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「……ヒーナ様。帳簿の手を止めて、少しだけ私の話を聞いていただけませんか。これは業務外の、極めてプライベートな『投資相談』です」
深夜の王宮執務室。ゼクスが、いつになく真剣な眼差しで私の前に立ちました。
「投資相談? あら、あなたの個人資産の運用なら、今のままでも十分な利回りが出ているはずだけど。それとも、もっとハイリスク・ハイリターンな案件に興味が湧いたのかしら?」
私は算盤を置き、首を傾げました。
「ええ。これまでの人生で培った私の全財産、および全能力……そして、私の『今後百年の労働力』という無形資産を、ある一人の人物に一括投資したいと考えています」
「……なんですって? そんな一点集中投資、リスクヘッジの観点から言えば正気の沙汰ではないわ。その投資先は、一体どこのどなた?」
「目の前にいる、欲深くて、冷徹で、金貨の音でしか踊らない……世界で一番美しい『支配者』ですよ」
ゼクスは一歩近づき、私の手を取って、指先に軽く唇を寄せました。
「……っ。……ゼ、ゼクス? それ、今の私に対する『独占契約の申し入れ』と受け取ってよろしいのかしら?」
「ええ。契約金は不要です。その代わり、貴女の人生という巨大なプロジェクトの『永久パートナー』として、私を登録していただきたい。……報酬は、貴女の隣で一緒に帳簿を付ける権利だけで構いません」
「……。……検討、しておいてあげるわ。とりあえず、その提案書(プロポーズ)の期待収益率を後でグラフにして提出なさい」
私は顔が火を噴くほど熱くなるのを感じ、慌てて手を引きました。
そんな甘い(?)空気の中、執務室のドアの下から、一枚の薄汚れた手紙が差し込まれました。
「あら、何かしら。……『ヒーナ様へ。北の古倉庫に、前代未聞の「隠し金庫」の地図を見つけました。一人で来てください。カイルより』……ですって」
「……分かりやすすぎる罠ですね。罠の設置コストが、見返りを大幅に下回っています」
ゼクスが呆れたように言いました。
「でも『隠し金庫』というキーワードは、私の好奇心(資産欲)を刺激するわ。……ねえゼクス、あえて引っかかってあげましょう。もちろん、ただでは起きないけれどね」
北の古倉庫。埃にまみれた暗闇の中で、私を待っていたのはカイル王子とミア様でした。
「かかったな、ヒーナ! お前をここに閉じ込めて、その間に父上から『全権委任状』を取り返してやる!」
カイル王子が、今にも壊れそうなドアを外から閉めようと必死に叫んでいます。
「そうですわ! 貴女さえいなくなれば、またカイル様は私のために贅沢させてくださるんですもの! さようなら、効率化の悪魔!」
ミア様も一緒になって、重い閂(かんぬき)を下ろそうとしています。
「……あの、お二人。そのドア、昨日の備品点検で『建付け不良により、内側からは開かないが外側からもロックできない』と判定して、廃棄リストに載せたはずですけれど?」
私は溜息をつき、内側から軽くドアを押し開けました。
「ひええっ!? な、なぜ開くんだ!」
「物理法則は嘘をつきませんわ。それより……お二人さん。この倉庫、現在『有料貸出スペース』として登録されています。無断で使用したことによる『不法占拠罪』、および私の貴重な夜間休憩時間を奪った『損害賠償』。……合わせて、金貨五十枚を請求いたしますわ」
「ま、また金か! お前はそれしかないのか!」
カイル王子が地面に泣き崩れました。
「ええ、それしかありませんわ。愛でパンは買えませんが、金があれば貴方のその壊れた根性を叩き直すための『超スパルタ家庭教師』を雇えますもの」
私は背後に控えていたゼクスに合図を送りました。
「ゼクス。このお二人、反省の色が見られないわね。明日の朝食から、完全栄養食のグレードを一段階下げてちょうだい。……あ、もちろん、差額分は私のポケットマネー(純利益)に計上してね」
「畏まりました。……カイル様、ミア様。先ほどの作戦、実行コストは金貨百枚分、得られた利益は『マイナス』。……投資の失敗(大赤字)ですね」
ゼクスが冷たく言い放ち、私を優しくエスコートして倉庫を後にしました。
「……さて、ゼクス。さっきの話だけど」
夜風に当たりながら、私は小さく呟きました。
「……私の人生というプロジェクト、結構、管理が大変よ? 損失が出ても、解約は認めないけれど、いいかしら?」
「望むところです。……赤字が出た時は、私の愛(利息)で補填させていただきますから」
婚約破棄から始まった私の新生活。
どうやら私は、世界で一番価値のある『永久資産』を手に入れてしまったようです。
深夜の王宮執務室。ゼクスが、いつになく真剣な眼差しで私の前に立ちました。
「投資相談? あら、あなたの個人資産の運用なら、今のままでも十分な利回りが出ているはずだけど。それとも、もっとハイリスク・ハイリターンな案件に興味が湧いたのかしら?」
私は算盤を置き、首を傾げました。
「ええ。これまでの人生で培った私の全財産、および全能力……そして、私の『今後百年の労働力』という無形資産を、ある一人の人物に一括投資したいと考えています」
「……なんですって? そんな一点集中投資、リスクヘッジの観点から言えば正気の沙汰ではないわ。その投資先は、一体どこのどなた?」
「目の前にいる、欲深くて、冷徹で、金貨の音でしか踊らない……世界で一番美しい『支配者』ですよ」
ゼクスは一歩近づき、私の手を取って、指先に軽く唇を寄せました。
「……っ。……ゼ、ゼクス? それ、今の私に対する『独占契約の申し入れ』と受け取ってよろしいのかしら?」
「ええ。契約金は不要です。その代わり、貴女の人生という巨大なプロジェクトの『永久パートナー』として、私を登録していただきたい。……報酬は、貴女の隣で一緒に帳簿を付ける権利だけで構いません」
「……。……検討、しておいてあげるわ。とりあえず、その提案書(プロポーズ)の期待収益率を後でグラフにして提出なさい」
私は顔が火を噴くほど熱くなるのを感じ、慌てて手を引きました。
そんな甘い(?)空気の中、執務室のドアの下から、一枚の薄汚れた手紙が差し込まれました。
「あら、何かしら。……『ヒーナ様へ。北の古倉庫に、前代未聞の「隠し金庫」の地図を見つけました。一人で来てください。カイルより』……ですって」
「……分かりやすすぎる罠ですね。罠の設置コストが、見返りを大幅に下回っています」
ゼクスが呆れたように言いました。
「でも『隠し金庫』というキーワードは、私の好奇心(資産欲)を刺激するわ。……ねえゼクス、あえて引っかかってあげましょう。もちろん、ただでは起きないけれどね」
北の古倉庫。埃にまみれた暗闇の中で、私を待っていたのはカイル王子とミア様でした。
「かかったな、ヒーナ! お前をここに閉じ込めて、その間に父上から『全権委任状』を取り返してやる!」
カイル王子が、今にも壊れそうなドアを外から閉めようと必死に叫んでいます。
「そうですわ! 貴女さえいなくなれば、またカイル様は私のために贅沢させてくださるんですもの! さようなら、効率化の悪魔!」
ミア様も一緒になって、重い閂(かんぬき)を下ろそうとしています。
「……あの、お二人。そのドア、昨日の備品点検で『建付け不良により、内側からは開かないが外側からもロックできない』と判定して、廃棄リストに載せたはずですけれど?」
私は溜息をつき、内側から軽くドアを押し開けました。
「ひええっ!? な、なぜ開くんだ!」
「物理法則は嘘をつきませんわ。それより……お二人さん。この倉庫、現在『有料貸出スペース』として登録されています。無断で使用したことによる『不法占拠罪』、および私の貴重な夜間休憩時間を奪った『損害賠償』。……合わせて、金貨五十枚を請求いたしますわ」
「ま、また金か! お前はそれしかないのか!」
カイル王子が地面に泣き崩れました。
「ええ、それしかありませんわ。愛でパンは買えませんが、金があれば貴方のその壊れた根性を叩き直すための『超スパルタ家庭教師』を雇えますもの」
私は背後に控えていたゼクスに合図を送りました。
「ゼクス。このお二人、反省の色が見られないわね。明日の朝食から、完全栄養食のグレードを一段階下げてちょうだい。……あ、もちろん、差額分は私のポケットマネー(純利益)に計上してね」
「畏まりました。……カイル様、ミア様。先ほどの作戦、実行コストは金貨百枚分、得られた利益は『マイナス』。……投資の失敗(大赤字)ですね」
ゼクスが冷たく言い放ち、私を優しくエスコートして倉庫を後にしました。
「……さて、ゼクス。さっきの話だけど」
夜風に当たりながら、私は小さく呟きました。
「……私の人生というプロジェクト、結構、管理が大変よ? 損失が出ても、解約は認めないけれど、いいかしら?」
「望むところです。……赤字が出た時は、私の愛(利息)で補填させていただきますから」
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どうやら私は、世界で一番価値のある『永久資産』を手に入れてしまったようです。
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