冷徹弁護士は甘い罠を張る

邉 紗

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審議中

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七生はゆっくりと息を吐く。

「……悪かった」

ぽつりと謝られて、やっぱり遊ばれていたのだとはっとした。
しかし、七生はすぐに補足した。

「誤解するなよ」

書類を睨みつける。

「俺は、遊びで付き合ったりしない。文のことは真剣に愛してる。……けれど、ちょっと、色々と複雑なんだ。ひとつずつ説明したい」

七生は琴音を振り返った。
琴音は門の前に立ち尽くしたまま、きょとんとしている。

悪意のなさそうな雰囲気に、居心地が悪くなった。

「せ、説明もなにも、彼女は許嫁なんですよね? だって、腕を組んでたじゃないですか。それに、報告書にだって……」

「いや、違うんだよ。それもちゃんと……」

意地を張って平行線の論争が続きそうだったとき、一台の車が七生と文の横にとまった。
運転席の窓が開くと、見知った顔が現れる。

「文ちゃんと七生じゃん。なんでこんな所で痴話げんかしてるの?」

治療を受け持ってくれた、医師の宝城であった。
スーツにオールバック。
夜勤明けのもっさりとした感じとはまた違って、ずいぶんスマートな雰囲気だ。

「宝城先生?」

最期に会ったのは、退院一週間後の検査だ。
記憶の件があるにも関わらず、通院はしなくていいと言われそれきりだった。

「逞さん!」

琴音の飛び上がらんばかりに嬉しそうな声が上がった。

「琴音」

駆けよった琴音に、宝城も目を細めて手を上げる。

「いらっしゃい、待ってたよ」

琴音はその手に自身の指を絡めた。
その雰囲気はまるで恋人のようーー……

(ーーーーん?)

どういうこと?
混乱する文に、七生は髪を搔いた。

言い方は悪いかもしれないが、岩瀬家はまっとうなサラリーマンの家ではなかった。

錦鯉が泳ぐ池に、波のように敷き詰められた砂利。拝観料を取れそうな日本庭園だ。

SPのようなスーツの人たちが庭をうろうろとし、長く続く廊下を進み、襖を開けた先に鎮座していた琴音の父は、言うなれば極道のようだった。

テレビで見かける顔でなければ、ほんとうに政治家なのかと疑っていただろう。

そんな通常であれば関わることのないような家の座敷で、文はなぜか正座をしていた。
隣に七生、その隣に琴音と宝城が並ぶ。

趣旨としては、宝城と琴音の結婚を許して欲しいという内容だ。
その説得役に七生が抜擢されており、今日はその約束だったらしい。

そんな事情も知らずに追いかけてきてしまった文は、同席する羽目となった。

視線だけで人を殺せそうな眼力の岩瀬を前にして、七生はドラマでよくみる法廷の弁護士さながらの説得を試みていた。

「琴音さんは親しくさせてもらってますが、妹のような感情です。僕は心に決めている女性がおりまして、琴音さんと結婚するわけにはいきません」

文が同席させられたのは七生の作戦でもある。

「家族のような感情であれば、結婚しても家族だ。そう変わらんだろう。七生君に婿養子に来て貰い、わたしの片腕として共に国を良くして貰いたいんだ。君となら良い政治ができる」

岩瀬は何度話しても、七生が欲しいの一点張りだった。

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