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第8章
予想外
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煌びやかな会場の1番上段ーー王座に彼は座っていた。
白を基調として金糸で王家の家紋が刺繍され、豪華で気品あふれるデザインのジャケット。彼の金髪によく似合っている…が、当の本人はというと。
背もたれにもたれかかり、不機嫌なオーラが漂っている。
「…なぜ、ユリア嬢があのドレスを着ている」
「……」
「僕は彼女ではなくルシアにあげたのに…」
「………」
ルークの第一側近であるソルは、不機嫌な様子の殿下に、内心溜息の嵐だった。
ーー王太子なのですから、もう少しきちんとしてほしいものです。
とさっきから思ってはいるのだが、口に出る寸前でとどめている。
というのも、さっきいらしたユリア様との会話が原因である。
『ごきげんよう、ルーク王太子殿下。このたびは招待していただきありがとうございます』
『あ、ああ…そのドレスはどうした?』
『あっ、これはその……お姉様からいただいたんです』
『ルシア嬢が…そうか、なんでもない。今夜の夜会を存分に楽しんでくれ』
さすがと言うべきか表情には出さなかったものの、かなり落ち込んだのは明白だった。
その時の殿下がおもしろ……コホン、かわいそうだったので、黙っていますが。
ルシア様、あなたはなんてことをなさってくれたんですか…
殿下は、初めて女性に物を自分から送ったのですよ?それなのに、なぜユリア様に差し上げてしまったのですか!!おかげでこちらはいつ殿下がわめきださないかヒヤヒヤしっぱなしですよっ…!
「…殿下、少しお疲れのようですね。中庭にでも行かれますか?」
「そんな気分ではない」
ぴしゃりと断られて、またため息が出る。
どうしたものか…
うーんと頭を悩ませていると、ふと1人の侍女が目に止まった。
長い黒髪をきっちりとお団子でまとめあげ、メガネをした侍女に。
…あの人は、一体何をしてるんですかね?
テキパキ仕事をこなしているが、一つ一つの動作から令嬢らしさが溢れている。
ティーカップ一つ持ち上げる動作も、優雅そのもの。
つまり上品なのだ。あそこまで上品に物事をこなせるのはさすがだが。
「……いえ、殿下。気分転換でもして来てください。私はここでお待ちしますから」
「…何を企んでいる?」
「なにも?」
「「……」」
幼少期からの長い付き合いがあるからか、何か企んでいる時はルークに大体バレてしまう。
だが、今回ばかりは何がなんでもいってもらおう。
「殿下、気分転換でもどうぞ?」
「…ああ、そうする」
「では、あちらの侍女も連れて行ってください」
目で示した侍女を見て、怪訝そうに眉を潜める。
「1人で行けるが?あの侍女を連れて行ってどうする」
「あの侍女はきっと、殿下の役に立つことでしょう…そこの侍女、こちらに来てください」
呼ばれたことに気づいたのかゆっくりと近づいてくるその侍女は、確かにうろたえていた。
「……なんでございましょう」
「殿下をバルコニーへお連れしてください」
「…わかりました」
きっと、この『侍女』はバレていないとでも思ってるんでしょうが。
…バレバレなんですよ。
「お願いしますよ?『侍女』殿?」
「……はい」
やけに侍女の部分を強調したので、さすがにこちらが正体を見破っていると分かっただろう。
早く、殿下の機嫌を治してもらいたいですね。
❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎
ソルとの会話から、遡ること30分前。
「はぁ…なんとか間に合ったわ。カーネ、お疲れ様」
「ルシア様、ほんとによろしかったんですか?」
「ええ、良いのよ」
ユリアを見送り、今は乗って来ていた馬車の中にいる。
そこで小言をカーネに言われていた。
…あのドレスはユリアが着てこそ意味をなすものである。私が着てどうしろと言うのか。
あら?そう考えると、いじめられてドレスを渡すっていうのは、ゲーム補正だったのかしら。
まあ、どうでも良いか。
とにかく急なことで疲れたし、この格好では夜会にも行けやしない。
てーことは?
「か、帰れるじゃない!」
「……ルシア様」
カーネの視線が痛い。
…なによぅ。私は帰りたいの!
「夜会なんてめんどくさいだけよ。さっさと帰りましょう。御者さん、馬車をーー」
「ちょっとそこのあなたたち!!」
「……はい」
出して、と言う前に、ほかの誰かの声が重なる。
…びっくりするからやめてよ……。
冷静に対処するカーネを見て、侍女って心臓強いなあって思っていたら。
「手空いてるかしら?今人手が足りなくて困ってるのよ。手伝ってくれない?」
え、まってそれはやだ。帰りたい!
「すみませんがちょっと今はーー」
「ええ、大丈夫ですよ。お手伝いいたしましょう。ね?ルーシー」
「……え?」
ちょっと何言ってんのかな?この侍女さんは。
「待って、私は…」
「…帰るんですか?困っている人を見捨てて。帰っちゃうんですかぁ?」
「うっ……」
煽りにしかとれないカーネの言葉だが、痛いところしかついていない。
帰りたい…帰りたいけど……2人の視線が痛い………。
「ああもう!わかったわよ!手伝うわ!!」
「さすが!その意気ですよルーシー!」
ええい、もうこうなったらルーシーでもなんでもやってやるわ!
元社畜なめんじゃないわよ!
と、息巻いてたは良いものの。
「お願いしますよ?『侍女』殿?」
ルークの側近であるソル様にやたら『侍女』を強調された言い方をされ、あっこれ終わったなって思った。
ルークにはバレてないみたいだけど、ソル様には…うん、しっかりバレてるね。
だから呼ばれたのか。
「……はい」
私は覚悟を決めた。
この場から逃げる覚悟を。
白を基調として金糸で王家の家紋が刺繍され、豪華で気品あふれるデザインのジャケット。彼の金髪によく似合っている…が、当の本人はというと。
背もたれにもたれかかり、不機嫌なオーラが漂っている。
「…なぜ、ユリア嬢があのドレスを着ている」
「……」
「僕は彼女ではなくルシアにあげたのに…」
「………」
ルークの第一側近であるソルは、不機嫌な様子の殿下に、内心溜息の嵐だった。
ーー王太子なのですから、もう少しきちんとしてほしいものです。
とさっきから思ってはいるのだが、口に出る寸前でとどめている。
というのも、さっきいらしたユリア様との会話が原因である。
『ごきげんよう、ルーク王太子殿下。このたびは招待していただきありがとうございます』
『あ、ああ…そのドレスはどうした?』
『あっ、これはその……お姉様からいただいたんです』
『ルシア嬢が…そうか、なんでもない。今夜の夜会を存分に楽しんでくれ』
さすがと言うべきか表情には出さなかったものの、かなり落ち込んだのは明白だった。
その時の殿下がおもしろ……コホン、かわいそうだったので、黙っていますが。
ルシア様、あなたはなんてことをなさってくれたんですか…
殿下は、初めて女性に物を自分から送ったのですよ?それなのに、なぜユリア様に差し上げてしまったのですか!!おかげでこちらはいつ殿下がわめきださないかヒヤヒヤしっぱなしですよっ…!
「…殿下、少しお疲れのようですね。中庭にでも行かれますか?」
「そんな気分ではない」
ぴしゃりと断られて、またため息が出る。
どうしたものか…
うーんと頭を悩ませていると、ふと1人の侍女が目に止まった。
長い黒髪をきっちりとお団子でまとめあげ、メガネをした侍女に。
…あの人は、一体何をしてるんですかね?
テキパキ仕事をこなしているが、一つ一つの動作から令嬢らしさが溢れている。
ティーカップ一つ持ち上げる動作も、優雅そのもの。
つまり上品なのだ。あそこまで上品に物事をこなせるのはさすがだが。
「……いえ、殿下。気分転換でもして来てください。私はここでお待ちしますから」
「…何を企んでいる?」
「なにも?」
「「……」」
幼少期からの長い付き合いがあるからか、何か企んでいる時はルークに大体バレてしまう。
だが、今回ばかりは何がなんでもいってもらおう。
「殿下、気分転換でもどうぞ?」
「…ああ、そうする」
「では、あちらの侍女も連れて行ってください」
目で示した侍女を見て、怪訝そうに眉を潜める。
「1人で行けるが?あの侍女を連れて行ってどうする」
「あの侍女はきっと、殿下の役に立つことでしょう…そこの侍女、こちらに来てください」
呼ばれたことに気づいたのかゆっくりと近づいてくるその侍女は、確かにうろたえていた。
「……なんでございましょう」
「殿下をバルコニーへお連れしてください」
「…わかりました」
きっと、この『侍女』はバレていないとでも思ってるんでしょうが。
…バレバレなんですよ。
「お願いしますよ?『侍女』殿?」
「……はい」
やけに侍女の部分を強調したので、さすがにこちらが正体を見破っていると分かっただろう。
早く、殿下の機嫌を治してもらいたいですね。
❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎
ソルとの会話から、遡ること30分前。
「はぁ…なんとか間に合ったわ。カーネ、お疲れ様」
「ルシア様、ほんとによろしかったんですか?」
「ええ、良いのよ」
ユリアを見送り、今は乗って来ていた馬車の中にいる。
そこで小言をカーネに言われていた。
…あのドレスはユリアが着てこそ意味をなすものである。私が着てどうしろと言うのか。
あら?そう考えると、いじめられてドレスを渡すっていうのは、ゲーム補正だったのかしら。
まあ、どうでも良いか。
とにかく急なことで疲れたし、この格好では夜会にも行けやしない。
てーことは?
「か、帰れるじゃない!」
「……ルシア様」
カーネの視線が痛い。
…なによぅ。私は帰りたいの!
「夜会なんてめんどくさいだけよ。さっさと帰りましょう。御者さん、馬車をーー」
「ちょっとそこのあなたたち!!」
「……はい」
出して、と言う前に、ほかの誰かの声が重なる。
…びっくりするからやめてよ……。
冷静に対処するカーネを見て、侍女って心臓強いなあって思っていたら。
「手空いてるかしら?今人手が足りなくて困ってるのよ。手伝ってくれない?」
え、まってそれはやだ。帰りたい!
「すみませんがちょっと今はーー」
「ええ、大丈夫ですよ。お手伝いいたしましょう。ね?ルーシー」
「……え?」
ちょっと何言ってんのかな?この侍女さんは。
「待って、私は…」
「…帰るんですか?困っている人を見捨てて。帰っちゃうんですかぁ?」
「うっ……」
煽りにしかとれないカーネの言葉だが、痛いところしかついていない。
帰りたい…帰りたいけど……2人の視線が痛い………。
「ああもう!わかったわよ!手伝うわ!!」
「さすが!その意気ですよルーシー!」
ええい、もうこうなったらルーシーでもなんでもやってやるわ!
元社畜なめんじゃないわよ!
と、息巻いてたは良いものの。
「お願いしますよ?『侍女』殿?」
ルークの側近であるソル様にやたら『侍女』を強調された言い方をされ、あっこれ終わったなって思った。
ルークにはバレてないみたいだけど、ソル様には…うん、しっかりバレてるね。
だから呼ばれたのか。
「……はい」
私は覚悟を決めた。
この場から逃げる覚悟を。
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