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魔力測定②
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「入学早々、放校されたいのですか?」
ザシャル先生は眠たげな目元のまま、淡々と言った。意外と美形なだけに、薄寒いわ。
「ふんっ」
オリヴァーとか言う男子学生は、近くの机の足をガツンと蹴飛ばして、自分の席に戻っていった。蹴られた机についていた学生がびくりと背中を揺らしている。席が近かったらオリヴァーに文句言ってやったのに。多分あの子と仲良くできないわ。
ザシャル先生が、被害にあった子に何か言っている。頭をポンポンとしているのが見えて、慰めか謝罪をしたのが分かった。
ざわめきはすぐに収まって、次のグループが教卓の前に並んだ。次々と水晶玉に手を乗せて、喜んだり落ち込んだりしている。オリヴァーみたいに結果に憤って文句をいう人はいなかった。
いよいよ私たちのグループの順番がやってきた。
最初にタタンが前に出た。手を乗せるとフワンと薄くモヤが浮かんで、その中でパチパチと光が散っていた。離すとモヤはしばらく水晶玉の中を揺蕩ってから消えた。
「綺麗⋯⋯」
ユンが思わず、て感じで言った。タタン本人も眼鏡の奥の瞳を潤ませて見入っている。
「魔力量は小の中。ただし質はものすごく良いですね。媒体の選び方で出来ることは広がりますよ」
ザシャル先生が淡々と言って、タタンは恥ずかしそうに笑った。
「では、私が参ります」
シーリアがザシャル先生に丁寧に頭を下げた。やっぱり良い子だわ。教えを請う立場をわきまえているもの。さっきのオリヴァーとやらとは大違いね。
水晶玉に手を乗せた瞬間、魔力が湧き上がった。まるで夏の空に浮かぶ入道雲みたい。外側は太陽の光を浴びて反射して輝いていて、奥は雷が踊ってるアレ。ふわぁ、綺麗! 手を離すと雲のような魔力の渦は、タタンの時と同じようにしばらく揺蕩ってから消えた。
「中の上です。質も良いし、まだ伸び代がありそうです。訓練で魔力量を増やせるかもしれません」
「ありがとうございます」
次は⋯⋯ユンがお先にどうぞと促してくれた。そうね、彼女は一族の儀式で計測してるって言ってたから、私ほどのワクワク感はないもんね。なら遠慮なくお先に行きます!
「よろしくお願いします」
シーリアに倣ってきちんと頭を下げて、水晶玉に手を乗せた。アラサーOLが魔女っ子になる瞬間よ! なんてアホなことを考えていると、すぐに変化が現れた。積乱雲もどきが現れて雷が走る。シーリアの時と似てるけど、色が違うみたい。彼女の時は少しピンクオレンジがかっていて、夕方っぽかった。今は真っ白で奥の方は燻銀みたいな色をしている。表面が照り輝いて、薄荷飴に見えた。
手を離すとしばらく燻って消えた。消える間際まで雷がピシピシ走っていた。ふわぁ、凄いもの見たぁ。
「中の中です。魔力量は平均です。とても綺麗な魔力ですね」
「ありがとうございます!」
綺麗ですって! なんでも褒めてチヤホヤする兄様たちのフィルターかかりまくった賛辞とちがって、素直に受け入れられるわ。量も中の中だなんて、平凡なアラサーOLらしくて笑っちゃう。
「その民族衣装は北のバロライ領?」
「あい」
ユンに尋ねたザシャル先生は、少し考えるように目を細めた。眠たげな目元でそれをすると、立ったまま居眠りをしているように見える。
「儀式を受けたね。その時はどのくらいでしたか?」
「同じ歳の子どもの中では、一番」
「ふむ、では始めましょうか。その前に皆さん、念のために机に伏して目を保護してください。あなたたちもですよ」
ユンと同じグループの私たちも、自分の席に戻って机に伏した。見たかったけど、先生が言うんなら従っておいたほうがいい。
ピシャーーーーン!
空気が震える気配がした。伏せた腕の隙間が眩しい。ぎゃあぁって悲鳴も聞こえる。なにが起こっているのか全くわからないけど、多分ユンの魔力で水晶玉が尋常じゃない光を放ったんだと思う。隙間からの光は防ぎきれなかったものよね。
「言いつけを破りましたね!」
「目が、目があぁっ!」
ごめん! なんかすごく重大なことが起こっていて、苦しんでる人がいるみたいなのに、巨匠のアニメ映画の有名なシーンを思い出して笑ける! ホントごめん!
「お前! 俺の目になにをした! 父上に言いつけて処刑してやる!」
あー、この声はオリヴァー・ダイナね。光に目を灼かれて騒いでるんだわ。
「ハ・ユン、君は席に戻りなさい。魔力量は最大にして測定不可能⋯⋯言わなくてもわかるか」
「あい」
「私はこれから阿保を医務室に連れて行く。私が戻るか代わりが来るかするまで席について待機するように。顔は上げていいですよ。では」
みんなが一斉に顔を上げる。教室の中は何かが起こったような痕跡はない。前の扉から先生がオリヴァーを引きずって出ていくのが見えた。
ザシャル先生は眠たげな目元のまま、淡々と言った。意外と美形なだけに、薄寒いわ。
「ふんっ」
オリヴァーとか言う男子学生は、近くの机の足をガツンと蹴飛ばして、自分の席に戻っていった。蹴られた机についていた学生がびくりと背中を揺らしている。席が近かったらオリヴァーに文句言ってやったのに。多分あの子と仲良くできないわ。
ザシャル先生が、被害にあった子に何か言っている。頭をポンポンとしているのが見えて、慰めか謝罪をしたのが分かった。
ざわめきはすぐに収まって、次のグループが教卓の前に並んだ。次々と水晶玉に手を乗せて、喜んだり落ち込んだりしている。オリヴァーみたいに結果に憤って文句をいう人はいなかった。
いよいよ私たちのグループの順番がやってきた。
最初にタタンが前に出た。手を乗せるとフワンと薄くモヤが浮かんで、その中でパチパチと光が散っていた。離すとモヤはしばらく水晶玉の中を揺蕩ってから消えた。
「綺麗⋯⋯」
ユンが思わず、て感じで言った。タタン本人も眼鏡の奥の瞳を潤ませて見入っている。
「魔力量は小の中。ただし質はものすごく良いですね。媒体の選び方で出来ることは広がりますよ」
ザシャル先生が淡々と言って、タタンは恥ずかしそうに笑った。
「では、私が参ります」
シーリアがザシャル先生に丁寧に頭を下げた。やっぱり良い子だわ。教えを請う立場をわきまえているもの。さっきのオリヴァーとやらとは大違いね。
水晶玉に手を乗せた瞬間、魔力が湧き上がった。まるで夏の空に浮かぶ入道雲みたい。外側は太陽の光を浴びて反射して輝いていて、奥は雷が踊ってるアレ。ふわぁ、綺麗! 手を離すと雲のような魔力の渦は、タタンの時と同じようにしばらく揺蕩ってから消えた。
「中の上です。質も良いし、まだ伸び代がありそうです。訓練で魔力量を増やせるかもしれません」
「ありがとうございます」
次は⋯⋯ユンがお先にどうぞと促してくれた。そうね、彼女は一族の儀式で計測してるって言ってたから、私ほどのワクワク感はないもんね。なら遠慮なくお先に行きます!
「よろしくお願いします」
シーリアに倣ってきちんと頭を下げて、水晶玉に手を乗せた。アラサーOLが魔女っ子になる瞬間よ! なんてアホなことを考えていると、すぐに変化が現れた。積乱雲もどきが現れて雷が走る。シーリアの時と似てるけど、色が違うみたい。彼女の時は少しピンクオレンジがかっていて、夕方っぽかった。今は真っ白で奥の方は燻銀みたいな色をしている。表面が照り輝いて、薄荷飴に見えた。
手を離すとしばらく燻って消えた。消える間際まで雷がピシピシ走っていた。ふわぁ、凄いもの見たぁ。
「中の中です。魔力量は平均です。とても綺麗な魔力ですね」
「ありがとうございます!」
綺麗ですって! なんでも褒めてチヤホヤする兄様たちのフィルターかかりまくった賛辞とちがって、素直に受け入れられるわ。量も中の中だなんて、平凡なアラサーOLらしくて笑っちゃう。
「その民族衣装は北のバロライ領?」
「あい」
ユンに尋ねたザシャル先生は、少し考えるように目を細めた。眠たげな目元でそれをすると、立ったまま居眠りをしているように見える。
「儀式を受けたね。その時はどのくらいでしたか?」
「同じ歳の子どもの中では、一番」
「ふむ、では始めましょうか。その前に皆さん、念のために机に伏して目を保護してください。あなたたちもですよ」
ユンと同じグループの私たちも、自分の席に戻って机に伏した。見たかったけど、先生が言うんなら従っておいたほうがいい。
ピシャーーーーン!
空気が震える気配がした。伏せた腕の隙間が眩しい。ぎゃあぁって悲鳴も聞こえる。なにが起こっているのか全くわからないけど、多分ユンの魔力で水晶玉が尋常じゃない光を放ったんだと思う。隙間からの光は防ぎきれなかったものよね。
「言いつけを破りましたね!」
「目が、目があぁっ!」
ごめん! なんかすごく重大なことが起こっていて、苦しんでる人がいるみたいなのに、巨匠のアニメ映画の有名なシーンを思い出して笑ける! ホントごめん!
「お前! 俺の目になにをした! 父上に言いつけて処刑してやる!」
あー、この声はオリヴァー・ダイナね。光に目を灼かれて騒いでるんだわ。
「ハ・ユン、君は席に戻りなさい。魔力量は最大にして測定不可能⋯⋯言わなくてもわかるか」
「あい」
「私はこれから阿保を医務室に連れて行く。私が戻るか代わりが来るかするまで席について待機するように。顔は上げていいですよ。では」
みんなが一斉に顔を上げる。教室の中は何かが起こったような痕跡はない。前の扉から先生がオリヴァーを引きずって出ていくのが見えた。
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