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愛しい人を手に入れたい二人の話
そして思い描いた幸福な未来へ
しおりを挟む◆side:レイナルド
長男のエリアスが誕生してから二年目。次男のイサークが生まれた。
俺達が守る天使が増えたのだ。
そして幸福な日々を過ごしていたとき、王妃――――俺の母が亡くなった。
死の間際、セレスとアベルの了承を貰い、エリアスとイサークを母の部屋に連れ出した。
部屋の中から俺と子供たちだけを残すと、それまで一切俺を見なかった瞳が、俺をはっきりと捉え、手を伸ばしてきた。
その手は枯れ枝のようにやせ細り、僅かな力さえもない。
王族と貴族の食い物にされ、辱められ、心を壊した俺の母。
エリアスはその手を怖がることなく、大人しく頭を撫でられていた。イサークは俺と同じ空色の瞳で、細い指をじっと見つめている。
「レイナルド」
「はい」
「……お前は、間違えるんじゃない」
「……母上」
心が壊れ、まともに話したこともない母。
その母が、じっと俺を見据え、薄い唇を動かしながら王族が母にした仕打ちを全て語った。
…それは、かなり酷い内容だった。婚姻式で全裸を求められたアベルよりも、尚酷い扱いだ。
「私が弱いばかりに」
「母上」
「レイナルド、ちゃんと守りなさい。貴方の最愛を悲しませないように。この子たちの未来を守るために」
母の指が、エリアスの右目――――セレス譲りの緑色の瞳の方を優しく撫でた。
その仕草に、母が全てを知っているのだと気づいた。
「母上」
「ありがとう、レイナルド。二人を連れてきてくれて。…よかった。本当なら、あと二人に、会いたかったけれど」
あと二人。
アベルと、セレス。
「…この部屋には子供たちしか連れてこれず」
「ああ、わかってるよ、レイナルド」
母は力無く笑い、手を下ろした。
「……話ができてよかった」
「…はい」
「幸せに、なるんだよ」
「……はい」
エリアスが手を伸ばし、母の手を取った。
イサークも俺の腕の中から手を伸ばす。
「……ああ、なんていい子たちなんだろう」
母の目尻から一筋の涙が流れ落ち、瞳が閉じた。
「…………母上、どうか、安らかに」
口元に薄っすら笑みを浮かべたまま、母は息を引き取った。
恙なく葬儀を終え、アベルに母から聞いた話を聞かせた。
その顔にありありと嫌悪の色が浮かぶ。
「なんでそんなに腐ってんの」
「臣下である貴族たちの王家に対する不満を失くすために始められたことらしいな」
もともと王族にあまり権力はなかった。いつ貴族たちに乗っ取られてもおかしくない立場だった王族が、王妃を貴族たちへの生け贄にすることで権力を維持してきた。
王妃は王以外も受け入れなければならなかった。常に数人。そうして生まれてきた子供たちの中から、金髪で魔力の高い者を王太子とし、次代の王とした。
やがて、王族の魔力そのものが強くなり、貴族たちを掌握できるようになってから、王妃を共用することはなくなったらしいが、婚姻式にも晩餐会にも初夜にも、その流れは色濃く残っていた。
「もう終わらせる」
「そうだね。エリアスとイサークをそんなことの犠牲になんかできないよ」
「ああ」
俺がやらなければならない。
この魔力で貴族たちを抑えつけてでも。
子供たちを乳母役の者に預け、アベルを伴って寝室へ戻る。
寝室には入念に鍵をかけ、室内に問題がないか探索もかけた。
使うのはこの部屋ではない。
寝室に問題がないことを確認してから、隠し扉を開けた。
俺達のセレスを隠すための部屋。
その中で、カーテンをひいていない窓から差し込む月の光を浴びながら、暗い室内の中でベッドに座るセレスが白く輝いて見えた。
剥きだしの背中に、本当に純白の羽根があったとしても驚きはしない。
「セレス」
名を呼ぶと、セレスはゆっくり俺達の方を向いた。
「レイ、アベル」
月明かりを浴びて微笑むセレス。
俺達のせいで部屋から出ることもできず、家族に会うこともできず、ただただ、ベッドの上で過ごしているだけのセレス。
けれど、幸せだと微笑んでくれる。
二年が経っても、セレスは少しも変わらない。
体に少し柔らかくなった。
「エリアスとイサークはもう眠った?」
「ん。ちゃんと僕たちが眠らせて、任せてきたよ」
「よかった。明日天気がよかったら、二人を連れてお庭に出ようかな」
「いいね。日を浴びないと体に悪いからね」
アベルと共にベッドにあがり、セレスの頬に口付けた。
「サリムベルツが二人の成長は順調だと言っていた。…明日、セレスの診察に来るそうだ」
「そっか」
「僕が一緒にいるからね。花籠の様子も見たいから、って」
「ん」
イサークを産んでから、花籠はまだ白っぽくなったまま。
揺籠ができあがれば、また色づくだろう。
「……ここ最近の中では一番の子宝に恵まれた王になるな」
「ふふ」
エリアスの後は二年で花籠に色が戻った。
今度はいつ、戻るだろう。
「ぼくね、こうやって二人と過ごせるのが凄く幸せでね、ずっとずっと望んでいた通りになったんだよ。だからぼく、いっぱい二人の子供を産みたい。いっぱい愛されて、大切にされて、それから愛しい子たちを産むの」
「うん」
「だから、たくさん、傍にいてほしいの」
「ああ。当然、傍にいる」
「公務放り投げて部屋にこもるかな」
「それは次の花籠ができてからだな」
「もう……二人とも、お仕事はちゃんとしてよね?」
くすくす笑うセレスに、俺達も笑う。
「……ほんと、幸せ」
そう呟くセレスを、ベッドに沈めた。
俺とアベルを見上げ、口元にはずっと笑みを浮かべたままだ。
「幸せに、して?」
可愛い唇が、可愛い声で紡ぐ言葉。
「ああ」
「うん」
王族の醜い姿など、セレスに見せる必要はない。
セレスを軟禁状態にしている今の状態も、王族が今までしてきたことの延長線上のものかもしれないけれど。
重い愛と執着と自分が求められる悦び。
…他の者に抱かれながら嫌だと助けを求めてくる妃に、仄暗い感情を抱いた王がいたかもしれない。
その涙を舐め取って性欲を満たしていた王がいたかもしれない。
愛するが故に、他者に抱かせ、妃がどれほど自分を愛しているのか試した王がいたかもしれない。
自分が愛している妃がどれほどまでに素晴らしい者かを見せつけたかった王がいたかもしれない。
そんな王がいたかどうかもわからない。
俺がセレスを閉じ込めて服も与えず他人の目に触れさせないように愛し続ける今のこの状態を、狂愛と言う者がいるかもしれない。
けれど、これでいい。
これが俺達にとっての幸せの形だ。
俺がやることは何一つ変わらない。
セレスが幸福を感じているならば、これが正しい形。
「セレス――――愛してる」
何度も何度も言葉にした想いを、セレスを縛る鎖のように紡ぎだす。
「ぼくも愛してる」
そしてその鎖は、セレスを絡めとり、俺達をも絡めていく。
「レイ、アベル」
セレスの微笑みに背筋にゾクリと快楽が走り抜け。
俺達はセレスに誘われるままその体をむさぼっていく。
離れられない。
鎖は深く深く俺達に絡みつく。
でもこれが、俺達が求めていた未来。
思い描いていた幸福な、未来――――
(おわり)
*****
間違っていたらごめんなさい。
レイは多分ヤンデレ…。
そして多分この物語はメリバの分類…。
でもハピエンと言い張る作者。
アベルは普通の子です。多分。
次回より番外編数話掲載し、完結します。
応援ありがとうございます!
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