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2章 覚悟の高3編

旅の幕引き

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「ふぅ····ん、んはぁっ····八千代、待って」

「待たねぇ」

「んっ····ぇぁ····んぇ゙····」

 キスは激しさを増し、大きな舌で奥まで舐められて嗚咽を漏らしてしまう。僕が早々に力尽きた所為で八千代の機嫌が悪いのだとしたら、ちゃんと謝りたい。けれど、八千代はキスをやめてくれない。
 さっきから何度も軽イキを繰り返している。息も上手くできず、頭がクラクラしてきた。きっと酸欠だ。
 なんとか八千代を押し離す。息ができないことを察して、八千代は少し休ませてくれた。

「はぁ··ふぅ····八··千代? どうしたの? 僕が寝ちゃったから?」

「あ? 何が?」

「八千代、機嫌悪いから····」

「あぁ、わりぃ。····けど違ぇわ。んな事で機嫌悪くした事ねぇだろ」

「うん。でも、寝ちゃうの凄く早かったからかなって····」

「寝たんじゃねぇ。またイキ過ぎての気絶な。そうさせてんの俺らなのに、ぁんで怒れんだよ。んっとにアホだな」

 八千代は頬擦りをするように、優しく唇を這わせた。そして、耳元で静かに話し続ける。

「クソ執事がお前のエロいトコ見てんの、今更ムカついたんだよ。んで、お前に当たった。わりぃ」

「んぁ····。またヤキモチ妬いてたの?」

「····妬いた」

「それって八つ当たりじゃなくて、僕のこと独占したかっただけじゃない····?」

「あぁ、そうかもな。お前は一生、俺だけのモンにはなんねぇから。こうやって2人きりン時だけでも、俺のことだけ見させてぇ」

「八千代、ごめんね」

「バァカ。責めてんじゃねぇよ。我儘言ってんの。こんくらい聞けよ」
 
「うん。2人きりの時はね、僕、八千代だけのモノだよ」

 八千代の頬を包み、おデコをくっつけて約束する。直後、不機嫌そうな低い声が聞こえた。

「だったら、俺と2人きりの時は俺だけのモノだよな」

「んわぁ!? 朔····」

 いつの間に来たのか、腕組みをしてドア枠にもたれかかった朔が言った。

「朔····、怒ってる?」

「怒ってねぇ。けど、そういうの言っていいのかって思ってる。“俺だけの”って、言わねぇように気をつけてたから」

「そう··だよね。ごめんなさい。僕、また軽はずみな事言って····」

「いや。それがアリなんだったら、それはそれでいい。2人でデートした時とか、独占欲剥き出しにしても文句言われねぇんだよな」

 やはり怒っているように見える。少しも笑ってくれない目が怖い。

「2人きりン時は好きにしろや。んなもん、どうせ口だけなんだからよ。実際、どう頑張ってもコイツは俺らのモンだからな」

 八千代は僕の耳朶をふにふにと揉みながら言う。加減を誤って、ぷちっと潰されそうで怖い。

「····そうだな。よし、今度また2人デートしような。たまには俺だけの結人っつぅのもいいよな」

「わ、わかったよぅ。それでいいから、朔····」

 見上げる僕の目を見て、僕が怯えていると思ったのだろう。朔の目からすぅっと力が抜け、いつものように優しい目を向けてくれた。
 2人でデート。楽しみではあるけれど、凄く緊張するんだよね····。

 お風呂から出ると、啓吾が温かいココアを入れてくれた。それを飲んで、大きなベッドで雑魚寝をする。
 僕が誰の腕の中で眠るかなんて、揉めるのは毎度の事だから飽きてしまった。見慣れたジャンケン大会を見ているうちに、僕はベッドのド真ん中で丸くなって眠っていた。



「ゆいぴ、起きて。起きないと犯すよ♡」

「ひぁぁ····」

 りっくんの、甘くてえっちな囁きを聴いて目覚める。僕は、反射的に耳を両手で塞いだ。
 寝起きから耳が悦んでいる。思わず、お尻がキュンとしてしまったじゃないか。

「結人、起きたか? そろそろ帰る支度しねぇと、飯食う暇ねぇぞ」

「んぇ、ご飯····食べるぅ」

「あはっ、寝ぼけてるゆいぴかわい~」

 りっくんが僕の鎖骨にキスをしながら吸いつく。ちゅぱちゅぱと音を立てながら、幸せそうに僕の肌を吸う。
 確かに頭は回っていなかった。けど、寝起きの間抜けな顔でだらしないだけだと思う。可愛いだなんて心外だ。
 それにしてもまったく、いつまで吸いついている気だろうか。

「りっくん、僕も帰る準備するぅ··から、んぁっ····もうお終いぃ····」

「ゆいぴ····ンはぁ··甘くて美味しいんだもん。俺はご飯よりゆいぴがいい」

「おいコラ莉久、アホな事言ってねぇでさっさと髪セットしろや。無駄に時間かかんだからよ」

「はぁ? 場野うるさい。ゆいぴにカッコイイ俺見せる為だから無駄じゃないんですぅ~」

 本当にりっくんは、自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。
 けれど実際、文句のつけようがないくらいカッコイイから、ツッコミようがなくて反応に困る。

 僕たちはそれぞれ荷物をまとめ、支度が整ったところで揃って朝食を食べた。そして、軽く別荘の掃除をしてから帰路につく。
 来た道を帰りながら、旅の思い出を語り合う。僕は、修学旅行よりも長い時間、皆と一緒に居られたのが何よりも幸せだった。


 地元の駅に着いたのがお昼過ぎ。朔の家に呼ばれ、昼食をご馳走になる。
 朔の家に行く前に近くのスーパーで買い物をしたのだが、揃いも揃ってイケメンだから注目の的だった。食材を選んでいるだけで輝いて見えるのだから致し方ない。

 お昼ご飯はチャーハン。一緒に出してくれた中華スープも唸るほど美味しかったので、思わず唸るように『美味しい』と零してしまった。
 それでは足りないだろうと、凜人さんは唐揚げまで作ってくれた。僕はそれをペロッと平らげる。
 そして、食後のデザートに桃を切ってくれた。朔の実家から届いた、高級な桃らしい。
 桃と言えば····だ。八千代が噛みグセを悪化させたアレを思い出す。そして、僕は1人でクスッと笑ってしまった。

「なに笑ってんの? 結人、そんなに桃好きだっけ?」

「んへへ。あのね、桃······」

 まずい。完全なるミスだ。ここでアレをぶり返すと、八千代が凜人さんに喧嘩を売って暴れかねない。

「桃、スキ。僕、桃スキ」

「なんで片言なんだ? まぁ、桃が好きなのは良かった。これ、親戚が育てた桃で、すげぇ美味いから結人に食わせたかったんだ」

「へぇ、そうなんだ。えへへ、美味しそうだね。いただきまぁす」

「うっわ、何これ。めっちゃ美味いんだけど」

「ホントに美味しいね。んはぁ····甘ぁい」

「えぐみもないし、凄く食べやすいね。て言うかさ、ゆいぴ桃苦手じゃなかった?」

「別に苦手じゃないよ? ····あぁ、皮剥くの難しそうだから、自分じゃ食べれないって言ってたかも」

「それかな。苦手なんだと思ってたよ」

「んふふ、桃好きだよ」

 よし、上手く話を反らせた気がする。りっくんの誤解もついでに解けたようで良かった。
 それよりも、なにやら満面の笑みで桃を頬張っている啓吾が可愛い。

「啓吾ご機嫌だね。啓吾こそ、そんなに桃好きなの?」

「ん? 普通に好きだよ。やぁ~俺さぁ、この旅行で思ったんだけど、一緒に暮らし始めたら毎日あんな感じなんかなぁって。すげぇ幸せじゃねぇ?」

「アホか。あんなん学生のうちだけだろ」

「働き始めてもあの調子でヤリまくってたら、流石に体がもたねぇと思うぞ」

「えー、そういうもん? ねぇ、凜人さんどう思う?」

 椅子の背もたれに肘を掛けて体を捻ると、片付けをしてくれている凜人さんを呼び止めて問うた。誰に何を聞いているんだ。

「朔様と場野様の仰る事もご尤もかと。しかしながら結人様がお相手ですと、皆様なら毎晩お元気に過ごされるのではないでしょうか。その分、結人様が癒してくださるでしょうし」

「俺は死んでも毎晩ゆいぴ抱くよ。1晩も無駄にしたくない」

「りっくん····。死んじゃヤだって言ったでしょ? 気持ちは嬉しいけど、りっくんが元気じゃなきゃヤだよ」

「んはぁぁっ····俺、ゆいぴ抱いたら全回復するから大丈夫」

 この人は、両の拳を握り締めて何を言っているのだろう。

「俺も抱いたほうが絶対元気になるわ。仕事しだしたらそんな体力なくなるもん?」

「仕事が大変だったら、それどころじゃない日があるんじゃねぇか」

「毎日は流石にキツいかもな。まぁ、家帰って結人が出迎えてくれたら、元気になるかもしんねぇけど」

 八千代が意地悪くニヤッと笑う。僕次第という事か。

「皆、ちゃんと体大事にしてね? だ、抱いてくれるのは嬉しいけどね、皆が元気でいてくれないと、僕泣いちゃうよ?」

「なんつぅ脅し文句だ。お前を泣かせるワケにはいかねぇんだぞ」

 狡い脅し文句に、朔が焦った様子で返す。少し意地が悪かっただろうか。

「あはは。だったら、僕がダメって判断した日は、ちゃんと休んでね?」


 なんて、僕たちはいずれ訪れる未来に決まりを設けた。こうして、幸せでくだらない話をしながら、僕たちの旅は幕を閉じた。

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