スターライトパレード

木風

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第二巻 Dear You

第5話「扉の向こうと届けられた音」

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音楽番組が終わっても、モヤモヤは晴れなかった。
そのまま流れるように、椿さん、怜央さん、セナ君が出演するトーク番組が始まる。
PCの椅子に座ったまま、TVをぼんやり眺める。
番組の明るさと自分の気分の温度差が、地味に堪えてくる。


出演者が最近買った高額なものを紹介するコーナーでMCの人がセナ君に話を振る

『なんかセナくん、えらい高い買い物したらしいやん?』
『……ああ、PC。機材一式』

PC……?
PCって……ひょっとして……この私の今目の前にあるMac……?

『パソコン!?なんぼしたん!?』
『…………いや、ま、まぁ一式で……』

画面に映る金額は、約200万円。
テロップに出た金額に、思わず紅茶を吹き出しそうになる。 え、200万……!?

『いや、こいつめっちゃドヤってるけど、メンバー7人での割り勘ですからね』
『おいばらすな!!』

椿さんのツッコミに、少しだけ救われた気がした。 でも、それでも200万……

『セナ、例のクルマのことは話さない感じ?』
『言うなバカ!!!』
\\ な~に~?//
『やめろやめろやめろっ!!!良くない!良くない流れだ!!』


……怜央さんの言ってた車って、あの時の?私を乗せてくれた、あの車?

音楽番組の中で、セナ君が他の女性を見つめていたあの視線。
今、目の前にあるPC。 そこにかけられた金額。

いろんな現実が、追いつかないまま…… その日は、なんとなく眠りについた。



今日も、昨日と同じように過ごす。 6時……夕食が届く時間。

いつもなら気にしないのに、今日はなぜか気になる。
リビングから、インターフォンの鳴らない玄関をじっと見つめる。

コンコン……

ドアをノックする音。

「奏」

胸の奥が、ぐっと熱くなる。

「……セナ君……!」

思わず玄関へ駆け寄って、ドアノブに手をかける。
でも、ギリギリで踏みとどまる。

「……どした?」

思わず言葉が詰まる

「……オレ……なんかした?」
「!?ちが……違うよ!!」

誤解されてるかもしれないと思って、ここ数日のことを全部話す。
偶然TVにママが出て、私が内緒で作ってた曲のことがバレたこと。
スマホもネットも取り上げられ、インターフォンまで切られたこと。
学校も辞めさせられて、フランス行きの日まで部屋に閉じ込められていること……

「とりあえず、メシでドアは開けられるんだろ?」
「……でも……ママに通知が行っちゃうの……」

ドアを開けるだけで、警備会社から連絡が行く。
下手したらセナ君まで巻き込んでしまう……

「今度は次に開けれる時間まで私がセナ君を監禁することになっちゃう……」
「……いーよ」
「え……?」
「お前になら監禁されても」

胸が跳ねる。
思いがけない言葉。
でもきっと、誰にでも言ってるんだ、こんなセリフ。
あの番組での女性との距離を思い出す。

「だめ……だよ……お仕事……きっと今日だって明日だっていっぱいあるんでしょ……?」
「ふっ……だな」

ドアにそっと手を添える。
でも、開ける勇気は出なかった。

「な、ピアノ弾いてよ。なんか作ってんだろ?」
「あ……うん!アルバムの曲のコンペの案内が来てて……ずっとその曲ばっか弾いてる」
「聴かせてよ」
「ちょっと待っててね。キーボード玄関前に持ってくる!」
「え?おい、無理すんなって」

返事も聞かずに、廊下を走ってキーボードを玄関前へ持って……行け……ない……

「ごめん……想像以上に重くて……」
「大丈夫かよ。無理すんなって……あーっと……Bluetoothは繋がんね?」
「……待って」

Macを開いて、Bluetooth設定を確認する。
Wi-FiもiCloudも切られている。でも……

「生きてる……!」

すぐに“Sena's iPhone”が表示された。
祈るようにタップする。
……接続済み。

すぐに玄関に戻り伝える

「セナ君!Bluetooth繋がった!」
「マジで!?」
「弾くから……聴いててね」

再度キーボードに戻り、椅子に座る。
深呼吸して、鍵盤に手を置く。
澄んだピアノの旋律が流れ出す。

私が、スターライトパレードのみんなのために作った……2曲目……

コンペのテーマは「支え」「原点」「感謝」
自分を形作ってきた“誰か”への想いをテーマにした楽曲。

……ねぇ、セナ君。ドアの向こうにも私が曲に込めた思い……届いている?
届いていると……いいな……


約3分の演奏を終え、玄関前に戻る。

「どう……だったかな?」
「ん……オレ……」

少し沈黙して……

「奏……のピアノが世界で一番好きだわ」

その言葉に、昔の記憶がよみがえる。

『かなねーままのばいおりんすきー』
『ふふ……ママも奏のピアノが世界で一番大好きよ』
『いっしょだねー』
『ねー。ずっと一生よ』
『じゃぁさ、かながおとなになったらー……』

…………なんで、こんな大切な思い出、忘れてたんだろう。

「奏」

扉越しに、セナ君が囁く。

「オレが何とかするから。絶対に離れないから待ってろ」
「……うん……」

私も……セナ君のおかげで大切な思い出を思い出せたよ。
もう一度ママと向き合おう。



中々話し合う時間を持てないまま、フランス行きの日が来てしまった。

「早くチェックインしてラウンジでゆっくりするのでいいわよね?」

チェックインに向かおうとするパパとママの後ろを歩く。
言わなきゃ……と思っていると空港の喧噪の中から聞きなれた声がする。
2Fから声の方向を見下ろすと

「いた!!ね、あそこ!!」
「奏!!」
「……!みんな!!」

2Fから見下ろす空港ロビー。 スターライトパレードの7人の姿。
思わず手すりから乗り出す。

「急がな……!あそこどうやっていくん!?」
「もうここでいいだろ!!」

「奏……?」

私が足を止めたのを見て、ママが戻ってくる。

「あいつら……!また……!!」

「え……!?あれ?スタライじゃない?」
「きゃーーー!!信君!!真央君!!」
「やっばい!!遊里君かわいんだけど!!」

みんなに気が付く人が徐々に増える……

セナ君がスマホを何か操作して見上げる
ピアノが流れ出す…… あの曲。 私が、Bluetoothで送った、あの曲。

私が……扉越しに弾いた曲をセナ君たちが歌い始める


手のひらの温度を 覚えている
僕の中 不器用だったやさしさも なぜか今は愛おしくて
まっすぐに生きるって どういうことか教わった
問いかけのたびに あなたの背中を探してる


「何これ?何かの撮影??」
たくさんの人が彼らにカメラを向け始めるのをただただ上から眺める


言えなかった言葉が 心の奥に溜まってく
たぶん 全部伝えたら 泣いてしまうから
あなたがくれたこの命で 僕は今日も歩いていく
涙も 迷いも すべて抱えてゆける気がする
誰かを守れるような そんな大人にいつかなれるかな
大丈夫って言えるように 僕もまた 誰かの光になる


「これも、奏が作ったのかな?」
「パパ……」
「そうか、奏らしくてキレイな音だね。ね、薫さん」
「何よ……これ……まだまだ……全然じゃない……音の運び方も……抑揚も甘くて……」

ママには、すぐに弱点を見抜かれてしまう。


閉じたドアの向こうで 声を殺して泣いた日も
叱る声の中に ずっと祈りがあったこと
「強くなれ」って言葉が ずっと嫌いだったのに
今は僕もきっと 同じことを言うだろう


「少し……人が増えてきてしまったね。どこか静かな所に場所を移してもらおうか」

パパが職員の元へ行き、ママは1Fにいるみんなを見つめている。


ひとりで生きてきたなんて 嘘だった
わかってる 支えられた記憶が いま僕を支えてる


「奏、移動しよう」
「でも……みんなが……」
「大丈夫、彼らも案内してもらうよう伝えたから」


あなたがくれたこの名前で 僕は僕を信じていく
どこかで見ていて 「それでいい」って 笑ってくれたらいい
まだ遠い未来だけど この胸にずっと響いてる
ありがとう そのすべてを きっと超えてみせるよ


空港中に拍手と歓声が広がっていくのを背に、パパに促され、その場を後にした。

警備の人に案内されて、空港の特別待合室でみんなを待つ。
やがて扉が開き、みんなが案内されてきた。

久しぶりに見る、元気なみんなの顔。
ホッとして、思わず駆け寄りそうになる……

「あんたたち……懲りずにノコノコと、こんな所まで来て……」

ママの剣幕に、出かかった言葉を飲み込む。
この口調は……本気で怒っている時の……

「奏、大丈夫だから。ちゃんと、自分の気持ちを伝えなさい」

パパの言葉に小さく頷き、前に出て、ママに向かって立つ。
足が震える。逃げ出したい。けど……それ以上に、私は……ここに残りたい!

「ママ、ごめんなさい。私は……フランスには行けない」

一瞬で空気が張り詰める。 でも、目を逸らさず、ちゃんと伝えたい。

「きっと、ママから見たら今の私はまだまだ未熟で、甘くて、甘えていて、夢なんて言葉でごまかしてるように映るかもしれない。
でも……それでも、私は今、心から音楽と向き合いたいと思ってるの」

大丈夫…きっとママはわかってくれる…

「ママが私に音楽を教えてくれた。ずっとピアノが好きで……弾けなくなっても離れられなかった。
でも、今は……みんなのために、弾きたいと思えるの。やっと、自分の音を見つけ始めたの」

だから、お願い。 今だけは……私の音を信じて……!


「はぁーーーーーっ」

ママの大きな溜息が響く。

「あなた……知っていたのね?奏がこいつらの曲を作っているって」

ギロリとパパを睨むママ。
まったく動じないパパに、思わず尊敬する。

「ふぅ……あなた、なんだか疲れたわ。ラウンジで休める部屋、お願いできるかしら」
「ママ!!!」

ソファから立ち上がり、部屋を出ようとするママを呼び止める。
ママと真正面から顔を合わせたのは……いつぶりだろう。

「……認めたわけじゃないわ。今でも、奏が一番輝けるのはクラシックよ」

荷物を持ち、背を向けて歩き出すママ。

「ただ……さっきの曲だけは、とても良かったわ」

え、それって……

「良かったね。がんばれ、だってさ」
「パパ……」

パパもママの後を追って部屋を出ようとする。
その途中、椿さんの前で足を止める。

「君がリーダーで良いのかな?」
「あ、はい!スターライトパレードのリーダーの椿翔平です。奏さんにはいつもお世話になって……」
「今度、帰国したらそちらの会社の方にご挨拶がしたいんだが、名刺を上の人に渡してもらえるかな」

名刺を渡すパパ。

「奏の曲を、大切にしてくれてありがとう」

呆然として言葉が出ない。
思わず何も言えず見送ってしまったことに気が付いて、部屋を出たママとパパを思わず追いかける。
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