痴漢冤罪に遭遇したニートな俺のダイハードな48時間

ご隠居

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田島はイギリス人の元客室乗務員失踪事件にも関与していた疑いが浮上する

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「大友商事と言えば…、田島が草壁忍に対して就職の口を利いてやった…、少年院上がりの草壁忍を押し込んだ会社じゃありませんか…」

 俺は確かめるように尋ねた。

「ああ、正しくその会社だ」

「その会社から田島は5億もの金をゆすり取ったと?」

「そういうことになるだろうな」

「ですが…、部長の話では田島が5年前に開設した三つ葉中央銀行のその口座に大友商事が5億もの金を振り込んだ、となれば当然、渋谷税務署にしても5億もの金を手に入れた田島を追及すると同時に、大友商事に対してもどうしてこんな大金を田島に振り込んだのか、そう追及したのではありませんか?何しろ田島は競馬で得た金だと主張したわけですから…」

「勿論、追及したそうだ」

「それに対して大友商事は何と答えたんです?」

「借りた金を返しただけだと主張したそうだ…」

「借りた金を返したぁ?」

「ああ。大友商事では事業資金として田島から5億の金を借りた…、田島が競馬で5億も稼いだのを知ったので、それで事業資金として借り受け、そして返済した…、それこそが5億の振り込み…、三つ葉中央銀行にある田島の口座への振り込みだと主張したそうだ」

 一応、5億もの金を競馬で稼いだとする田島の主張と整合性はある。だが、

「そんな馬鹿な話がありますか…」

 俺は思わずそう反論した。

「事業資金と言えば普通は銀行から借り受けるものでしょう…、それを何で見ず知らずの相手から、それも個人から企業が金を借り受けるんですか…、仮にも大友商事は聞くところによると、一流企業でこそないものの、一流半の会社でしょうに…」

 俺の反論に押田部長は「ああ」と答えると、さらに驚くべきことを口にした。

「付け加えるなら大友商事、と言うよりは大友グループはあえて一流企業を目指さないと言うべきだろうな…」

「大友グループ、ってことは大友商事はグループの一企業だと?」

「そういうことだ」

「大友グループって…、グループって名がつくぐらいですから、財閥系なんですか?」

「そうだ。それも無借金経営を旨としているグループ企業だ」

「無借金経営っ!?」

「ああ。それこそが一流企業を目指さない理由だ…」

「ああ…、一流企業を目指すとなれば当然、資本を受け入れる必要がある…、つまり金を借りる必要性、っつか金を借りる場面も出て来る、って?」

「そういうことだ。だから大友グループの資産状況そのものは非常に良い。資産だけで言うなら一流企業だろう。但し、今も言った通り、よそから資本を受け入れることをしないので、あえて一流企業にならないわけだ…」

「ああ。つまり典型的な同族企業というわけですね…」

 よそから資本を受け入れないとは、つまりは同族企業であることもあらわしていた。

「そういうことだ」

「なら、尚の事、そんな大友グループの一企業である大友商事が田島から金を借りるなんておかしいじゃないですか。よそから資本は受け入れないとする大友グループのその旨、宗旨、お題目とも言える無借金経営に明らかに反する行為でしょう…、大友グループがそれを許すとも思えませんが…、さしずめ大友グループの総帥とも言うべき人間が…」

「一応、評議会の議長という名称だが、まぁ、総帥であることに変わりはない。そう。吉良君の言う通り、その総帥が許すはずがない」

「だったらおかしい…」

「ああ、おかしい。渋谷税務署の署員も…、例の統括国税調査官もその点を問い質したらしいんだが…」

「やはり大友商事の答えは変わらなかったと?」

「そうだ。それならばと、大友グループの評議会の議長に聞いても良いかと、尋ねたそうだ」

「つまりは脅したわけですね?税務署員は…」

「まぁ、そういうことだな」

「それに対して大友商事サイドは…、まぁ、何となく分かりますけど…、どうぞどうぞと、すすめたんじゃないですか?総帥に尋ねても良いかと、そう脅すように尋ねた税務署員…、統括国税調査官に対して…」

「そういうことだ。それで統括国税調査官もこれはもしかしてと、大友商事は田島から5億もの金を借りたと主張しているが、実際には5億もの金を田島にくれてやったに違いなく、そのことに関して大友グループの総帥も承知しているのではないかと、そう直感したそうだ」

「なるほど…、それで統括国税調査官は…」

「一応、律儀にも本当に大友グループの評議会議長、つまりは総帥に尋ねたそうなんだが…」

「結果は案の定…、総帥にしてもやはりそれを…、競馬で5億もの金を稼いだ田島からその5億の金をいったんは事業資金として借り受け、そして返済の意味で田島の口座に5億もの金を振り込んだのだと、大友商事の証言を裏付けるものだったらしく…、統括国税調査官が担当の副署長に相談したのはその直後だったんだよ…」

「それから確か、東京国税局に相談をして、という話でしたね」

「そういうことだ」

「それで東京国税局は…、リョウチョウでしたっけ?そいつは…」

「良く覚えているな…、そう、リョウチョウ…、資料調査第一課…、主に個人課税担当の課税第一部の資料調査第一課に加えて、法人課税担当の課税第二部の資料調査第一課も重大な関心を示したそうだが…」

「法人…、ああ、大友商事は会社ですから、それで…」

「そうだ」

「でも結局、国税局長の鶴の一声でもみ消されたと?」

「いや、正確には天の声でもみ消されたと言うべきか…」

「天の声?」

「ああ。国税庁長官だよ…」

「マルサの親玉が?」

「そうだ」

「どうしてまた…」

「大友商事…、大友グループは確かに、よそから資本を受け入れない典型的な同属企業だが、しかし、まったく外部からの、それこそ血を入れないわけじゃない…」

「外部からも役員を迎え入れることがあると?」

「そういうことだ」

「ははーん…、さしずめ大蔵…、いや、もう財務か、それに国税の連中…、退職後のそいつらを役員として迎え入れていると…、つまり大友グループは財務・国税当局の大切な天下り先だと?」

「そういうことだ。だから大友グループならぬ大蔵グループだ、なぞと周囲から叩かれることもあるらしいが、それはともかく、その大友グループが財務・国税当局の天下り先ともなれば、自然と調査の矛先も鈍るものだ」

「確かに…、それはそうでしょうねぇ…、最近では天下り先の確保にも一苦労らしいですからねぇ…」

「ああ。周囲の目が厳しいというのもあるが、それ以上に企業の体力がそれを…、天下りを許さないという側面があるからな…」

「天下りを受け入れるだけの経営的な余裕はない、と…」

「そういうことだ。だがそんな中でも大友グループは無借金経営を旨としているだけに…」

「非常に資産が潤沢であり、今でも天下りを受け入れるだけの体力があると…」

「そういうことだ」

「なるほど…、それなら財務・国税当局にしても大事な天下り先を失いたくはないでしょうから、部長が仰る通り、調査の矛先も鈍るというものですねぇ…」

「そういうことだ」

「ともあれ、田島としてはさらに大友商事から2億7500万もの金を引き出した…、となれば田島は先の5億と合わせて7億7500万もの金を引き出したことになりますよね?大友商事から…」

「そういうことになるな」

「だとしたら…、田島はよほどにデカいネタを握っているんじゃないですか?それこそ…、大友グループ総帥の倅、いや、総帥というからにはそれなりに年がいってるでしょうから、倅ではないな…、そう、孫だ…、孫の不祥事を握っており、それをネタに大友グループ、大友商事をゆすったのではありませんかねぇ…」

「なるほど…、だとしたらよほどにデカいネタということになるな…」

「ええ。何しろ7億7500万ものネタですからねぇ…」

 俺がそう呟くと、「あの…」と徳間事務官が声を上げた。徳間事務官は田林主任検事付であり、今まで押田部長と俺とのやりとりを田林主任検事らと一緒に黙って聞いていた。

「何だね?」

 押田部長が徳間事務官を促した。

「あの…、大友グループ、大友商事に聞き覚えがあるのですが…」

「君が?」

「はい」

「どういうことだね?」

「はい…、私、5年前まで刑事部で…、本部事件係の検事付の事務官として働いておりまして…」

「ああ、そうだったな…」

 押田部長は思い出したのか、そう声を上げると、「それで?」と先を促した。

「5年前に発生した、エリー・ホワイト失踪事件は覚えておいででしょうか…」

 徳間事務官は押田部長にそう尋ねた。問われた押田部長は暫し、考え込むそぶりを見せた後、思い出したらしく、
「ああ…、あの事件か…」と声を上げた。

「確か、遺体なき殺人事件と、その当時は随分と報道されたはずだが…」

 押田部長はそう付け加えると、徳間事務官はうなずいた。

「あの…、具体的にはどんな事件なんです?」

 俺は控え目に尋ねた。すると徳間事務官は快く教えてくれた。

「イギリス人の元客室乗務員が失踪した事件です」

「客室乗務員…、ああ、スチュワーデス?」

「客室乗務員です」

 徳間事務官は笑顔で、そして断固とした響きでそう繰り返したので、恐れをなした俺は、「ああ、客室乗務員さんね」と白旗を掲げた。

「で、その失踪したスチュ、じゃなくて客室乗務員がその、エリー・ホワイトだと?いや、元客室乗務員ってことはその時は…、失踪当時はもう…」

「ええ。六本木のクラブで働いておりました」

「クラブ…、イギリス人なのに日本のクラブで働けたりするんですか?」

 俺は無知をさらけ出した。

「就労ビザがあれば可能です」

「それじゃあそのエリーさんも就労ビザを得て、日本の…、六本木のクラブで働いていたと?」

「そうです」

「それでそのエリーさんが失踪した…」

「そうです。いつもは真面目に出勤し、これまで一度も無断欠勤したことのないエリーが勤務時間になっても姿を見せないので、心配になった同僚がオーナーとも相談の上、エリーの自宅アパートへと向かったそうです」

「もしかして急病でのたうち回っているかも知れない…、そう心配したわけですね?」

「そういうことです。それでそのアパートの管理人に事情を説明した上で部屋の鍵を開けてもらったところ…」

「エリーさんはいなかったと…」

「そうです」

「それでオーナーや同僚たちはどうしたんです?」

「やはりエリーが無断欠勤して、それこそ男と遊び歩いているとは考えにくく、そこでエリーの雇用主であるクラブのオーナーが六本木を所管する麻布警察署に捜索願を出しました」

「雇用主でないと、捜索願は出せないから、ですか?」

「そうです」

「それで麻布警察署は…」

「当初は動きませんでした」

「どうしてです?」

「麻布警察署は六本木の他にも大使館が立ち並ぶ麻布も管轄しており、また、暴力団の組事務所も管内にあることから忙しい警察署です。それで…」

「エリーさんがいなくなったから探して欲しいとの捜索願が隅に追いやられてしまったと?」

「そういうことです」

「でも実際には事件として警察が動き始めたわけですよね?」

「ええ。事態が動いたのは警察…、麻布警察署の怠慢に業を煮やしたクラブのオーナーがイギリスにいるエリーのご両親にも事情を伝えたところ、エリーのご両親は直ちに来日されて、そして駐日英国大使館に駆け込みました…」

「英国大使に助けを求めたと?」

「そういうことです。英国大使は両親の訴えに耳をかたむけると直ちに動きました」

「と言うと?」

「時の国家公安委員会委員長…、まぁ、警察の親分でありますが、その国家公安委員会委員長の東田氏に相談、そして東田氏も英国大使からの相談とあらば無視するわけにもゆかず、まずは警視庁本部に対しては警察庁経由でエリーの件を伝え、同時に麻布警察署を視察名目で訪れ、エリーの事件に早急に取り掛かるように命じたそうで…」

「それでようやく警察も重い腰を上げたと…」

「そういうことです」

 俺は鼻白んだ。

「それで具体的には…、麻布警察署に帳場でも立てられたとか?」

 俺は推理小説の聞きかじり程度の知識でそう尋ねた。

「ええ。警視庁本部では殺人、あるいは誘拐の可能性もあるということで刑事部長名で麻布警察署に対して特捜本部開設の電報を送ると同時に、刑事部捜査一課の、それも殺しの捜査を専門に扱う第五強行犯捜査の殺人犯捜査第七係と共に、誘拐を専門に扱う特殊犯を…、第一特殊犯捜査の特殊犯捜査第一係を麻布警察署に送り込みました」

「徳間さんも麻布警察署に?」

「はい。本部事件係検事に附属する事務官として検事と共に麻布警察署に臨場しました」

「そうですか…、で、捜査の方は…」

「まず失踪前のエリーの足取りを徹底的に解明することに重点が置かれました。同時に鑑捜査…、エリーの人間関係についても…」

「まぁ、いわゆる、流しの犯行、でしたっけ?そうじゃなさそうですからねぇ…」

「ええ、正しく。それでまず、エリーの足取りについてですが、これは警視庁本部刑事部に附置されている捜査支援分析センターの協力も得、エリーの住むアパート周辺の監視カメラ、及び駅周辺のカメラやNシステムを徹底的に洗い出した結果、エリーの足取りが解明されました」

「エリーさんはどこに…」

「三浦半島にある大友グループの保養所に向かったことが判明しました」

「保養所、ですか?」

「ええ、と言っても実際には大友一族の別荘ですが…」

「そこで大友グループ総帥の馬鹿息子、いや、馬鹿孫がエリーさんを出迎え、そして殺したと?」

「捜査本部ではそう見ておりました…」

 徳間事務官はあくまで慎重な口ぶりに終始した。

「それは…、やはり犯そうとして…、エリーさんをレイプしようとして、当たり前ですが、エリーさんは抵抗して、それで殺してしまった…、そういうことですかね…」

「ええ。捜査本部に詰めていた刑事たちも…、本部の刑事にしろ所轄の刑事にしろ、皆、そう見ていました…」

「それにしてもエリーさんはどうして大友グループの保養所に…、以前から大友グループ…、大友一族の誰かと交際でもしていたとか…、あるいはエリーさんが勤める六本木のクラブに客として来ており、それでエリーさんと顔馴染みとなり、別荘におびき寄せて、レイプしようとしたとか…」

「正にその通りです」

「と言うと?」

「鑑捜査の結果、大友グループ総帥…、評議会議長の大友龍三郎の孫に当たる龍二が事件前…、エリーが失踪する前から度々、六本木にあるそのクラブを訪れては、エリーを贔屓にしていたそうで、エリーを指名していました」

「じゃあ、もうそいつが犯人で決まりじゃないですか…」

「ええ。捜査本部でもその大友龍二を任意で引っ張ろうということで、実際、大友龍二に麻布警察署まで任意同行を求めて取り調べたのですが…」

「さしずめ…、大友龍二はエリーの失踪について知らぬ存ぜぬを押し通した、と?」

「そういうことです。まぁ、捜査本部としてもエリーの遺体が出てこない以上、大友龍二に知らん存ぜぬを決め込まれれば、それ以上、攻め手がないわけでして…」

「でも…、仮に大友龍二がエリーさんをその保養所…、別荘で殺害したとすれば何らかの痕跡が…、殺しの痕跡があると思うんですがねぇ…、例えば、ですよ?遺体をバラバラにしてどこかに棄てた場合には当然、ルミノール反応でしたっけ?そいつが反応すると思うんですがねぇ…」

「ええ。勿論、捜査本部もそう見て…、何しろ遺体がないとなれば、バラバラにしてどこかに埋めたのかもと、そう考えるのが捜査の常道ですので、それで神奈川県警とも協力の上、三浦半島にあるその保養所…、別荘を徹底的に捜索しました。ですが…」

「ルミノール反応はなし、と?」

「ええ。いや、ルミノール反応のみならず、エリーがいたという証拠すら見つけることは不可能でした…」

「それって…、例えばエリーさんの髪の毛や、あるいは指紋すら見つけられなかったと?」

「そういうことです」

「でも…、髪の毛や指紋の採取は百歩譲って素人でも綺麗に片付けるのも可能だとしても、ルミノール反応を誤魔化す、っつか反応させないほどに綺麗にするのは不可能では?」

「その通りです。これは後で分かったことですが…、神奈川県警の捜査によって明らかになったことですが、事件後に…、エリーが失踪を遂げたその翌日と思しき日に…」

「要は殺した翌日、って意味ですよね?」

 俺があけすけに尋ねると徳間事務官はさすがに嫌な顔色を浮かべたものの、実際、徳間事務官自身もそう思っていたので、「ええ、まぁ…」と頷くと先を続けた。

「その翌日ですが別荘に清掃業者が入っております…」

「清掃業者…」

「ええ。やはり大友グループ傘下の清掃業者でして、主にホテルの清掃を請け負っておりまして…」

「それじゃあ清掃のプロなわけだ…」

「そういうことです。ですからそんな清掃のプロの手に掛かれば…」

「殺した痕跡を…、とりわけルミノール反応を無効化するぐらいに綺麗に掃除してくれると…、つまりは証拠を綺麗に消し去ったと…」

「その可能性が高いと思われます…」

「まぁ、仮に龍二がエリーさんを殺した後、風呂場で遺体をバラバラにしたところで、一応、バラバラにする際に飛び散ったであろう血は綺麗にシャワーで流したはずでしょうから…、他にも例えば殺した際に床に血の痕が…、血が滴り落ちるか何かしたところで、やはりフキンかティッシュで拭い取ったでしょうから、清掃業者にしてもよもやそこで人殺しが行われたなどとは思わなかったでしょう…」

「ええ。やはり捜査本部はそういう見立てでした…」

「いや、待てよ…、だとしたら…、清掃業者が入ったとしたら…、龍二が呼び寄せたからだろうが、それなら清掃業者が来る前までに遺体を始末したのでは…、少なくとも遺体を別荘の外に持ち出さないと、清掃業者の目に触れてしまうわけですから…」

「その通りです」

「と言うと?」

「やはり別荘に清掃業者が入る前日…、つまり…」

「龍二がエリーさんを殺した日…、その日にエリーさんの遺体を別荘から持ち出し、どこかに遺棄したと?」

 俺が先を促すと、徳間事務官はやはり嫌な顔色を浮かべながらも、「ええ」と答えた。

「但し、龍二ではありませんが…」

「えっ?」

「その日…、午後7時過ぎですが、別荘の監視カメラの映像から別荘の表門に一台のワゴン車が停車し、そして中から…、運転席から作業着姿の男が降りて来るなり、別荘へと入っていく姿が捉えられておりました…」

「別荘の監視カメラの映像…」

「ええ」

「ってことはエリーさんが入る姿も…」

「やはり捉えられておりました。ちなみにその前には龍二が別荘に入る姿も…、但し、エリーが出て来る姿は映っておりませんでしたが…」

 それは生きて出て来る…、そういう意味であろう。

「…ともあれ、その男が?」

「ええ。恐らくはその男がエリーの遺体を、それも何度かに分けてワゴン車に積み込んだものと思われます…」

「何度かに分けてって、それはつまり…」

「ええ。恐らくは切断遺体でしょう…、一応、新聞紙のようなもので包装されてはおりましたが…」

 徳間事務官も俺に倣ってか、身も蓋もない言い方をした。

「それじゃあ、こういうことですか?龍二はエリーさんを殺した後でその男を呼び寄せたと…、いや、それだけじゃないな…、恐らくは龍二はその男に対して自分がしでかしたこと…、エリーさんを殺したことを打ち明け、遺体をどう処理すれば良いか相談したんではないでしょうか…、それに対して男はエリーさんをバラバラにしろ。それも風呂場でバラバラにしろ。俺が行くまでにそうしろと、そんな風に命じたんじゃないでしょうか…」

「なるほど…」

「それで男が別荘に着いた頃には…、ワゴンで乗り付けた頃には既に龍二はエリーさんの遺体をバラバラにし終えており、男はあらかじめ用意したに違いない新聞紙でもってその遺体を…、小さくなった遺体を新聞紙に包んでは別荘から出て、別荘の前に停車したワゴン車へと積み込む…、その作業を繰り返してすべての遺体をワゴン車に積み込み、そしてどこかに遺棄した…」

「捜査本部でもやはりそう見ていました…」

「ああ。それから男はさらにすぐに清掃業者を入れて徹底的に掃除をさせるようにとも命じたはずです。とりわけ風呂場を…」

「ええ。そう思われます…」

「ところでそのワゴン車の足取りは…、それさえ掴めれば遺体を見つけるのも…」

「ええ。Nシステムにでも記録されていれば、遺体を見つけるのも…、遺体の遺棄現場を見つけるのも容易だったでしょう…」

「ってことはもしかして…」

「ええ…」

「Nシステムを巧みに避けてどこかに走り去ったとか?」

「そうとしか考えられませんでした…、ですが、Nシステムを巧みに避けて車を走らせるなどという芸当は…」

「素人さんには無理でしょうが…、しかし、これが刑事ならば可能かも知れない…」

 俺がそう言いかけると、

「それこそが…、遺体を遺棄したのが田島だと言うのかね?吉良君は…」

 押田部長がそう口を挟んだので、俺は押田部長の方を振り向いて頷いた。
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