ここまでお膳立てしてあげたのに、どうして恋に落ちないの!?

*菜乃

文字の大きさ
22 / 25
第8章

予想外

しおりを挟む
煌びやかな会場の1番上段ーー王座に彼は座っていた。
白を基調として金糸で王家の家紋が刺繍され、豪華で気品あふれるデザインのジャケット。彼の金髪によく似合っている…が、当の本人はというと。
背もたれにもたれかかり、不機嫌なオーラが漂っている。

「…なぜ、ユリア嬢があのドレスを着ている」
「……」
「僕は彼女ではなくルシアにあげたのに…」
「………」

ルークの第一側近であるソルは、不機嫌な様子の殿下に、内心溜息の嵐だった。

ーー王太子なのですから、もう少しきちんとしてほしいものです。

とさっきから思ってはいるのだが、口に出る寸前でとどめている。
というのも、さっきいらしたユリア様との会話が原因である。

『ごきげんよう、ルーク王太子殿下。このたびは招待していただきありがとうございます』
『あ、ああ…そのドレスはどうした?』
『あっ、これはその……お姉様からいただいたんです』
『ルシア嬢が…そうか、なんでもない。今夜の夜会を存分に楽しんでくれ』

さすがと言うべきか表情には出さなかったものの、かなり落ち込んだのは明白だった。
その時の殿下がおもしろ……コホン、かわいそうだったので、黙っていますが。
ルシア様、あなたはなんてことをなさってくれたんですか…

殿下は、初めて女性に物を自分から送ったのですよ?それなのに、なぜユリア様に差し上げてしまったのですか!!おかげでこちらはいつ殿下がわめきださないかヒヤヒヤしっぱなしですよっ…!

「…殿下、少しお疲れのようですね。中庭にでも行かれますか?」
「そんな気分ではない」

ぴしゃりと断られて、またため息が出る。
どうしたものか…

うーんと頭を悩ませていると、ふと1人の侍女が目に止まった。
長い黒髪をきっちりとお団子でまとめあげ、メガネをした侍女に。

…あの人は、一体何をしてるんですかね?

テキパキ仕事をこなしているが、一つ一つの動作から令嬢らしさが溢れている。
ティーカップ一つ持ち上げる動作も、優雅そのもの。
つまり上品なのだ。あそこまで上品に物事をこなせるのはさすがだが。

「……いえ、殿下。気分転換でもして来てください。私はここでお待ちしますから」
「…何を企んでいる?」
「なにも?」
「「……」」

幼少期からの長い付き合いがあるからか、何か企んでいる時はルークに大体バレてしまう。
だが、今回ばかりは何がなんでもいってもらおう。

「殿下、気分転換でもどうぞ?」
「…ああ、そうする」
「では、あちらの侍女も連れて行ってください」

目で示した侍女を見て、怪訝そうに眉を潜める。

「1人で行けるが?あの侍女を連れて行ってどうする」
「あの侍女はきっと、殿下の役に立つことでしょう…そこの侍女、こちらに来てください」

呼ばれたことに気づいたのかゆっくりと近づいてくるその侍女は、確かにうろたえていた。

「……なんでございましょう」
「殿下をバルコニーへお連れしてください」
「…わかりました」

きっと、この『侍女』はバレていないとでも思ってるんでしょうが。
…バレバレなんですよ。

「お願いしますよ?『侍女』殿?」
「……はい」

やけに侍女の部分を強調したので、さすがにこちらが正体を見破っていると分かっただろう。

早く、殿下の機嫌を治してもらいたいですね。


❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎


ソルとの会話から、遡ること30分前。

「はぁ…なんとか間に合ったわ。カーネ、お疲れ様」
「ルシア様、ほんとによろしかったんですか?」
「ええ、良いのよ」

ユリアを見送り、今は乗って来ていた馬車の中にいる。
そこで小言をカーネに言われていた。
…あのドレスはユリアが着てこそ意味をなすものである。私が着てどうしろと言うのか。
あら?そう考えると、いじめられてドレスを渡すっていうのは、ゲーム補正だったのかしら。

まあ、どうでも良いか。

とにかく急なことで疲れたし、この格好では夜会にも行けやしない。
てーことは?

「か、帰れるじゃない!」
「……ルシア様」

カーネの視線が痛い。
…なによぅ。私は帰りたいの!

「夜会なんてめんどくさいだけよ。さっさと帰りましょう。御者さん、馬車をーー」
「ちょっとそこのあなたたち!!」
「……はい」

出して、と言う前に、ほかの誰かの声が重なる。
…びっくりするからやめてよ……。
冷静に対処するカーネを見て、侍女って心臓強いなあって思っていたら。

「手空いてるかしら?今人手が足りなくて困ってるのよ。手伝ってくれない?」

え、まってそれはやだ。帰りたい!

「すみませんがちょっと今はーー」
「ええ、大丈夫ですよ。お手伝いいたしましょう。ね?
「……え?」

ちょっと何言ってんのかな?この侍女さんは。

「待って、私は…」
「…帰るんですか?困っている人を見捨てて。帰っちゃうんですかぁ?」
「うっ……」

煽りにしかとれないカーネの言葉だが、痛いところしかついていない。
帰りたい…帰りたいけど……2人の視線が痛い………。

「ああもう!わかったわよ!手伝うわ!!」
「さすが!その意気ですよルーシー!」

ええい、もうこうなったらルーシーでもなんでもやってやるわ!
元社畜なめんじゃないわよ!

と、息巻いてたは良いものの。

「お願いしますよ?『侍女』殿?」

ルークの側近であるソル様にやたら『侍女』を強調された言い方をされ、あっこれ終わったなって思った。

ルークにはバレてないみたいだけど、ソル様には…うん、しっかりバレてるね。
だから呼ばれたのか。

「……はい」

私は覚悟を決めた。
この場から逃げる覚悟を。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん
恋愛
アリーシア・グランツ公爵令嬢は、異世界から落ちてきた聖女ミアに婚約者を奪われ、断罪されて処刑された。殺されるたびに人生が巻き戻り、そのたびに王太子マクシミリアンはミアに心奪われ、アリーシアは処刑、処刑、処刑! 10回目の人生にして、ようやく貧乏男爵令嬢アリーに生まれ変わった。 もう王太子や聖女には関わらない!と心に決めたのに、病弱な弟のために王宮の侍女として働くことに。するとなぜか、王太子マクシミリアンは聖女ミアには目もくれず、男爵令嬢アリーを溺愛し始めて……。 (頭を空っぽにして笑えることを目指したコメディです。2020年に執筆した作品です。本作を読みたいというお声があったため再掲します)

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました

神村結美
恋愛
クローデット・アルトー公爵令嬢は、お菓子が大好きで、他の令嬢達のように宝石やドレスに興味はない。 5歳の第一王子の婚約者選定のお茶会に参加した時も目的は王子ではなく、お菓子だった。そんな彼女は肌荒れや体型から人々に醜いと思われていた。 お茶会後に、第一王子の婚約者が侯爵令嬢が決まり、クローデットは幼馴染のエルネスト・ジュリオ公爵子息との婚約が決まる。 その後、クローデットは体調を崩して寝込み、目覚めた時には前世の記憶を思い出し、前世でハマった乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生している事に気づく。 でも、クローデットは第一王子の婚約者ではない。 すでにゲームの設定とは違う状況である。それならゲームの事は気にしなくても大丈夫……? 悪役令嬢が気付かない内にバッドエンドを回避していたお話しです。 ※溺れるような描写がありますので、苦手な方はご注意ください。 ※少し設定が緩いところがあるかもしれません。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...