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新婚旅行は海辺の街へ
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しおりを挟む視察ですること。
魔物に関する情報収集。頻度とか種類とか。
街の状況の観察。働いている人たちの様子とか、仕事の内容とか。
領地運営に関して。領地の防衛関連、納める税関連の明らかな不正、未届けの事案の有無。
とか。
らしい。
俺がどうにかできるのは、一つ目の魔物関連の話し合いに参加することくらい。他のことは、クリスにくっついてるだけ。何もできん。
ニノンさんの案内でお屋敷の中を移動する。
一旦部屋に落ち着いたら、改めて領主さんなゼバルト伯爵との話し合いになるそうだ。
俺とクリスの後ろには、安定の護衛コンビ。兵舎の方は他の面々に任せたらしい。そして、護衛コンビの後ろには、伯爵家の私兵?さんの護衛さんが二人。
……オットーさんとザイルさんがいるから他の護衛の人とかいらないんだけど…って思ってしまう俺は、それなりに人間不信らしい。知り合ってしまえばいいんだろうけど。知らない人を信用するのは無理。
「こちらです」
ニノンさんは自分で部屋の扉を開けた。
促されてクリスに腰を抱かれながら部屋に入る。
陽がよく入る部屋でとても明るい。
そして広い。
大きな天蓋付きのベッドと、ソファとテーブルの応接セットにクローゼット。
「侍女は二名で足りますでしょうか」
「必要ない」
クリスの即答にニノンさんは瞬間言葉をなくしていたけれど、すぐに笑顔になって「畏まりました」と応えていた。
「あちらが浴室などになります。もし不足しているものがあれば、ベルでお呼びください。すぐに対応できるよう、侍女長に言付けておきますので」
「ああ」
ニノンさんは、どちらかというとおとなしめ…のご令嬢さんなのかな。いや、普通なんだろうか。基準が……どうにもわからん。
必要なものはクリスポーチに全部入ってて、荷物の片付けもいらないんだよねぇと思いつつ室内を見ていたら、視線が気になってニノンさんを見てしまった。
そしたら、ニノンさんはどことなく心配げな瞳で俺を見ていて。
「…あの?」
「あ………失礼致しました。…あの、王子妃様とお呼びしてよろしいでしょうか?それともご伴侶様の方が…?」
「あー……」
いっつも『アキラさん』って呼ばれてるから気にもしなかった。
「それとも、奥方様か、お嫁様…?」
「へ」
「奥方がいいな」
ニヤリと笑ったクリス。
「ええ、承知いたしました。奥方様とお呼びいたしますね」
「え゛」
「すぐに屋敷の者には周知いたしますので。…このあとのお話し合いのときには、奥方様はこちらでお茶などにされますか?」
「いやいやいや」
「問題ない。アキも連れて行く」
「はい。…ふふ。奥方様、とても殿下に愛されていらっしゃるんですね」
「ええええっとぉぉ」
「アキは放って置くとどんどん先に進んでしまうからな」
「あら」
あらあらうふふ。
じゃ、ないんですけど!
奥方様、って!!それ、大体女の人の呼び名!マダムっぽいから!!
……っていう俺の内心の焦りと羞恥とツッコミは、結局口に出すこともできないまま、屋敷内の人たちが俺のことを『奥方様』と呼ぶことが決定したらしい。勘弁してほしいのだけど。
一応羽織っていた上着だけクローゼットにしまった。
マシロは一旦肩から降りたけど、またすぐに肩に戻ってきて置物のようにぴくりともしない。大丈夫かな。疲れるよね。
俺たちの準備が整ってから、ニノンさんに改めて話し合いをする部屋に案内してもらう。
部屋の前にはさっきついていた私兵さんが二人立った。
お屋敷の中は見た目通り広い。
俺一人で移動したら迷子になるやつ。そして多分面倒事に巻き込まれるやつ。間違いない。
思わずクリスにしがみついたら、優しい目で「ん?」って問われた。だから、首を横に振って「なんでもない」って伝える。絶対クリスから離れないようにしよう。
お城もそうだけど、なんでこう、どこを見ても同じような物を置くのだろう。絶対迷子になるじゃん…。
そんな俺のハラハラした内心とは関係なく、目指す部屋に到着したらしい。
ニノンさんがノックをして、そこにもいた私兵さんが扉を開けてくれる。
ニノンさんはまた少し心配げな瞳を俺に向けてきたけれど、すぐにカーテシーをした。
室内はそれなりの広さで、ゼバルト伯爵さんと、長男のフランツさんがいた。
二人はすぐに立ち上がり、改めてクリスに頭を下げる。
それに対してクリスは目礼で応えて、「こちらに」と示された自分の隣の椅子を引いて俺を先に座らせた。
オットーさんとザイルさんも入室して、クリスの後ろに控えている。
クリスが椅子に座る直前、やっぱり視線を感じて顔をあげると、ニコニコと笑うフランツさんと目が合った。
なんだろうなぁ…この居心地の悪さ。
ニノンさんといい、フランツさんといい、滅茶苦茶笑顔なのに凄く気になって仕方ない。
これってもしかして、虫の知らせとか言うやつなのかなぁと思っているうちに、話し合いが始まった。
………せめて、少しでも理解できるよう、真面目に聞き手に回ろう。そうしよう。
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