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ノイトラール共和国に移って、数週間が経った。
まだ学院のような講義はないが、俺とククルは日々の勉学を続けていた。
ノア首長の私邸にある私設書庫は、俺たちにとってまるで宝の山だ。
獣人の古い伝承、人魚たちの水歌魔導理論、混血特有の身体構造論──
七斗学院では見られなかった資料ばかりが並んでいる。
「……ジム、この竜族の古文書、難しいけど面白いよ」
ククルが静かに微笑む。
淡い月光に照らされた銀髪がさらさらと揺れるたび、つい目を奪われる。
「お前、いつの間にか専門書も読めるようになったな」
「ふふ……だってジムが頑張ってるから、僕も置いていかれたくないし」
柔らかな笑顔。
──守りたいと思う理由は、こんな瞬間に積み重なる。
**
そんな穏やかな日々が続く中──
ノア首長から緊急の呼び出しが入った。
執務室に入ると、首長は普段の柔和な表情を崩し、やや険しい顔つきになっていた。
「……よく来てくれた。情勢が、少し厄介になった」
「また何か?」
ノア首長は頷く。
「──レイド王国から正式に”身柄引き渡し要請”が届いた」
「……!」
俺もククルも息を呑む。
「亡命した元ラグエンティ伯爵家関係者──その協力者として、お前たちを”反逆罪幇助”の嫌疑で拘束したいとの申し出だ」
──つまり、俺たちを政治の駒に使おうとしている。
「……フェーゲ王国ではなく、レイド王国から……」
ククルが小さく囁く。
「ええ、フェーゲ王国は静観している。むしろ、ソフィア教授とマリアン教授が裏で”干渉は不要”と進言してくれているらしい」
俺たちは胸を撫で下ろした。
やはり、あの2人の支えは今も大きい。
「だが、レイド王国は執拗だ。取り潰された伯爵家の関係者は可能な限り粛清したいのだろうな。王国内部の権力闘争の一環でもある」
「……それで、ノア様は?」
ノア首長はきっぱりと言い切った。
「もちろん断った。──君たちは今やノイトラール共和国の保護下にある。我が国に引き渡す理由は何もない」
ククルが安堵で小さく身体を震わせた。
「……ありがとうございます」
「心配はいらん。──私は混血たちの首長だからな」
ノア首長は静かに微笑んだ。
「……ただし、国際的にお前たちの存在がより注目されるのは間違いない。今後は、さらに慎重に動く必要があるだろう」
**
その晩──
邸宅のバルコニーで月を見上げるククルの隣に立つと、彼は小さく俺の手を握った。
「……ジム、僕……怖かった」
「……ああ。でも、大丈夫だ。お前がここにいる限り、俺は何度だって守る」
「……ずっと一緒に、いてくれる?」
「当たり前だろ」
そっと抱き寄せた肩が細くて儚くて──
けれど、その小さな背中には、確かに強く生きようとする光があった。
──まだ道は続く。
だが、もう迷わない。俺たちは共に歩むと決めたのだから。
まだ学院のような講義はないが、俺とククルは日々の勉学を続けていた。
ノア首長の私邸にある私設書庫は、俺たちにとってまるで宝の山だ。
獣人の古い伝承、人魚たちの水歌魔導理論、混血特有の身体構造論──
七斗学院では見られなかった資料ばかりが並んでいる。
「……ジム、この竜族の古文書、難しいけど面白いよ」
ククルが静かに微笑む。
淡い月光に照らされた銀髪がさらさらと揺れるたび、つい目を奪われる。
「お前、いつの間にか専門書も読めるようになったな」
「ふふ……だってジムが頑張ってるから、僕も置いていかれたくないし」
柔らかな笑顔。
──守りたいと思う理由は、こんな瞬間に積み重なる。
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そんな穏やかな日々が続く中──
ノア首長から緊急の呼び出しが入った。
執務室に入ると、首長は普段の柔和な表情を崩し、やや険しい顔つきになっていた。
「……よく来てくれた。情勢が、少し厄介になった」
「また何か?」
ノア首長は頷く。
「──レイド王国から正式に”身柄引き渡し要請”が届いた」
「……!」
俺もククルも息を呑む。
「亡命した元ラグエンティ伯爵家関係者──その協力者として、お前たちを”反逆罪幇助”の嫌疑で拘束したいとの申し出だ」
──つまり、俺たちを政治の駒に使おうとしている。
「……フェーゲ王国ではなく、レイド王国から……」
ククルが小さく囁く。
「ええ、フェーゲ王国は静観している。むしろ、ソフィア教授とマリアン教授が裏で”干渉は不要”と進言してくれているらしい」
俺たちは胸を撫で下ろした。
やはり、あの2人の支えは今も大きい。
「だが、レイド王国は執拗だ。取り潰された伯爵家の関係者は可能な限り粛清したいのだろうな。王国内部の権力闘争の一環でもある」
「……それで、ノア様は?」
ノア首長はきっぱりと言い切った。
「もちろん断った。──君たちは今やノイトラール共和国の保護下にある。我が国に引き渡す理由は何もない」
ククルが安堵で小さく身体を震わせた。
「……ありがとうございます」
「心配はいらん。──私は混血たちの首長だからな」
ノア首長は静かに微笑んだ。
「……ただし、国際的にお前たちの存在がより注目されるのは間違いない。今後は、さらに慎重に動く必要があるだろう」
**
その晩──
邸宅のバルコニーで月を見上げるククルの隣に立つと、彼は小さく俺の手を握った。
「……ジム、僕……怖かった」
「……ああ。でも、大丈夫だ。お前がここにいる限り、俺は何度だって守る」
「……ずっと一緒に、いてくれる?」
「当たり前だろ」
そっと抱き寄せた肩が細くて儚くて──
けれど、その小さな背中には、確かに強く生きようとする光があった。
──まだ道は続く。
だが、もう迷わない。俺たちは共に歩むと決めたのだから。
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