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安永2(1773)年10月3日、一橋豊千代の誕生。そして一橋治済は我が子・豊千代の為に次期将軍・家基暗殺の「舞台装置作り」に本腰を入れる。
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安永2(1773)年10月3日、巳の上刻である昼四つ(午前10時頃)、遂に治済は待望の男児に恵まれた。
愛妾の秀が男児を出産したのである。
御七夜に当たる10月9日、豊千代と命名された。
これで治済は愈々、本格的に家基暗殺の為の「足場堅め」に乗出すことにした。
それまでは果たして秀が男児を出産してくれるかどうか、さしもの治済にも自信がなく、「足場堅め」にも、
「今一つ…」
身が入らなかったが、しかし男児が、豊千代が産まれたことで、
「心置きなく…」
足場堅めに取組めるというものである。
そしてこの場合の「足場堅め」とは勿論、家基を鷹狩りの機を利用して毒殺―、如何にも鷹狩りの際に一服盛られたかの如く、装う為の「舞台装置作り」に外ならない。
それも清水家、それに田沼家所縁の者を鷹狩りに扈従させるというものであった。
その為には家基の鷹狩りに誰を扈従させるのか、それを決める権のある者を取込むことが欠かせない。
次期将軍として西之丸の盟主にある家基の鷹狩りに誰を扈従させるのか、その決定権者は一応、西之丸老中とその補佐を為す若年寄にある。
だが実際には西之丸老中と若年寄は「お飾り」に過ぎず、西之丸御側衆、それも筆頭の御用取次が事実上の決定権者であった。
今の西之丸御側御用取次は水上美濃守興正と佐野右兵衛尉茂承の2人であり、治済はこの内、佐野茂承は取込んでいたが、水上興正の方は取込んではいなかった。
否、正確には取込めなかったのだ。
更に言えば、取込むことに失敗した。
治済は7月中旬の有川勇馬との会談後、早速、水上興正を取込むべく、興正に連絡を取った。
だが興正は天下の御三卿、一橋治済からの連絡だと言うにそれに見向きもせずに、これを撥ね退けたのだ。
興正は正に秋霜烈日を絵おうううに描いた様な男であり、それ故、治済からの連絡には見向きもしなかったのだ。
それどころか興正は次期将軍・家基の側近たる己に連絡を取ろうとした一橋治済という男に大いに警戒心を抱く始末であった。
それで治済も水上興正を取込むことを諦めた。
だが治済にとっては、それはそれで「理想的」な展開と言えた。
何故か。
それは家基の鷹狩りに誰を扈従させるのか、それを決める時に役立つからだ。
例えば、既に治済が取込み済みの御側御用取次の佐野茂承より、
「家基様の御放鷹に扈従せし者だが、一橋家所縁の者は排除したい…、何やら一橋家では次期将軍職を狙うて、家基様を亡き者にせんと企んでいるとの噂があるによって…」
そう提案させれば、相役の水上興正も何ら疑うことなく、それに飛付くであろう。
興正としては治済から連絡を受けた過去があるだけに、佐野茂承のその提案を耳にすれば、治済が態々、家基の側近たる己に連絡を取ろうとしたことに、言うなれば治済の「真意」に合点がいくと同時に、
「茂承の提案は尤もなり…」
そう考えて、これに飛付くに違いない。
そして水上興正の賛成は更に平御側の大久保志摩守忠翰の賛成が見込めた。
家基の鷹狩りに誰を扈従させるか、その決定権者は御側御用取次であるとは言え、決して御側御用取次だけで独断的に決めている訳ではなく、平御側と更に小納戸頭取をも交えた会議において話合われ、御側御用取次が最終的に決めるのだ。
それ故、平御側の意見、賛成もまた重要と言えた。
さて、そこで西之丸平御側の大久保忠翰だが、末娘が水上興正の嫡孫、五兵衛正相と婚約中であった。
大久保忠翰は将来、大事な末娘を水上家に嫁がせるということもあってか、当主たる興正には何かと頭が上がらないところがあった。
その興正が佐野茂承の提案、即ち、
「家基の鷹狩りから一橋家所縁の者の排除…」
その提案に賛成したとなれば、大久保忠翰もこれに倣い、賛成するに違いない。
さて、治済としてはその上で佐野茂承には更に、
「ついては上様が御寵愛の篤い御舎弟におわします清水宮内卿様、並びに田沼主殿頭様、この御両人所縁の者を扈従させたいと存ずる…」
そう提案させれば、西之丸小納戸頭取の押田信濃守岑勝とその相役の新見讃岐守正則の賛成も見込めるであろう。
何しろ両人共、田沼家所縁の者だからだ。
即ち、押田岑勝は嫡子の熊太郎勝融が田沼家の重臣、三浦庄司の娘を娶っていれば、新見正則に至っては意次その人の実妹を娶っており、しかもその間には正徧という嫡子までもうけていたのだ。
意次にとって正徧は実妹の倅ということで、やはり実の甥に当たり、つまり田沼家の血が流れていた。
かくして、押田岑勝と新見正則という2人もの小納戸頭取までが佐野茂承のその提案に賛成したとなれば、外の小納戸頭取は元より、平御側もこれに続くに相違あるまい。
それと言うのも、西之丸小納戸頭取の定員は現在4人であり、押田岑勝と新見正則の外には前田淡路守孝武と大井大和守持長の2人であり、しかし前田孝武にしろ、大井持長にしろ、田沼家と所縁のある押田岑勝と新見正則の2人には、
「全く頭が上がらぬ…」
という「テイタラク」であり、それ故、押田岑勝と新見正則の2人が佐野茂承の「提案」に賛成したならば、前田孝武と大井持長の2人もこれに続くに違いなかった。
それは西之丸御側衆にも当て嵌まり、平御側の中でも御用取次の水上興正と所縁のある大久保忠翰が一頭地を抜いており、その後に同族の大久保下野守忠恕が続く。
その大久保忠恕はと言うと、大久保忠翰の完全なる「イエスマン」であり、それ故、大久保忠翰が水上興正に倣い、佐野茂承の提案に賛成したとあらば、大久保忠恕もそれに続くことが予期された。
西之丸平御側にはこの外にも本堂伊豆守親房と金田近江守正甫がおり、この内、本堂親房は実は意次とは盟友の老中、板倉佐渡守勝清が四男であり、それ故、親房当人も意次贔屓であり、やはり佐野茂承の提案に賛成するに違いなかった。
残るは金田正甫唯一人であり、こちらは大勢順応を絵に描いた様な男であり、相役の皆が佐野茂承の提案に賛成したとあらば、これに続くに違いなかった。
かくして家基の鷹狩りに扈従させる者として、西之丸よりは清水家、並びに田沼家所縁の者で占めさせる「舞台装置」が調ったと言えるであろう。
要は清水家や田沼家所縁の西之丸小姓や西之丸小納戸、或いは西之丸小姓組番士や、或いは西之丸書院番士などを扈従させられるということだ。
問題は本丸からもやはり、清水家、並美に田沼家所縁の者を如何にして扈従させるかという点である。
西之丸の盟主たる次期将軍・家基の鷹狩りに扈従するのは何も西之丸役人だけに限らない。
本丸小姓組番、並びに書院番の所謂、両番の番士もこれに加わる。
本丸小姓組番、並びに書院番の両番士は本丸での勤務の外にも西之丸での勤務もあり、殊に今の様に西之丸に次期将軍が存する場合には、
「西之丸供番」
と称して、次期将軍の鷹狩りなどの外出時に扈従もする。
本丸両番士による通例とも言える西之丸での勤務なれば予じめ勤務表が決められており、そこに情実が入り込む余地はない。
だが西之丸供番ともなると話は別である。
本丸両番士の中から誰を西之丸の盟主たる次期将軍の外出に、この場合は鷹狩りに扈従させるか、それは西之丸当番の大目付の「胸三寸」であった。
本丸にあって西之丸にはない役職として奏者番や、その筆頭の寺社奉行、大番、それに大目付や町奉行、勘定奉行などがある。
その内、奏者番と大目付には交替で西之丸当番があった。
西之丸当番とはその名の通り、西之丸に詰める訳だが、この内、西之丸当番の大目付には、
「本丸両番士の中から誰を西之丸の盟主たる次期将軍の外出に、この場合は鷹狩りに扈従させるか…」
その決定権があったのだ。
大目付は現在、4人おり、平日は毎日、交替で西之丸当番として1人が西之丸に詰める。
一方、鷹狩りだが、将軍にしろ、次期将軍にしろ、その1週間前に鷹狩りの予定が組まれる。
そこで鷹狩りの予定が組まれた日―、次期将軍・家基の鷹狩りを例に取るならば、家基の鷹狩りの予定が組まれたその日に西之丸当番として西之丸に詰めていた大目付に斯かる決定権があったのだ。
本丸からも―、清水家、並びに田沼家所縁の本丸両番士をも家基の鷹狩りに扈従させたい治済としては大目付をも取込む必要があった。
だが生憎と治済にはその「手蔓」がなかった。
今の4人の大目付は皆、一橋家とは所縁がなかったからだ。
この様な状況では治済も迂闊には手が出せなかった。
水上興正の場合、既にその相役の西之丸御側御用取次の佐野茂承を取込み済みであったので、水上興正の取込みに失敗したところで治済としては何ら差支えなかった。
否、失敗したらしたで、実際、その通りになった訳だが、水上興正に治済への警戒心を植付けられ、治済としてはそれもまた、理想的な展開と言えた。
つまりはどちらに転んでも―、水上興正の取込みに成功しようが失敗しようが、治済としてはどちらでも構わなかった。
だが大目付の取込みは違う。
西之丸御側御用取次とは異なり、大目付は今の段階では誰一人として治済は取込めてはいなかったのだ。
その様な状況下では治済には失敗が許されず、
「さてさて…、如何にして大目付を取込むか…」
治済がそう思いあぐねていたところ、やはり取込み済みであった本丸御側御用取次の稲葉越中守正明から耳寄りな情報が齎された。それは、
「公事方勘定奉行の松平對馬守忠郷が田沼意次一派との経済政策の違いから近々、大目付へと棚上げされるらしい…」
というものであった。
愛妾の秀が男児を出産したのである。
御七夜に当たる10月9日、豊千代と命名された。
これで治済は愈々、本格的に家基暗殺の為の「足場堅め」に乗出すことにした。
それまでは果たして秀が男児を出産してくれるかどうか、さしもの治済にも自信がなく、「足場堅め」にも、
「今一つ…」
身が入らなかったが、しかし男児が、豊千代が産まれたことで、
「心置きなく…」
足場堅めに取組めるというものである。
そしてこの場合の「足場堅め」とは勿論、家基を鷹狩りの機を利用して毒殺―、如何にも鷹狩りの際に一服盛られたかの如く、装う為の「舞台装置作り」に外ならない。
それも清水家、それに田沼家所縁の者を鷹狩りに扈従させるというものであった。
その為には家基の鷹狩りに誰を扈従させるのか、それを決める権のある者を取込むことが欠かせない。
次期将軍として西之丸の盟主にある家基の鷹狩りに誰を扈従させるのか、その決定権者は一応、西之丸老中とその補佐を為す若年寄にある。
だが実際には西之丸老中と若年寄は「お飾り」に過ぎず、西之丸御側衆、それも筆頭の御用取次が事実上の決定権者であった。
今の西之丸御側御用取次は水上美濃守興正と佐野右兵衛尉茂承の2人であり、治済はこの内、佐野茂承は取込んでいたが、水上興正の方は取込んではいなかった。
否、正確には取込めなかったのだ。
更に言えば、取込むことに失敗した。
治済は7月中旬の有川勇馬との会談後、早速、水上興正を取込むべく、興正に連絡を取った。
だが興正は天下の御三卿、一橋治済からの連絡だと言うにそれに見向きもせずに、これを撥ね退けたのだ。
興正は正に秋霜烈日を絵おうううに描いた様な男であり、それ故、治済からの連絡には見向きもしなかったのだ。
それどころか興正は次期将軍・家基の側近たる己に連絡を取ろうとした一橋治済という男に大いに警戒心を抱く始末であった。
それで治済も水上興正を取込むことを諦めた。
だが治済にとっては、それはそれで「理想的」な展開と言えた。
何故か。
それは家基の鷹狩りに誰を扈従させるのか、それを決める時に役立つからだ。
例えば、既に治済が取込み済みの御側御用取次の佐野茂承より、
「家基様の御放鷹に扈従せし者だが、一橋家所縁の者は排除したい…、何やら一橋家では次期将軍職を狙うて、家基様を亡き者にせんと企んでいるとの噂があるによって…」
そう提案させれば、相役の水上興正も何ら疑うことなく、それに飛付くであろう。
興正としては治済から連絡を受けた過去があるだけに、佐野茂承のその提案を耳にすれば、治済が態々、家基の側近たる己に連絡を取ろうとしたことに、言うなれば治済の「真意」に合点がいくと同時に、
「茂承の提案は尤もなり…」
そう考えて、これに飛付くに違いない。
そして水上興正の賛成は更に平御側の大久保志摩守忠翰の賛成が見込めた。
家基の鷹狩りに誰を扈従させるか、その決定権者は御側御用取次であるとは言え、決して御側御用取次だけで独断的に決めている訳ではなく、平御側と更に小納戸頭取をも交えた会議において話合われ、御側御用取次が最終的に決めるのだ。
それ故、平御側の意見、賛成もまた重要と言えた。
さて、そこで西之丸平御側の大久保忠翰だが、末娘が水上興正の嫡孫、五兵衛正相と婚約中であった。
大久保忠翰は将来、大事な末娘を水上家に嫁がせるということもあってか、当主たる興正には何かと頭が上がらないところがあった。
その興正が佐野茂承の提案、即ち、
「家基の鷹狩りから一橋家所縁の者の排除…」
その提案に賛成したとなれば、大久保忠翰もこれに倣い、賛成するに違いない。
さて、治済としてはその上で佐野茂承には更に、
「ついては上様が御寵愛の篤い御舎弟におわします清水宮内卿様、並びに田沼主殿頭様、この御両人所縁の者を扈従させたいと存ずる…」
そう提案させれば、西之丸小納戸頭取の押田信濃守岑勝とその相役の新見讃岐守正則の賛成も見込めるであろう。
何しろ両人共、田沼家所縁の者だからだ。
即ち、押田岑勝は嫡子の熊太郎勝融が田沼家の重臣、三浦庄司の娘を娶っていれば、新見正則に至っては意次その人の実妹を娶っており、しかもその間には正徧という嫡子までもうけていたのだ。
意次にとって正徧は実妹の倅ということで、やはり実の甥に当たり、つまり田沼家の血が流れていた。
かくして、押田岑勝と新見正則という2人もの小納戸頭取までが佐野茂承のその提案に賛成したとなれば、外の小納戸頭取は元より、平御側もこれに続くに相違あるまい。
それと言うのも、西之丸小納戸頭取の定員は現在4人であり、押田岑勝と新見正則の外には前田淡路守孝武と大井大和守持長の2人であり、しかし前田孝武にしろ、大井持長にしろ、田沼家と所縁のある押田岑勝と新見正則の2人には、
「全く頭が上がらぬ…」
という「テイタラク」であり、それ故、押田岑勝と新見正則の2人が佐野茂承の「提案」に賛成したならば、前田孝武と大井持長の2人もこれに続くに違いなかった。
それは西之丸御側衆にも当て嵌まり、平御側の中でも御用取次の水上興正と所縁のある大久保忠翰が一頭地を抜いており、その後に同族の大久保下野守忠恕が続く。
その大久保忠恕はと言うと、大久保忠翰の完全なる「イエスマン」であり、それ故、大久保忠翰が水上興正に倣い、佐野茂承の提案に賛成したとあらば、大久保忠恕もそれに続くことが予期された。
西之丸平御側にはこの外にも本堂伊豆守親房と金田近江守正甫がおり、この内、本堂親房は実は意次とは盟友の老中、板倉佐渡守勝清が四男であり、それ故、親房当人も意次贔屓であり、やはり佐野茂承の提案に賛成するに違いなかった。
残るは金田正甫唯一人であり、こちらは大勢順応を絵に描いた様な男であり、相役の皆が佐野茂承の提案に賛成したとあらば、これに続くに違いなかった。
かくして家基の鷹狩りに扈従させる者として、西之丸よりは清水家、並びに田沼家所縁の者で占めさせる「舞台装置」が調ったと言えるであろう。
要は清水家や田沼家所縁の西之丸小姓や西之丸小納戸、或いは西之丸小姓組番士や、或いは西之丸書院番士などを扈従させられるということだ。
問題は本丸からもやはり、清水家、並美に田沼家所縁の者を如何にして扈従させるかという点である。
西之丸の盟主たる次期将軍・家基の鷹狩りに扈従するのは何も西之丸役人だけに限らない。
本丸小姓組番、並びに書院番の所謂、両番の番士もこれに加わる。
本丸小姓組番、並びに書院番の両番士は本丸での勤務の外にも西之丸での勤務もあり、殊に今の様に西之丸に次期将軍が存する場合には、
「西之丸供番」
と称して、次期将軍の鷹狩りなどの外出時に扈従もする。
本丸両番士による通例とも言える西之丸での勤務なれば予じめ勤務表が決められており、そこに情実が入り込む余地はない。
だが西之丸供番ともなると話は別である。
本丸両番士の中から誰を西之丸の盟主たる次期将軍の外出に、この場合は鷹狩りに扈従させるか、それは西之丸当番の大目付の「胸三寸」であった。
本丸にあって西之丸にはない役職として奏者番や、その筆頭の寺社奉行、大番、それに大目付や町奉行、勘定奉行などがある。
その内、奏者番と大目付には交替で西之丸当番があった。
西之丸当番とはその名の通り、西之丸に詰める訳だが、この内、西之丸当番の大目付には、
「本丸両番士の中から誰を西之丸の盟主たる次期将軍の外出に、この場合は鷹狩りに扈従させるか…」
その決定権があったのだ。
大目付は現在、4人おり、平日は毎日、交替で西之丸当番として1人が西之丸に詰める。
一方、鷹狩りだが、将軍にしろ、次期将軍にしろ、その1週間前に鷹狩りの予定が組まれる。
そこで鷹狩りの予定が組まれた日―、次期将軍・家基の鷹狩りを例に取るならば、家基の鷹狩りの予定が組まれたその日に西之丸当番として西之丸に詰めていた大目付に斯かる決定権があったのだ。
本丸からも―、清水家、並びに田沼家所縁の本丸両番士をも家基の鷹狩りに扈従させたい治済としては大目付をも取込む必要があった。
だが生憎と治済にはその「手蔓」がなかった。
今の4人の大目付は皆、一橋家とは所縁がなかったからだ。
この様な状況では治済も迂闊には手が出せなかった。
水上興正の場合、既にその相役の西之丸御側御用取次の佐野茂承を取込み済みであったので、水上興正の取込みに失敗したところで治済としては何ら差支えなかった。
否、失敗したらしたで、実際、その通りになった訳だが、水上興正に治済への警戒心を植付けられ、治済としてはそれもまた、理想的な展開と言えた。
つまりはどちらに転んでも―、水上興正の取込みに成功しようが失敗しようが、治済としてはどちらでも構わなかった。
だが大目付の取込みは違う。
西之丸御側御用取次とは異なり、大目付は今の段階では誰一人として治済は取込めてはいなかったのだ。
その様な状況下では治済には失敗が許されず、
「さてさて…、如何にして大目付を取込むか…」
治済がそう思いあぐねていたところ、やはり取込み済みであった本丸御側御用取次の稲葉越中守正明から耳寄りな情報が齎された。それは、
「公事方勘定奉行の松平對馬守忠郷が田沼意次一派との経済政策の違いから近々、大目付へと棚上げされるらしい…」
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