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特別管理A事案 ~東京国税局査察部査察管理課長・高橋良和からの報告~
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【午後8時5分】
大川検事と中川事務官までが去ると、特捜部長室には部屋の主の押田部長と俺の二人きりとなった。
「それじゃあ俺もこれで…」
帰ろうとする俺を、「吉良君」と押田部長が呼び止めた。
「はい?」
「帰るのかね?」
「ええ。もう捜査は大詰めのようですから…」
捜査は大詰め…、帰りたいための方便ではなく、実際そのように思えた。
「確かにそうかも知れんが、やはり今帰るのは…」
「危険、ですか?公安に狙われるから?」
「その可能性が決してなきにしもあらず、だ」
「だからまた、特捜部長室に泊まれと?」
「嫌かね?」
「別に嫌じゃありませんが…」
「なら今夜も泊まっていかないかね」
「えっ…」
「まぁ、無理強いはしないが…、いや、できないがね」
確かにその通りだが、そう言われると元来がひねくれ者の俺である。それなら泊まってやろうかと、そんな思いに傾きつつあった。それに今から満員電車に揺られて家に帰るのも億劫であった。まさか車で家まで送ってくれとも頼み難い。
「あの、それならせめて電話をかけさせてもらえませんかね…、さすがに二日も帰らないとなると、父親にその旨、一報、入れたいので…」
俺はそう言うと、相変わらず特捜部長室に置き去りにされていた…、見事な調度の特捜部長室には明らかに不似合いな、古本、それも漫画を詰め込んだバッグの中から携帯電話を取り出そうとした。
すると俺の行動を察した押田部長が、「ああ。それならそこの卓上電話を使うと良い…」とすすめてくれた。
俺はバッグを開けようとする手をとめると、「良いんですか?」と聞き返した。
「ああ。何しろ俺のわがままで泊まってもらうわけだからな。これぐらいは当然だよ」
「そりゃどうも…」
「それに…、君の家の電話…、固定電話にはナンバーディスプレイの機能はついているかね?」
「ナンバーディス…、ああ、架けた側の電話番号が表示されるあれですか?」
「そうだ。そのあれだ」
「ああ…、その機能ならついてますけど…」
俺は普段、あまり固定電話を使わないので、それこそ自宅の固定電話のことにもかかわらず、思い出すようにそう言った。
「それならこの卓上電話からかければ、君の自宅の固定電話には地検の電話番号が表示されるはずだ」
「そうなんですか…」
「ああ。だから地検に泊まると言っても、疑われないだろう…」
「別に父は俺がどこに泊まろうと、一々、詮索するような人ではありませんがね…」
俺は苦笑しながらそう答えると、「それでは…」と押田部長の好意に素直に甘え、卓上電話の受話器に手を伸ばすと、受話器を上げて自分の電話番号をプッシュした。
そしてそれから数コールの後、父親が出た。
「もしもし?」
俺の耳に父の訝しげな声が聞こえた。それはそうだろう。何しろこの番号は登録されていないからだ。
「ああ。俺だけど…」
俺がいきなりそう答えると、「俺だけどって、まさかオレオレ詐欺じゃないよな?」と父から真面目にそう問い返された。
「いや、紛れもなく愚息の尊氏だ。嘘だと思うなら、俺の携帯にかけてもらっても構わないが…」
「いや、お前だと分かった。だが、お前、どこから電話をかけているんだ?」
「ああ。信じられないかも知れないが、東京地方検察庁から架けているんだ…」
「東京地方検察庁だと?」
「ああ。信じられないかも知れないが、後でこの番号を父さんの方で調べてもらえれば…、電話帳を繰るなり、ネットで調べるなりしてもらえれば、地検の電話番号だということはすぐに分かるはずだ…」
「いや、嘘だとは思わんが…、それにしてもどうして地検に?」
「ああ。心配しないで。事件の参考人…、協力者として泊まるだけだから…、決して被疑者としてお泊りするわけじゃないからそこは安心して…」
「いや、別に俺はそれでも一向に構わんが…、いや、そういうことなら分かった。気をつけてな…」
父は案の定、俺が思った通り、一々、詮索しなかった。
俺が電話を終えると、「お父上からのお許しは出たかね?」と背後から押田部長にそう問われた。俺は押田部長の方へと振り返ると、「ええ」と答えた。
「それは良かった…、ああ、それから間もなく高橋査察管理課長が訪れるだろう…」
押田部長にそう告げられて俺は、「ああ、そうだった…」と思い出した。
「あの、俺がいても構わんのですか?」
俺はさすがに遠慮しようとした。何しろ今の俺の格好は昨日と変わらずにパーカー姿のままだったからだ。そんな格好で、いや、それ以前に一介のニートが天下の東京国税局査察部の査察管理課長を出迎えるなど、おこがましいことこの上ないだろう。
だが押田部長はいたって平然、端然としていた。
「ああ。勿論、構わんよ。それに高橋さんもそんなことを一々、気にするような御仁ではないからな…」
押田部長はそう断言すると俺にソファをすすめたので、俺は諦めてソファに座った。
【午後8時11分】
俺がソファに座ると、まるでそれを見計らったかのように特捜部長室のドアがノックされた。それで押田部長が、「どうぞ」と声をかけるとドアが開かれ、するとドアの外には見知らぬ男が立っていた。
「あれが高橋良和査察管理課長か…」
俺はそう見定めるや、咄嗟にソファから立ち上がり、高橋査察管理課長を出迎えた。
一報、押田部長は親しげな様子で自らその男、もとい高橋査察管理課長の元へと歩み寄ると、部屋の中央、ソファへといざない、そしてソファに座るようすすめた。
「あなたが…、吉良さんですか…」
高橋査察管理課長はソファから立ち上がっていた俺とテーブル越しに向かい合うなり、そう尋ねた。いかにもその通りであったので、「吉良尊氏です」と俺はそう自己紹介すると頭を下げた。すると高橋査察管理課長も同様に、
「東京国税局査察部、査察管理課長の高橋良和と申します…」
そう自己紹介したのであった。高橋査察管理課長は頭に白いものが混じった、それでいて中々に血色が良く、端整な顔立ちをしていた。頭の良い人間はそうじて美男美女になる傾向があった。してみると、俺は頭が悪いのでブ男ということになる。
「吉良さんのお噂、いや、ご活躍はこちらの押田部長からも聞いておりますよ…、何でも例の、殺されてしまった永野都議の事件では大活躍だったとか…」
押田部長はそこまで打ち明けていたのかと、俺は頭をかいた。
「いや、活躍などと…、特捜検事さんが頑張ったお蔭ですよ。俺はただそのお手伝いをしただけで…」
謙遜ではなく、実際その通りであったが、高橋査察管理課長はどうやらそれを謙遜だと受け取ったらしい。
「まぁ、どうぞおかけになって下さい…」
押田部長が高橋査察管理課長にソファに座るようすすめると、高橋査察管理課長も素直に腰をおろし、それで俺も腰をおろした。そして押田部長は俺の隣に座り、俺と共にテーブル越しで高橋査察管理課長と向かい合った。
「早速ですが…、お電話によりますと、国見たちの口座は特別管理A事案だそうですね」
押田部長はいきなりそう切り出した。「特別管理A事案」なる聞き慣れない言葉に俺は思わず、繰り返した。
すると押田部長は無知な俺の存在に気付いたようで、「ああ」と答えるとその「特別管理A事案」について説明してくれた。
押田部長曰く、査察部では金融犯罪に絡んだ事件に必ずと言っても良いほどに名前が取り沙汰される政治家や経営者、あるいは暴力団組長らの資料を「特別管理事案」として保管しており、その中でも特に最重要人物の資料こそが
「特別管理A事案」
であり、「特別管理A事案」の資料ともなると部内でも閲覧できる者は限られており、高橋査察管理課長はその、「特別管理A事案」の資料にアクセスできる数少ない人間の一人とのことであった。
「それじゃあ…、国見たちが…、国見たちの資産状況について特別管理A事案に指定されているということは、やはり国見たちの資産状況について何か、重大な不正があると、査察部では睨んでいるわけですか?」
俺がそう尋ねると、「ええ、その通りです」との高橋査察管理課長からの即答が聞かれた。
「それは一体…」
「先頃…、正確には元警察庁長官にしてカジノ管理委員会委員の国見孝光が委員長に昇格し、さらに前警察庁長官の城崎家光、前警視総監の河井良昭、そして前警察庁刑事局長の垣内孝治の3人がカジノ管理委員会委員に内定した日の翌日ですが…」
「ああ。それなら…、押田部長が警視総監の小山から浅井さんの告発状…、今は東京高検の検事長の藤川がかつて、最高検の刑事部長時代から次長検事時代にかけて調査活動費を横領していたと、警視庁捜査二課に提出していたその告発状の中身について教えられた日の翌日ということですね?」
俺は時系列を確かめるように尋ねると、既に押田部長よりこの間の経緯を聞かされていた高橋査察管理課長は、「その通りです」と即答した。
「それでその翌日に何かあったと?」
「ええ。国見たち…、国見と城崎、河井、垣内の4人は外資系の銀行…、オーストラリア・アンド・ニュージーランド・バンキング・グループ・リミテッド…、いわゆるオーストラリア・ニュージーランド銀行の東京支店に共有名義の口座を開設しました…」
「共有名義の口座、ですか?」
「ええ」
「そんなことが可能なんですか?」
「可能です」
「そうですか…、でもそれが何か?」
「問題は額です」
「額…、預金高ってことですか?」
「そうです」
「国見たちは一体、いくら預けたと言うんです?恐らくは高額なんでしょうが…」
「ええ。その通りです。その額なんと6億です」
「6億っ!?」
俺は素っ頓狂な声を上げ、押田部長にしても俺のようにそんなはしたない声こそ出さなかったものの、それでも目を丸くした。
「警察官僚ってのはそんなに儲かるものなんですか?」
俺がそう疑問の声を上げると、高橋査察管理課長は頭を振った。
「とんでもない。そんなに儲かる商売のはずがない…」
「ですよね…、ならどうしてそんなに…、4人の共有名義の口座なわけですから、1人頭、1億5000万ずつ出し合って、ってことですかね…、それでも多いな…」
「ええ」
「って、どうしてそのことを高橋さん…、いや、高橋査察管理課長がご存知なので?」
俺が尋ねると、「高橋で結構ですよ」と高橋査察管理課長はそう告げると、俺の疑問に答えてくれた。
「証券取引等監視委員会より東京国税局に対して通報がなされたのですよ」
「証券取引?でも国見たちは…」
「ええ。確かに国見たちはあくまで外資系の銀行に共有名義の口座を開設し、一見、証券取引のようには見えませんが、しかし、オーストラリア・ニュージーランド銀行では2年前に証券ライセンス…、証券業の許可を得まして、それで去年から正式に証券業界にも参入いたしまして、それで…」
「ああ。それでオーストラリア・ニュージーランド銀行も証券取引等監視委員会の監視下に置かれることになったと?」
「そういうわけです」
「それでその証券取引等監視委員会がオーストラリア・ニュージーランド銀行に国見たちが多額の預金を…、6億もの預金をしたそのことを把握して、東京国税局に通報したと…」
「結果から見ればそういうことになります…」
「結果から見れば?」
俺は首をかしげた。
「ええ。実を申し上げますと、我々…、東京国税局のそれも査察部に通報してくださいましたのは証券取引等監視委員会の委員の一人でして…」
「その口ぶりだとまるで…、委員長は通報に反対していたようなそれですねぇ…」
俺が思わずそんな感想を漏らすと高橋査察管理課長は目を丸くした。
「その通りです。いえ、本来ならば証券取引等監視委員会がこの手の情報を把握した場合には我々、国税…、マルサと同時に、地検にも通報するものなのです」
「そうなんですか…、って、それなら当然、地検の特捜部にも…、押田部長の耳にも届いて良いはずですよね…」
俺は押田部長の方を見た。すると押田部長は頭を振った。それも当然であった。何しろ押田部長は国見たちの資産状況を尋ねるべくこうして高橋査察管理課長を頼ったわけで、仮に国見たちの資産状況を、すなわちオーストラリア・ニュージーランド銀行に共有名義の口座を開設した挙句、6億もの大金を預け入れていたことを知っていれば、わざわざ高橋査察管理課長を頼るまでもないからだ。
「それじゃあ…、証券取引等監視委員会は地検には通報しなかったと?」
「いえ、それどころか地検にも、マルサにも通報する必要はないと、委員長が委員に対してそう断を下したそうです」
「そんな…、そんな馬鹿なことが許されるんですか?」
「ええ。委員の一人も納得がゆかず、それでその委員は…、民間出身の委員でして、名前の方はご容赦を…、その委員が我々、査察部…、マルサと同時に地検にも通報したそうです…」
「地検って…、勿論、東京地検ですよね?」
「ええ、勿論。何しろ国見たちが共有名義の口座を開設したのは東京支店ですから、管轄は東京地検ということになります」
「ですよね…、でも東京地検にも通報って…、押田部長は実際、把握していないわけだから…、もしかして通報を受理したのは刑事部だが、それを刑事部が握り潰したとか?」
俺がそんな推測を口にすると、押田部長はそんな俺を咎めるでもなく、それこどろか、
「そうとしか考えられないだろうな…」
俺のその推測を首肯した。
「それにしても委員長はどうしてそんな断を下したんだろう…」
「実は委員長は元は東京高検検事長なんですよ」
高橋査察管理課長のその一言で俺は事情が飲み込めた。
「だとしたら、ですよ?警察と検察との間でカジノ利権と藤川の横領を取引したことと関係があるとしか考えられませんよ…、警察では藤川の横領を見逃すかわりに検察からカジノ利権を頂戴し、検察では警察にカジノ利権を明け渡す代わりに藤川の横領を目こぼししてもらい、晴れて最高検次長検事から東京高検検事長へと昇格…、そんな汚い取引が成立したことは元東京高検検事長のその委員長にしても当然、古巣の検察から伝えられていたはずです。そうであれば、そんな取引が成立した今、カジノ管理委員会委員長に就任した元警察庁長官の国見たちの資産状況について…、オーストラリア・ニュージーランド銀行に共有名義の口座を開設してそこに6億もの大金を預け入れた…、そんなとんでもない情報に接したとしても、へたに突き回して、警察の不興を買ったりすれば…、例えば国見たちから警察…、現警察庁長官…、って誰でしたっけ?」
俺が尋ねると、「金山だ」と押田部長は教えてくれた。
「ああ、どうも…、でその現警察庁長官の金山や、あるいは現警視総監の小山に泣き付き…、証券取引等監視委員会が俺たちの共有名義の口座に目をつけて、地検とマルサに通報しやがったと、そう泣き付いたとして、警察は検察が俺たちとの取引…、その汚い取引を成立させたにもかかわらず、後になって、カジノ利権を俺たちに明け渡したのがよほどに悔しかったのか、その意趣返しよろしく俺たち警察の元親玉とも言うべき国見たちの資産状況を突き回してはいじめるような真似をしやがってと、警察はそう考えるかも知れず、その場合、警察は報復として東京高検検事長に就任したばかりの藤川の横領を、いったんは目こぼししてくれたはずの藤川の横領を立件するんじゃなかろうかと、その元東京高検検事長の委員長…、証券取引等監視委員会の委員長はそれを恐れたからこそ、委員に対してこの件にはもう触るなと言わんばかりに、地検とマルサへの通報は必要ないと、そう断を下したんじゃないでしょうかねぇ…」
俺の推測に押田部長も高橋査察管理課長もうなずいた。
「また、国見たちにしても仮に証券取引等監視委員会に共有名義の口座を開設したことを、そして6億もの大金を預け入れたところで地検やマルサに嗅ぎ付けられることはないだろう…、そう見越したからこそ、いや、タカをくくったからこそ、そんな共有名義の口座を開設しては6億もの大金を預け入れるだなんて、そんな暴挙、いや、愚挙に出たんじゃないですかねぇ…」
俺のその推測にもやはり押田部長も高橋査察管理課長もうなずいた。
大川検事と中川事務官までが去ると、特捜部長室には部屋の主の押田部長と俺の二人きりとなった。
「それじゃあ俺もこれで…」
帰ろうとする俺を、「吉良君」と押田部長が呼び止めた。
「はい?」
「帰るのかね?」
「ええ。もう捜査は大詰めのようですから…」
捜査は大詰め…、帰りたいための方便ではなく、実際そのように思えた。
「確かにそうかも知れんが、やはり今帰るのは…」
「危険、ですか?公安に狙われるから?」
「その可能性が決してなきにしもあらず、だ」
「だからまた、特捜部長室に泊まれと?」
「嫌かね?」
「別に嫌じゃありませんが…」
「なら今夜も泊まっていかないかね」
「えっ…」
「まぁ、無理強いはしないが…、いや、できないがね」
確かにその通りだが、そう言われると元来がひねくれ者の俺である。それなら泊まってやろうかと、そんな思いに傾きつつあった。それに今から満員電車に揺られて家に帰るのも億劫であった。まさか車で家まで送ってくれとも頼み難い。
「あの、それならせめて電話をかけさせてもらえませんかね…、さすがに二日も帰らないとなると、父親にその旨、一報、入れたいので…」
俺はそう言うと、相変わらず特捜部長室に置き去りにされていた…、見事な調度の特捜部長室には明らかに不似合いな、古本、それも漫画を詰め込んだバッグの中から携帯電話を取り出そうとした。
すると俺の行動を察した押田部長が、「ああ。それならそこの卓上電話を使うと良い…」とすすめてくれた。
俺はバッグを開けようとする手をとめると、「良いんですか?」と聞き返した。
「ああ。何しろ俺のわがままで泊まってもらうわけだからな。これぐらいは当然だよ」
「そりゃどうも…」
「それに…、君の家の電話…、固定電話にはナンバーディスプレイの機能はついているかね?」
「ナンバーディス…、ああ、架けた側の電話番号が表示されるあれですか?」
「そうだ。そのあれだ」
「ああ…、その機能ならついてますけど…」
俺は普段、あまり固定電話を使わないので、それこそ自宅の固定電話のことにもかかわらず、思い出すようにそう言った。
「それならこの卓上電話からかければ、君の自宅の固定電話には地検の電話番号が表示されるはずだ」
「そうなんですか…」
「ああ。だから地検に泊まると言っても、疑われないだろう…」
「別に父は俺がどこに泊まろうと、一々、詮索するような人ではありませんがね…」
俺は苦笑しながらそう答えると、「それでは…」と押田部長の好意に素直に甘え、卓上電話の受話器に手を伸ばすと、受話器を上げて自分の電話番号をプッシュした。
そしてそれから数コールの後、父親が出た。
「もしもし?」
俺の耳に父の訝しげな声が聞こえた。それはそうだろう。何しろこの番号は登録されていないからだ。
「ああ。俺だけど…」
俺がいきなりそう答えると、「俺だけどって、まさかオレオレ詐欺じゃないよな?」と父から真面目にそう問い返された。
「いや、紛れもなく愚息の尊氏だ。嘘だと思うなら、俺の携帯にかけてもらっても構わないが…」
「いや、お前だと分かった。だが、お前、どこから電話をかけているんだ?」
「ああ。信じられないかも知れないが、東京地方検察庁から架けているんだ…」
「東京地方検察庁だと?」
「ああ。信じられないかも知れないが、後でこの番号を父さんの方で調べてもらえれば…、電話帳を繰るなり、ネットで調べるなりしてもらえれば、地検の電話番号だということはすぐに分かるはずだ…」
「いや、嘘だとは思わんが…、それにしてもどうして地検に?」
「ああ。心配しないで。事件の参考人…、協力者として泊まるだけだから…、決して被疑者としてお泊りするわけじゃないからそこは安心して…」
「いや、別に俺はそれでも一向に構わんが…、いや、そういうことなら分かった。気をつけてな…」
父は案の定、俺が思った通り、一々、詮索しなかった。
俺が電話を終えると、「お父上からのお許しは出たかね?」と背後から押田部長にそう問われた。俺は押田部長の方へと振り返ると、「ええ」と答えた。
「それは良かった…、ああ、それから間もなく高橋査察管理課長が訪れるだろう…」
押田部長にそう告げられて俺は、「ああ、そうだった…」と思い出した。
「あの、俺がいても構わんのですか?」
俺はさすがに遠慮しようとした。何しろ今の俺の格好は昨日と変わらずにパーカー姿のままだったからだ。そんな格好で、いや、それ以前に一介のニートが天下の東京国税局査察部の査察管理課長を出迎えるなど、おこがましいことこの上ないだろう。
だが押田部長はいたって平然、端然としていた。
「ああ。勿論、構わんよ。それに高橋さんもそんなことを一々、気にするような御仁ではないからな…」
押田部長はそう断言すると俺にソファをすすめたので、俺は諦めてソファに座った。
【午後8時11分】
俺がソファに座ると、まるでそれを見計らったかのように特捜部長室のドアがノックされた。それで押田部長が、「どうぞ」と声をかけるとドアが開かれ、するとドアの外には見知らぬ男が立っていた。
「あれが高橋良和査察管理課長か…」
俺はそう見定めるや、咄嗟にソファから立ち上がり、高橋査察管理課長を出迎えた。
一報、押田部長は親しげな様子で自らその男、もとい高橋査察管理課長の元へと歩み寄ると、部屋の中央、ソファへといざない、そしてソファに座るようすすめた。
「あなたが…、吉良さんですか…」
高橋査察管理課長はソファから立ち上がっていた俺とテーブル越しに向かい合うなり、そう尋ねた。いかにもその通りであったので、「吉良尊氏です」と俺はそう自己紹介すると頭を下げた。すると高橋査察管理課長も同様に、
「東京国税局査察部、査察管理課長の高橋良和と申します…」
そう自己紹介したのであった。高橋査察管理課長は頭に白いものが混じった、それでいて中々に血色が良く、端整な顔立ちをしていた。頭の良い人間はそうじて美男美女になる傾向があった。してみると、俺は頭が悪いのでブ男ということになる。
「吉良さんのお噂、いや、ご活躍はこちらの押田部長からも聞いておりますよ…、何でも例の、殺されてしまった永野都議の事件では大活躍だったとか…」
押田部長はそこまで打ち明けていたのかと、俺は頭をかいた。
「いや、活躍などと…、特捜検事さんが頑張ったお蔭ですよ。俺はただそのお手伝いをしただけで…」
謙遜ではなく、実際その通りであったが、高橋査察管理課長はどうやらそれを謙遜だと受け取ったらしい。
「まぁ、どうぞおかけになって下さい…」
押田部長が高橋査察管理課長にソファに座るようすすめると、高橋査察管理課長も素直に腰をおろし、それで俺も腰をおろした。そして押田部長は俺の隣に座り、俺と共にテーブル越しで高橋査察管理課長と向かい合った。
「早速ですが…、お電話によりますと、国見たちの口座は特別管理A事案だそうですね」
押田部長はいきなりそう切り出した。「特別管理A事案」なる聞き慣れない言葉に俺は思わず、繰り返した。
すると押田部長は無知な俺の存在に気付いたようで、「ああ」と答えるとその「特別管理A事案」について説明してくれた。
押田部長曰く、査察部では金融犯罪に絡んだ事件に必ずと言っても良いほどに名前が取り沙汰される政治家や経営者、あるいは暴力団組長らの資料を「特別管理事案」として保管しており、その中でも特に最重要人物の資料こそが
「特別管理A事案」
であり、「特別管理A事案」の資料ともなると部内でも閲覧できる者は限られており、高橋査察管理課長はその、「特別管理A事案」の資料にアクセスできる数少ない人間の一人とのことであった。
「それじゃあ…、国見たちが…、国見たちの資産状況について特別管理A事案に指定されているということは、やはり国見たちの資産状況について何か、重大な不正があると、査察部では睨んでいるわけですか?」
俺がそう尋ねると、「ええ、その通りです」との高橋査察管理課長からの即答が聞かれた。
「それは一体…」
「先頃…、正確には元警察庁長官にしてカジノ管理委員会委員の国見孝光が委員長に昇格し、さらに前警察庁長官の城崎家光、前警視総監の河井良昭、そして前警察庁刑事局長の垣内孝治の3人がカジノ管理委員会委員に内定した日の翌日ですが…」
「ああ。それなら…、押田部長が警視総監の小山から浅井さんの告発状…、今は東京高検の検事長の藤川がかつて、最高検の刑事部長時代から次長検事時代にかけて調査活動費を横領していたと、警視庁捜査二課に提出していたその告発状の中身について教えられた日の翌日ということですね?」
俺は時系列を確かめるように尋ねると、既に押田部長よりこの間の経緯を聞かされていた高橋査察管理課長は、「その通りです」と即答した。
「それでその翌日に何かあったと?」
「ええ。国見たち…、国見と城崎、河井、垣内の4人は外資系の銀行…、オーストラリア・アンド・ニュージーランド・バンキング・グループ・リミテッド…、いわゆるオーストラリア・ニュージーランド銀行の東京支店に共有名義の口座を開設しました…」
「共有名義の口座、ですか?」
「ええ」
「そんなことが可能なんですか?」
「可能です」
「そうですか…、でもそれが何か?」
「問題は額です」
「額…、預金高ってことですか?」
「そうです」
「国見たちは一体、いくら預けたと言うんです?恐らくは高額なんでしょうが…」
「ええ。その通りです。その額なんと6億です」
「6億っ!?」
俺は素っ頓狂な声を上げ、押田部長にしても俺のようにそんなはしたない声こそ出さなかったものの、それでも目を丸くした。
「警察官僚ってのはそんなに儲かるものなんですか?」
俺がそう疑問の声を上げると、高橋査察管理課長は頭を振った。
「とんでもない。そんなに儲かる商売のはずがない…」
「ですよね…、ならどうしてそんなに…、4人の共有名義の口座なわけですから、1人頭、1億5000万ずつ出し合って、ってことですかね…、それでも多いな…」
「ええ」
「って、どうしてそのことを高橋さん…、いや、高橋査察管理課長がご存知なので?」
俺が尋ねると、「高橋で結構ですよ」と高橋査察管理課長はそう告げると、俺の疑問に答えてくれた。
「証券取引等監視委員会より東京国税局に対して通報がなされたのですよ」
「証券取引?でも国見たちは…」
「ええ。確かに国見たちはあくまで外資系の銀行に共有名義の口座を開設し、一見、証券取引のようには見えませんが、しかし、オーストラリア・ニュージーランド銀行では2年前に証券ライセンス…、証券業の許可を得まして、それで去年から正式に証券業界にも参入いたしまして、それで…」
「ああ。それでオーストラリア・ニュージーランド銀行も証券取引等監視委員会の監視下に置かれることになったと?」
「そういうわけです」
「それでその証券取引等監視委員会がオーストラリア・ニュージーランド銀行に国見たちが多額の預金を…、6億もの預金をしたそのことを把握して、東京国税局に通報したと…」
「結果から見ればそういうことになります…」
「結果から見れば?」
俺は首をかしげた。
「ええ。実を申し上げますと、我々…、東京国税局のそれも査察部に通報してくださいましたのは証券取引等監視委員会の委員の一人でして…」
「その口ぶりだとまるで…、委員長は通報に反対していたようなそれですねぇ…」
俺が思わずそんな感想を漏らすと高橋査察管理課長は目を丸くした。
「その通りです。いえ、本来ならば証券取引等監視委員会がこの手の情報を把握した場合には我々、国税…、マルサと同時に、地検にも通報するものなのです」
「そうなんですか…、って、それなら当然、地検の特捜部にも…、押田部長の耳にも届いて良いはずですよね…」
俺は押田部長の方を見た。すると押田部長は頭を振った。それも当然であった。何しろ押田部長は国見たちの資産状況を尋ねるべくこうして高橋査察管理課長を頼ったわけで、仮に国見たちの資産状況を、すなわちオーストラリア・ニュージーランド銀行に共有名義の口座を開設した挙句、6億もの大金を預け入れていたことを知っていれば、わざわざ高橋査察管理課長を頼るまでもないからだ。
「それじゃあ…、証券取引等監視委員会は地検には通報しなかったと?」
「いえ、それどころか地検にも、マルサにも通報する必要はないと、委員長が委員に対してそう断を下したそうです」
「そんな…、そんな馬鹿なことが許されるんですか?」
「ええ。委員の一人も納得がゆかず、それでその委員は…、民間出身の委員でして、名前の方はご容赦を…、その委員が我々、査察部…、マルサと同時に地検にも通報したそうです…」
「地検って…、勿論、東京地検ですよね?」
「ええ、勿論。何しろ国見たちが共有名義の口座を開設したのは東京支店ですから、管轄は東京地検ということになります」
「ですよね…、でも東京地検にも通報って…、押田部長は実際、把握していないわけだから…、もしかして通報を受理したのは刑事部だが、それを刑事部が握り潰したとか?」
俺がそんな推測を口にすると、押田部長はそんな俺を咎めるでもなく、それこどろか、
「そうとしか考えられないだろうな…」
俺のその推測を首肯した。
「それにしても委員長はどうしてそんな断を下したんだろう…」
「実は委員長は元は東京高検検事長なんですよ」
高橋査察管理課長のその一言で俺は事情が飲み込めた。
「だとしたら、ですよ?警察と検察との間でカジノ利権と藤川の横領を取引したことと関係があるとしか考えられませんよ…、警察では藤川の横領を見逃すかわりに検察からカジノ利権を頂戴し、検察では警察にカジノ利権を明け渡す代わりに藤川の横領を目こぼししてもらい、晴れて最高検次長検事から東京高検検事長へと昇格…、そんな汚い取引が成立したことは元東京高検検事長のその委員長にしても当然、古巣の検察から伝えられていたはずです。そうであれば、そんな取引が成立した今、カジノ管理委員会委員長に就任した元警察庁長官の国見たちの資産状況について…、オーストラリア・ニュージーランド銀行に共有名義の口座を開設してそこに6億もの大金を預け入れた…、そんなとんでもない情報に接したとしても、へたに突き回して、警察の不興を買ったりすれば…、例えば国見たちから警察…、現警察庁長官…、って誰でしたっけ?」
俺が尋ねると、「金山だ」と押田部長は教えてくれた。
「ああ、どうも…、でその現警察庁長官の金山や、あるいは現警視総監の小山に泣き付き…、証券取引等監視委員会が俺たちの共有名義の口座に目をつけて、地検とマルサに通報しやがったと、そう泣き付いたとして、警察は検察が俺たちとの取引…、その汚い取引を成立させたにもかかわらず、後になって、カジノ利権を俺たちに明け渡したのがよほどに悔しかったのか、その意趣返しよろしく俺たち警察の元親玉とも言うべき国見たちの資産状況を突き回してはいじめるような真似をしやがってと、警察はそう考えるかも知れず、その場合、警察は報復として東京高検検事長に就任したばかりの藤川の横領を、いったんは目こぼししてくれたはずの藤川の横領を立件するんじゃなかろうかと、その元東京高検検事長の委員長…、証券取引等監視委員会の委員長はそれを恐れたからこそ、委員に対してこの件にはもう触るなと言わんばかりに、地検とマルサへの通報は必要ないと、そう断を下したんじゃないでしょうかねぇ…」
俺の推測に押田部長も高橋査察管理課長もうなずいた。
「また、国見たちにしても仮に証券取引等監視委員会に共有名義の口座を開設したことを、そして6億もの大金を預け入れたところで地検やマルサに嗅ぎ付けられることはないだろう…、そう見越したからこそ、いや、タカをくくったからこそ、そんな共有名義の口座を開設しては6億もの大金を預け入れるだなんて、そんな暴挙、いや、愚挙に出たんじゃないですかねぇ…」
俺のその推測にもやはり押田部長も高橋査察管理課長もうなずいた。
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