4 / 30
4
しおりを挟む
日の光が眩しくて目を開けた。トントンとしてもらってるうちに気づいたら寝てしまった…出て行こうと思ってたのに…
昨日は左腕に刺さっていた点滴は勝手に抜いたからか、包帯が巻かれていた。そして右腕には新しい点滴が刺さっていた。勝手に抜いたから怒られるよね…どうしようと思ってたら
「目、覚めたか?」足元の方から声が聞こえた。身構えると昨日の大柄な男の人がこっちに近づいてきた。昨日のことを思い出してしまいカタカタと震える身体を布団の下で抱きしめて目を瞑った。
「別に何もしない。怖がるな。昨日は……大きな声で怒鳴ったりして悪かった」
謝られても、どうしていいのかわからなくて、何も答えられずにいると
「俺が怖いか?別にお前を怖がらせるつもりはなかった。見た目がこんなんだからな。怖がる人間が多いのは昔からだ。でも命を粗末にしようとしたのが許せなかっただけだ。どんな理由があっても」
そんなことを言われて思わず目を見開き怒鳴ってしまった。
「そんなのっ、そんな思いをしたことがない人が言うことだよ。アルファのあんたなんか絶対にわからない。僕がどんな思いで大金払ってまでしてあの薬を買ったのなんか、何も知りもしないくせに…偉そうに…僕のことなんて、もうほっといて、もう出てってよ。もう二度と来んな。絶対に」
僕はそう言って布団をかぶって耳を塞いだ。涙があとからあとから流れて頬を伝った。悔しい。悔しいよ。母さん、僕はあとどれだけ我慢すればいい?僕の気持ちなんて誰もわからない。わかってなんかくれない。
僕が怒鳴ったのにも関わらず頭を撫でてくれる大きい手の感触がした。でも僕は布団から出れずに潜ったままでいた。
「悪かった。お前の気持ちを蔑ろにするつもりなんかなかった。確かに俺はアルファだが…これでも色々と辛く苦しい思いもしてる。だけどそれよりも、もっとお前の方が辛い思いも、苦しい思いもしたんだろう。それこそ自分の命を捨ててもいいと思うくらい。わかってあげられなくて悪い。ただお前の…その心の中にある重たい荷物を下ろしてみないか?俺が絶対に力になって守ると約束するから」
そんなこと言われても、どうしていいのか分からず、そのまま蹲っていると
「全く、幸樹!あさひくんに関わるなって言ったよね。何してるの?昨日だって幸樹のせいでしょ」
「だが…この子は…」
「いいから。これから、あさひくんと話あるから、幸樹仕事は?溜まってるんじゃないの?」
「あぁ…じゃあ、また来るから…何かあったら…」
「わかった。わかった。じゃあねー」
ドアを閉める音が聞こえた。
「ったく…ごめんね。あさひくん。顔見せてくれるかな?」
そう言われても、まだあの人がいるかもしれないと思って出れずにいた。
「あさひくん、怖かったよね。でも幸樹は悪いやつじゃないよ。まぁ…俺が言っても信用できないかもしれないけど…」
そう言って先生は自分と幸樹さんのことを教えてくれた。
先生はこの〝明けの里病院〟の副医院長先生。先生は昔、東京の病院で働いていたけど病院を継ぐために戻って来た。
先生はアルファだけど結婚していて番もいるからオメガの治療もできると…そしてさっきの大柄な男の人は立花幸樹さん36歳アルファで、先生の幼馴染。
彼の仕事は調香師、化粧品やフレグランスをはじめとする香料を調合する職業だ。普通は企業で働くのが一般的だが彼は違った。
彼は+Met(タスメット)という自分の工房をもっている。番を亡くしてしまったり、番に捨てられてしまったオメガが発情期に番の匂いを嗅いで落ち着いて過ごせるように番の匂いを一緒に調合してその人が求める香りを作ったりする。番がいなくなって心と身体のバランスを大きく崩したオメガのための一時的な処置になっている。また、長期出張になってしまって番の香りをお互いに感じたいからという人達や、自分の好きな世界に1つだけの香水を作りたいと需要はさまざまだが、どの人も香りを嗅いで落ち着きたいという気持ちには変わりはない。
立花さんは、まだ番はいない…というか番を持つ気がないらしいと先生は言った。何か事情があるのかまではわからなかったが…
立花さんの工房はこの病院から車で30分ほどの丘の上にあるそうで、僕を見つけたあの日は、贔屓にしているお客さんの家から自宅に帰る途中だったらしい。
「僕たちのこと少しはわかってくれたかな?次は…あさひくんって…まだ言えないよね?とりあえずご飯食べれるかな?胃を少し洗浄したからお粥だけど、ごめんね。今持ってくるから…」
そう言って先生は出ていった。布団から顔を出すとお日様がさんさんと降り注いでいた。起き上がってベッドの上に座った。
先生がお粥が乗ったお盆を持ってきてくれた。
「起きてて大丈夫?食べれるだけ食べてね。点滴は…外さないでね」そう言って先生は出てった。
お盆にはお粥とお味噌汁が
乗っていた。
「いただきます」
手を合わせて少しお粥をすくって食べた。美味しい。そういえば昨日の昼から何も食べてないや…お腹は空いてるはずなのに半分も食べられなかった…それでも先生は何も言わずに笑って片付けてくれた。
昨日は左腕に刺さっていた点滴は勝手に抜いたからか、包帯が巻かれていた。そして右腕には新しい点滴が刺さっていた。勝手に抜いたから怒られるよね…どうしようと思ってたら
「目、覚めたか?」足元の方から声が聞こえた。身構えると昨日の大柄な男の人がこっちに近づいてきた。昨日のことを思い出してしまいカタカタと震える身体を布団の下で抱きしめて目を瞑った。
「別に何もしない。怖がるな。昨日は……大きな声で怒鳴ったりして悪かった」
謝られても、どうしていいのかわからなくて、何も答えられずにいると
「俺が怖いか?別にお前を怖がらせるつもりはなかった。見た目がこんなんだからな。怖がる人間が多いのは昔からだ。でも命を粗末にしようとしたのが許せなかっただけだ。どんな理由があっても」
そんなことを言われて思わず目を見開き怒鳴ってしまった。
「そんなのっ、そんな思いをしたことがない人が言うことだよ。アルファのあんたなんか絶対にわからない。僕がどんな思いで大金払ってまでしてあの薬を買ったのなんか、何も知りもしないくせに…偉そうに…僕のことなんて、もうほっといて、もう出てってよ。もう二度と来んな。絶対に」
僕はそう言って布団をかぶって耳を塞いだ。涙があとからあとから流れて頬を伝った。悔しい。悔しいよ。母さん、僕はあとどれだけ我慢すればいい?僕の気持ちなんて誰もわからない。わかってなんかくれない。
僕が怒鳴ったのにも関わらず頭を撫でてくれる大きい手の感触がした。でも僕は布団から出れずに潜ったままでいた。
「悪かった。お前の気持ちを蔑ろにするつもりなんかなかった。確かに俺はアルファだが…これでも色々と辛く苦しい思いもしてる。だけどそれよりも、もっとお前の方が辛い思いも、苦しい思いもしたんだろう。それこそ自分の命を捨ててもいいと思うくらい。わかってあげられなくて悪い。ただお前の…その心の中にある重たい荷物を下ろしてみないか?俺が絶対に力になって守ると約束するから」
そんなこと言われても、どうしていいのか分からず、そのまま蹲っていると
「全く、幸樹!あさひくんに関わるなって言ったよね。何してるの?昨日だって幸樹のせいでしょ」
「だが…この子は…」
「いいから。これから、あさひくんと話あるから、幸樹仕事は?溜まってるんじゃないの?」
「あぁ…じゃあ、また来るから…何かあったら…」
「わかった。わかった。じゃあねー」
ドアを閉める音が聞こえた。
「ったく…ごめんね。あさひくん。顔見せてくれるかな?」
そう言われても、まだあの人がいるかもしれないと思って出れずにいた。
「あさひくん、怖かったよね。でも幸樹は悪いやつじゃないよ。まぁ…俺が言っても信用できないかもしれないけど…」
そう言って先生は自分と幸樹さんのことを教えてくれた。
先生はこの〝明けの里病院〟の副医院長先生。先生は昔、東京の病院で働いていたけど病院を継ぐために戻って来た。
先生はアルファだけど結婚していて番もいるからオメガの治療もできると…そしてさっきの大柄な男の人は立花幸樹さん36歳アルファで、先生の幼馴染。
彼の仕事は調香師、化粧品やフレグランスをはじめとする香料を調合する職業だ。普通は企業で働くのが一般的だが彼は違った。
彼は+Met(タスメット)という自分の工房をもっている。番を亡くしてしまったり、番に捨てられてしまったオメガが発情期に番の匂いを嗅いで落ち着いて過ごせるように番の匂いを一緒に調合してその人が求める香りを作ったりする。番がいなくなって心と身体のバランスを大きく崩したオメガのための一時的な処置になっている。また、長期出張になってしまって番の香りをお互いに感じたいからという人達や、自分の好きな世界に1つだけの香水を作りたいと需要はさまざまだが、どの人も香りを嗅いで落ち着きたいという気持ちには変わりはない。
立花さんは、まだ番はいない…というか番を持つ気がないらしいと先生は言った。何か事情があるのかまではわからなかったが…
立花さんの工房はこの病院から車で30分ほどの丘の上にあるそうで、僕を見つけたあの日は、贔屓にしているお客さんの家から自宅に帰る途中だったらしい。
「僕たちのこと少しはわかってくれたかな?次は…あさひくんって…まだ言えないよね?とりあえずご飯食べれるかな?胃を少し洗浄したからお粥だけど、ごめんね。今持ってくるから…」
そう言って先生は出ていった。布団から顔を出すとお日様がさんさんと降り注いでいた。起き上がってベッドの上に座った。
先生がお粥が乗ったお盆を持ってきてくれた。
「起きてて大丈夫?食べれるだけ食べてね。点滴は…外さないでね」そう言って先生は出てった。
お盆にはお粥とお味噌汁が
乗っていた。
「いただきます」
手を合わせて少しお粥をすくって食べた。美味しい。そういえば昨日の昼から何も食べてないや…お腹は空いてるはずなのに半分も食べられなかった…それでも先生は何も言わずに笑って片付けてくれた。
151
あなたにおすすめの小説
ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた
風
BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。
「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」
俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。
契約結婚だけど大好きです!
泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。
そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。
片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。
しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。
イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。
......
「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」
彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。
「すみません。僕はこれから用事があるので」
本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。
この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。
※小説家になろうにも掲載しております
※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます
こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。
僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね
舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」
Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。
恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。
蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。
そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる