最強賢者のスローライフ 〜転生先は獣人だらけの辺境村でした〜

なの

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君に近づく影

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早朝。
目覚めた智也は、窓辺に立つライガの背中を見つめていた。

光の中で揺れる銀色の髪。たくましい肩、けれど時折見せる背中の傷。その全てが、今はどこか遠く感じられる。

「……起きてたのか」

「うん。……ずっと、起きてた」

ライガが振り返り、少しだけ目を細める。

「夢でも見たか?」

「……いや、ただ、お前がいなかったら……って、ふと思って」

「いなくならない」

即答だった。けれど、その言葉の影に、どこか寂しさが混じっていた。

「……俺、やっとわかってきた。好きって、安心だけじゃなくて、怖くもなるんだな」

「……怖い?」

「だって、お前が俺の知らないところで傷ついてたりしたら……俺、きっと、耐えられない」

ライガはその言葉に、一瞬だけ表情を曇らせた。けれど、すぐに微笑を浮かべ、智也の額にそっと口づけた。

「大丈夫だ。俺の命は、お前のためにある」

「そんな言い方……」

「それくらい、お前が大事だってことだ」

智也はぎゅっと胸を押さえた。まだうまく言葉にはできないけれど、確かに想いは育っている。その事実が、少しだけ嬉しくて、少しだけ怖い。

***

その日、村の近くの森で、異変が起きた。

「……見てくれ、この痕。魔獣じゃねぇ。もっと、こう……人為的な、しかも異世界の魔術のにおいがする」

ユノが険しい顔で森の樹皮を調べていた。智也も魔力を感じ取り、眉をひそめる。

「……なんか、嫌な予感がする」

そこへ、ライガが現れた。
その目には、獣のような鋭さと……焦りが滲んでいる。

「智也。もう外に出るな。……絶対にだ」

「え、でも俺……」

「聞け。今度こそ、守れないかもしれない。だから……お願いだから、お前は、俺の傍から離れないでくれ」

ライガがこんなふうに「お願い」と言うのは、初めてだった。
智也は息を呑んで、その真剣な瞳を見つめる。

「……分かった。お前がそう言うなら、信じる」

ふたりの距離がまた一歩、深まったそのとき、森の奥から、何かの気配が近づいてきていた。

ざわり、と空気が震えた。村を囲む森の奥、風が逆巻くようにして、異質な魔が広がっていく。

「……くそ、やっぱり来やがったか」

ライガが低く唸るように言う。その背中に、智也は思わず声をかけた。

「……知ってるの?この気配」

「昔、同じものを感じたことがある。……俺が守れなかった、大切な人が消えた日。あの夜と同じ匂いだ」

その言葉に、智也の胸がひどく締めつけられる。

「……ライガ、お前……」

ライガはふっと目を伏せ、言葉を選ぶように口を開いた。

「……ずっと昔、俺は守るって誓ったんだ。同じ痛みを、二度と繰り返したくなくて。けど……智也、お前に会ってから、怖くなった」

「怖い?」

「ああ。お前を好きになればなるほど、もし失ったらって想像して、どうしようもなくなる」

ライガの手が、そっと智也の肩に触れる。

「だから……お前が好きって言ってくれるまで、俺はどんなことがあっても、傍にいる。絶対に守る」

その真剣な眼差しに、智也はもう目を逸らせなかった。……俺は、ライガに守られてるんじゃない。支えられてる。たぶん……心の底から。

そのとき、森の奥から、不意に声が響いた。

「へぇ。ずいぶん甘い顔をするようになったな、ライガ」

森の影から姿を現したのは、漆黒のローブに身を包んだ男だった。

その顔に、智也は見覚えがなかったが、ライガの表情が凍りつくのを感じた。

「お前……!」

「久しいな。裏切り者。……相変わらず、守るのが下手だな?」

その言葉は、ライガの心を深く抉った。智也は、横で拳を握りしめるライガの手を、そっと握り返す。

「……大丈夫。俺は、ここにいる。ちゃんと、生きてる。お前が、ずっと守ってくれてたからだよ」

その言葉に、ライガはふっと目を細めた。

「……ありがとう。今度こそ、絶対にお前を……誰にも、奪わせない」

智也の前に立つライガの背中は、大きくて、温かくて、どこまでも心強かった。

けれど、そこに絡みつく影は、予想以上に深く、冷たかった。

 

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