3 / 4
2.
しおりを挟む
〝中学生のミチオ〟の世界。
それは実に平凡だったが、危機のない満ち足りた世界だった。
朝はまず母の声で目覚め、母の作った朝食を食べ、母が用意してくれた制服を着、太陽に目を細めながら学校へ向かう。学校では授業を受け、誰かの冗談に笑い、または傷つき、昼には母が作った弁当を食べ、午後もだいたい同じようなことをしながら過ごす。放課後は部活動に参加せず、家で宿題をしてから、塾へ。帰宅後は、やはり母の作った夕飯を食べ、テレビを見、風呂に入り、眠る。
ミチオはやや老生しており、こうした生活が大人になっても続くと思っていたし、何より変化のないルーティンを好む性格だった。いつも同じように滞りなく進む時間が、ミチオの落ち着く世界だった。
ゆえにアキヒコという存在は、ミチオのルーティンを揺るがす大きな問題であった。
アキヒコは、転校してきた翌日から学校に来なかった。これはミチオからすると、信じられない出来事だった。ミチオの周囲には、無意味に学校を欠席する人間などいなかったからだ。
——アキヒコは先生とか、親とか、当然に守るべき規律とか、そういうものが怖いと思わないのだろうか?
ミチオには、とうてい理解できない感覚だった。そんな人間が近くに存在しているだけでも、なんとなく億劫だった。できることなら、このまま、またどこかに転校してくれないかとすら思っていた。
だが、アキヒコは、一週間後にちゃんと学校にやってきた。
初めて教室に入ってきたときと同じように、だるそうなすり足で、ミチオの背後にどかっと座りこんで、ずっと貧乏ゆすりをしていた。
その頬には、なぜか、赤黒い痣が浮かんでいた。
それを見たとき、ミチオの世界はまた小さく軋んだ。
それは実に平凡だったが、危機のない満ち足りた世界だった。
朝はまず母の声で目覚め、母の作った朝食を食べ、母が用意してくれた制服を着、太陽に目を細めながら学校へ向かう。学校では授業を受け、誰かの冗談に笑い、または傷つき、昼には母が作った弁当を食べ、午後もだいたい同じようなことをしながら過ごす。放課後は部活動に参加せず、家で宿題をしてから、塾へ。帰宅後は、やはり母の作った夕飯を食べ、テレビを見、風呂に入り、眠る。
ミチオはやや老生しており、こうした生活が大人になっても続くと思っていたし、何より変化のないルーティンを好む性格だった。いつも同じように滞りなく進む時間が、ミチオの落ち着く世界だった。
ゆえにアキヒコという存在は、ミチオのルーティンを揺るがす大きな問題であった。
アキヒコは、転校してきた翌日から学校に来なかった。これはミチオからすると、信じられない出来事だった。ミチオの周囲には、無意味に学校を欠席する人間などいなかったからだ。
——アキヒコは先生とか、親とか、当然に守るべき規律とか、そういうものが怖いと思わないのだろうか?
ミチオには、とうてい理解できない感覚だった。そんな人間が近くに存在しているだけでも、なんとなく億劫だった。できることなら、このまま、またどこかに転校してくれないかとすら思っていた。
だが、アキヒコは、一週間後にちゃんと学校にやってきた。
初めて教室に入ってきたときと同じように、だるそうなすり足で、ミチオの背後にどかっと座りこんで、ずっと貧乏ゆすりをしていた。
その頬には、なぜか、赤黒い痣が浮かんでいた。
それを見たとき、ミチオの世界はまた小さく軋んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる