ちっこい僕は不良の場野くんのどストライクらしい

よつば 綴

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2章 覚悟の高3編

気分転換

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 目が覚めて、頭の重さに驚いた。それと同時に、昨日の記憶が断片的に蘇ってくる。
 そうだ、また辛い事件があったのだ。けれど、帰ってからの事も所々しか思い出せない。

 朔が僕に抱きついて眠っている。見回すと、朔以外に誰も居ない。
 ふわっと、お味噌汁のいい匂いが漂ってきた。そして、部屋の扉が開く。啓吾が、トレーに食事を乗せて運んできてくれたのだ。

「お、起きた? 体調どう? 頭痛くなったりしてない?」

「おはよ····。痛くはないけど重い感じがする」

「それ二日酔いな。これ飲んで」

「ありがと」

 しじみのお味噌汁だ。炊きたてのご飯と海苔、卵焼きまである。どれも美味しい。僕は食べながら、啓吾に昨日の事の顛末を聞いた。
 因みに、りっくんはシャワーを浴びていて、八千代はコンビニへ行っているらしい。

 僕を襲った大学生達は、警察よりも恐ろしい杉村さんに引き取られたらしい。凜人さんが、色々と手を回してくれたおかげで、円滑に事を収拾できたのだとか。
 きっと、後悔する事もできない状態になっているだろうと、啓吾がニコッと微笑みながら言った。皆も大概、怖いんだよね。
 冬真と猪瀬くんには、休み明けに事情を話すつもりらしい。おそらく、とても怒られるのだろう。

 そして、僕の最大の心配事は啓吾と朔だった。
 けど、殴られた割りに啓吾はいつも通りだ。と言うのも、仲直り····と言うか、朔が言いたい事をひたすら啓吾にぶつけて終わったらしい。朔曰く、啓吾に説教をしても無駄だ、と。
 啓吾は、りっくんと八千代からもくどくどと嫌味を言われ続けたらしく、流石に気分が滅入っているようだ。だから、後で一緒にシャワーを浴びようと誘ってみた。

 朝食を終え、朔を起こす。昨日、僕が寝てしまった所為でえっちができず、仕方なく抱き締めて寝たんだそうだ。
 絶対に僕から離れないと言っていたと聞いて、朔の可愛さに心臓がきゅぅぅっと締めつけられた。


 啓吾とシャワーを浴び、朔を起こし、昨日の醜態について詫びた。僕の体調を考慮し、皆はおちんちんを収めてくれたのだ。愛されてるなぁなんて、呑気ではいられない。
 改めて、これから抱かれるのかと思ったが、そうでもなかった。そういえば、さっき洗浄しなかったもんね。
 それは総意らしく、今日は僕の身体を慮ってえっちはしないと決めたのだとか。それを宣言するりっくんの顔ときたら、苦虫を噛み潰したように皺くちゃだった。

 かくして、僕たちは気分転換にデートをする事にした。
 丁度、僕が観たかった映画が公開されていたので、それを観に行く事になった。けど、その映画というのが、アレなんだよなぁ·····。

 八千代が席を取るために調べている。前々から観たいと言っていたので、一緒に行く気だったらしい。

「コレってこの間の銭湯のやつだよな」

 朔が画面を覗き込んで、ハッとした表情で言う。なんだか嬉しそうだ。

「そうだよ。映画が公開されるから、宣伝も含めたコラボだったの」

「つぅかお前ら、前作見てねぇだろ」

「は? 予習くらいしたし」

 りっくんが自慢気に言う。この間は、カイトくんも知らなかったクセに。けど、前作を観たにも関わらず、全然知らない風な八千代には言われたくないだろう。

 結局、男5人でBLのアニメ映画を観に行く事になった。絶対集中できないよ····。


 妙な視線を感じつつも映画を観終わり、昼食を食べにフードコートへ向かう。そんな中、啓吾が不満を漏らし始めた。

「見てて思ったんだけど、なんかジュンくんってさぁ····、場野に似てねぇ?」

「そ、そうかなぁ····」

「思った。つか前から思ってた。ほら、去年の夏祭りん時にくじで引いてたヤツあったじゃん? あれもだよね。ジュンくん」

「顔もちょっと似てる感じはあるけど、雰囲気だな。まぁ、場野のチンピラ感には流石に勝てねぇけど」

「「それな」」

 りっくんと啓吾が朔に同意し、八千代に頭をはたかれる。

「つぅか何だよあのドロドロした関係。お前、あんなん好きなんかよ」

「え、ドロドロしてなくない?」

 チサくんとカイトくんが元恋人同士で、チサくんは今、カイトくんの弟であるジュンくんと付き合っている。カイトくんは、ジュンくんの同級生であるレイジくんと付き合っているのだ。
 全員同じロックアイドルグループ『インサニア』のメンバーで、皆とっても仲良しなのだが。それぞれ丸く収まっているのに、どこがドロドロしているのだろう。

「えーっと? レイジってのが、チサからカイト奪ったんだろ? んで、チサはジュンと付き合ってるけど、カイトの事もまだ好きなんだっけ?」

「チサくんは、基本的にイケメン皆好きだよ。レイジくんとも付き合ったことあるんだけど、3日で別れたって裏設定があるの」

「チサがビッチなのはわかった」

 朔が言うと、皆が頷いた。

「え、チサくん攻めだよ? ねぇ、皆ちゃんと観てた?」

 皆は黙って目を逸らす。興味がないなら、無理して観なくてもいいのに····。

「他の····皆が観たいの観れば良かったね····」

 僕は耐えきれず、しょんぼりしてしまった。すると、皆が慌てて弁明しだした。

「あのね、嬉しそうに観てるゆいぴが見たかったんだ。好きな物見てる時のゆいぴ、目がキラキラしてすっごい可愛いから····」

「あと、お前の百面相な。映画観てるよかオモロイわ」

「結人が好きなもの見て、ちょっとでも元気出してくれたらいいと思ったんだ。それに、映画もそれなりに観てたぞ」

「俺ちゃんと観てたよ? 結構面白かったし。ヤッてる描写とかねぇから、攻めか受けかはよくわかんなかったけど」

 皆、それぞれ目的が違ったのか。満足しているのなら、それでいいんだけど····。何か違う気がするのは否めない。


 フードコートでお昼ご飯を食べていると、母さんから連絡があった。おばあちゃんの調子が悪いから、早めに帰れとの事だ。
 八千代に『すぐ帰んぞ』と言われ、僕は家まで送ってもらう。僕よりも焦っているみんなを見て、僕は少し落ち着いた。


 家の前で、皆は心配そうに僕を見送る。

「ゆいぴ、大丈夫?」

 それは、あんな事の後で、立て続けにメンタルを抉られて、と言う意味なのだろう。
 僕だって、色々経験して強くなったんだ。皆に心配ばかりかけてはいられない。それくらいの振る舞いは、皆から学んだつもりだ。

「大丈夫だよ。落ち着いたら連絡するね」


 僕は、父さんと母さんに連れられて病院へ向かう。
 おばあちゃんの顔色は良くないが、容態は落ち着いていて少し話す事もできた。おばあちゃんは『心配かけてごめんねぇ』と、いつものように優しく微笑んでくれた。

 夕方まで傍に居て、僕はおばあちゃんに『また来るね』と言い、父さんと一緒に帰った。帰りにラーメンを食べ、父さんと近況について話した。
 皆が僕を甘やかさないように気をつけている事や、勉強を頑張っている啓吾を皆で応援している事、進路や進学後の事も。
 内容を伝えるわけにはいかないので、これまでの事件は勿論伏せている。流石に、親には言えない。
 父さんは、静かに僕の話を聞いてくれて、最後に『幸せそうだね』と言った。僕はスープを飲み干して、勝手にニヤけてしまう顔を隠しもせずに『うん!』と返した。

 家に帰り、皆に事の次第を伝えた。おばあちゃんの無事に、皆は胸を撫でおろしていた。



 それから数日後、新学期の朝。早朝から啓吾が僕の家にやってきて、一緒に朝食を食べている。と言うのも、約束していた髪のセットをしに来たのだ。
 朝はあまり食べないと言う啓吾。なのに、母さんが『朝ご飯はしっかり食べなきゃダメよ』と言って、半ば無理やり食べさせている。
 啓吾が嬉しそうに食べてくれるものだから、母さんが調子に乗って夕飯にも誘った。啓吾が皆にも聞くと、全員『行く』と即レスしてきたらしい。今晩は、僕の家で夕飯を食べる事が決定した。

 朝食を食べ終え片付けを済ませると、啓吾は僕の髪のセットに取り掛かる。手際よく髪を弄り、あっという間にセットを終えた。スプレーで固めて完成だ。
 片側を後ろに流して、残りはくしゃっとして····えーっと、なんかイイ感じにしてくれた。オシャレのことは、まだよく分かんないや。

「どう? いい感じじゃね?」

「うん! ね、カッコイイ····?」

「かっこいいよ」

 啓吾は目を細め、凄く優しい顔で笑う。なんだかそれが、とてもこそばゆくて恥ずかしくなった。

「か、母さんにも見せてくる!」

「あ、待って! 皆に写真送れって言われてんの」

 そう言って啓吾は、パシャパシャと色んな角度から写真を撮りまくる。何枚送る気なんだろう。
 おそらく20枚くらい撮っただろう。それを啓吾が皆に送っている間に、僕は逃げるように小走りで母さんに見せに行く。
 僕を見た母さんは、何故かとても満足そうに『かっこいいね』と言ってくれた。こっちはこっちで恥ずかしい。
 きっと、この後みんなにも言われるのだろう。今のうちに覚悟しておこうと思った。

 そうして、僕たちは2人で学校へ向かう。兎にも角にも、冬真と猪瀬くんにあの話をしなくては。
 多分、冬真は凄く怒るんだろうな。猪瀬くんだって、ショックを受けるかもしれない。あぁ、新学期だというのに、なんだか憂鬱な気分だ。

「ゆーいと。なんか心配事?」

 僕の心を読んだかのように、啓吾が僕の顔を覗き込む。下から見上げるのもカッコイイな!

 僕は、正直に心情を話した。啓吾は手を繋いで『俺らが全部まるっと収めてやっから大丈夫だよ』と、大きく手を振って歩き出した。
 手の長さが違いすぎて、地味に肩が痛い。けれど、不思議と気持ちはすっかり晴れて、軽くなった心で学校を目指せた。

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