オメガの僕が運命の番と幸せを掴むまで

なの

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「あ…幸樹さん、遅くなりました。あさひくんは…」

「春樹ごめん。流石に無理だわ」

「ちょっと幸樹さん、その腕…」
幸樹さんの腕には噛み跡がついて血が出ていた。急いで持っていたハンカチで出血している箇所を押さえた。きっとラットにならないように、自分の腕を噛んで理性を保ってたみたいだけど、どうしてこんな。

「あさひ、ヒートが来たみたいで、結構匂いが強くなってきて…とりあえず抑制剤は渡してきたけど」

「わかった。見てくるから、幸樹さんは達也の病院に行って見てもらって」

「頼んでいいか?悪いな」

「じゃあまた、連絡するから」

僕は、佐竹さんの家に入ると所々に血痕があった。どれだけ噛んで理性を保っていたんだろう。なかなかそんなことできるアルファなんていない血痕を拭きながらあさひくんの部屋の前に行った。
「あさひくん、入ってもいい?春樹だけど」
声をかけたけど、中からは何も音がしない。ヒートで辛いのかもしれない。そっと中に入ると、あさひくんは静かに寝息を立てていた。寝ちゃったのか…おでこに手を当てると熱は下がっていたようで安心した。
サイドテーブルには空の包装シートと水が置いてあった。きっと幸樹さんが渡してくれた抑制剤を飲んだのだろう。ヒートって言ってたけど、1人でした形跡が見当たらない。本当にヒートなんだろうか?

それにしても、よく眠っている。20歳と言っていたけれど、それよりもっと幼く見える。この前、運命の番の話を聞いてきた。自分は本に書いてあるような感じがしなかったのかと…でも最初に会った時よりも、最近は幸樹さんに対して嫌悪感はないように見えるが、まだ番になる。なりたいというのには抵抗があるように感じるのはどうしてなんだろう…そんなことを考えてたら、あさひくんの目が開いた。

「あさひくん体はどう?辛いところある?」

「どうして春樹さんが?」

「幸樹さんから連絡もらったの。ヒートがきたって言われたけど、どう?そんな感じには見えないんだけど」

「はい。僕もさっきみたいな身体の熱がないように感じます。あの立花さんは?」

「うん。ちょっと予定ができて帰ったよ。何かあった?」

「いえ…大丈夫です」

「あさひくん、僕にはなんでも話してくれると嬉しいな。力になれることは少ないかもしれないけど」

「あのですね。なんとなく立花さんに抱きついてしまったんです。そしたらおでこにキスされて…なんか熱でもないけど、身体が熱くなってきて、匂いが強くなってきたからヒートがきたって言われて薬渡されて飲んだら、急に眠くなっちゃって…」

「そうだったんだね。でもそれはヒートじゃなかったね。幸樹さんに抱きついて、身体が番を求めちゃってヒートみたいな症状が出ただけだから心配しなくても大丈夫だからね。まだ風邪治ってないから、もう少し休もうね」

「春樹さん、ありがとうございます。でももう僕大丈夫です。もう少しで佐竹さんも帰ってくるだろうから」

「そう?何かあったら連絡していいからね」
春樹さんが帰ってしばらくしてから佐竹さんが帰ってきた。

「あさひくん大丈夫?」

「はい。熱は下がったので大丈夫です」

「さっき、立花さん見かけたの。そしたら腕に包帯してたけど大丈夫なのかしらね?電話しても出ないし…」

「包帯…ですか?」

「そう。左腕に包帯が巻いてあって…利き腕じゃないから大丈夫かもしれないけど、朝来た時にはなかったから、そのあと怪我でもしたのかもね。何かあったら連絡来るだろうし。じゃあご飯でも食べようか、病み上がりだから卵うどんでいいかな?」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ僕が作るから、熱下がったんならシャワー浴びておいで、さっぱりするから」

「じゃあ先にお風呂にいってきます」
僕はお風呂に入りながら立花さんのことを考えてた。そういえば抑制剤を渡してくれた時、腕から血が出てたかも…僕がなにかしたのかもねしれない。明日来たら聞いてみようかな?大丈夫だといいけど…

でもそのあと、立花さんに会えなくなるなんてこの時は思わなかった。

次の日、佐竹さんに連絡がきて少し遠くに行くのでしばらく家に来れないと…僕の買い物とか病院に連れて行けなくなって申し訳ないけど、その代わりに春樹に任せてあるから心配しなくても大丈夫だからと…

立花さんがどこに行ったのかわからないし。しばらくってどのくらい?僕は立花さんに嫌われたのかな?運命の番だとしても抱きつかれるのは嫌だった?でもおでこにキスしてくれたよね…

そんなことを考えてるうちに僕の頭は少しパニックしてきた。するとだんだん不安になり、怖くなった。1人になったらどうしよう。また誰かに何かされたら…だんだん呼吸が苦しくなっていった。立花さん、どうして僕を1人にするの?どうして?僕が運命の番を信じないから?僕が立花さんの番にはなれないから?どうして、そう思ってるうちに僕の記憶は途切れた。

誰かに頭を撫でてもらってる…そう思うけど僕は起き上がることはできなかった。
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