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番外編
運命はすぐ傍に①
しおりを挟む物心がついたときから、私の傍には、常に緑と紫の宝石があった。その宝石は慈しむように私を見て、嬉しそうに細くなる。
自分はこの国の王子なのだと、幼心に自覚した。そして、自分たちの母様のことを知っている人は、王宮の中には家族以外では一人しかいなかった。それを不思議とは思わなかった。何故か「そうなのだ」と納得した。
緑と紫の宝石の持ち主は私の二つ上の兄だった。髪は父上譲りの金髪。対して私は、母様の色をどこにも受け継ぐことのない、父上譲りの空色の瞳に、母上譲りの銀髪だ。
私の瞳にも母様の色が欲しかった。
「どうして私には母様のお色がないのでしょうか…」
幼かった私はベッドに座る母様に抱きつきながら、涙ながらに訴えた。
傍らにいる兄上も、心配そうに私のことを見ていた。
母様は泣きじゃくる私を抱きしめて、優しく背中をなでてくれた。
「多分ね、イサークのときには、レイとアベルが――――父上と母上が、ぼくにとてもたくさんの魔力を注いでくれたからかな。それから、愛情も」
「魔力……愛情……」
「うん。魔力がたくさんないと子供を授かることができないから」
「………かあさま」
「ん?」
突然、兄上が悲しげに母様に抱きついた。
「では僕は……、愛されてなかったのでしょうか……?」
「あー……」
緑と紫の宝石からポロポロ涙がこぼれ落ちる。その姿に私の涙は止まったけれど、今度は胸を握りつぶされたような痛みを感じた。
「エリー、違うよ。エリーだってたくさん愛されて生まれてきたんだよ。ただ、ちょっとだけ、二人の魔力よりぼくの魔力が多かったんだ。ぼくはね、ぼくの色も持って生まれてきてくれたエリー……エリアスのことも、ぼくが大好きな二人の色で生まれてきてくれたイサークのことも、同じように愛しているよ」
「かあさま」
「母様」
兄上と二人で母様に抱きついて、兄上の顔がもう涙で濡れていないのを見て、胸の痛みがひいていった。
あのあとは、部屋に来た父上と母上に部屋を追い出されたんだったな。
私が十歳になったとき、精通した。その頃には既に兄上の背を超えていて、体格もしっかりしていた。
十二歳の兄上は華奢で、並んでいると私が兄に間違われることも多かった。けれど兄上は嫌がることも、私を遠ざけることもなかった。私が好きな笑顔で、いつも私の傍にいてくれた。
兄上は次の春の季節に学院に入る。それがどうしても寂しい。
冬の季節のある日、私と兄上は父上から夜に部屋に呼ばれた。
夜に部屋に呼ばれたことはない。父上も母上も、夜に私達が訪れることを緊急でない限り禁じていた。
何があったのだろう…と部屋を訪れると、父上は母様の部屋に私達を導いた。
母様の部屋は特殊な魔法で守られている。音も光も漏れず、許可された者でなければ入ることもできない。……そして、母様が出ることもできない。
その部屋の中で、母様は薄衣の夜着を身に着け、母上に後ろから抱きしめられていた。
「……ほんとにするの……?」
「イサークも精通した。……恐らくエリアスは花籠持ちだ。二人に閨指導をする必要性は話しただろ?」
「だからって……」
「花籠持ちの可能性のある子に実践での閨指導は難しいけど、自分の体がどうなるかはちゃんと知っておかないと、学院で変な輩に目をつけられちゃうんだよ?」
「ううう」
「セレスは子どもたちの方は見ないで。僕たちのことだけ見てたらいいよ」
「エリアスとイサークも必要以上に声を出すな。いいな?」
「はい」
「………はい…?」
……ああ、私が大人の体に近づいたから必要になった閨指導、ってことか。けれど兄上はまだわからないようで、首をコテンとかしげた。
それから、私達は両親たちの睦み合いをじっくり見せられた。
母様の下腹部に微かに色づいているのは花籠。子供を孕むための器官である揺籠がある証。
兄上は私の手をギュッと握っていた。多分無意識なのだろうけど、私はとても嬉しくなった。
室内には甘い花の香が満ちた。父上がそれが母様の愛液の匂いだと教えてくれた。
もう母様は私達が見ていることを忘れているようで、父上と母上に交互に攻められて甘く啼いている。
ちらりと見下ろした兄上の股間部分が少し膨らんでいるのを見て、私の心臓がドクリと鳴った。私の股間にもどんどん熱が溜まっていく。
何度目かわからない魔力を注がれた母様が、悲鳴のような嬌声をあげて意識を飛ばした。
兄上の喉が鳴る。
「……ああ、咲いたか」
父上の嬉しそうな声。
母上も目を細めて母様の下腹部を撫でていた。
「花籠持ちの子は繊細な子が多い。……エリアス、お前は特に母様に似てるから、心から愛した者以外に触れさせてはだめだ。お前の中で眠っている揺籠が壊れてしまうからね?」
「………は、い……」
「イサーク、お前は僕達によく似てる。……好きになった子に対して一途だろうね。後悔しないように行きなさい。僕達はイサークが決めた相手に反対するつもりはないからね?それが、どれほど近い相手でも」
にこりと笑った母上だけれど、視線だけはとても鋭かった。
……私の想いなど、とうに父上と母上には気づかれていたらしい。
意識をなくしたままの母様を見せられた。
花籠持ちの体の特殊性、前立腺の位置、揺籠の口のある場所。
……母様、ごめんなさい。意識をなくしてる間にいろいろな場所を見せてもらいました。明日、私達に会ったときに、恥ずかしがらないでくださいね。
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