19 / 33
君に近づく影
しおりを挟む
早朝。
目覚めた智也は、窓辺に立つライガの背中を見つめていた。
光の中で揺れる銀色の髪。たくましい肩、けれど時折見せる背中の傷。その全てが、今はどこか遠く感じられる。
「……起きてたのか」
「うん。……ずっと、起きてた」
ライガが振り返り、少しだけ目を細める。
「夢でも見たか?」
「……いや、ただ、お前がいなかったら……って、ふと思って」
「いなくならない」
即答だった。けれど、その言葉の影に、どこか寂しさが混じっていた。
「……俺、やっとわかってきた。好きって、安心だけじゃなくて、怖くもなるんだな」
「……怖い?」
「だって、お前が俺の知らないところで傷ついてたりしたら……俺、きっと、耐えられない」
ライガはその言葉に、一瞬だけ表情を曇らせた。けれど、すぐに微笑を浮かべ、智也の額にそっと口づけた。
「大丈夫だ。俺の命は、お前のためにある」
「そんな言い方……」
「それくらい、お前が大事だってことだ」
智也はぎゅっと胸を押さえた。まだうまく言葉にはできないけれど、確かに想いは育っている。その事実が、少しだけ嬉しくて、少しだけ怖い。
***
その日、村の近くの森で、異変が起きた。
「……見てくれ、この痕。魔獣じゃねぇ。もっと、こう……人為的な、しかも異世界の魔術のにおいがする」
ユノが険しい顔で森の樹皮を調べていた。智也も魔力を感じ取り、眉をひそめる。
「……なんか、嫌な予感がする」
そこへ、ライガが現れた。
その目には、獣のような鋭さと……焦りが滲んでいる。
「智也。もう外に出るな。……絶対にだ」
「え、でも俺……」
「聞け。今度こそ、守れないかもしれない。だから……お願いだから、お前は、俺の傍から離れないでくれ」
ライガがこんなふうに「お願い」と言うのは、初めてだった。
智也は息を呑んで、その真剣な瞳を見つめる。
「……分かった。お前がそう言うなら、信じる」
ふたりの距離がまた一歩、深まったそのとき、森の奥から、何かの気配が近づいてきていた。
ざわり、と空気が震えた。村を囲む森の奥、風が逆巻くようにして、異質な魔が広がっていく。
「……くそ、やっぱり来やがったか」
ライガが低く唸るように言う。その背中に、智也は思わず声をかけた。
「……知ってるの?この気配」
「昔、同じものを感じたことがある。……俺が守れなかった、大切な人が消えた日。あの夜と同じ匂いだ」
その言葉に、智也の胸がひどく締めつけられる。
「……ライガ、お前……」
ライガはふっと目を伏せ、言葉を選ぶように口を開いた。
「……ずっと昔、俺は守るって誓ったんだ。同じ痛みを、二度と繰り返したくなくて。けど……智也、お前に会ってから、怖くなった」
「怖い?」
「ああ。お前を好きになればなるほど、もし失ったらって想像して、どうしようもなくなる」
ライガの手が、そっと智也の肩に触れる。
「だから……お前が好きって言ってくれるまで、俺はどんなことがあっても、傍にいる。絶対に守る」
その真剣な眼差しに、智也はもう目を逸らせなかった。……俺は、ライガに守られてるんじゃない。支えられてる。たぶん……心の底から。
そのとき、森の奥から、不意に声が響いた。
「へぇ。ずいぶん甘い顔をするようになったな、ライガ」
森の影から姿を現したのは、漆黒のローブに身を包んだ男だった。
その顔に、智也は見覚えがなかったが、ライガの表情が凍りつくのを感じた。
「お前……!」
「久しいな。裏切り者。……相変わらず、守るのが下手だな?」
その言葉は、ライガの心を深く抉った。智也は、横で拳を握りしめるライガの手を、そっと握り返す。
「……大丈夫。俺は、ここにいる。ちゃんと、生きてる。お前が、ずっと守ってくれてたからだよ」
その言葉に、ライガはふっと目を細めた。
「……ありがとう。今度こそ、絶対にお前を……誰にも、奪わせない」
智也の前に立つライガの背中は、大きくて、温かくて、どこまでも心強かった。
けれど、そこに絡みつく影は、予想以上に深く、冷たかった。
目覚めた智也は、窓辺に立つライガの背中を見つめていた。
光の中で揺れる銀色の髪。たくましい肩、けれど時折見せる背中の傷。その全てが、今はどこか遠く感じられる。
「……起きてたのか」
「うん。……ずっと、起きてた」
ライガが振り返り、少しだけ目を細める。
「夢でも見たか?」
「……いや、ただ、お前がいなかったら……って、ふと思って」
「いなくならない」
即答だった。けれど、その言葉の影に、どこか寂しさが混じっていた。
「……俺、やっとわかってきた。好きって、安心だけじゃなくて、怖くもなるんだな」
「……怖い?」
「だって、お前が俺の知らないところで傷ついてたりしたら……俺、きっと、耐えられない」
ライガはその言葉に、一瞬だけ表情を曇らせた。けれど、すぐに微笑を浮かべ、智也の額にそっと口づけた。
「大丈夫だ。俺の命は、お前のためにある」
「そんな言い方……」
「それくらい、お前が大事だってことだ」
智也はぎゅっと胸を押さえた。まだうまく言葉にはできないけれど、確かに想いは育っている。その事実が、少しだけ嬉しくて、少しだけ怖い。
***
その日、村の近くの森で、異変が起きた。
「……見てくれ、この痕。魔獣じゃねぇ。もっと、こう……人為的な、しかも異世界の魔術のにおいがする」
ユノが険しい顔で森の樹皮を調べていた。智也も魔力を感じ取り、眉をひそめる。
「……なんか、嫌な予感がする」
そこへ、ライガが現れた。
その目には、獣のような鋭さと……焦りが滲んでいる。
「智也。もう外に出るな。……絶対にだ」
「え、でも俺……」
「聞け。今度こそ、守れないかもしれない。だから……お願いだから、お前は、俺の傍から離れないでくれ」
ライガがこんなふうに「お願い」と言うのは、初めてだった。
智也は息を呑んで、その真剣な瞳を見つめる。
「……分かった。お前がそう言うなら、信じる」
ふたりの距離がまた一歩、深まったそのとき、森の奥から、何かの気配が近づいてきていた。
ざわり、と空気が震えた。村を囲む森の奥、風が逆巻くようにして、異質な魔が広がっていく。
「……くそ、やっぱり来やがったか」
ライガが低く唸るように言う。その背中に、智也は思わず声をかけた。
「……知ってるの?この気配」
「昔、同じものを感じたことがある。……俺が守れなかった、大切な人が消えた日。あの夜と同じ匂いだ」
その言葉に、智也の胸がひどく締めつけられる。
「……ライガ、お前……」
ライガはふっと目を伏せ、言葉を選ぶように口を開いた。
「……ずっと昔、俺は守るって誓ったんだ。同じ痛みを、二度と繰り返したくなくて。けど……智也、お前に会ってから、怖くなった」
「怖い?」
「ああ。お前を好きになればなるほど、もし失ったらって想像して、どうしようもなくなる」
ライガの手が、そっと智也の肩に触れる。
「だから……お前が好きって言ってくれるまで、俺はどんなことがあっても、傍にいる。絶対に守る」
その真剣な眼差しに、智也はもう目を逸らせなかった。……俺は、ライガに守られてるんじゃない。支えられてる。たぶん……心の底から。
そのとき、森の奥から、不意に声が響いた。
「へぇ。ずいぶん甘い顔をするようになったな、ライガ」
森の影から姿を現したのは、漆黒のローブに身を包んだ男だった。
その顔に、智也は見覚えがなかったが、ライガの表情が凍りつくのを感じた。
「お前……!」
「久しいな。裏切り者。……相変わらず、守るのが下手だな?」
その言葉は、ライガの心を深く抉った。智也は、横で拳を握りしめるライガの手を、そっと握り返す。
「……大丈夫。俺は、ここにいる。ちゃんと、生きてる。お前が、ずっと守ってくれてたからだよ」
その言葉に、ライガはふっと目を細めた。
「……ありがとう。今度こそ、絶対にお前を……誰にも、奪わせない」
智也の前に立つライガの背中は、大きくて、温かくて、どこまでも心強かった。
けれど、そこに絡みつく影は、予想以上に深く、冷たかった。
206
あなたにおすすめの小説
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる