22 / 23
番外編
蜂蜜とママレード(書籍化記念SS)
少し前の話だ。あれはそう、スニャータ前王の第四王子夫妻が、お騒がせ王女を連れて帰国する直前のこと……
綿雪のような乳白色の髪が印象的なスニャータの王子妃様は、ロビンという名の天の御使いのような人だ。生まれたときに真っ白だった髪と身体を見て、ご両親は遠からず天に還ってしまう子どもだと思ったらしい。せめて天を自由に翔けられるように駒鶫と名付けられたのだ……と、本人はコロコロと笑いながら教えてくれたのだが。
どっこいこの少女めいた美貌の王子妃様、俺たちがどん引くほどの苛烈で鉄火な性質だった。悪漢に捕えられた子どもたちを俺と一緒に救いに乗り込んだことがあるのだが、役立たずの俺と違って華麗に細身の剣を振り回していたんだよ。
そのロビン妃。諸々の雑務を終えて明後日にはスニャータに帰国するという日、城下でのお買い物を希望なされた……なぜか俺をご指名で。
「ディンチ伯爵子息シルヴェスタ様。是非ともご一緒したいのですが、お時間をいただけますか?」
なんて聞かれたが、断るなんてできるか? ロビン妃はスニャータの王族だぞ? 前王の第四王子のお妃様というだけでなく、ご自身も末端王族に名を連ねているとか……。俺は肉屋の倅から伯爵家の養子になった身だが、ド平民時代の俺と違ってある程度の教養を得た。ロビン妃と俺が友好を深めるには身分差がありすぎるのが分かってしまう。
口から魂が出る心地で城からの迎えを待つ。貴族のお忍び用の馬車で伯爵家に寄って、拾ってくれるそうだ。いや、マジで勘弁してほしい。せめて現地集合、現地解散にしてくれよ。そんな俺の心境など誰も慮ってはくれず、無情にも馬車は伯爵家にやって来た。
予定外の誰かが増えてんじゃねぇか!
おっと、いけない。言葉が乱れた。口に出していないから、大丈夫か……
ロビン妃と一緒に馬車に乗っていたのは我がエスターク王国のエルフィン后子殿下だった。お付きは侍従官のウィレムさんだけ……護衛騎士のカインさんはどうしたんだと問うたら、ロビン妃が晴れやかに微笑んだ。笑顔の裏に凄みが見え隠れしている。すみません、スニャータ王国騎士団長の補佐官様であらせられましたね。実際に白刃を閃かせている姿も見た。確かに護衛なんていらないだろう。
「今日はバスチアン殿も遠慮してくれませんか?」
ロビン妃に言い切られたら、俺の後ろに控えていたバスチアンさんも引き下がるしかない。馬車でおとなしく座っているエルはなんだかモジモジしているし、ウィレムさんは真顔で視線を遠くに飛ばしている。……この馬車の中、どこの楽園だ? タイプの違う美人が三人並んで俺を待っている。しかしおっさんがここに混ざれと?
「今日は買い物に付き合っていただきたかったんです」
ロビン妃は馬車に乗り込んだ俺に言った。エスターク土産でも欲しいのだろうか。
「えぇ、スニャータのご婦人方に妖精の魔法薬を頼まれているのです」
「……はぁ」
そんな絵本に出てくるような薬、聞いたことがない。
「なぁ、エル。知ってるか?」
「……知らない」
ロビン妃と一緒に来たエルにこそっと訊ねてみたが、真っ赤なほっぺたで顔を背けられた。あ、コレ、知ってる時の態度だ。ウィレムさんに聞いてみようかとそっちに視線を向けると、輝く笑顔で無言を貫かれた。この面子で出かけるなら、危険な場所を選ぶはずないんだけどなぁ、と思っていたのだが。
馬車が停まったのは、薬局の前だった。煎じ薬を売る店で、もうちょっと先にある町医者のところで診察を受けた患者は、大抵ここにくる。だが、魔法薬なんて売っていないぞ?
薬局には事前に通達してあったのか、店主兼薬師が出迎えた。もちろん顔見知りだ。ここん家の一番下の子が学舎の立てこもり事件に巻き込まれた件で、ロビン妃とも面識がある。まぁ、ロビン妃から見たら大勢の保護者のうちのひとりだから、覚えているかは分からんけど。少なくとも薬師はロビン妃のことを忘れることはないだろう。
「ミシェル! ミシェル! おいでになったぞ!」
ガチガチに緊張した薬師は店の奥に向かって呼びかけた。声がひっくり返っている。呼ばれて奥から出てきたのは薬師の奥さんだ。奥さんは調香師をしていて、実家の肉屋も世話になっている。虫が嫌う臭いがするオイルなんか、夏場は重宝してるんだよ。虫がたかった肉なんて不衛生極まりないだろ?
「ミシェルさん、お久しぶりです」
「やだわ、シルヴィーったら。そんな畏まらないでちょうだい。伯爵様の息子さんになったのよね? こちらが畏まらなくちゃ」
緊張しまくった旦那と違って、ミシェルさんはおっとり微笑んだ。
「ウィレム様も、ようこそおいでくださいました」
ミシェルさんはウィレムさんとも知り合いみたいだ。エルは真っ赤な顔で後ろに隠れている。ロビン妃が一歩進み出て薬師の妻に向かって笑みを浮かべた。彼は常に微笑んでいるが、いろいろ使い分けているようだ。この微笑みに薄寒さや凄みは感じない。私的な買い物中だからなのだろう。
「エルフィン后子の蜂蜜の香りと侍従官殿の薔薇の香り、ディンチ伯爵子息の柑橘の香り……あまりに素晴らしくて、是非とも手に入れたいと思ったのですよ」
「光栄です。王子妃様にお似合いの香りを調合させていただいても?」
「それは願ったり。后子様には后子様に相応しい香り、伯爵子息には伯爵子息に相応しい香り、私が身につけたからといって似合うとは限りませんからね」
香り…?
「俺、香水なんてつけてないぞ?」
「シルヴィー!」
思わず疑問を口にすると、エルが慌てたように俺の口を塞いだ。ふわりと蜂蜜の香りが漂う。あ、コイツは香水をつけてるんだな。
「エルは甘い匂いがするな」
「余計なこと言わないで! シルヴィーだって、ママレードの香りがするよ!」
エルは何をそんなに怒っているんだ? 耳まで赤くして……
「おや、気づいていないのですか? シルヴェスタ様も甘くて爽やかな柑橘の香りを纏っていらっしゃいますよ。ミシェル夫人の香油は肌に艶を与え、香りも持続すると評判です」
天の御使い様が何か言ってる……
柑橘の香りのする香油、だと?
「馴染むほどに塗り込むなんて、エスタークの若獅子は余程あなたにご執心ですね」
馴染むほど──って、あの香油かぁッ⁈
寝台の中で惜しげもなく、アソコを中心に全身にぶちまけられるヤツだ。俺は何かを言おうとして言葉が出てこず、馬鹿みたいに口をパクパクと開閉した。エルは真っ赤になって涙目だ。ウィレムさんは相変わらずの真顔だが、顔が綺麗すぎて怖い。
「子爵家の若様にもご贔屓いただいてます。最初は手荒れ用の軟膏だったのに、いつごろからかしら、お閨用の香油もたくさんご注文してくださって」
ミシェルさん、黙ってくれませんかね⁈ つぅか、エルとウィレムさんも、どえらいこと用の香油はここの商品ってことなんだな⁈ え…待ってくれ。フレディがここで香油を買うと、俺たちが何をしてるか丸わかりってことか⁈
「ご婦人方に人気の美容液をお箱で欲しいのです。それとは別に、私に似合う特別な調香をした香油もいただきたい」
ロビン妃は実に堂々としている。
「エルフィン后子、ローズマリー王妃へのお土産を選んでくださいませんか? 最近公務でお疲れで、お化粧のノリが良くないと嘆いていらっしゃいました」
「お義母様のお気に入りの美容液を……」
「王太后様のお肌は、それはそれは艶めいておられますが、我が国の王妃殿下はあなた様とあまり変わらぬお歳ですよ」
「ミシェルさん、選ぶの手伝ってください…………」
「おまかせください」
普通の化粧品も売っているらしい。薬局なのに……
「美容液やコリほぐしのための香油は、お肌の健康のためのお薬ですよ」
「え? 俺、何か言いました?」
「お表情に出てらっしゃいましたよ。『薬局に化粧品?』って」
義父上にも腹芸ができないって言われたな。ついでに、フレディと肉屋の姉ちゃんにも。
「そんなことよりシルヴェスタ様もせっかくいらしたのですから、フレッドのために肌を磨く香油を見繕ってもらってはいかがです? あなたが恥ずかしがると思って、侍従殿の同行を断ったんですよ」
「は、は、は、肌を、み、磨くって⁈」
今更磨いてどうするんだ⁈ もうフレディには全部見られてるよ‼︎
「結婚式にはお肌の調子は万全にね」
……結婚式。そうだよな、夜のどえらいことは関係ないよな。あぁ焦った。それにしてもロビン妃は人を揶揄うのがお好きだな。
「お式の後は、たっぷり可愛がってくれると思いますよ」
どえらいことだった──ッ‼︎
こうしてスニャータの第四王子妃であるロビン様は、薬局の奥の間の棚をすっからかんにする勢いで片っ端から注文していく。香油は日光に弱いし香りも飛ぶから、長期の保存は難しいという。ロビン妃は定期的に欲しいと言って、調香師のミシェルさんに個人輸入の契約を持ちかけていた。
「王子妃様、通りの突き当たりのレース工房もおすすめですよ。ハンカチやスカーフもとても美しいのですが、店の奥におしゃれなお下着を注文できる専用カウンターがあるんですよ」
「それは素敵ですね」
ミシェルさん、ロビン妃に何を入れ知恵してるんだ? わぁ、店に行く気満々じゃないか⁈ 俺もか、俺も行くのかぁ⁈
俺は再び言葉を失って口をパクパクと開閉し、ますます顔を赤くしたエルはウィレムさんの腕にしがみつく。
こんな経緯で注文した香油と下着は、なぜか子爵邸に納品されることになった。お代はロビン妃持ちだ。フレディへの結婚祝いだそうだ。彼への祝いが俺の下着ってどういうことだ。
エルは始終真っ赤な顔で挙動不審だし、頼みの綱のウィレムさんも今日は美しい置き物のようだ。案外そっち方面は初心なのかもしれない。
「よいお買い物ができましたし、取引もまとまって満足です」
スニャータの第四王子妃様は麗しく微笑んで帰国した。見送る俺たちはぐったりと疲れたわけなんだが……
納品された香油と下着? そんなの知るか。使うか使わないかはフレディに丸投げだよ‼︎
□□□
肉屋の倅、おかげさまで書籍化いたします。
ヘンリエッタ.先生の素敵な表紙をいただきまして、シルヴィーの可愛さに悶えております!
皆さんも悶えて‼︎
まだ語れませんが、『え? ◯◯ってこんなに◯◯な◯◯だったの⁈』と叫びたくなるアレコレもありますので、是非お手に取っていただければと思います。
□□□
綿雪のような乳白色の髪が印象的なスニャータの王子妃様は、ロビンという名の天の御使いのような人だ。生まれたときに真っ白だった髪と身体を見て、ご両親は遠からず天に還ってしまう子どもだと思ったらしい。せめて天を自由に翔けられるように駒鶫と名付けられたのだ……と、本人はコロコロと笑いながら教えてくれたのだが。
どっこいこの少女めいた美貌の王子妃様、俺たちがどん引くほどの苛烈で鉄火な性質だった。悪漢に捕えられた子どもたちを俺と一緒に救いに乗り込んだことがあるのだが、役立たずの俺と違って華麗に細身の剣を振り回していたんだよ。
そのロビン妃。諸々の雑務を終えて明後日にはスニャータに帰国するという日、城下でのお買い物を希望なされた……なぜか俺をご指名で。
「ディンチ伯爵子息シルヴェスタ様。是非ともご一緒したいのですが、お時間をいただけますか?」
なんて聞かれたが、断るなんてできるか? ロビン妃はスニャータの王族だぞ? 前王の第四王子のお妃様というだけでなく、ご自身も末端王族に名を連ねているとか……。俺は肉屋の倅から伯爵家の養子になった身だが、ド平民時代の俺と違ってある程度の教養を得た。ロビン妃と俺が友好を深めるには身分差がありすぎるのが分かってしまう。
口から魂が出る心地で城からの迎えを待つ。貴族のお忍び用の馬車で伯爵家に寄って、拾ってくれるそうだ。いや、マジで勘弁してほしい。せめて現地集合、現地解散にしてくれよ。そんな俺の心境など誰も慮ってはくれず、無情にも馬車は伯爵家にやって来た。
予定外の誰かが増えてんじゃねぇか!
おっと、いけない。言葉が乱れた。口に出していないから、大丈夫か……
ロビン妃と一緒に馬車に乗っていたのは我がエスターク王国のエルフィン后子殿下だった。お付きは侍従官のウィレムさんだけ……護衛騎士のカインさんはどうしたんだと問うたら、ロビン妃が晴れやかに微笑んだ。笑顔の裏に凄みが見え隠れしている。すみません、スニャータ王国騎士団長の補佐官様であらせられましたね。実際に白刃を閃かせている姿も見た。確かに護衛なんていらないだろう。
「今日はバスチアン殿も遠慮してくれませんか?」
ロビン妃に言い切られたら、俺の後ろに控えていたバスチアンさんも引き下がるしかない。馬車でおとなしく座っているエルはなんだかモジモジしているし、ウィレムさんは真顔で視線を遠くに飛ばしている。……この馬車の中、どこの楽園だ? タイプの違う美人が三人並んで俺を待っている。しかしおっさんがここに混ざれと?
「今日は買い物に付き合っていただきたかったんです」
ロビン妃は馬車に乗り込んだ俺に言った。エスターク土産でも欲しいのだろうか。
「えぇ、スニャータのご婦人方に妖精の魔法薬を頼まれているのです」
「……はぁ」
そんな絵本に出てくるような薬、聞いたことがない。
「なぁ、エル。知ってるか?」
「……知らない」
ロビン妃と一緒に来たエルにこそっと訊ねてみたが、真っ赤なほっぺたで顔を背けられた。あ、コレ、知ってる時の態度だ。ウィレムさんに聞いてみようかとそっちに視線を向けると、輝く笑顔で無言を貫かれた。この面子で出かけるなら、危険な場所を選ぶはずないんだけどなぁ、と思っていたのだが。
馬車が停まったのは、薬局の前だった。煎じ薬を売る店で、もうちょっと先にある町医者のところで診察を受けた患者は、大抵ここにくる。だが、魔法薬なんて売っていないぞ?
薬局には事前に通達してあったのか、店主兼薬師が出迎えた。もちろん顔見知りだ。ここん家の一番下の子が学舎の立てこもり事件に巻き込まれた件で、ロビン妃とも面識がある。まぁ、ロビン妃から見たら大勢の保護者のうちのひとりだから、覚えているかは分からんけど。少なくとも薬師はロビン妃のことを忘れることはないだろう。
「ミシェル! ミシェル! おいでになったぞ!」
ガチガチに緊張した薬師は店の奥に向かって呼びかけた。声がひっくり返っている。呼ばれて奥から出てきたのは薬師の奥さんだ。奥さんは調香師をしていて、実家の肉屋も世話になっている。虫が嫌う臭いがするオイルなんか、夏場は重宝してるんだよ。虫がたかった肉なんて不衛生極まりないだろ?
「ミシェルさん、お久しぶりです」
「やだわ、シルヴィーったら。そんな畏まらないでちょうだい。伯爵様の息子さんになったのよね? こちらが畏まらなくちゃ」
緊張しまくった旦那と違って、ミシェルさんはおっとり微笑んだ。
「ウィレム様も、ようこそおいでくださいました」
ミシェルさんはウィレムさんとも知り合いみたいだ。エルは真っ赤な顔で後ろに隠れている。ロビン妃が一歩進み出て薬師の妻に向かって笑みを浮かべた。彼は常に微笑んでいるが、いろいろ使い分けているようだ。この微笑みに薄寒さや凄みは感じない。私的な買い物中だからなのだろう。
「エルフィン后子の蜂蜜の香りと侍従官殿の薔薇の香り、ディンチ伯爵子息の柑橘の香り……あまりに素晴らしくて、是非とも手に入れたいと思ったのですよ」
「光栄です。王子妃様にお似合いの香りを調合させていただいても?」
「それは願ったり。后子様には后子様に相応しい香り、伯爵子息には伯爵子息に相応しい香り、私が身につけたからといって似合うとは限りませんからね」
香り…?
「俺、香水なんてつけてないぞ?」
「シルヴィー!」
思わず疑問を口にすると、エルが慌てたように俺の口を塞いだ。ふわりと蜂蜜の香りが漂う。あ、コイツは香水をつけてるんだな。
「エルは甘い匂いがするな」
「余計なこと言わないで! シルヴィーだって、ママレードの香りがするよ!」
エルは何をそんなに怒っているんだ? 耳まで赤くして……
「おや、気づいていないのですか? シルヴェスタ様も甘くて爽やかな柑橘の香りを纏っていらっしゃいますよ。ミシェル夫人の香油は肌に艶を与え、香りも持続すると評判です」
天の御使い様が何か言ってる……
柑橘の香りのする香油、だと?
「馴染むほどに塗り込むなんて、エスタークの若獅子は余程あなたにご執心ですね」
馴染むほど──って、あの香油かぁッ⁈
寝台の中で惜しげもなく、アソコを中心に全身にぶちまけられるヤツだ。俺は何かを言おうとして言葉が出てこず、馬鹿みたいに口をパクパクと開閉した。エルは真っ赤になって涙目だ。ウィレムさんは相変わらずの真顔だが、顔が綺麗すぎて怖い。
「子爵家の若様にもご贔屓いただいてます。最初は手荒れ用の軟膏だったのに、いつごろからかしら、お閨用の香油もたくさんご注文してくださって」
ミシェルさん、黙ってくれませんかね⁈ つぅか、エルとウィレムさんも、どえらいこと用の香油はここの商品ってことなんだな⁈ え…待ってくれ。フレディがここで香油を買うと、俺たちが何をしてるか丸わかりってことか⁈
「ご婦人方に人気の美容液をお箱で欲しいのです。それとは別に、私に似合う特別な調香をした香油もいただきたい」
ロビン妃は実に堂々としている。
「エルフィン后子、ローズマリー王妃へのお土産を選んでくださいませんか? 最近公務でお疲れで、お化粧のノリが良くないと嘆いていらっしゃいました」
「お義母様のお気に入りの美容液を……」
「王太后様のお肌は、それはそれは艶めいておられますが、我が国の王妃殿下はあなた様とあまり変わらぬお歳ですよ」
「ミシェルさん、選ぶの手伝ってください…………」
「おまかせください」
普通の化粧品も売っているらしい。薬局なのに……
「美容液やコリほぐしのための香油は、お肌の健康のためのお薬ですよ」
「え? 俺、何か言いました?」
「お表情に出てらっしゃいましたよ。『薬局に化粧品?』って」
義父上にも腹芸ができないって言われたな。ついでに、フレディと肉屋の姉ちゃんにも。
「そんなことよりシルヴェスタ様もせっかくいらしたのですから、フレッドのために肌を磨く香油を見繕ってもらってはいかがです? あなたが恥ずかしがると思って、侍従殿の同行を断ったんですよ」
「は、は、は、肌を、み、磨くって⁈」
今更磨いてどうするんだ⁈ もうフレディには全部見られてるよ‼︎
「結婚式にはお肌の調子は万全にね」
……結婚式。そうだよな、夜のどえらいことは関係ないよな。あぁ焦った。それにしてもロビン妃は人を揶揄うのがお好きだな。
「お式の後は、たっぷり可愛がってくれると思いますよ」
どえらいことだった──ッ‼︎
こうしてスニャータの第四王子妃であるロビン様は、薬局の奥の間の棚をすっからかんにする勢いで片っ端から注文していく。香油は日光に弱いし香りも飛ぶから、長期の保存は難しいという。ロビン妃は定期的に欲しいと言って、調香師のミシェルさんに個人輸入の契約を持ちかけていた。
「王子妃様、通りの突き当たりのレース工房もおすすめですよ。ハンカチやスカーフもとても美しいのですが、店の奥におしゃれなお下着を注文できる専用カウンターがあるんですよ」
「それは素敵ですね」
ミシェルさん、ロビン妃に何を入れ知恵してるんだ? わぁ、店に行く気満々じゃないか⁈ 俺もか、俺も行くのかぁ⁈
俺は再び言葉を失って口をパクパクと開閉し、ますます顔を赤くしたエルはウィレムさんの腕にしがみつく。
こんな経緯で注文した香油と下着は、なぜか子爵邸に納品されることになった。お代はロビン妃持ちだ。フレディへの結婚祝いだそうだ。彼への祝いが俺の下着ってどういうことだ。
エルは始終真っ赤な顔で挙動不審だし、頼みの綱のウィレムさんも今日は美しい置き物のようだ。案外そっち方面は初心なのかもしれない。
「よいお買い物ができましたし、取引もまとまって満足です」
スニャータの第四王子妃様は麗しく微笑んで帰国した。見送る俺たちはぐったりと疲れたわけなんだが……
納品された香油と下着? そんなの知るか。使うか使わないかはフレディに丸投げだよ‼︎
□□□
肉屋の倅、おかげさまで書籍化いたします。
ヘンリエッタ.先生の素敵な表紙をいただきまして、シルヴィーの可愛さに悶えております!
皆さんも悶えて‼︎
まだ語れませんが、『え? ◯◯ってこんなに◯◯な◯◯だったの⁈』と叫びたくなるアレコレもありますので、是非お手に取っていただければと思います。
□□□
あなたにおすすめの小説
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像はpicrewさんよりお借りしました。