魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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新婚旅行は海辺の街へ

1 初めての公務……なんて聞いてません!

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 いくつかの町や村を経由して、目についた魔物を倒しつつ、別荘を出発してから五日目の昼過ぎ、俺たちは海辺の街『リシャル』に到着した。
 馬車の窓を開けると潮の香りがしてきて、自然と気分が高揚していく。
 海、海だよ。海なんて何年ぶりだろう。インドア派なゲーマーな俺が、友達と海に遊びに行くとか、そんなイベントもなかったし、家族で遊びに行った記憶も………、幼少の頃だったはずでほとんど残ってない。
 海に面した町並みは、王都や今まで見てきた町とも違った。
 建物が白っぽいし、道幅が広い。露店とかもあるけど、道路に溢れかえるって感じではなかった。

「クリス、海!海に行きたい!」
「わかったから。でもまずは領主に会うからな?」
「うんうん!」

 リシャルがあるのはゼバルト伯爵領。領主のゼバルト伯爵は、現当主がドメニコさんってことまでは教えてもらった。ドメニコ・ゼバルト伯爵。結婚式にも夜会にも来てなかった貴族の人。
 馬車の窓から外を眺めていたら、少し開けたところにでかいお屋敷が建っていた。それを囲む塀が延々と続いてる。……ほんとでかい。
 馬車が近づくとすんなり門が開いたようで、止まることなく敷地内に入った。

「アキ、おいで」
「うん」

 窓を閉めてクリスの傍に座り直した。
 新婚旅行だけど、視察もあるわけで、視察は完全なお仕事、だ。

「クリスの仕事だもんね…。邪魔しないようにしなきゃ」

 って居住まいを正していたら、俺の腰に手を回したクリスが笑い始めた。

「なに」
「確かに俺の仕事ではあるんだけどな」
「うん?」
「お前も関係あるんだからな?」
「なんで?」
「お前の立場は?」
「俺の立場、って……」

 クリス隊の魔法要員。現在俺含めて二名、ってことじゃないの?服だって制服なんだけど。

 ……って首を傾げながら言ったら、とってもいい笑顔で、「俺の伴侶だろ?」って言われた。
 くすくす笑うクリスに、妙に恥ずかしさがこみ上げてくる。

「あと、忘れているようだが、俺の伴侶ということは、お前はもう王族の一員だ。少なくても、俺が臣籍に下るまでは、な」
「は」
「俺はここに王族の一員として、この国の王子として視察に来ている。……ということは、アキ、お前も、団員である前に俺の伴侶として、王族として視察に同行してるってことを忘れるなよ?」
「そ、そんなこと、今急に言われても……!」

 俺、王族としての勉強、何一つやってませんけど!
 あわあわしてたら、落ち着けといわんばかりに、口を塞がれた。腰を引き寄せられて、食べるように唇を動かされて舌を入れられる。
 とろりとした甘い唾液を飲み込む頃には、俺の頭の中はクリスのことだけでいっぱいになった。

「俺の傍を離れるな。それだけでいい。何か気になったことがあったら、二人になったときに聞くから」
「……ん」
「何があっても何が起きても、俺の手を離すな。……わかったな?」
「……うん、わかった…ぁ」

 キスでとろとろにされて、焦りとか全部忘れた。
 クリスの傍にいるだけ。
 それなら、いつもしてることだから。




 到着したのか馬車が止まった。
 外から扉が開いて、クリスが先に降りる。
 それから、手を差し出されたので、その手を取って俺も降りた。
 マシロは絶妙なバランスで、俺の左肩に座ってる。えらい。

 お屋敷の玄関前は壮観だった。
 多分、執事さんとか侍女の人たちとか、勢ぞろいで花道を作ってて、みんな頭を下げている。
 それから、見た目四十代くらいのしゅっとしたおじさんと、おじさんに似た少し若い青年と、ドレスを着た女性が二人、クリスを見てから深々と頭を下げていた。

「殿下、この度は我が領にお越しいただき――――」
「堅苦しい挨拶はいい、ドメニコ・ゼバルト伯爵」

 クリスが遮ると、しゅっとしたおじさん――――ゼバルト伯爵が頭を上げた。

「暫く世話になる。アキ、この領地を治めているドメニコ・ゼバルト伯爵だ」
「アキラです。よろしくお願いします」
「殿下のご伴侶様ですね。ドメニコ・ゼバルトと申します。ご滞在中ご不便がないよう尽くさせていただきますので」

 クリスの左手が常に俺の腰に回ってた。……手を離すな、と言われたけど、手を掴めない。うむ。
 ゼバルト伯爵はそのあと家族を紹介してくれた。
 奥さんのマリエルさん、長男のフランツさんは二十二歳、長女のニノンさん二十歳だそう。
 伯爵は日焼けした健康そうな人だ。
 多分細マッチョな感じではなかろうか。完全な俺の偏見だけど、「海の男!」って感じの人。
 挨拶してる間に馬車は所定位置に移動してた。
 クリス隊のみんなには、兵舎が割り当てられているらしい。
 うん。屋敷内に部屋を用意したリアさんがやっぱり規格外だったんだな。

「お部屋には私がご案内いたします」

 ニノンさんはニコニコと俺たちを案内してくれた。
 ……令嬢、かぁ。
 変な視線とかは感じないけど、この人はどんなタイプの人なんだろう。
 ……クリスのこと、気に入られたら、やだ、な。


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