・これだから、可愛がりというモノがあるのですよ・・・・・」
 首の後ろに手を回してしがみついているのはいいのだけど、膝をベッドの上に着けていると言っても、中腰でいるのが少し辛かった。でも、我慢する。
 今まで俺が味わってきた辛さを考えればこれぐらいたいした事はなかった。
 「しっかり、しがみついていてくださいね。何があってもこの手を話しては駄目ですよ。あと、少しの間下半身が寒いかも思うかも知れませんが、ウィルの頑張り次第で、すぐ温かくなると思いますので、それまで我慢してくださいね」
 どんな顔をしているのか分からないけど、こんな弾んだ声を聞いていれば大体は想像はつく。こいつは今、すごく嬉しそうな顔で、笑っているだろう。
 「セ・・・セルビオ・・・な・・・何を・・・・あっ!・・・ん・・・・んぁ・・・」
 急に下半身が、肌寒くなった。風がスースーと肌を通り抜けるような感じがする。まるでズボンを脱がされた感じだった。
 実際、俺はセルビオに穿いていたズボンを脱がされた。ズボンだけではなく、下着と供に脱がされた。
 そのことに気が付くまでそう時間は掛からなかった。下半身の全てをむき出しされた事で、感覚が研ぎ澄まされ、少し触られただけで、今まで以上に感じてしまった。
 「おや、ウィルのここ、今はまだ硬く閉じた蕾のようですが、とても綺麗な色をしていますね。きっと花を咲かせるとまるで薔薇のように美しいのでしょうね・・・・触ってもいいですか?触りますよ?」
 「ひゃ・・・・あ・・・・・ん・・・・・あっ・・・・」
 返事を待つことなく、こいつは触れてきた。それも前ではなく、後ろを触れてきた。割れ物を触るように優しく触れられた。でも、俺はそれだけで酷く感じてしまった。
 「さて、どういたしましょうか・・・・どうして欲しいですか。ここに薔薇で作られたローションがあるのですが・・・・」
 何処から出したのか、薔薇のローションらしきものが入っている透明の小瓶を俺に見せてきた。
 それを俺にどうしろとこいつは言うのだろう。
 「元々このローションはウィルの体に塗って、リラックスをして差し上げようと思って持っていたのですが、今の貴方を見ていますと、ただこれを貴方の体に塗るのではなく、もっと別の所に塗って差し上げたいと思ってしまったのですが・・・・いいですか?」
 聞かれても答えられなかった。言っている意味が分かっていなかったから、答えることができなかった。
 別にこいつに何をされても、俺はいいと思っていた。でも、少しだけ、怖いとも思っていた。でも、そんな事いえない。こんな嬉しそうな顔をしたセルビオと一緒にいると、そんな事言えなかった。
 「・・・・好きに・・・・しろ・・・・」
 「本当に私の好きにしていいのですか?引き返す事ができるのは今のうちですよ?」
 ここまでしておいて、いまさら引き返す事などできないとおもっているので、俺は首を横に振り、意思を示した。
 「分かりました。では私の好きにさせていただきますね・・・少し冷たいかもしれませんが、我慢してくださいね」
 「ひゃ・・・・・あ・・・・・・つめ・・・・たい・・・・・」
 体に塗るはずだった薔薇のローションが何故か、俺のお尻の上に掛けられた。
 一瞬冷たかった。でも、俺の体温ですぐにローションは温められ、冷たくなくなったけれど、生ぬるくなったローションが肌をすべり、気持ち悪かった。
 「これから貴方のここにある愛らしい蕾から、とても綺麗な花を咲かせて差し上げますねウィル・・・」
 「え・・・・・あっ・・・・ん・・・・・ああ・・・・や・・・・いた・・・い」
 セルビオはローションを馴染ませる為なのか、俺のお尻を何度か撫でまわし、そのまま滑るようにして、硬く閉じた蕾に花を咲かせるため、指一本蕾の中に入ってきた。
 硬く閉じた蕾の中に指を入れられたことで、とても鈍い痛みが体を貫いた。
 耐えられないほどの痛みではなかったけれど、痛かった。
 「あっ、痛かったですかウィル?申し訳ありません・・・ですが、我慢してください。良く慣らさないと、貴方を傷つける事になってしまうので、今は我慢願います」
 「だ・・・・だい・・・丈夫・・・・・つづ・・・けて・・・あっ・・・・」
 指を動かされ、蕾の内部を刺激される。でも、強い刺激ではなく、甘い刺激だった。
 少しずつ、自分が何をされているのか分かってきていた。
 男同士でこういう事をすると言う知識は多少あったけど、まさか自分がこんな事をするとは思ってもいなかった。でも、嫌じゃなかった。
 何故か、セルビオとこういう事をしていると、今まで以上にセルビオを近くにいるのだと感じられた。
 セルビオと一緒に旅をすることになった時と考えられないほど俺達の距離はずっと短くなった。もっと距離が縮まればいいと思った。でも、それを拒む俺が何処かにいた。でも、俺は負けなかった。嫌だったから。
 「んん・・・・・あっ・・・・・ん・・・・いい・・・もっと・・・・あっ・・・」
 「いいですよウィル・・・もっと、私を求めなさい・・・求めてください・・・」
 求めていた。俺はセルビオの事を求め、強くセルビオを抱きしめた。
 やがて、少し慣れた頃、指が一本から二本へと増やされた。指を増やされた事で、与えられる刺激が増した。
 「ウィル・・・手を離して下さい。そして、私にそのウィルの愛らしい顔を見せてくださいませんか?」
 「う・・・・うん・・・・・あっ・・・や・・・だめ・・・・・」
 今、指を動かされ内部を刺激されると、離せるモノも離せなかった.
 余計にギュッとセルビオに抱きついてしまった。
 「仕方がない子ですね・・・・それなら、こうするしかないじゃないですか・・・」
 そういうとセルビオは俺をベッドに押し倒した。
 「こうすると、手を離せますよね?さぁ、今のその貴方の顔を私に見せてくださいウィル・・・・・・」
 ずっと抱きしめていた手をゆっくりと離し、セルビオに顔を見せた。
 今の俺はどんな顔をしているのだろう。流石にこればかりは想像する事ができなかった。
 セルビオに顔を見せるのが恥ずかしかった。すごく恥ずかしいと思った。どうして、こんなに恥ずかしいと思うのだろう。今すぐ顔を隠したかったけど、隠させて貰えなった。
 「いいですよその顔・・・・すごくそそられます・・・絶対に今の貴方を誰にも見せさせられません。私だけにしてくださいねウィル・・・・・」
 まるで確かめてくるように聞いて、そのままキスされた。軽いキスだった。
 どんな顔をしているか分からないけど、こんな俺を見せるのは、こんな淫らな俺を見せるのは世界中探してもセルビオしかいないだろう。
 セルビオだからこそ、俺の全てを見せる事ができた。例えどんな俺であっても全てを見て欲しかった。
 「もう限界です・・・・貴方がほしい・・・・たとえ貴方を傷つけることになっても、貴方が欲しいです・・・・」
 「いいよ・・・・セルビオのしたいようにして・・・・・」
 セルビオになら、傷つけられても良かった。セルビオのしたいようにしてくれたらいいと思った。俺はそれを受け入れるだけだった。
 熱いモノが、蕾に押し当てられた。それがすぐに何か分かった。
 今からこれが、俺の中に入ろうとしていた。すごく大きかった。
 こんなモノが俺の中に入るのだろうと思ったけど、不思議と不安は無かった。
 早く来て欲しいと思った。セルビオの全てが欲しいと思った。たとえ体がどうなってもいいと思った。
 「分かりますかこれが・・・・ほんとにいいのですか」
 「うん・・・・いいから来て・・・・」
 受け入れる覚悟はあった。
 そして、俺はセルビオを受け入れた。ゆっくりと中に入ってくるのが分かった。
 裂けるような痛みがあったけれど、セルビオのモノだと思ったら、我慢する事できた。
 「くっ・・・・・ああ・・・・ん・・・・・・ああっ・・・・・・」
 「大丈夫ですか・・・・・・力を抜いてください・・・・そう・・・そうです・・・辛いのでしたら、私に抱きついても構いませんよ・・・・」
 「だい・・・・あっ・・・・・・ん・・・・・」
 どんどん奥に入ってくるのがわかる。すごくセルビオを感じる事ができて、俺は嬉しかった。
願っていたのかもしれない。ずっと、セルビオとこうする事ができる事をずっと。
 「・・・・ウィル・・・・入りましたよ・・・分かりますか?」
 「う・・・・うん・・・・・」
 今、セルビオと一つになった事が分かった。セルビオのことをすごく感じることができていた。
 「熱いですねウィルの中・・・・すごく熱いです・・・・」
 「俺も・・・熱い・・・・・すごく・・・熱い・・・・」
 熱いのは、俺が熱を出しているからではない。お互いの体温をより身近に感じているから熱かった。
 「ウィル、動いても大丈夫ですか?」
 「少し辛いけど・・・大丈夫・・・・動いて・・・そして、俺をメチャメチャにして」
 メチャメチャにして欲しかった。俺をメチャメチャして、俺だけではなく、もう一人の俺もセルビオの事を感じてもらいたかった。
 もう一人の俺が、少しでもセルビオの事を感じてくれたら、少しは変わってくれるのだろうか。俺は、どんな俺であっても受け入れる自信はある。後は、向こうが俺を受け入れてくれる事をただ、俺は待つだけだった。セルビオとこうして。
 「ああ・・・・ん・・・・・んぁ・・・・あっ!や・・・・・ん・・・・・」
 頭の中が真っ白になりそうだった。
 どんなに刺激を与えられても、俺は意識を失いたくない。失わずに、セルビオの事を感じていたいと思って、でも、無理だった。
 与えられる激しい刺激に俺は、意識を持っていかれそうになっていた。
 「んん・・・・や・・・・だめ・・・・・・セルビオ・・・・・」
 何かが湧き出そうだった。
 「イってもいいですよウィル・・・・私もそろそろ貴方の中が良すぎて、限界なので、一緒にいきましょう」
 「ひゃ・・・・・あっ・・・・・ん・・・・・あ・・・ああ・・・・・あああ!」
 白いものがビュッと勢い良く俺の中から解き放たれた。それと同時に、俺の中で熱いモノが注がれるのを感じた。
 「・・・・ありがとうウィル・・・とっても良かったですよ・・・・」
 「うん・・・・俺も・・・良かった・・・・はぁ・・・はぁ・・・・」
 息が切れ切れになって、話すのが辛かった。でも、スッごくすっきりした気分で、なんだか体が軽いような、腰の奥が痛いような変な感じがした。
 「少し、無理をさせてしまいましたね・・・後は、私が色々しておきますので、このままお休みなさい。心配しなくても、ちゃんといて差し上げますから・・・」
 「う・・・うん・・・・・ご・・・ごめん・・・」
  いつか俺は心の中で俺は、またセルビオとこうしたいと思いながら、ベッドの上で力尽きたかのように眠りについてしまい、後処理を全てセルビオに任せてしまった。


 翌日、俺は朝から何故かすごく体の調子が良かった。
 あんな事をした後だというのに、何故、こんなにも体調がいいのだろうと思った。
 俺は絶対に熱を出すとばかり思っていた。それはセルビオも思っていたらしい。
 父も母も、そして兄や三人も、式典の前に俺の様子を見に来てくれた。そして、調子良さそうな俺の姿をみて、すごく驚いていた。
 何が俺の身に起こったのだろうという顔をしていた。
 体調がいいのであれば、暫く様子を見て、大丈夫のようであれば式典に顔だけでも出すようにと言われた。ただし、いくら大丈夫だからといって無理をするなと言われ、釘を刺された。
 体調はとりあえず大丈夫そうなので、式典には顔を出す事にした。
 式典に出ることになった俺は、一応人前に出ることになるので、正装するため、仕える女中たちにあれこれ着せられる事となった。
 セルビオも爵位はあるので、この式典に出席することができる。
 グレーの燕尾服に身を包んだセルビオの姿は、まさにかっこいいとしか言えなかった。
 それに加え俺は、真っ白の軍服。軍服は王族が式典などに着る正装。人によってデザインや色が異なるよう作られているけど、何故か俺のは白だった。ちなみに白という色は母が選んだというが、何故白なのだろう。
 父は金色、そして兄は銀色の軍服だというのに、俺は白だった。
 「良く似合っていますよウィル。すっごく可愛いです」
 「可愛いって言うな・・・・」
 可愛いといわれ俺は照れていた。
 「そういうところも可愛いですね・・・・本当に可愛いです」
 「るせ・・・・・」
 「さぁ、行きましょうか。皆さん、きっとウィルが来る事を待っていらっしゃりますよ」
 まだ一人では歩く事ができない俺は、セルビオにエスコートしてもらい、式典が行われる、城の中に造られている祭殿の間に行った。
 式典はとっくに始まっていた。
 普段あまり見ることのない、ユーイの神官服姿。ユーイはこの城に仕えている神官の中でも位は上だったはずだ。
 ユーイは相変わらず、忙しそうだった。
 この式典に必要とする物は、下っ端の神官達が司祭様の元に持っていたりしている。位の高い神官であるユーイはこの式典を仕切る司祭さまの右腕としているため、しなければならない事が多くあり、忙しそうにしていた。
 「・・・・大丈夫ですかウィル?しんどくはないですか?」
 「うん、大丈夫」
 式典中、本当はずっと立っていなければならないという決まりがこの国にはある。しかし俺はこんな状態なので、特別に椅子を用意されていて、椅子に座って今回この式典を参加することが許されている。
 何故、この国に、こんな決まりごとがあるのかは知らない。いつの間にかそうなっていて、それが当たり前だった。
 基本、どの国も式典などは立って参加するものだというけれど、ずっと式典の最中に立っていなければならないという決まりはないらしい。
 母が前に言っていたような気がする。だけかもしれない。
 まぁ、国によって決まりごとは様々なので、どうでも良かった。
 「かあさま・・・綺麗だね・・・・」
 今日の主役は母。この日の為に作られた特別なピンク色の豪華なドレスを着飾り、今母は祭司さまから、特別な言葉を頂戴している。
 これがまた長いったら、ありゃしない。
 司祭さまの言葉と頂戴したら、今度はこの式典に来てくれている貴族達からの祝いの言葉を頂戴し、最後に、国民の前に姿を出す事になっている。
 この一連が終われば、パーティーが城内で夜明けまで開かれる事になっている。
 主役の母は、パーティーの参加はしなければならないけど、ずっといなければならないわけでもない。始まりと終わりの挨拶はしなければならないけれど、それ以外は自由だった。
 それから、暫くして、式典は終わった。
 しかし俺は、式典の途中で俺は、気分が少し悪くなり、最後まで居る事は出来なかった。
 少し悔しかった。ずっといることができないと分かっていても、最後までいて、母を見ていたかった。
 俺は、セルビオに連れられ、部屋に戻った。そして、後のこともあるので、少しだけ眠る事にした。
 俺が眠って暫くした後、母は俺の事を心配してなのか、トーイに頼んで、部屋に来てくれたみたいだけど、当然俺はそんなこと知らない。
 
 
 母の誕生式典から、一週間が経った。
 どういうことなのかは知らないけれど、この一週間俺は一度も体調を崩すような事はなかった。
 体調を崩すどころか、日を増すごとに体調は良くなり、今や全快と言っていいほど体は回復していた。
 もう一週間大事をとって、部屋で大人しくしているようにと全員に言われ、大人しくしたが、それも三日が限界だった。
 体が軽い。今までのことが嘘のように軽く、ジッとしている事が出来なかった。
 何処か行きたかった。体を動かしたくてたまらなかった。
 ずっと部屋で寝ているのはもう嫌だった。
 体が思うように動くようになったのに、どうしていつまでも部屋で大人しく寝ていなければならないのだろうと思う。
 セルビオは寝ているのがそれほど嫌なら、勉強でもしたらという。
 俺は勉強が嫌いだ。勉強よりも外で動き回りたかった。
 城から出ることは許されないけれど、城の中は自由に歩きまわる事は許されていた。
 いっそうの事、魔法を使って城を抜け出そうかとも思ったけれど、魔法は使いたくなかった。
 魔法を使ってしまうと、もう一人の俺が出るのではないかと思い、怖くて魔法を使えなかった。使おうとも思わなかった。
 魔法を使わなくても、城を抜け出す方法はあるにはあるけど、多分無理だ。
 城の中には多くの兵士達が見張っていた。
 俺の部屋の周りだけは、兵士は近寄る事ができないようにされているけど、そんなときに限って、誰かが俺の部屋にいて、俺が城を抜け出さないように見張っているような感じだった。
 一度でも前科があると、こうなるのだと思い知らされた。
 城を抜け出す事はあきらめた。だから、余計暇だった。
 暇で暇でたまらなかった。暇だったから、弟のウィリィとも遊んだ。遊んであげた。
 今までゆっくり遊んであげる事が出来なかったから、いっぱい遊んであげた。
 ウィリィはすごく嬉しそうだったし、楽しそうだった。
 そんな弟と一緒に居る事がすごく俺は楽しかった。
 初めからこうすればよかったと思い、後悔した。
 暇だと思っていた残りの時間は、すべて弟につぎ込んだ。
 弟と遊ぶことに誰も文句は言ってこなかった。
 何時もなら、誰かが言ってくるはずなのに、誰も文句は言わなかった。
 変な感じだったけど、弟と遊ぶ事できるのであれば、これはこれでいいと思った。
 でも、こんな幸せ日は長く続かなかった。
 何を考えているのか、また母が姿を消した。
 まるで俺の回復を待っていてくれたかのように母は何処かに姿を消した。
 父から呼び出しを受けた。母がこの国に居ない事が分かったからだ。
 「・・・・・どうしたものか・・・・」
 父は頭を抱えていた。
 いつもの父なら、ここで俺に旅に出るように言ってくるのだけど、母が姿を消したと言う事だけ教えられただけで、それ以上の事は何も言おうとしなかった。
 父が何も言わないのは、俺の体を心配していたからだった。
 かといって、姿を消した母を父はほっておくこともできなかった。
 「どうしますかお父様・・・・今回ばかりは、兵士を出しますか?」
 「そうじゃな・・・・そうするしかないかの・・・・」
 兄も俺に話を振ろうとしなかった。
 母の捜索に兵士を出すわけにはいかない。でも、俺を旅させることができないと二人はきっと思っているのだろう。
 せっかく体が治ったばかりだというのに、病み上がりの俺を旅させられるはずがないと思っているのだろう。
 「そうするしかありませんね。ウィルに旅をさせられません。そうですよねお父様?」
 「仕方がないが、今のウィルに旅をさせる事はできん・・・嫌じゃが、兵を出すしかないのう・・・・」
 話は勝手に進められていた。
 どうしても二人は、俺に旅をさせないつもりだった。
 嫌だった。
 いなくなった母を捜すのは俺の役目だった。
 たとえ城の兵士であろうと、俺は他の奴に母を見つけさせにいきたくなった。俺の楽しみを奪って欲しくなかった。
 だから俺は言った。
 「待ってくださいとうさま、にいさま!」
 「何を待てと言うのじゃ?」
 「言ってみなさいウィル」
 「俺に行かせてください!」
 行きたかった。
 母を捜しに行きたかった。
 「ウィル、私達の話を聞いていましたか?」
 「聞いていました。ですが、嫌です。かあさまを探しに行くのは俺の役目です。だから、俺に行かせてください!」
 「駄目じゃ!分かっておるのかウィル。お前はついこの間まで、床に伏せっていたんじゃぞ?そんなお前に旅をさせられるわけがないじゃろ」
 「体ならもう大丈夫です!だから行かせてください!」
 「大丈夫って・・・ウィル、本当に自分が言っている事分かっているのですか?第一貴方は・・・・・いえ、何でもありません。ですか、駄目です。分かってくださいウィル」
 「分かりません!」
 俺の意思は変わらなかった。
 「・・・・・・・分かりました。そこまで言うのでしたら、許可をいたしましょう。ですか、約束してください。絶対に無理しないと・・・ゆっくりで構いません。ですか、次はないと思ってくださいね?」
 「はい、にいさま!」
 こんなにあっさり引いてくれると思わなかった。
 「本当に、分かっていますかウィル」
 「大丈夫です!旅の許可を下さりありがとうございますにいさま、そしてとうさま!」
 父の顔は既にあきらめた顔をしていた。
 一度言ったことは曲げない。絶対に引かない。その事を父はよく分かっていたからだ。
 最初から父も兄も、俺がこう言うのではないかと分かっていたのだろう。でも、俺の体の事もあったので、あんな事を言った事も俺は分かっていた。
 「行きなさいウィル。今回は特別に、旅に同行する者を誰を選んでももう、私達は何も言いません」
 「その事なのですか、もう決めています。いつもの三人と、セルビオに頼む予定です。いいですよね?」
 セルビオも三人も何故かこの場にいない。
 いないのは、何も旅のことが決まっていないから。
 もし、俺が旅に行くことができなくて、兵士に母の捜索を頼むことにしたら、この場にマイルを呼ばなければならない。多分マイルが兵士を指揮する事になるだろうし、たとえ俺が母を捜しに行くための旅に行くことになったとしても、三人を連れて行くのか分からないから、決定するまで、呼ばない事にしていた。
 結局俺は三人を旅に連れて行くことにした。そしてセルビオも一緒に行ってもらうと思っていた。
 そして、俺は頼んだ。
 三人に、そしてセルビオに。
 皆、この旅に一緒に行くことに同意してくれた。
 皆して体の事を酷く心配されたけど、俺が決めた事だからと、あきらめてくれた。
 そして、俺達は旅に出る事になった。
 今回は急ぎではないので、ゆっくり旅の支度をしてから、行くことになった。

 「王子・・・・また、入れ忘れていますよ?」
 「王子って言うなって言ってるだろマイル・・・・ほんっと・・・・」
 収納袋に旅に必要なモノを次々と詰め込む俺。でも、お決まりのように、必要なものを入れ忘れる。
 「ウィルウィア王子、後で、町に行く予定なのですが、何か買われる物はありますか?」
 「・・・・・・・ウィルウィアって言うな!そして王子もつけるなって言ってるだろトーレス!」
 お決まりの言葉が飛びまくる。
 やっぱり、こういう会話があるのは楽しい。
 「その辺にいたしなさいウィル。皆さん、せっかく貴方の準備を手伝ってくださっているのに、そんな言い方はないのでは?」
 「余計なお世話だセルビオ・・・・あっ、ユーイ、それいらねー・・・・」
 旅の準備って大変だったのかと思いながら、用意するのだけど、結局後々、いらないものばかりだったという落ちかもしれない。
 俺はここにいる皆が必要だ。
 誰が欠けても、駄目だ。
 前回の旅で、三人がいない事を、ことごとく思い知った。
 一番思い知らされたのは、俺が倒れた時だ。
 初めてセルビオの前に倒れた時、ユーイが作った薬があったから良かったけど、やっぱり、いてくれたほうが良かったのではないかと思う。
 今回の旅の事を三人に言いに行く前に、セルビオに言いに行った時、セルビオも俺には三人が必要だと言ってくれた。全ての意味で。
 俺は三人も必要だけど、セルビオの必要だった。
 セルビオとあんな事があったのは一度きりだったけど、今だってあんな事をしたいと思ってはいるけど、言えない俺が何処かにいた。
 でも、今のままでもいいとも思っている。
 俺はセルビオが好きだ。俺がセルビオに思うこの好きという気持ちは、兄弟や親に対する気持ちの好きや、三人に対する好きという気持ちとは何処か違うと知ったから。
 その気持ちだけで、今はいいと思っている。ずっとこうして一緒いることができればいいと俺は思っているからだ。
 「準備は終わりましたか?そろそろ出発いたしませんかウィル。行きたい所を行きながら王妃様を探されるのでしょ?」
 「あ・・・うん。三人も、大丈夫?」
 「「「もちろんです」」」
 三人はハモった。
 「じゃあ、行こうぜ!」
 準備は万全。
 たとえ何かを入れ忘れても、誰かが持っているだろうし、買えば済むことなので、最終確認はする事ないと思った。
 今回の旅は、期限はない。だからゆっくり旅をする事に決めたけど、港までは、馬車に送ってもらう事にした。
 「では、気をつけて行くのですよ。無理しては駄目ですよウィル。皆さん、どうかウィルの事をお願いいたします」
 父と兄、そして弟のウィリィに見送られ、俺達五人は、はた迷惑な母を捜しに行くための旅に出る事となった。
「それでは言ってまいりますにいさま、とうさま!」
 当てもない、いつまで掛かるか分からない旅に。
 でも、焦らない。ゆっくりと旅を楽しむ事となった。
 
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