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乙女の秘密。
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シーリアが、ダフ商会のご令嬢だと困ることがあるんだろうか。
「ダフ家のお嬢さんってことは、皇女殿下の曾孫じゃねぇか」
「はい」
なんですと?
つまり⋯⋯皇女殿下が公爵家に降嫁して、その娘の公爵令嬢が男爵夫人になり、その娘がダフ商会に嫁いで、シーリアが生まれたと。
いやいや、公爵令嬢が男爵夫人になるっておかしいから。なんだかんだで貴賤婚は推奨されないもの。
「公爵令嬢だった祖母は護衛の騎士と駆け落ちしましたの。それで曾祖父が娘可愛さに、複数持っている爵位のひとつを与えて、騎士を男爵にしたのですわ」
なるほど⋯⋯。男爵は下位貴族だもの、大商会なら嫁ぎ先に不足はない。
「曾祖母は存命ですが、降嫁はしても皇女殿下の位は戴いたままなので、わたくしは皇女殿下の曾孫なのです」
なんかあったら、団長さんの首が飛ぶ。シーリアは一応平民なので命を取られることはないだろうけど、実際問題、社会的には抹殺されるよね。皇女殿下の機嫌を損ねたとして、爪弾きにされて、閑職に追いやられ、そのうち騎士団に籍が無くなるんだろうな。
「おい、ローゼウス嬢、なんか俺の悲しい未来を想像しちゃいねぇか?」
「いえ、三兄様とアリアン様のどちらが、繰り上げて団長になるのかしらとか、思っていませんよ」
「俺がクビになってんじゃねぇか」
なんのことかしら、オホホホ。
「団長様、それも踏まえて、この身騎士団にお預けした方が良いのなら、商会ではなく公爵家への説明をお願いしますわ。わたくしを養女にと言う話もありますのよ」
なんでそんなお嬢様が、魔法学院に入学しようと思ったのかしらね!
「シーリア、なぜ学院に来たの?」
ユン、ぽやんと質問してるけど、それアナタもだからね!
タタンが困ったように微笑んでいる。いくらなんでもお付きが一緒に入学なんて、過保護だなって思ってたのよ。皇族に連なるうえ、唸るほどお金を持ってる大商会の娘じゃ、そうなるか。ローゼウス家のアホな過保護兄様たちとは、理由が違うわね。
「わかった、皇女殿下にお願いに参ろう。お嬢ちゃんを野放しにする方が恐い。皇族の血族ってんなら、今後魔力がドカンと増えるかもしれねぇ」
皇族ってそうなの? ザシャル先生に視線を向けると、頷きが返ってきた。肯定ってことね。
「となると、ローゼウス嬢にもなんか秘密があるんじゃねぇか?」
フィッツヒュー団長が賛成兄様に聞いた。本人いるんだから、直接聞けばいいのに。
「ウチの宝石姫の秘密? なんてこと聞きやがりますか⁈ 可愛い薔薇姫の秘密を暴いて、何しようって言うんですか? はっ、まさか、あらぬことを盾に婚姻を迫るつもりですか⁈ 団長、叩き斬っていいですか⁈」
ほら、言わんこっちゃない。兄様たちって自分から私のことダダ漏れにするのは平気な癖に、相手から質問されると明後日な方向に勘違いして大騒ぎするのよ。
「先生の判断で、開示してください」
三兄様はほっといて、こっちで話しを進めなきゃ終わらないわ。私が知識の宝珠らしいって言うのは先生しか真偽がわからないんだから、お任せしよう。
「いいのですか?」
「はい」
「待て、そこの客員教員! なぜ貴様が薔薇の宝石の秘密を知っている⁈」
ハイハイ。三兄様は無視してくださいね~。
「彼女は知識の宝珠です」
「へぇ、そうかい」
そんだけ? 知識の宝珠って百年ぶりとか言う割に、先生も団長さんも大したことない扱いだわ。十年間、家族にも内緒にしていた前世の記憶、こんなあっさりスルーされるんなら、母様に伝えていてもよかったかしら?
「知識の宝珠⁈ なんだ、それは‼︎ はっ俺の大事な薔薇姫を、その秘密を盾に⋯⋯っもがっ」
アリアンさんありがとう! そのまま残念兄様の口、塞いでおいてくださいな。さすが騎士様、兄の首に上手いことキマってますね!
「百聞は一見にしかずです。小さい方をフィッツヒュー団長に見せてください」
「はい」
小さい方ね。
「〈灯〉」
指の先にぽうっと火がともる。〈消火〉と呟いて消すと、フィッツヒュー団長が難しい顔して見ていた。
「さっきみてぇなのは、たまたまか?」
火柱見たかったの? さすがに建物内部じゃダメでしょう。
「ここでやったら火事ですよ」
「そりゃそうか」
先生に突っ込まれて、ちょっと萎れている。団長さん、そんなに火柱がよかった?
「それにしても聖句が一瞬だな。細かい注釈をつけて範囲を限定するような聖句だと、延々と聞いてる方が眠くなるほど唱えるもんだろうに」
感心するように言われた。長い上に遠回しで曖昧な聖句は、確かに眠くなる。
「火以外もいけるか?」
「試したことがありません」
「せっかくだから、やってみな。水とかどうだ?」
「水柱はダメですよ。誰か器を⋯⋯」
ザシャル先生がちょっと焦った声を出した。先生、私がどんだけ柱が好きだと思っているんですか?
アリアンさんが入り口の外にいた警備担当の騎士さんに何かを言伝すると、すぐにコップが持ち込まれた。透明なガラスだった。この世界の技術じゃ透明なガラスは高価なのよね。壊れたらどうするんだろう。
ともかく手渡されたので、試して見る。
コップってことは飲めるものがいいの? ミネラルウォーターっぽいものか水道水か。
コップに汲んだ一杯の水を想像する。
「〈飲料水〉」
コップの底から音もなく水が湧き出した。
「ダフ家のお嬢さんってことは、皇女殿下の曾孫じゃねぇか」
「はい」
なんですと?
つまり⋯⋯皇女殿下が公爵家に降嫁して、その娘の公爵令嬢が男爵夫人になり、その娘がダフ商会に嫁いで、シーリアが生まれたと。
いやいや、公爵令嬢が男爵夫人になるっておかしいから。なんだかんだで貴賤婚は推奨されないもの。
「公爵令嬢だった祖母は護衛の騎士と駆け落ちしましたの。それで曾祖父が娘可愛さに、複数持っている爵位のひとつを与えて、騎士を男爵にしたのですわ」
なるほど⋯⋯。男爵は下位貴族だもの、大商会なら嫁ぎ先に不足はない。
「曾祖母は存命ですが、降嫁はしても皇女殿下の位は戴いたままなので、わたくしは皇女殿下の曾孫なのです」
なんかあったら、団長さんの首が飛ぶ。シーリアは一応平民なので命を取られることはないだろうけど、実際問題、社会的には抹殺されるよね。皇女殿下の機嫌を損ねたとして、爪弾きにされて、閑職に追いやられ、そのうち騎士団に籍が無くなるんだろうな。
「おい、ローゼウス嬢、なんか俺の悲しい未来を想像しちゃいねぇか?」
「いえ、三兄様とアリアン様のどちらが、繰り上げて団長になるのかしらとか、思っていませんよ」
「俺がクビになってんじゃねぇか」
なんのことかしら、オホホホ。
「団長様、それも踏まえて、この身騎士団にお預けした方が良いのなら、商会ではなく公爵家への説明をお願いしますわ。わたくしを養女にと言う話もありますのよ」
なんでそんなお嬢様が、魔法学院に入学しようと思ったのかしらね!
「シーリア、なぜ学院に来たの?」
ユン、ぽやんと質問してるけど、それアナタもだからね!
タタンが困ったように微笑んでいる。いくらなんでもお付きが一緒に入学なんて、過保護だなって思ってたのよ。皇族に連なるうえ、唸るほどお金を持ってる大商会の娘じゃ、そうなるか。ローゼウス家のアホな過保護兄様たちとは、理由が違うわね。
「わかった、皇女殿下にお願いに参ろう。お嬢ちゃんを野放しにする方が恐い。皇族の血族ってんなら、今後魔力がドカンと増えるかもしれねぇ」
皇族ってそうなの? ザシャル先生に視線を向けると、頷きが返ってきた。肯定ってことね。
「となると、ローゼウス嬢にもなんか秘密があるんじゃねぇか?」
フィッツヒュー団長が賛成兄様に聞いた。本人いるんだから、直接聞けばいいのに。
「ウチの宝石姫の秘密? なんてこと聞きやがりますか⁈ 可愛い薔薇姫の秘密を暴いて、何しようって言うんですか? はっ、まさか、あらぬことを盾に婚姻を迫るつもりですか⁈ 団長、叩き斬っていいですか⁈」
ほら、言わんこっちゃない。兄様たちって自分から私のことダダ漏れにするのは平気な癖に、相手から質問されると明後日な方向に勘違いして大騒ぎするのよ。
「先生の判断で、開示してください」
三兄様はほっといて、こっちで話しを進めなきゃ終わらないわ。私が知識の宝珠らしいって言うのは先生しか真偽がわからないんだから、お任せしよう。
「いいのですか?」
「はい」
「待て、そこの客員教員! なぜ貴様が薔薇の宝石の秘密を知っている⁈」
ハイハイ。三兄様は無視してくださいね~。
「彼女は知識の宝珠です」
「へぇ、そうかい」
そんだけ? 知識の宝珠って百年ぶりとか言う割に、先生も団長さんも大したことない扱いだわ。十年間、家族にも内緒にしていた前世の記憶、こんなあっさりスルーされるんなら、母様に伝えていてもよかったかしら?
「知識の宝珠⁈ なんだ、それは‼︎ はっ俺の大事な薔薇姫を、その秘密を盾に⋯⋯っもがっ」
アリアンさんありがとう! そのまま残念兄様の口、塞いでおいてくださいな。さすが騎士様、兄の首に上手いことキマってますね!
「百聞は一見にしかずです。小さい方をフィッツヒュー団長に見せてください」
「はい」
小さい方ね。
「〈灯〉」
指の先にぽうっと火がともる。〈消火〉と呟いて消すと、フィッツヒュー団長が難しい顔して見ていた。
「さっきみてぇなのは、たまたまか?」
火柱見たかったの? さすがに建物内部じゃダメでしょう。
「ここでやったら火事ですよ」
「そりゃそうか」
先生に突っ込まれて、ちょっと萎れている。団長さん、そんなに火柱がよかった?
「それにしても聖句が一瞬だな。細かい注釈をつけて範囲を限定するような聖句だと、延々と聞いてる方が眠くなるほど唱えるもんだろうに」
感心するように言われた。長い上に遠回しで曖昧な聖句は、確かに眠くなる。
「火以外もいけるか?」
「試したことがありません」
「せっかくだから、やってみな。水とかどうだ?」
「水柱はダメですよ。誰か器を⋯⋯」
ザシャル先生がちょっと焦った声を出した。先生、私がどんだけ柱が好きだと思っているんですか?
アリアンさんが入り口の外にいた警備担当の騎士さんに何かを言伝すると、すぐにコップが持ち込まれた。透明なガラスだった。この世界の技術じゃ透明なガラスは高価なのよね。壊れたらどうするんだろう。
ともかく手渡されたので、試して見る。
コップってことは飲めるものがいいの? ミネラルウォーターっぽいものか水道水か。
コップに汲んだ一杯の水を想像する。
「〈飲料水〉」
コップの底から音もなく水が湧き出した。
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