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3章 ヒロインとの出会い
①
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その日は、朝からざわめきが絶えなかった。
修道院の門の向こうから馬車がやってきて、修道女たちが急ぎ足で出迎えている。私はその光景を窓から眺めながら、小さな違和感を覚えた。
「誰か来たのかしら?」
修道院を訪れる者は珍しくないが、こんなにも大勢の修道女が迎えるのは見たことがない。何事だろうと思いながら中庭に向かうと、そこで予想外の人物と出会った。
「リリアナ様!やっとお会いできました!」
満面の笑顔で駆け寄ってきたのは、可憐な平民の少女――エリーナ・ベッカーだった。
「……エリーナ?」
思わず彼女の名を口にする。忘れるはずもない。彼女こそが、私がかつてすべてを失った原因の一端だったのだから。
けれど、今目の前にいる彼女は、そんなことを一切気にしていない様子で、私の手をぎゅっと握った。
「リリアナ様に会うために、どうしてもここに来なければならないと思ったんです!」
「わたくしに……?」
「ええ!」
彼女の大きな瞳は輝いていて、私を見つめるその視線には一切の悪意がなかった。
「どうして、わたくしに会いに?」
私が静かに尋ねると、エリーナは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「実は、修道女になりたいとおっしゃったと聞いて、すごく驚いたんです」
「噂は広まっているのですね」
「はい。ですが、私にとってリリアナ様は、素晴らしいお手本のような方なんです!どうしてそんな選択をされたのか、直接伺いたくて……」
お手本――その言葉に、私は困惑を隠せなかった。かつての私は、彼女にとって「悪役」でしかなかったはずだ。それなのに、彼女の言葉は心からのもののように聞こえる。
「……そうですか。でも、わたくしの選択は、わたくし自身の理由に基づくものです」
「それは分かっています。けれど、私は――リリアナ様に感謝しているんです」
「感謝……?」
驚きのあまり、私は思わず聞き返した。エリーナは少しだけ目を伏せ、穏やかな声で話し始める。
「私が社交界に入った頃、リリアナ様がいてくださったおかげで、いろんなことを学べました。それがなければ、今の私はありませんでした」
「……わたくしが、ですの?」
「はい。リリアナ様は厳しいお方だと最初は思いました。でも、そのお言葉の一つ一つが、私にとってとても大切なものでした」
彼女の言葉を聞きながら、私は胸の中が複雑な感情で渦巻くのを感じた。彼女の無邪気さに反発を覚える一方で、どこか救われるような気持ちにもなる。
「エリーナ、あなたは何も知らないのです」
私の言葉に、エリーナは首を傾げる。
「何も……?」
「わたくしが、どれだけ多くの過ちを犯してきたのかを。あなたがどれだけの試練を乗り越えたかを、わたくしは知っている。そして、わたくしの存在がどれほど――」
「そんなこと、関係ありません!」
彼女は私の言葉を遮った。その大きな声に驚いて彼女を見つめると、エリーナは真剣な目で私を見返していた。
「リリアナ様がどう思っていらっしゃるか分かりません。でも、私にとっては、リリアナ様がここにいるだけで十分なんです」
その言葉に、私は返す言葉を失った。彼女の純粋な想いは、私の過去を否定するものではない。それどころか、その全てを包み込むような温かさを感じさせるものだった。
エリーナとの出会いは、私にとって新しい視点を与えるものだった。
平民の少女として社交界に入った彼女は、純粋で、どこか強さを秘めている。その姿を見ていると、私が避け続けてきた世界を再び見つめ直す必要があるのではないか――そんな気持ちになってくる。
「リリアナ様、これからもお会いしてもよろしいですか?」
エリーナの問いに、私は微笑みながら頷いた。
「もちろんです」
その瞬間、彼女の笑顔が一層輝きを増したように見えた。
修道院の門の向こうから馬車がやってきて、修道女たちが急ぎ足で出迎えている。私はその光景を窓から眺めながら、小さな違和感を覚えた。
「誰か来たのかしら?」
修道院を訪れる者は珍しくないが、こんなにも大勢の修道女が迎えるのは見たことがない。何事だろうと思いながら中庭に向かうと、そこで予想外の人物と出会った。
「リリアナ様!やっとお会いできました!」
満面の笑顔で駆け寄ってきたのは、可憐な平民の少女――エリーナ・ベッカーだった。
「……エリーナ?」
思わず彼女の名を口にする。忘れるはずもない。彼女こそが、私がかつてすべてを失った原因の一端だったのだから。
けれど、今目の前にいる彼女は、そんなことを一切気にしていない様子で、私の手をぎゅっと握った。
「リリアナ様に会うために、どうしてもここに来なければならないと思ったんです!」
「わたくしに……?」
「ええ!」
彼女の大きな瞳は輝いていて、私を見つめるその視線には一切の悪意がなかった。
「どうして、わたくしに会いに?」
私が静かに尋ねると、エリーナは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「実は、修道女になりたいとおっしゃったと聞いて、すごく驚いたんです」
「噂は広まっているのですね」
「はい。ですが、私にとってリリアナ様は、素晴らしいお手本のような方なんです!どうしてそんな選択をされたのか、直接伺いたくて……」
お手本――その言葉に、私は困惑を隠せなかった。かつての私は、彼女にとって「悪役」でしかなかったはずだ。それなのに、彼女の言葉は心からのもののように聞こえる。
「……そうですか。でも、わたくしの選択は、わたくし自身の理由に基づくものです」
「それは分かっています。けれど、私は――リリアナ様に感謝しているんです」
「感謝……?」
驚きのあまり、私は思わず聞き返した。エリーナは少しだけ目を伏せ、穏やかな声で話し始める。
「私が社交界に入った頃、リリアナ様がいてくださったおかげで、いろんなことを学べました。それがなければ、今の私はありませんでした」
「……わたくしが、ですの?」
「はい。リリアナ様は厳しいお方だと最初は思いました。でも、そのお言葉の一つ一つが、私にとってとても大切なものでした」
彼女の言葉を聞きながら、私は胸の中が複雑な感情で渦巻くのを感じた。彼女の無邪気さに反発を覚える一方で、どこか救われるような気持ちにもなる。
「エリーナ、あなたは何も知らないのです」
私の言葉に、エリーナは首を傾げる。
「何も……?」
「わたくしが、どれだけ多くの過ちを犯してきたのかを。あなたがどれだけの試練を乗り越えたかを、わたくしは知っている。そして、わたくしの存在がどれほど――」
「そんなこと、関係ありません!」
彼女は私の言葉を遮った。その大きな声に驚いて彼女を見つめると、エリーナは真剣な目で私を見返していた。
「リリアナ様がどう思っていらっしゃるか分かりません。でも、私にとっては、リリアナ様がここにいるだけで十分なんです」
その言葉に、私は返す言葉を失った。彼女の純粋な想いは、私の過去を否定するものではない。それどころか、その全てを包み込むような温かさを感じさせるものだった。
エリーナとの出会いは、私にとって新しい視点を与えるものだった。
平民の少女として社交界に入った彼女は、純粋で、どこか強さを秘めている。その姿を見ていると、私が避け続けてきた世界を再び見つめ直す必要があるのではないか――そんな気持ちになってくる。
「リリアナ様、これからもお会いしてもよろしいですか?」
エリーナの問いに、私は微笑みながら頷いた。
「もちろんです」
その瞬間、彼女の笑顔が一層輝きを増したように見えた。
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