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蛇の足的な。

ホイップ、ホイップ、ホイップ! ✳︎✳︎✳︎

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 書籍化に伴い、該当部分を12月11日(土)、お昼の12時に引き下げます。お礼の番外編を更新いたします。R 18ですので、十八歳未満の方と苦手な方は回避してください。


⁂ ⁂ ⁂ ⁂ ⁂


 エスターク王国は王都を中心に、そこそこ広い国土を持っている。大陸の中では三番目に大きな国だ。ある程度の広さがあるってことは、地域によって産業の違いがあるってことだね。

 王都から北東の方向にある、とある男爵の領地は作物があまり採れない。そのかわり金属の加工が盛んで、螺子ねじ一本でも職人が全霊を込めて作っている。注文すれば、歯車一個からでも作ってくれるそうだ。

 代替わりで跡取りの新男爵が叙爵の宣誓書を賜りに登城して、謁見の間でそんなことを言っていた。俺はリュシー様のとなりで努めて穏やかに微笑ほほえみながら頷いた。もちろん知ってますよ、と言うアピールだ。后子ごうしになることが決まってから詰め込んだ知識が役に立っている。

 叙爵式と言う公務を終えた俺は、男爵のことがとても気になった。⋯⋯職人さんを紹介してくれないだろうか、と言う下心でもって。

「フィン、何をしているの? 湯冷めするよ」

 お風呂に入っていたリュシー様が、テーブルでペンを持ってうんうん唸っている俺の頭上から手元の紙を覗き込んだ。先にお風呂に入ってウィレムさんに手入れしてもらった髪を、リュシー様の長い指がもてあそぶ。

「今日会った新男爵さんに、個人的に道具を作ってもらいたくて⋯⋯俺のお小遣いで足りるかなぁ」

 パン屋で俺が稼いでいた売上げは、お城に住むようになってから全く手付かずだ。増えないけど減ってもいない。庶民の生活費程度の蓄えだから、道具の開発資金とまでの持ち金にはならないだろう。

「⋯⋯これは何?」

 リュシー様は俺が描き散らかした、設計図とも呼べない悪戯描きのような紙を拾い上げた。

「泡立て器」

 持ち手グリップ手回し機ハンドルがついた歯車式の泡立て器を、朧げな記憶を探りつつ描いてみた。けれども、肝心なつなぎ目の部分や泡立て部分の組み立て方がわからなくて、ずいぶんとアバウトな絵だ。

「ケーキを作るたびにこんなのがあったら良いなぁって、菓子職人パティシエのティムと騒いでたんだ。もやっと曖昧な希望だったけど、螺子ねじや歯車を作る職人さんならもしかして⋯⋯って」

 設計図未満のイラストを描いてみたものの、実現するとは思っていない。でもチャレンジはしてみたい。だって、この間のお義母かあ様の誕生日祝いの夜会の翌日にティムとトイをお茶に誘ったら、菓子職人パティシエのティムが右腕に湿布を貼ってたんだよね。ご令嬢がたに大好評だったティムのスイーツは飛ぶように無くなり、追加も沢山用意されたらしい。俺も食べたけど、めっちゃ美味しかった。

 それはともかく、俺の半分趣味のお菓子作りと違ってティムのような職人には、必要な道具だと思うんだよね。

「ギルバートが夜会や晩餐会のたびに不機嫌になるのはそういうことか」

 ギルバート⋯⋯書記官さんはティムの旦那さんだ。ティムのツンデレデレ(デレのほうが多い)は可愛いけど、書記官さんの溺愛っぷりもすごいから、見ているこっちが恥ずかしくなるんだよね。きっとあの湿布を貼ったのは書記官さんだ。

「腱鞘炎にでもなってナイフを取り落としたりして、大きな事故が起こったら大変だよ」

 催し物があるときだけ短期で菓子職人パティシエを雇うのはリスキーだ。悪意を持った輩が入り込む危険がある。だからこそ、料理人は紹介状を持って未成年のうちからお城で修行するんだもん。特に厨房は王族の口に入るものを作る重要な職場だ。

「だから、手回し機ハンドル付きの泡立て器があったら良いなぁって思ってるんだけど」

 ハンドミキサーとは言わない。まだ電気は発明されていないから。

「ふふ、フィンは優しいね」
「やっ。変なとこ触らないで」

 後ろから覆い被さって顎をくすぐってくるから、ゾクゾクして身をよじる。

「インクの瓶が倒れちゃうでしょ」
「では蓋をしてしまおう」

 リュシー様は俺の手からペンを引き抜いた。お城に来てはじめての誕生日会でお義母かあ様にいただいたガラスのペンはとても美しいけれど、乱暴に扱ったら壊れてしまう。焦って取り返そうとしたけれど、リュシー様の長い手はペンを俺の手が届かない場所に置いてしまった。素早くインク瓶の蓋も閉めて、俺の顎を上向かせてキスを仕掛けてくる。

 はじめは優しく啄まれて、すぐに深いキスに移る。水を含んだ音が部屋の中に響いて、俺は耳からも羞恥を煽られた。

「ん⋯⋯はぁ。ここ、居間だよ」

 キスをほどいて抗議すると、リュシー様が微笑んだ。濡れた唇がえっちだ。

「ティムや厨房の料理人をいたわる優しいフィンは、私を労ってはくれない?」
「⋯⋯それ、絶対意味違うし」
「ダメ?」
「⋯⋯⋯⋯いいよ」

 リュシー様はすぐに俺を抱き上げた。向かう先は考えるまでもなく寝室だ。結婚して一年も経てば、閨事なんて余裕だと言いたいものの、そんなことはない。ベッドに横たえられて首筋を舐め上げられると、それだけで甘ったるい声が出た。

「んんッ⋯⋯リュシー様、恥ずかしい」

 いつも俺ばかりが翻弄されるのが悔しいけれど、どうにか仕返しができるものならこの一年の間に実行している。

「恥ずかしがる姿も可愛いよ」
「馬鹿なこと、言わない⋯⋯の、あぁッ」

 寝間着の裾から入ってきたリュシー様の手のひらに脇腹を撫で上げられた。ヤダ。気持ちいい。俺の身体はすっかりリュシー様の肌に馴染んで、何をされても快感を拾う。

「やっ⋯⋯ねぇ⋯⋯キスをちょうだい」

 口が寂しい。

 リュシー様はすぐに俺のお強請ねだりに応えてくれて、チュッと唇が重なった。小鳥のキスは安心する。必死になって腕をリュシー様の首に絡めて、繰り返しキスをせがむ。そのうちに大胆な舌が俺の口の中を我が物顔で支配し始めた。

 呼吸ができなくなって、胸を喘がせる。この苦しささえ、愛おしい。全部全部、リュシー様がくれるものだから。

「可愛い、フィン」
「リュシー様⋯⋯好き⋯⋯」

 俺がキスを強請るから、いつものように唇での愛撫はない。かわりに手のひらで隈なく身体をなぞられて、その手が後蕾に辿りついた。回数を重ねて柔くリュシー様を受け入れることに慣れたはずの場所なのに、いつまで経っても羞恥は消えない。

「や⋯⋯ッ、俺のおなか、リュシー様のこと喜んでるの、恥ずかしいッ」
「悪い子だな。私を煽っているの?」

 キスが離れて、耳の中に息が吹き込まれる。リュシー様の声は熱く濡れて官能的だった。

「あぁ、いつも受け入れてくれるから、柔らかいね」
「んっ、だって、リュシー様が⋯⋯」
「そうだ。私だけが知っている場所だ」
「ああぁッ」

 足を大きく広げられて、熱杭が突き挿れられた。丁寧に拓かれた場所は待ちかねたようにリュシー様を包み込んだ。俺の体温で香油の甘い香りが立つ。

「リュシー様ッ⋯⋯おっきい! 凄いからぁッ、行ったり、来たり、してるのッ」
「フィン、気持ちいい?」
「うんッ⋯⋯いいの、凄いの! や、や、クる、キちゃうッ」
「いいよ、イってごらん」
「あ⋯⋯あ⋯⋯⋯⋯ッあーーーーッ」

 リュシー様は何度も俺の胎内なかを往復し、奥の突き当たりに剛直でキスを繰り返した。身体の中でグチュグチュといらやしい音が響いて、俺は腰をくねらせることしかできない。口から飛びす言葉は支離滅裂で、涙と飲み込みきれない唾液で顔はぐちゃぐちゃだろう。

「可愛い。可愛いよ、フィン」
「好きッ、リュシー様、好きッ」

 お互い同じ言葉を繰り返しながらきつく抱き合って、やがてリュシー様の情熱が俺の胎内に吐き出される。余韻は微睡まどろみに飲み込まれて、俺の意識はそこで途切れた。

 ていうのが昨夜の話だ。⋯⋯これはやっぱりどろんどろんのぐっちゃんぐっちゃん案件だろう。

「男爵はタウンハウスに留まって、しばらく王都を見物してから帰るそうだ」

 上機嫌なリュシー様の膝の上で、朝のお茶をいただきながら話を聞く。腰に力が入らなくて自力で座れないのを恥ずかしく思っていると、悪戯な手が俺の太ももを撫でた。

「フィンのこの絵も、職人と多く接している男爵なら、改善点を見つけてくれるのではないか?」
「え?」

 男爵と話をする場を設けてくれるらしい。

 それから半年とちょっとして、手動手回し機ハンドル付き泡立て器の見本がお城に届けられた。そしてそれを一番喜んだのは、書記官さんだった。彼のとなりでティムが真っ赤な顔をしていたけれど、何があったのかは聞かないでおくことにした。

〈おしまい〉
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