オメガの僕が運命の番と幸せを掴むまで

なの

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あさひくんが自分のこと話してくれたから、僕も自己紹介しようか。そう言って春樹さんは教えてくれた。

北見先生と同じ高校に2個下で入って天文部で出会って、北見先生を好きになって、付き合い始めたんだけど、元々実家もお医者さんだった北見先生はお医者さんを目指していた。この近くに医学部がないから、東京行くと言って行ってしまった。春樹さんは北見先生と一緒にいたいからと猛勉強して薬剤師を目指したと…僕…血が苦手で…だから医者にはなれないと思ったんだけど、でも達也の側にいたかったから…と頬を少し赤く染めて話す春樹さんはずいぶん年上なのに可愛く見えた。

大学ではお互いに忙しくて先生と会うこともそれほど多くなかったが、先生が勤めてる病院に自分も一緒に働いたこと。そして…10年前に結婚したこと。僕たちはね。付き合って10年もかかって結婚したんだ。お互い学生だったしね。でも今は幸せだから。今ね9歳になる双子の女の子と4歳のやんちゃな男の子がいるんだよ。めちゃくちゃかわいいの。今度、会ってね。その顔はとても幸せそうな顔をしていた。

羨ましい…同じオメガなのに薬学部に行けるほどの頭の良さと、その学費を払えるお家があって…
僕が俯いてると春樹さんは、ごめんね。同じオメガなのに…でも、あさひくんを大切にしてくれる人と会えたら幸せになれるよ。

「あさひくんは運命の番って知ってる?」

「はい。母さんが言ってました」

「うん。僕も話しか聞いたことなかったんだけど…でも本当にあるんだよ」

「本当に?」

「そう。運命の番はね。その人の匂い、フェロモンに反応して番がわかるの」

「匂い?」

「そう。あさひくんはどの匂いがいいって言ってた?」

「これ…ですか?」

「そう。幸樹さんが持って来たこの香水はね。私にはあんまりいい匂いだとは思わないの…」

「どうして?めちゃくちゃいい匂いしますよ」

「だってこれは…幸樹さんのフェロモンの匂いに似てるからだと思うの」

「でも匂いって自分じゃわからないですよね…じゃあこれは…どうやって?他の人に…」
そう言った自分の言葉でなぜか傷ついた…立花さんは…

「大丈夫よ。あの人は調香師なの。だから匂いに敏感だからかな?どうやって作ったかはわからないけど…だって匂いってこんな感じ…って伝えても人それぞれ感じ方が違うから…間違っても誰かに匂いを嗅がせて作ったわけじゃないと思うから安心してね」

「じゃあ僕は…」

「そう。幸樹さんの匂いに反応してる。そして幸樹さんも、あさひくんの匂いに反応してる。これは運命なんじゃないかな?運命の番がいるってことがわかったなんて凄いね」そう言ってニコニコと笑ってくれた。

そうか…僕はこの匂いが好きなんだ。でもその人が好きなんてまだわからない。人を好きになったことがない僕には…

「あさひくん、今は何も考えずにヒートが治るのを考えようか…身体…辛いでしょ?」

「はい…でもなんだかわからないけど、この匂いがあれば大丈夫な気がします」

「そうか…でも手伝おうか?」

「いえ…とりあえず1人でやってみてもいいですか?」

「うん。何かあればこのボタン押してね」
そう言って春樹さんは部屋を出て行った。

僕はもう一度、あの香水の匂いを嗅ごうとビンの蓋を開けた。濃厚な香りが鼻を抜けて、この匂いを全身で感じたい。持っていたタオルにスプレーをかけて抱きしめた。
それからその匂いを嗅いで自分で自分自身を慰めた。でも欲は治ることを知らない。もっと…もっと…と、この匂いがする本人に抱きしめてほしい。抱きつきたい。僕の側にいてほしい。そう思いながら春樹さんが手伝ってくれたみたいに後孔に指を入れる。1本2本と本数を増やして自分の欲を吐き出そうとする。

でも…だんだん惨めになってきた。どうしてオメガなんかに生まれたんだろう。
どうしてこんなにも欲を求めるんだろう。情けないやら寂しいやら、悲しくて…いつまでたっても全て満たされない。

春樹さんが出てってからどのくらいたったのだろうか…たまにシャワーを浴びさせてくれたり、ゼリー飲料や水分を取らせてくれる手があった。でも…うる覚えだけど、自分が求めてるのは、求めている手はこれじゃないと思っていた。

立花さんはアルファだからここには来れないけど心配してるよ。と春樹さんに言われた。会いたい。立花さんに…なぜだかそう思った。



なかなかヒートが治らないあさひくんに水分やゼリー飲料を持っていったり、着替えさせたりする日が続いた…うわ言のように「立花さん」…と幸樹さんの名前を呼ぶあさひくん。本人は気づいてないけど運命の番に会えたから、繋がりたいんだと本能が叫んでる気がした…でもあさひくんの育った環境を考えると今すぐに番にはできなそうだ…
僕は医局にいる達也と幸樹さんにあさひくんから聞いた話をした。
「あさひくんを番にするのは大変だと思うよ。お母さんが番であるお父さんに捨てられたことも気にしてるし、自分が知らないアルファに売られて、その人にお母さんの治療費と自分の養育費を払わせられる…だからお金持ちの人とじゃないと番にはなれない…」酷い話だよね…

そんなトラウマが…
これからどうすればいいのか?
3人で話しも解決はできなかった。




「あさひくん体調どう?もう少ししたらヒート明けると思うけど…まだ辛いかな?」

「北見先生…」

「辛そうだね。抑制剤…あまり効いてなさそうだね」

「立花…さんは?」

「幸樹?うん。病院に寝泊まりしてる。あさひくんが心配だって。この部屋には入れないけどね」

「そうですよね…北見先生、聞いてもいいですか?」

「なにかな?」

「運命の番…って結局、お互いの匂いで反応してるんですよね?立花さんが僕を好きじゃなくて、僕の匂いで反応してるだけなんですよね?そんなの…惨めだと思いませんか?好きだから一緒にいたい。好きだから番になりたい…とは違うんでしょうね…」

「あさひくん…」

「先生、変なこと聞いてすみません」

そう言ってあさひくんは布団をかぶってしまった。

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