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10 レオン視点

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 いつか、こんな日が来るというのは分かっていた。
 けれど、ナナリーのあの顔、あの声を聞いたら、想像以上に堪えた。

(俺が、幸せになれないと言ったのはその男といるとだろ・・・ちゃんと聞いてくれよ・・・・・・ナナリー)

 辺りを見渡すと、他の客や店員が俺をチラチラと見ていた。

(とりあえず、立ち去るか・・・)

「あの・・・」

 テーブルに投げ捨てた金貨が入った袋を回収し、立ち去ろうとすると、喫茶店の店長が俺のところに申し訳なさそうにやってきた。
 
「騒ぎ立てて済まなかった。みんなも本当にすまない。今日は俺の驕りだ。好きに食べてくれ」

 俺が一礼すると、みんなが拍手をしてくれた。中には、応援してくれる目をしてくれた人もいたが、ひょうきんな態度に少し呆れた。

「ありがとうございますっ!!」

 店長が深々と頭を下げてきたが、悪いのは俺だ。すぐに顔を上げて貰った。

「じゃあ、ナナリー様方の分もレオン様の驕りと言うことでよろしいですよね?」

 俺はそう言われて、テーブルを見るが、あのナダルと言う男はナナリーを連れて行ったにも関わらず代金を置いていなかった。ツケにするなら、店長に声を掛けるべきだし、そもそも流浪の商人であるアイツがツケにできるはずもない。

(だから、無責任だと言ったのだ)

「あぁ、いいとも。ただ、あの男が後日払いに来たら、そうだな・・・ドリンクを一杯奢ってくれるか?」

「もちろんですとも」

 俺は頷いて出入り口に向かい、もう一度みんなに頭を下げて外へ出た。
 
 別に、お金をケチったわけではない。
 ただ、無責任だと決めつけているが、あの男が責任感があるとすれば、少しだけ考えを見直さなければならない。そう思った時に、店長に教えて欲しいとお願いしても、あの人の好さそうな店長は教えてくれただろう。ただ、俺が貴族である以上、あの店長に対するお願いは命令的で義務感を与えかねないと思った。なので、少しジョークっぽくして、店長の心理的負担を和らげようと思ったのだ。

 ただ、店長が俺にドリンクを一杯奢ってくれることはなかった。
 なぜなら、ナダルは・・・守銭奴で無責任だったからだ。

「ふっ、あんな男の軽い言葉・・・、だが、言葉に罪はない。俺は自分のやるべきことを、やるだけだ」

 ナダルが有言実行して、本当にナナリーを幸せにできるなら、嫌だけど、嬉しい。けど、嫌だ。だけど、嬉しい。
 ただ、それは俺の範疇を超えていることだ。俺は不言実行。

「ふっ、それは嘘だな」

 俺はあの男のように小さい頃にナナリーにおおぼらを吹いた恥ずかしい記憶を思い出して、鼻で笑い、しばらく国の外へと出ることを決めた・・・。
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