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23 いいえ、これはレイドボスです
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ちょっと待って。
レイドボスって何!?
『主、来るぞ!』
「え、おわぁぁっ!!」
アナウンスに気を取られ、ボスから目線を外した瞬間、真っ黒なイカスミが飛んで来た。
かぐやが咄嗟に羽衣を引っ張ってくれたので、間一髪で避けることができた。
「あ、ありがとう。」
「戦の間は余所見は禁物じゃぞ!」
「ごめんなさい。」
ぷんぷん、と頬を膨らませるかぐやが可愛くてつい抱きしめたくなったけれど、なんとか自重する。
今はそんな雰囲気じゃないしね。よし、後で思う存分抱きしめよう。
「2人ともごめん!
レイドだろうがエリアだろうがボスなら倒すのみだよね。
よし、行くよ!」
『了解』
「任せるのじゃ!」
「【雷鳴】」
水中に木の棒を沈めスキルを唱える。
海水を伝って電気が流れると、にょろにょろとこちらに向かって伸びていた触手の動きが一瞬止まる。
それを合図にゴンちゃんとかぐやが両側から飛び出す。
「【メテオール】
【ゼロ・グラビティ】
はあああっ!」
詠唱と共に堕ちる沢山の隕石が、空中に一時停止した後、扇の振りを合図に勢いよくボスに降りかかる。
【メテオール】単体よりも【ゼロ・グラビティ】で隕石を空中に一旦止めた方が威力が増すのだ、とかぐやが得意げに言っていた。ええ、もちろんとても可愛かったです。
ボスがかぐやに気を取られているうちにゴンちゃんがボスの足をひょいひょいと登り、炎を纏った牙でその胴体に噛み付く。
うん、2人とも絶好調だね。私もそろそろ動こう。
「【浮遊】」
タンッと足場を蹴って、ボスの頭上まで一気に飛ぶ。薙刀を構え、【サンダーアロー】を連続で唱える。
「うーん、扇程連続で矢が出ないなあ…そうだ!」
薙刀を左手に持ち替えて、木の棒を取り出す。
両手に武器の状態で一か八か【サンダーアロー】を唱えると、両方から雷の矢が出た。
ラッキーと思いながら二刀流でボスに攻撃していると、私の真下の足場にいたゴンちゃんに呆れた目を向けられた。
『主…武器が泣くぞ』
「武器の使い方なんて人それぞれだよ。」
『主が武器本来の使い方をした時なんて数えるぐらいしかないからな。泣くならもっと前から泣いてるか。』
「ゴンちゃん、今私の事馬鹿にしたでしょう。」
『さぁな。気の所為では?』
「二人とも戦闘に集中せんか!
呑気に話す暇なんてないのじゃ!」
ゴンちゃんと軽口を叩き合っていると、一人ボスと戦っていたかぐやが私たちの方をキッと睨んだ。
「はい、集中します!」
『悪かった。』
しばらく【サンダーアロー】を唱えていると、【雷魔法】のレベルが上がり、新しい魔法が解放された。
木の棒を仕舞い、薙刀を構える。
「【サンダースラッシュ】!」
雷をまとった斬撃がボスの足に向かって飛んでいく。攻撃を受けた場所は雷に打たれたかのように黒く焦げていた。
GYAAAAAAOOOOOI!
「わわっ!」
怒ったボスの足が何本も向かってくる。慌てて逃げるが、右から左から来る足を避けきれずとうとう捕まってしまった。
「うぐっ」
私を締め殺そうと力を強めるボス。
ふふふ、残念でした。
そんなやわな力じゃあ鉄壁の巫女服を着た私に大ダメージを与えることなんて出来ないよ。
''え、絶壁?''とか呟いたそこのあなた。木の棒の餌食になる準備はできてる?
閑話休題。
とりあえず私は今、木の棒を抱えたままボスに締め付けられている状態なのだ。
瞳の奥が怒りの炎でメラメラと燃えているボスに、ニヤリと厭らしい笑みを向ける。
「ひっかかったね。
【サンダーボール】!」
バチバチッと大きな音を立てて小規模な爆発が起き、まとわりついていた足が吹っ飛ぶ。ただ、爆風で私も一緒に吹き飛ばされ、高速回転しながら空を舞う。
この巫女服に状態異常耐性がついていて本当によかった。さもなければ盛大に酔ってたところだ。もしかしたら口からキラキラが出ていたかもしれない。さすがにそれは華の乙女としていただけない。
「【ゼロ・グラビティ】」
かぐやの詠唱で、全く衰える気がなかった勢いが漸く止まった。
へぇ、【ゼロ・グラビティ】って味方にかけることも出来るんだ。
「助かったよ。
ありがとう、かぐや。」
「お主は本当に無茶な戦い方をするのぅ。」
「そう?ダメージ与えられたんだから結果オーライだよ」
『主、ボスの様子がおかしい。
武器を構えろ。』
呆れ顔のかぐやと共に筏の上に降りると、ゴンちゃんが走ってやってきた。
ボスの方に視線をやると、シューシューと煙を出しながら赤く発光しており、先程飛ばした足は既に再生していた。ボスのHPケージは5分の1ほど減っている。もしかしたら第二形態に変態するのかもしれない。
「【羅刹化】【ヒール(小)】【ヒール(小)】」
残り時間わずかだった【羅刹化】をかけ直し、適度に体力を消耗していた2人に【ヒール】をかける。
【ヒール】は仲魔限定で主人にはかからないから、迂闊に攻撃を受けないようにしないと。
Graaaaaaaoooooooo!!!!!
「みゃぁぁぁぁぁああああ」
「かぐっ…!!」
ボスの威嚇混じりの咆哮で、波は荒立ち暴風が吹く。
空中に浮かんでいたかぐやと羽衣を纏った私は、暴風が直撃して吹き飛ばされた。
ゴンちゃんは、筏に歯と爪を立てて踏ん張っている。
海面から突き出た岩にぶつかったことで勢いが止まる。急いで立ち上がるが、目の前に広がる光景に体が固まった。
あの眩しいほど真っ白な砂浜が数十メートル先にあったのだ。
いつの間にこんなに近くまで来てしまったのだろう。ボスは少しずつ確実に街に近づいているようだ。
心配そうに海を眺めている住人や同じ冒険者の人達もちらちら見える。
街の人たちを不安にさせて申し訳ない。早く倒さないと。
【浮遊】を唱えてゴンちゃんの元に戻る。ボスは様子を伺っているのか攻撃を仕掛けてこない。
『主、大丈夫か?』
「平気だよ。なんたって狐神様に貰った巫女服着てるからね。かぐやは?」
『今向かってきている。』
ゴンちゃんの視線を辿ると、ふらふらとこちらに向かっているかぐやが見えた。
「大丈夫?」
「うぅ。ぐるぐるして気持ち悪いのじゃ。」
「【ヒール(小)】
もうひと頑張りだよ!」
2人に【ヒール(小)】をかけてからボスと対峙する。
どう戦おうか、と頭の中で戦略を練っているとゴンちゃんに袴の裾をぐいっと引っ張られた。体が傾き左足が筏から離れたと同時に、さっきまで私の左足があった場所目掛けて海の中から何かが飛んできた。
「え、何!?」
「【ゼロ・グラビティ】」
かぐやの詠唱で宙に留まったものに目を向けると、そこには鋭利な外套を持つイカがいた。【鑑定】をかけると空中に《槍イカ lv16》のウィンドウが浮かぶ。そこで、私はボスを視ていないことに気づき、ボスに対して【鑑定】をかけた。
《RAID BOSS ジャイアントスクイッド lv??》
レベル不明…。確か自分のレベルより10以上高い相手は、【鑑定】しても名前しか表示されないんだっけ。
まぁ、格上の相手だろうが大した問題ではない。私にはゴンちゃんとかぐやがいる。負けるはずがない。
「助けてくれてありがとう、ゴンちゃん。」
『急に引っ張って悪かった。』
「気にしないで。お陰様でダメージを受けないですんだもの。」
「のう、ソラ。
こやつはもう捨てて良いか?」
「うん!好きにしちゃって!」
かぐやはニヤッと笑うとボスに向けて空中のイカを投げ飛ばした。
「ふん!もっとマシになって出直してくるのじゃな!」
GYAAAAAAOOOOOI!
ボスの声に応じるように波が荒立つ。先程のように強風は吹かなかったけれど、海面におびただしい数の影が映った。
『さっきのイカ共だな。声につられてやってきたか。』
「どんなに数が多くてもこのかぐや様にかかれば塵に同じじゃ!」
「ふふ、そうだね。
私がこのイカたちを引き受けるから、2人はボスをお願い。」
『大丈夫か?』
「うん!イカのレベルは高くないから私一人でも大丈夫だよ!
でもこの数を倒すのには時間がかかると思うから、2人はボスが私に攻撃して来ないように気を逸らしておいてくれる?」
「任せるのじゃ!ゆくぞ、犬!」
『私は狐だと何度言ったらわかる。
主。危なかったら助けに来るから、無理はするなよ。』
「うん!いってらっしゃい!」
2人が駆けていくのを見送って木の棒を海に沈め【サンダーボール】を数度唱える。しかし、予想した程倒れてはくれなかった。
「参ったな。これじゃあ埒が明かない。」
かぐやに扇を借りて【サンダーアロー】で立ち向かったとしても、この数を倒すのは骨が折れる。
不思議なことに《槍イカ》が攻撃をしてくる様子はなく、無数の黒い影は同じ方向を向いて海面下で揺蕩っている。まるで私など眼中に無いかのように。
「まさか…!!」
嫌な予感がして後ろを振り向けば、数メートル先までイカの大軍は広がっていた。全員耳を街の方へ向けゆらゆらと少しずつ前進している。
「このままだと街が危ない…。」
ひとまずボスを後回しにして《槍イカ》の方を優先するため、ゴンちゃんとかぐやを呼び戻そうとした時、鋭い風の音が耳元を横切り、後方から、バキバキバキッドカンッと派手な音が響いた。
驚いて顔を向ければ、崖の上の木々は倒れ、土煙が上がっていた。
きっと技の流れ弾が飛んで行ったんだ、と自分に言い聞かせながら、ボスの方に向き直れば、ボスの足に締めつけられて、身動きがとれないかぐやがいた。いくら探してもそこにゴンちゃんの姿はない。
「かぐや!!」
私が救助に向かうよりも早く、ボスはかぐやを持った足を大きく振りかぶり、土煙上がる崖に投げつけた。
「かぐや!かぐや!!」
響く衝撃音にさらに舞い上がる土煙。私は大急ぎでかぐやが飛んで行った方向へ向かった。
風が砂埃をなぎ払い、視界がクリアになった私の目に飛び込んで来たのは、
ぐったりと横たわるゴンちゃんとかぐやだった。
レイドボスって何!?
『主、来るぞ!』
「え、おわぁぁっ!!」
アナウンスに気を取られ、ボスから目線を外した瞬間、真っ黒なイカスミが飛んで来た。
かぐやが咄嗟に羽衣を引っ張ってくれたので、間一髪で避けることができた。
「あ、ありがとう。」
「戦の間は余所見は禁物じゃぞ!」
「ごめんなさい。」
ぷんぷん、と頬を膨らませるかぐやが可愛くてつい抱きしめたくなったけれど、なんとか自重する。
今はそんな雰囲気じゃないしね。よし、後で思う存分抱きしめよう。
「2人ともごめん!
レイドだろうがエリアだろうがボスなら倒すのみだよね。
よし、行くよ!」
『了解』
「任せるのじゃ!」
「【雷鳴】」
水中に木の棒を沈めスキルを唱える。
海水を伝って電気が流れると、にょろにょろとこちらに向かって伸びていた触手の動きが一瞬止まる。
それを合図にゴンちゃんとかぐやが両側から飛び出す。
「【メテオール】
【ゼロ・グラビティ】
はあああっ!」
詠唱と共に堕ちる沢山の隕石が、空中に一時停止した後、扇の振りを合図に勢いよくボスに降りかかる。
【メテオール】単体よりも【ゼロ・グラビティ】で隕石を空中に一旦止めた方が威力が増すのだ、とかぐやが得意げに言っていた。ええ、もちろんとても可愛かったです。
ボスがかぐやに気を取られているうちにゴンちゃんがボスの足をひょいひょいと登り、炎を纏った牙でその胴体に噛み付く。
うん、2人とも絶好調だね。私もそろそろ動こう。
「【浮遊】」
タンッと足場を蹴って、ボスの頭上まで一気に飛ぶ。薙刀を構え、【サンダーアロー】を連続で唱える。
「うーん、扇程連続で矢が出ないなあ…そうだ!」
薙刀を左手に持ち替えて、木の棒を取り出す。
両手に武器の状態で一か八か【サンダーアロー】を唱えると、両方から雷の矢が出た。
ラッキーと思いながら二刀流でボスに攻撃していると、私の真下の足場にいたゴンちゃんに呆れた目を向けられた。
『主…武器が泣くぞ』
「武器の使い方なんて人それぞれだよ。」
『主が武器本来の使い方をした時なんて数えるぐらいしかないからな。泣くならもっと前から泣いてるか。』
「ゴンちゃん、今私の事馬鹿にしたでしょう。」
『さぁな。気の所為では?』
「二人とも戦闘に集中せんか!
呑気に話す暇なんてないのじゃ!」
ゴンちゃんと軽口を叩き合っていると、一人ボスと戦っていたかぐやが私たちの方をキッと睨んだ。
「はい、集中します!」
『悪かった。』
しばらく【サンダーアロー】を唱えていると、【雷魔法】のレベルが上がり、新しい魔法が解放された。
木の棒を仕舞い、薙刀を構える。
「【サンダースラッシュ】!」
雷をまとった斬撃がボスの足に向かって飛んでいく。攻撃を受けた場所は雷に打たれたかのように黒く焦げていた。
GYAAAAAAOOOOOI!
「わわっ!」
怒ったボスの足が何本も向かってくる。慌てて逃げるが、右から左から来る足を避けきれずとうとう捕まってしまった。
「うぐっ」
私を締め殺そうと力を強めるボス。
ふふふ、残念でした。
そんなやわな力じゃあ鉄壁の巫女服を着た私に大ダメージを与えることなんて出来ないよ。
''え、絶壁?''とか呟いたそこのあなた。木の棒の餌食になる準備はできてる?
閑話休題。
とりあえず私は今、木の棒を抱えたままボスに締め付けられている状態なのだ。
瞳の奥が怒りの炎でメラメラと燃えているボスに、ニヤリと厭らしい笑みを向ける。
「ひっかかったね。
【サンダーボール】!」
バチバチッと大きな音を立てて小規模な爆発が起き、まとわりついていた足が吹っ飛ぶ。ただ、爆風で私も一緒に吹き飛ばされ、高速回転しながら空を舞う。
この巫女服に状態異常耐性がついていて本当によかった。さもなければ盛大に酔ってたところだ。もしかしたら口からキラキラが出ていたかもしれない。さすがにそれは華の乙女としていただけない。
「【ゼロ・グラビティ】」
かぐやの詠唱で、全く衰える気がなかった勢いが漸く止まった。
へぇ、【ゼロ・グラビティ】って味方にかけることも出来るんだ。
「助かったよ。
ありがとう、かぐや。」
「お主は本当に無茶な戦い方をするのぅ。」
「そう?ダメージ与えられたんだから結果オーライだよ」
『主、ボスの様子がおかしい。
武器を構えろ。』
呆れ顔のかぐやと共に筏の上に降りると、ゴンちゃんが走ってやってきた。
ボスの方に視線をやると、シューシューと煙を出しながら赤く発光しており、先程飛ばした足は既に再生していた。ボスのHPケージは5分の1ほど減っている。もしかしたら第二形態に変態するのかもしれない。
「【羅刹化】【ヒール(小)】【ヒール(小)】」
残り時間わずかだった【羅刹化】をかけ直し、適度に体力を消耗していた2人に【ヒール】をかける。
【ヒール】は仲魔限定で主人にはかからないから、迂闊に攻撃を受けないようにしないと。
Graaaaaaaoooooooo!!!!!
「みゃぁぁぁぁぁああああ」
「かぐっ…!!」
ボスの威嚇混じりの咆哮で、波は荒立ち暴風が吹く。
空中に浮かんでいたかぐやと羽衣を纏った私は、暴風が直撃して吹き飛ばされた。
ゴンちゃんは、筏に歯と爪を立てて踏ん張っている。
海面から突き出た岩にぶつかったことで勢いが止まる。急いで立ち上がるが、目の前に広がる光景に体が固まった。
あの眩しいほど真っ白な砂浜が数十メートル先にあったのだ。
いつの間にこんなに近くまで来てしまったのだろう。ボスは少しずつ確実に街に近づいているようだ。
心配そうに海を眺めている住人や同じ冒険者の人達もちらちら見える。
街の人たちを不安にさせて申し訳ない。早く倒さないと。
【浮遊】を唱えてゴンちゃんの元に戻る。ボスは様子を伺っているのか攻撃を仕掛けてこない。
『主、大丈夫か?』
「平気だよ。なんたって狐神様に貰った巫女服着てるからね。かぐやは?」
『今向かってきている。』
ゴンちゃんの視線を辿ると、ふらふらとこちらに向かっているかぐやが見えた。
「大丈夫?」
「うぅ。ぐるぐるして気持ち悪いのじゃ。」
「【ヒール(小)】
もうひと頑張りだよ!」
2人に【ヒール(小)】をかけてからボスと対峙する。
どう戦おうか、と頭の中で戦略を練っているとゴンちゃんに袴の裾をぐいっと引っ張られた。体が傾き左足が筏から離れたと同時に、さっきまで私の左足があった場所目掛けて海の中から何かが飛んできた。
「え、何!?」
「【ゼロ・グラビティ】」
かぐやの詠唱で宙に留まったものに目を向けると、そこには鋭利な外套を持つイカがいた。【鑑定】をかけると空中に《槍イカ lv16》のウィンドウが浮かぶ。そこで、私はボスを視ていないことに気づき、ボスに対して【鑑定】をかけた。
《RAID BOSS ジャイアントスクイッド lv??》
レベル不明…。確か自分のレベルより10以上高い相手は、【鑑定】しても名前しか表示されないんだっけ。
まぁ、格上の相手だろうが大した問題ではない。私にはゴンちゃんとかぐやがいる。負けるはずがない。
「助けてくれてありがとう、ゴンちゃん。」
『急に引っ張って悪かった。』
「気にしないで。お陰様でダメージを受けないですんだもの。」
「のう、ソラ。
こやつはもう捨てて良いか?」
「うん!好きにしちゃって!」
かぐやはニヤッと笑うとボスに向けて空中のイカを投げ飛ばした。
「ふん!もっとマシになって出直してくるのじゃな!」
GYAAAAAAOOOOOI!
ボスの声に応じるように波が荒立つ。先程のように強風は吹かなかったけれど、海面におびただしい数の影が映った。
『さっきのイカ共だな。声につられてやってきたか。』
「どんなに数が多くてもこのかぐや様にかかれば塵に同じじゃ!」
「ふふ、そうだね。
私がこのイカたちを引き受けるから、2人はボスをお願い。」
『大丈夫か?』
「うん!イカのレベルは高くないから私一人でも大丈夫だよ!
でもこの数を倒すのには時間がかかると思うから、2人はボスが私に攻撃して来ないように気を逸らしておいてくれる?」
「任せるのじゃ!ゆくぞ、犬!」
『私は狐だと何度言ったらわかる。
主。危なかったら助けに来るから、無理はするなよ。』
「うん!いってらっしゃい!」
2人が駆けていくのを見送って木の棒を海に沈め【サンダーボール】を数度唱える。しかし、予想した程倒れてはくれなかった。
「参ったな。これじゃあ埒が明かない。」
かぐやに扇を借りて【サンダーアロー】で立ち向かったとしても、この数を倒すのは骨が折れる。
不思議なことに《槍イカ》が攻撃をしてくる様子はなく、無数の黒い影は同じ方向を向いて海面下で揺蕩っている。まるで私など眼中に無いかのように。
「まさか…!!」
嫌な予感がして後ろを振り向けば、数メートル先までイカの大軍は広がっていた。全員耳を街の方へ向けゆらゆらと少しずつ前進している。
「このままだと街が危ない…。」
ひとまずボスを後回しにして《槍イカ》の方を優先するため、ゴンちゃんとかぐやを呼び戻そうとした時、鋭い風の音が耳元を横切り、後方から、バキバキバキッドカンッと派手な音が響いた。
驚いて顔を向ければ、崖の上の木々は倒れ、土煙が上がっていた。
きっと技の流れ弾が飛んで行ったんだ、と自分に言い聞かせながら、ボスの方に向き直れば、ボスの足に締めつけられて、身動きがとれないかぐやがいた。いくら探してもそこにゴンちゃんの姿はない。
「かぐや!!」
私が救助に向かうよりも早く、ボスはかぐやを持った足を大きく振りかぶり、土煙上がる崖に投げつけた。
「かぐや!かぐや!!」
響く衝撃音にさらに舞い上がる土煙。私は大急ぎでかぐやが飛んで行った方向へ向かった。
風が砂埃をなぎ払い、視界がクリアになった私の目に飛び込んで来たのは、
ぐったりと横たわるゴンちゃんとかぐやだった。
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