最強賢者のスローライフ 〜転生先は獣人だらけの辺境村でした〜

なの

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愛の名を持つ者たちへ

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村に静寂が戻ったのは、闇の魔獣たちが塵と消え、ゼヴェルの気配が霧のように消えた後だった。

智也は、戦いの余熱の中に立っていた。
手足がじんじんと痺れ、全身から汗が流れているのに心だけは、なぜかやけに静かだった。

「……立てるか?」

ライガがそっと手を差し出してくる。大きくて、ごつごつしていて、けれどどこまでも温かい手。

「……うん」

智也は、その手を取った。ぎゅっと握られて、胸がきゅうっと痛くなった。
ふたりは無言のまま、森の外れにある高台へと歩いた。夜の帳が降り、満天の星がふたりを包んでいた。

「……怖かったか?」

ライガの問いに、智也は少しだけ間を置いてから、ゆっくりと頷いた。

「うん。……でも、それ以上に……嬉しかった」

「……嬉しかった?」

「お前が、俺の隣にいてくれて。……ちゃんと、俺を選んでくれたこと」

ライガは何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。そして少し視線を逸らしてから、ぽつりと零した。

「……なぁ、智也。お前に、ひとつ……聞いてほしい話がある」

その声音は、どこか遠い過去に触れるような、悲しみを含んでいた。

「王都にいたころ……俺には、弟がいたんだ。血は繋がってない。けど、戦場で拾って、俺が家族だって勝手に決めた子だった。……年も、お前と同じくらいだった」

智也は静かに、耳を傾ける。

「そいつ、優しくて……でも、俺に似てて。いつも無理して、俺を助けようとしてた。……ある日、王命で任務に出た時……俺を庇って、魔族の毒にやられて死んだんだ」

ライガの拳が、膝の上で震えていた。

「俺は、何もできなかった。強くなるって誓ったはずなのに……守りたいって思ったのに、守れなかった。……だからもう、誰も抱きしめねぇって、決めてたんだ」

智也はそっと、ライガの手の上に自分の手を重ねた。

「でもね……俺は、そんなあんたに出会えてよかったって思ってる。あんたの不器用な優しさも、怒鳴る声も、焦る目も……全部、俺には宝物だよ」

ライガが目を細めた。

「……お前って、本当に変な奴だな」

「うん、自分でも思うよ。でも……もう、逃げないって決めたから」

星の光が、ふたりの輪郭を優しくなぞる。その静寂の中で、ライガがゆっくりと智也を抱きしめた。

「……俺が、お前の全部を受け止める。怖いなら俺にぶつけろ。泣きたいなら泣け。……でも、離れるな。
お前がどんな過去を思い出そうと、どんな真実に辿り着こうと……俺は、お前の隣にいる」

「うん……俺も。ライガがいない未来なんて、もう考えたくないよ」

ライガの腕の中で、智也はそっと目を閉じた。

ライガの胸の鼓動を聞いた瞬間――俺は、前にもこんなふうに誰かを守って、死んだ気がした……

頭の中で、何かが崩れる音がした。現実とは違う、けれどたしかに自分の記憶。
それは、異世界に来る前の智也の死の記憶だった。

――黒い雨。
――助けを求める声。
――そして、崩れ落ちる天井と、焼けつくような熱。

ああ……そうだ、俺は……
智也はひとりの少年を庇って、炎に飲まれて死んだのだった。

「っ……ライガ……!」

思わずその名を呼ぶと、ライガが顔を覗き込んでくる。その目には、驚きと心配が混ざっていた。

「どうした、苦しいのか……!?」

「……思い出したんだ。俺……子どもを庇って……死んだことがあるんだ。そのとき、心の中で強く願った。せめてもう一度、誰かを守れる力が欲しいって……」

ライガの瞳が細められる。まるで、その祈りを知っていたかのように。

「……お前の転生は、偶然じゃない。この世界は時々、強い願いを抱いた魂を呼ぶ。……俺も、そんな奴を一度見たことがある」

「え……?」

「昔、王都で拾った……弟だった奴も、そんな風に願ってここに来たんじゃないかって、今でも思ってる」

智也は黙って、ライガの目を見つめ返した。
その奥にあるのは、悔恨と、そして優しさ。

「俺は……過去を変えることはできないけど、今のお前を全力で守ることはできる。今度は、もう絶対に後悔なんかしねぇ」

ライガの手が、そっと智也の頬に触れる。その掌は、どこまでも熱く、優しかった。

「なぁ、智也。……俺と一緒に生きてくれ」

その言葉は、恋の告白なんかよりも、ずっと真剣で、ずっと重たかった。
けれど、智也の答えはひとつだった。

「……うん。俺も、生きるよ。あんたと一緒に。どんな運命が待ってても……絶対に、離れない」

風が吹き抜けた。星が揺れた。ふたりの運命が、ゆっくりと、交わっていく。

この夜、智也は自分の過去を受け入れ、獣人のライガは初めて誰かを愛すると決めた。

ふたりは静かに、寄り添った。不器用なふたりが初めて未来を語った夜。

それは、まだ見ぬ運命への小さな、けれど確かな愛の名を持つ誓いだった――その名は、ふたりが共に選んだ「生きる」という未来。

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