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第5章 人間側との決裂
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魔王城の外が、騒がしくなったのは朝だった。
見張りからの報告は簡潔だった。
人間の騎士団が、国境を越えて進軍している。目的は――聖女の奪還。
「……今さら、か」
ヴァルが低く呟く。
使者として送り込まれてきた人間の騎士は、切羽詰まった顔をしていた。
「聖女リュミエールを返していただきたい!」
声は大きいが、理屈は脆い。
「光の女神の加護が薄れ、王都を守っていた結界も消えました!
魔物の被害が増え、作物は育たず……このままでは国が――」
「大変なのね」
穏やかな声が、言葉を遮った。
リュミエールが、一歩前に出る。
騎士は、はっとしたように彼女を見る。
「聖女様……!」
「でも、不思議だわ」
にこりと微笑みながら、続ける。
「私を裏切り者と呼ぶ前に、
ご自分たちの王族の行いを、どう評価なさっているのかしら」
空気が、ひやりと冷えた。
「裏切ったのは、そちらの王族でしょう?」
言葉は柔らかい。
だが、逃げ場はない。
「婚約者を裏切り、
代わりに愛する乙女との生活を手に入れたのだから」
少し首を傾げる。
「国民として、祝福して差し上げたら?」
笑顔だった。
完璧な、社交用の微笑み。
だがその奥に、かつての聖女が持っていた従順さは、もうない。
騎士は言葉を失った。
「……っ、聖女様! あなたは人間を裏切った――」
「違うわ」
即座に、否定する。
「私は、切り捨てられただけ」
それ以上、話すことはないというように、リュミエールは一歩引いた。
次の瞬間。
「じゃあ、実力行使だね」
セイルが、あっさりと言った。
彼が指を鳴らすと、地面が揺れる。
土が盛り上がり、
かつて戦場に倒れた兵たちの亡骸が、次々と起き上がった。
「う、うわ……!」
騎士団が、完全に怯む。
「ちょ、ちょっと脅しのつもりだったのに!」
セイルは言いながらも、手は止めない。
ゾンビたちは、攻撃しない。
ただ、無言で、じりじりと距離を詰める。
それだけで、十分だった。
「退け! 退却だ!!」
隊列は崩れ、
人間の騎士団は、ほうぼうの体で逃げていく。
静けさが、戻った。
リュミエールは、その背中を見送りながら、静かに息を吐く。
「……取り戻したい、ですって」
誰に向けたともなく、呟く。
もう、戻る場所ではない。
世界を救った聖女は、
この日、はっきりと線を引いた。
人間の国と。
そして――過去の自分と。
次は、奪い返される側ではない。
選び取る側として、
彼女は、ここに立っている。
見張りからの報告は簡潔だった。
人間の騎士団が、国境を越えて進軍している。目的は――聖女の奪還。
「……今さら、か」
ヴァルが低く呟く。
使者として送り込まれてきた人間の騎士は、切羽詰まった顔をしていた。
「聖女リュミエールを返していただきたい!」
声は大きいが、理屈は脆い。
「光の女神の加護が薄れ、王都を守っていた結界も消えました!
魔物の被害が増え、作物は育たず……このままでは国が――」
「大変なのね」
穏やかな声が、言葉を遮った。
リュミエールが、一歩前に出る。
騎士は、はっとしたように彼女を見る。
「聖女様……!」
「でも、不思議だわ」
にこりと微笑みながら、続ける。
「私を裏切り者と呼ぶ前に、
ご自分たちの王族の行いを、どう評価なさっているのかしら」
空気が、ひやりと冷えた。
「裏切ったのは、そちらの王族でしょう?」
言葉は柔らかい。
だが、逃げ場はない。
「婚約者を裏切り、
代わりに愛する乙女との生活を手に入れたのだから」
少し首を傾げる。
「国民として、祝福して差し上げたら?」
笑顔だった。
完璧な、社交用の微笑み。
だがその奥に、かつての聖女が持っていた従順さは、もうない。
騎士は言葉を失った。
「……っ、聖女様! あなたは人間を裏切った――」
「違うわ」
即座に、否定する。
「私は、切り捨てられただけ」
それ以上、話すことはないというように、リュミエールは一歩引いた。
次の瞬間。
「じゃあ、実力行使だね」
セイルが、あっさりと言った。
彼が指を鳴らすと、地面が揺れる。
土が盛り上がり、
かつて戦場に倒れた兵たちの亡骸が、次々と起き上がった。
「う、うわ……!」
騎士団が、完全に怯む。
「ちょ、ちょっと脅しのつもりだったのに!」
セイルは言いながらも、手は止めない。
ゾンビたちは、攻撃しない。
ただ、無言で、じりじりと距離を詰める。
それだけで、十分だった。
「退け! 退却だ!!」
隊列は崩れ、
人間の騎士団は、ほうぼうの体で逃げていく。
静けさが、戻った。
リュミエールは、その背中を見送りながら、静かに息を吐く。
「……取り戻したい、ですって」
誰に向けたともなく、呟く。
もう、戻る場所ではない。
世界を救った聖女は、
この日、はっきりと線を引いた。
人間の国と。
そして――過去の自分と。
次は、奪い返される側ではない。
選び取る側として、
彼女は、ここに立っている。
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