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2章 覚悟の高3編

僕たちの日常は喧しい

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 旅行から帰り、僕たちは日常へと戻っていた。学校では、僕たちのイチャイチャもスルーされるようになっている。放課後は遊びに行くか八千代の家に入り浸るかの二択だ。
 そして、あの拉致事件から数週間。僕は、双子がどうなったのかは知らない。八千代は何か知っているみたいだが、僕には何も言おうとしないので聞かないでいる。

 八千代の腕の怪我も癒えてきた。ドラマのような出来事なんて、なかったかのように平和な日々。
 僕たちは今日も、いつもの喧しい休日を過ごしていた。

「お前ら····人ん家の冷蔵庫自由に使いすぎだろ······」

 冷蔵庫に沢山入っているおやつを見て、八千代がゲンナリして言った。

「そのプリン最近ハマってんだよね~。毎日でも食いてぇんだけど、いちいち買いに行くのめんどいから買いだめしちゃってさぁ」

「何言い訳みてぇなこと言ってんだよ。アホか。お前は住んでんだろうが」

「あ、そーでした。俺も一緒に怒られてんのかと思った」

「啓吾、場野に怒られっぱなしだからじゃないの? あ。このナッツの詰め合わせさ、期限近いから誰か食べていいよ」

 りっくんが自分ん家の冷蔵庫感覚で使っているのが、八千代は1番腹が立つらしい。

「俺ん家の冷蔵庫に入ってるもんは例外なく俺ンだわ」

「僕のチョコは食べないでね?」

「ハァ····。お前の食いもんに手ぇ出すわけねぇだろ」

 八千代は呆れたように言って、僕にナッツをくれる。僕がナッツをつまんでいると、リスみたいで可愛いとか言われた。
 不本意だが、八千代がニコニコしているのを見られるから、渡されるがまま食べる。

「場野、コレ入れてていいか?」

 そう言って、朔がカバンから何かを取り出した。

「んだよソレ」

「冷てぇ大福だ。珍しいだろ」

「······それお前、アイスだろ。食ったことねぇのかよ」

「ん? 大福って書いてあるぞ」

「朔、それアイスだよ。どっから持ってきたの?」

「家のテーブルに置いてあって、美味そうだったから持ってきた」

「それ、凜人さんのじゃねぇの? たぶん、食おうと思って溶かしてたんじゃねぇ?」

「····アイスなのに溶かして食うのか? アイツ、何がしてぇんだ」

「それね、食い方がホント人それぞれなのよ。焼く人もいんの。朔もやってみ? マジで美味いから」

「今は要らねぇ。····そうか、アイスなのか。なら冷凍庫に入れといてくれ」

 せっかく凜人さんが溶かしていたやつをまた凍らせるのか。僕たちは、なんとも言えない気持ちでそれを見つめた。

「だからよぉ、俺ん家の冷蔵庫だつってんだろ」

「ほぼ空じゃん。無駄にデカイんだから、ケチくさい事言うなよな~」

 りっくんが食材を詰めながら言った。それを、後ろで仁王立ちしながら見ている八千代。

「言ったそばからてめぇ、何詰め込んでんだよ」

「タコパしようと思ってさ、色々持ってきたんだよね。おやつにやろうよ」

「たこ焼きってお前、鉄板ねぇぞ」

「僕が持ってきたよ」

 僕が紙袋から取り出すと、啓吾と朔のテンションが跳ね上がった。

「俺、タコパ初めてだ」

 朔が目を輝かせて言う。ワクワクしている朔は問答無用に可愛い。

「僕もだよ、朔。家族以外とするのは初めて。楽しみだね」

「莉久、たこ焼きってタコ入れるんだよな? なんでウインナーとかチーズがあるんだ?」

「タコパはねぇ、入れんのタコだけじゃないんだよ~」

「そうなのか。それはもう····たこ焼きじゃねぇな」


 朔が不安に駆られていようがお構いなしに、りっくんと啓吾は準備を始める。僕と朔は飲み物を買いにスーパーへ。そこで、冬真と出くわした。

「お、結人と瀬古じゃん。何してんの? デート?」

「冬真! えへへ、デートだよぉ。って言っても、ただの買い出しなんだけどね」

「惚気けてんじゃねぇよ~····って、瀬古めっちゃ嬉しそうじゃん。あぁ~いいなぁ~。俺も結人とデートしたい~」

「神谷はあそこに女待たせてんじゃねぇのか? さっさと行けよ」

「瀬古は俺に敵対心剥き出しだなぁ。あれ、姉ちゃんだから。買い物に付き合わされてんの」

「大変だねぇ。僕たちは今からタコパするんだぁ」

「マジかよ。俺も行きたい」

「来んな」

 朔はスパッと断った。と言うか、拒否した。

「即答ひっで~。まぁ、だよな。そんじゃ俺行くわ。また学校でな」

 冬真は手を振って、お姉さんの所へ駆けて行った。
 朔の容赦のなさは少し注意した。けど、来たらややこしい事になっていただろう。正直、断ってくれてよかった。八千代の家に連れて行ったら、流石に僕相手でも八千代がキレそうだもんね。
 飲み物を買って八千代の家に戻ると、早くも焼き始めていた。何が入っているかはランダムらしく、テキトーに取り分けて食べる。具は啓吾が放り込んだらしい。気分はロシアンルーレットだ。
 僕はタコとウインナーと小エビに当たった。普通に美味しい。けれど、りっくんがとんでもないものに当たって、啓吾に滅茶苦茶文句を言っていた。

「バカじゃないの。何でチョコとか入れんの? つぅか、いつの間に入れたんだよ」

「ははっ、気づかなかっただろ。他にねぇ、タバスコ入りのヤツもあるから気ぃつけろよ」

 僕のお皿にはあと2つ。八千代と朔のお皿には1つずつ残っている。勇気を振り絞って、それぞれ口に運ぶ。だが、普通のたこ焼きだった。という事は、タバスコ入りのはきっと、啓吾のお皿に乗っている。

「マジか····」

「アホだな。自滅してやんの」

 信じられないといった顔で食べた啓吾は、自らの企みで火を吹くハメになった。相当辛かったらしく、涙目になっている。

「食いもんで遊ぶからだな。自業自得だ」

「おっかしいなぁ。場野の皿に入れたつもりだったんだけどなぁ。あー、辛ぇ」

「へぇ、いい度胸してんじゃねぇか」

 八千代と啓吾が喚いているのを横目に、僕たちは平和にタコパを楽しんだ。


 たらふく食べた僕は、眠気に負けて····と言うか、朔の寝かしつけに負けて眠ってしまった。それはもう、ぐっすりと。
 目が覚めると、片付けまで終わっていた。皆でマリオカートで盛り上がっているのを、寝ぼけ眼で眺める。あぁ、今日も幸せだなぁ。なんて心の中で呟いたはずが、無意識に声を漏らしていたらしい。
 皆が振り返って僕を見る。

「おはよ、ゆいぴ。ゆいぴが幸せなら俺も幸せだよ♡ ね、ゆいぴもやる?」

「ううん。僕、絶対逆走しちゃうからいい」

「ぁんで一番簡単なコースで逆走できんだよ。まぁ、あそこまで真っ直ぐ走れねぇと面白ぇけどな」
 
「結人には免許取らせらんねぇな。怖ぇ」

「あはは。朔、それ父さんにも言われたよ。皆は免許取るの?」

「そりゃねぇ。ゆいぴを助手席に乗せてドライブデート····とかね。今すぐしたいくらいだよ。免許とったらいっぱい遠出しようね」

「俺も取るけど、多分合宿だろうなぁ。その方が安いみたいだし」

「合宿とかあるんだ。それ行ったら、僕でも免許取れるかなぁ」

「行かせねぇぞ。合宿なんか行ったら、お前絶対狩られんぞ」

「免許の合宿でしょ? 狩りもするの?」

「ある意味な。結人は免許取らなくてもいいだろ。俺らが持ってたら問題ねぇよな」

「まぁ、僕も自信ないから取ろうとは思ってなかったけどね。そこまで言われると悔しいから取るもん」

 また、皆が振り返って僕を見る。一体何なんだ。

「マジで言ってんのか。そりゃ持ってて困るもんじゃねぇけどな。取るにしても、合宿だけは行かせねぇぞ」

 八千代が困った顔で言う。けれどその目には、絶対に行かせないという固い決意が込められているように見える。

「だから何でなの? 何がそんなに心配かわかんないけど、だったらみんなで行けばいいんじゃないの?」

「そっか。そうだよな。だったら冬休みか春休みだな。1番誕生日遅いの場野だろ? 俺、一番年上だしぃ? 場野くんに合わせてやるよ」

「そうだな。こどもの日に生まれた万年小僧のお兄ちゃんだもんな。優しいじゃねぇの」

「しょうもない事言ってるからぁ····。八千代の逆走してるよ」


 本当に賑やかしいんだから。免許の習得を視野に入れて、このあとは沢山ゲームをして過ごした。

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