冷徹弁護士は甘い罠を張る

邉 紗

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弁護士の欺瞞

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文は大きな怪我もなく無事だった。
七生は、ベッドに眠る文をみてほっとする。
自身も打撲をいくつか負ったが、湿布で治る程度で済んだ。

大山商事のパーティー参加。
しかも、あの界隈で有名な放蕩息子に引き合わされると決まったときは、面白がる吾妻に殺意まで芽生えた。

ふたりが一緒にいるところを目撃したときは、怒りが込み上げたし、挙げ句の果てには階段からの転落。

事故とはいえ、大事なパーティーを台無しにした責任はある。
ホテルの防犯カメラに、賢が彼女をしつこく追う場面が記録されているし、階段で彼女に触れたところをしっかり目撃している。
この辺を足がかりに、両成敗に持っていきたいところだ。

運び込まれた先は、吾妻と同じく学生時代からの友人、宝城の勤める病院だったのは幸いだ。
主治医に宝城を指名し、特別室を用意させた。

文が階段から落ちたときはどうなるかと思ったが、幸運にも怪我も少なくい。
受け止めた自分も骨折を覚悟したが、打ち身だけでなんとかなった。文が予想以上に軽かったからかもしれない。

最近の文は以前よりも痩せてしまっていたし、今日も具合が悪そうだった。
そこで具合が悪いなら休めばと言えば、余計に頑張ってしまうからたちが悪い。

吾妻の社内改革に巻き込まれ、可哀想ではある。
それに、自分も理由のひとつになっていることも罪悪感となった。

しかし、おどおどしながらも一生懸命な彼女は可愛くてたまらない。
憎めないのはキャラクターか。

同僚たちも同じ感想らしく、不器用さに苛々しながらも、
「仕方ないわね!」といった叱咤激励になるようだ。


他社員からは、取り入っただのコネだのあまり良い噂は聞かないが、秘書課内ではそれほど悪くは思われていない。

副社長である吾妻に媚を売るわけでもなく、男目当てではない安心感があるからだろう。
ひたすら仕事に振り回されているだけだ。

仕事内容が性格に合っていないことも勿論だが、そのやつれように、吾妻に元の部署に戻すべきなのではと進言したが、吾妻は知らぬ存だ。

「可哀相と思うなら早く手に入れたら。七生がプライベートで慰めてやればいい」

なかなか距離が縮まらない事を知って、吾妻は意地悪いことを言う。

「彼女は優秀だよ。他の誰よりもね。
完璧なのは良いことだけど、相手に対する誠意とか、製品への想いをなくしちゃだめなんだ。
まぁ、旭川は製品マニアって感じだけど、研究職の知識が事務方に入るのは本当に貴重だよ。
秘書課員は勘がいいから、彼女を入れた理由をもう気付いてきている。いい刺激になってるんじゃないかな」

別に急いで堕としたいわけではない。

恋愛方面に疎そうな彼女を、ジリジリと追い詰めるのも、七生自身も楽しんでいる節はあった。

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