ママは乳がん二年生!

織緒こん

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じゅう。

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 ママはゆっくりと仕事に復帰した。九月は洋服で出かけて行って、十月の真ん中くらいから、着物を着るようになった。

 時間も短縮になって、コヨウケイタイをケーヤク社員からパートにかえたって言ってた。でないと、五時にお仕事が終われないから。そう言えば、以前は閉店までお仕事する日があったから、帰ってくるの十時とかだったなぁ。お店って、夜遅くまで開いてるととても助かるけど、その分お仕事してる人がいるんだなって、思った。

 コンビニって真夜中でも開いてるから、そんなものだと思ってたし。って言ったら、ママがまた、なにかのごっこで大袈裟に身振り手振りした。

「なんてこと! ママが子どものころは⋯⋯ううん、ババちゃん家の周りでは、七時にはお店は閉まるものよ! 去年できたコンビニだって、珍しすぎて新規オープンの時は大渋滞を起こしたくらいなのに、真夜中営業が当たり前だなんて⋯⋯!」

「で、なにごっこ?」

「女優はね、千の仮面を持っているのよ」

 さっぱりわからないけど、パパはゲラゲラ笑ってた。

 ママは無理のない範囲でお仕事をして、パパは相変わらず自宅のリビングでメールのやり取りをして、スズは学校に行く。

 明けたお正月は、大ババちゃんの喪中だから、あんまり賑やかにしないで着物だけ着た。ババちゃんが若いころ自分で縫ったっていう可愛い着物は、ママももう、柄が若くて着られないんだって。

 肩上げしてもらって、初めて名古屋帯っていうのを結んでもらった。小福良雀って言ってた。ふたりで着物を着て、やっぱりパパはジーパンで、近所の神社にお参りはするけど、鳥居は潜らない。なんの意味もないけど、喪中の年は鳥居を避けるんだって。木村家ローカルルール。

 今年のお正月はこれでおしまい。

「喪中だけどさ、お礼参りだけはしときたかったのよね」

 スズは神様に、ママのがんが治りますようにってお願いした。多分パパもママもおんなじようなことをお願いしたんだと思う。

「今年もまた、えびせんが食べられるなんて、感無量!」

「そしてそれは、オクさんの肉となり肉となるのだ」

「ええい、そのボケ飽きたわ! もっと面白いこと言いなされ!」

 結局今年も、えびせん漫才をするのね。パパとママはいつも仲良しだ。

「ねぇ、大阪焼食べたいな」

「⋯⋯頑張れ、スズ。今年のスズは絹のお着物を着ている。汚れたら、専門店で京洗いよ」

「あ」

 いつも垂らさないけど、緊張してソース溢しそう!

 悩んで悩んで、やっぱり食べたくて、ママにお金をもらって列に並んだ。

「やっぱり木村だ! なんでこの人混みで会うかなぁ」

「わぁ、高橋だ。今年もよろしくね」

 喪中だから、おめでとうは言わないのよってママが言ってた。

「あのね、今、神様にお礼してきたの。高橋もありがとう。ママ、また大好きな着物を着て、お仕事してるよ」

「お、おう」

 なにしろママは前向きだもの。手術の時に傷を圧迫するために買わされたゴムベルトだって、今じゃ着付けの前にタオルを巻くのに使ってるのよ。

『高かったのよ、もったいない。転んでもタダじゃ起きないわ』

 なんだかしどろもどろになった高橋に「じゃあね」と手を振って、順番が来たので大阪焼を買う。もちろんフードファイターのパパの分も。

 木村家のお正月は、これでホントに終わり。
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