21 / 33
愛の名を持つ者たちへ
しおりを挟む
村に静寂が戻ったのは、闇の魔獣たちが塵と消え、ゼヴェルの気配が霧のように消えた後だった。
智也は、戦いの余熱の中に立っていた。
手足がじんじんと痺れ、全身から汗が流れているのに心だけは、なぜかやけに静かだった。
「……立てるか?」
ライガがそっと手を差し出してくる。大きくて、ごつごつしていて、けれどどこまでも温かい手。
「……うん」
智也は、その手を取った。ぎゅっと握られて、胸がきゅうっと痛くなった。
ふたりは無言のまま、森の外れにある高台へと歩いた。夜の帳が降り、満天の星がふたりを包んでいた。
「……怖かったか?」
ライガの問いに、智也は少しだけ間を置いてから、ゆっくりと頷いた。
「うん。……でも、それ以上に……嬉しかった」
「……嬉しかった?」
「お前が、俺の隣にいてくれて。……ちゃんと、俺を選んでくれたこと」
ライガは何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。そして少し視線を逸らしてから、ぽつりと零した。
「……なぁ、智也。お前に、ひとつ……聞いてほしい話がある」
その声音は、どこか遠い過去に触れるような、悲しみを含んでいた。
「王都にいたころ……俺には、弟がいたんだ。血は繋がってない。けど、戦場で拾って、俺が家族だって勝手に決めた子だった。……年も、お前と同じくらいだった」
智也は静かに、耳を傾ける。
「そいつ、優しくて……でも、俺に似てて。いつも無理して、俺を助けようとしてた。……ある日、王命で任務に出た時……俺を庇って、魔族の毒にやられて死んだんだ」
ライガの拳が、膝の上で震えていた。
「俺は、何もできなかった。強くなるって誓ったはずなのに……守りたいって思ったのに、守れなかった。……だからもう、誰も抱きしめねぇって、決めてたんだ」
智也はそっと、ライガの手の上に自分の手を重ねた。
「でもね……俺は、そんなあんたに出会えてよかったって思ってる。あんたの不器用な優しさも、怒鳴る声も、焦る目も……全部、俺には宝物だよ」
ライガが目を細めた。
「……お前って、本当に変な奴だな」
「うん、自分でも思うよ。でも……もう、逃げないって決めたから」
星の光が、ふたりの輪郭を優しくなぞる。その静寂の中で、ライガがゆっくりと智也を抱きしめた。
「……俺が、お前の全部を受け止める。怖いなら俺にぶつけろ。泣きたいなら泣け。……でも、離れるな。
お前がどんな過去を思い出そうと、どんな真実に辿り着こうと……俺は、お前の隣にいる」
「うん……俺も。ライガがいない未来なんて、もう考えたくないよ」
ライガの腕の中で、智也はそっと目を閉じた。
ライガの胸の鼓動を聞いた瞬間――俺は、前にもこんなふうに誰かを守って、死んだ気がした……
頭の中で、何かが崩れる音がした。現実とは違う、けれどたしかに自分の記憶。
それは、異世界に来る前の智也の死の記憶だった。
――黒い雨。
――助けを求める声。
――そして、崩れ落ちる天井と、焼けつくような熱。
ああ……そうだ、俺は……
智也はひとりの少年を庇って、炎に飲まれて死んだのだった。
「っ……ライガ……!」
思わずその名を呼ぶと、ライガが顔を覗き込んでくる。その目には、驚きと心配が混ざっていた。
「どうした、苦しいのか……!?」
「……思い出したんだ。俺……子どもを庇って……死んだことがあるんだ。そのとき、心の中で強く願った。せめてもう一度、誰かを守れる力が欲しいって……」
ライガの瞳が細められる。まるで、その祈りを知っていたかのように。
「……お前の転生は、偶然じゃない。この世界は時々、強い願いを抱いた魂を呼ぶ。……俺も、そんな奴を一度見たことがある」
「え……?」
「昔、王都で拾った……弟だった奴も、そんな風に願ってここに来たんじゃないかって、今でも思ってる」
智也は黙って、ライガの目を見つめ返した。
その奥にあるのは、悔恨と、そして優しさ。
「俺は……過去を変えることはできないけど、今のお前を全力で守ることはできる。今度は、もう絶対に後悔なんかしねぇ」
ライガの手が、そっと智也の頬に触れる。その掌は、どこまでも熱く、優しかった。
「なぁ、智也。……俺と一緒に生きてくれ」
その言葉は、恋の告白なんかよりも、ずっと真剣で、ずっと重たかった。
けれど、智也の答えはひとつだった。
「……うん。俺も、生きるよ。あんたと一緒に。どんな運命が待ってても……絶対に、離れない」
風が吹き抜けた。星が揺れた。ふたりの運命が、ゆっくりと、交わっていく。
この夜、智也は自分の過去を受け入れ、獣人のライガは初めて誰かを愛すると決めた。
ふたりは静かに、寄り添った。不器用なふたりが初めて未来を語った夜。
それは、まだ見ぬ運命への小さな、けれど確かな愛の名を持つ誓いだった――その名は、ふたりが共に選んだ「生きる」という未来。
智也は、戦いの余熱の中に立っていた。
手足がじんじんと痺れ、全身から汗が流れているのに心だけは、なぜかやけに静かだった。
「……立てるか?」
ライガがそっと手を差し出してくる。大きくて、ごつごつしていて、けれどどこまでも温かい手。
「……うん」
智也は、その手を取った。ぎゅっと握られて、胸がきゅうっと痛くなった。
ふたりは無言のまま、森の外れにある高台へと歩いた。夜の帳が降り、満天の星がふたりを包んでいた。
「……怖かったか?」
ライガの問いに、智也は少しだけ間を置いてから、ゆっくりと頷いた。
「うん。……でも、それ以上に……嬉しかった」
「……嬉しかった?」
「お前が、俺の隣にいてくれて。……ちゃんと、俺を選んでくれたこと」
ライガは何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。そして少し視線を逸らしてから、ぽつりと零した。
「……なぁ、智也。お前に、ひとつ……聞いてほしい話がある」
その声音は、どこか遠い過去に触れるような、悲しみを含んでいた。
「王都にいたころ……俺には、弟がいたんだ。血は繋がってない。けど、戦場で拾って、俺が家族だって勝手に決めた子だった。……年も、お前と同じくらいだった」
智也は静かに、耳を傾ける。
「そいつ、優しくて……でも、俺に似てて。いつも無理して、俺を助けようとしてた。……ある日、王命で任務に出た時……俺を庇って、魔族の毒にやられて死んだんだ」
ライガの拳が、膝の上で震えていた。
「俺は、何もできなかった。強くなるって誓ったはずなのに……守りたいって思ったのに、守れなかった。……だからもう、誰も抱きしめねぇって、決めてたんだ」
智也はそっと、ライガの手の上に自分の手を重ねた。
「でもね……俺は、そんなあんたに出会えてよかったって思ってる。あんたの不器用な優しさも、怒鳴る声も、焦る目も……全部、俺には宝物だよ」
ライガが目を細めた。
「……お前って、本当に変な奴だな」
「うん、自分でも思うよ。でも……もう、逃げないって決めたから」
星の光が、ふたりの輪郭を優しくなぞる。その静寂の中で、ライガがゆっくりと智也を抱きしめた。
「……俺が、お前の全部を受け止める。怖いなら俺にぶつけろ。泣きたいなら泣け。……でも、離れるな。
お前がどんな過去を思い出そうと、どんな真実に辿り着こうと……俺は、お前の隣にいる」
「うん……俺も。ライガがいない未来なんて、もう考えたくないよ」
ライガの腕の中で、智也はそっと目を閉じた。
ライガの胸の鼓動を聞いた瞬間――俺は、前にもこんなふうに誰かを守って、死んだ気がした……
頭の中で、何かが崩れる音がした。現実とは違う、けれどたしかに自分の記憶。
それは、異世界に来る前の智也の死の記憶だった。
――黒い雨。
――助けを求める声。
――そして、崩れ落ちる天井と、焼けつくような熱。
ああ……そうだ、俺は……
智也はひとりの少年を庇って、炎に飲まれて死んだのだった。
「っ……ライガ……!」
思わずその名を呼ぶと、ライガが顔を覗き込んでくる。その目には、驚きと心配が混ざっていた。
「どうした、苦しいのか……!?」
「……思い出したんだ。俺……子どもを庇って……死んだことがあるんだ。そのとき、心の中で強く願った。せめてもう一度、誰かを守れる力が欲しいって……」
ライガの瞳が細められる。まるで、その祈りを知っていたかのように。
「……お前の転生は、偶然じゃない。この世界は時々、強い願いを抱いた魂を呼ぶ。……俺も、そんな奴を一度見たことがある」
「え……?」
「昔、王都で拾った……弟だった奴も、そんな風に願ってここに来たんじゃないかって、今でも思ってる」
智也は黙って、ライガの目を見つめ返した。
その奥にあるのは、悔恨と、そして優しさ。
「俺は……過去を変えることはできないけど、今のお前を全力で守ることはできる。今度は、もう絶対に後悔なんかしねぇ」
ライガの手が、そっと智也の頬に触れる。その掌は、どこまでも熱く、優しかった。
「なぁ、智也。……俺と一緒に生きてくれ」
その言葉は、恋の告白なんかよりも、ずっと真剣で、ずっと重たかった。
けれど、智也の答えはひとつだった。
「……うん。俺も、生きるよ。あんたと一緒に。どんな運命が待ってても……絶対に、離れない」
風が吹き抜けた。星が揺れた。ふたりの運命が、ゆっくりと、交わっていく。
この夜、智也は自分の過去を受け入れ、獣人のライガは初めて誰かを愛すると決めた。
ふたりは静かに、寄り添った。不器用なふたりが初めて未来を語った夜。
それは、まだ見ぬ運命への小さな、けれど確かな愛の名を持つ誓いだった――その名は、ふたりが共に選んだ「生きる」という未来。
183
あなたにおすすめの小説
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる