異世界行ったら嫌われ美少年の犬になりました

花果唯

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第14話 神獣

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 誰かの声が聞こえる。

「……ろさん……代さん…………神代さん!」

 神代?
 それは誰のこと……あ、俺か。
 社畜の俺は、『神代佑真』だった。
 そう気づいて目を開けると、懐かしく感じる人がいた。

「あ、愛犬家イケメン」

 俺より人権がある犬の飼い主だ。
 お久しぶりです。

「ふふ。私をそんな風に呼んでいたのですか?」
「え! 声に出てました? あはは……すみません。そんなことより、ここはどこですか?」

 周囲を見渡しても、霧に取り囲まれていて分からない。
 視界が白く曇る世界に、俺と愛犬家イケメンだけがいて、向かい合って立っている。

「いったい、どうなって……え?」

 自分の体を見ると、神代佑真ではなく、人の姿になった神獣――レオだった。
 あれ? でも、愛犬家イケメンは俺のことを「神代さん」と呼んだ。
 どうしてこの姿の俺が神代だと分かるんだ?
 これは夢か?

 疑問だらけで混乱していると、愛犬家イケメンが申し訳なさそうな笑みを浮かべた。

「私は神代さんに謝らなければいけません。あなたがリアムを守るように仕向けたのは私なんです」
「仕向けた? どういうことですか? ……というか、どうしてあなたが、リアムのことを知っているんですか?」

 顔を顰める俺に、愛犬家イケメンは苦笑いを深めた。

「……あれ?」

 ジーッと見ていると、愛犬家イケメンと重なるように、女性が見えた気がした。
 それは、リアムを思い出させるような、銀髪の美人で……。

「まさか。あの、もしかして……。あなたはリアムのお母さん、だったりします?」

 あり得ない、突拍子のないことを聞いている自覚はあるが、俺は妙に確信がある。
 神獣の力で、人の核の部分を見通しているのかもしれない。

「……はい。正解です。私の前世は、リアムの母、レオニーです」
「やっぱり」
「私は今、第二の人生を送っています」

 リアムのお母さんが転生して、あの愛犬家イケメンになっていた?

「私は命が尽きるときに、神様にお願いをしました。どうか、リアムの心と命を守ってくれる存在が現れますように、と――。神様はそれを聞き入れ、願いを叶える力を私に与えてくださいました」
「え? よく分からないんですけど、話の流れからすると、俺を神獣にしたのはあなたってこと?」

 そう尋ねると、愛犬家イケメンは静かに頷いた。

「生まれ変わって生きていく中で、力に適する者を探し……あなたをみつけました。あなたは過労がたたって、短い生涯を送る運命でした。それを改ざんしたんです」

 まだよく分からないが……。
 転生したレオニーさんが、リアムを助けるために死ぬ運命だった俺を神獣にして、リアムの元に送り込んだ、ということのようだ。

 そういえば、思い出せなかった名前……!

「……レオ……芦屋玲央さん」

 名前を呼ぶと、玲央さんは玲央さんはにっこりと笑った。
 ……笑い方がリアムとそっくりだ。

「何の因果か、また同じような名前で生きています。今はあなたも『レオ』ですね」

 そうだ……リアムが与えてくれた名前――。

『君も僕の家族だから。大事な名前を受け継いでくれたら嬉しいな』

 そう言って俺に名前をくれた、リアムの照れ笑いするリアムの顔が浮かんだ。
 お母さんの思い出と一緒に、俺も家族にしてくれたリアム。

 家族で、相棒で、ご主人様のリアムを、俺は……死なせてしまった。

「玲央さん、レオニーさん……ごめんなさい……」

 俺は立ち尽くしたまま、涙を流した。
 リアムは俺を庇って死んでしまった。
 守りたかったのに、守らせてしなせてしまった自分が不甲斐ない……情けない……。

「神代さん……」

 恥を捨てて泣き続けていると、レオニーさんは正面からそっと俺を抱きしめた。

「あの子を大切に思ってくれてありがとうございます。あの子も、あなたのことを大切に思っています」

 優しい声は、『母』のものだった。
 頭を撫でて、背中をぽんぽんと叩いてくれる手も、とても『お母さん』だ。
 リアムも小さい頃、こうして慰めて貰ったんだろうなあ。

「だから、あの子の元に帰ってあげてください」
「帰る、ですか? どこに? リアムはもう……」

 もういない。
 そう言いかけて、また涙があふれた。

「大丈夫です。あの子はああ見えて、体も運も強い子ですから。死んでいません」

 レオニーさんの声に、驚いて顔を上げる。

「リアムが……生きている?」
「はい。あの子以外にも、あなたを待っている子達がいますよ」

 そう言って玲央さんが指さした先には、先程まで俺がいた場所が映し出されていた。

 巨大な黒い獣になってしまった俺の周りに、小さな影――動物達がたくさん集まっている。

『おうさま!』
『神様!』
『王よ!』

 リス子……熊にドリアードも……。
 他にも、俺の力になってくれた動物たちが集まっている。

「本来、動物や精霊は、神獣の感情に支配されるものです。だから、自我を失い、暴走するはずなのですが、この子達は違います。あなたを忘れたくない――。人を傷つけることを嫌がる本来のあなたの意志に従いたい、という意思を強く持っているようです。……愛されていますね」

『ぼくたち、おもしろくてやさしいおうさまがすきだよ! こわいおうさまにならないで!』

 暴れる俺の傍にいると危ないのに、リス子達は必死に呼びかけてくれている。

「リス子……みんな……」

「それに――。誰よりもあなたの帰りを待っているのは、あの子です」
「!」

 レオニーさんに後ろからそっと肩を抱かれ、向けた視線の先にいたのは――。

「リアム!!!!」

 血を流して倒れていたリアムが生きている。
 服は血まみれだが、動物たちに支えられながら、必死に暴れる俺に近づいてる。

「レオ!!!! お前は僕の犬だろ!? 家族だろ!! 僕のそばにいてよ!! ちゃんと戻って来い!!」
「リアム……本当に……生きているんだな?」

 俺のつぶやきにレオニーさんが微笑んだ。

「あなたを慕うドリアードが、命がけであの子を助けてくれたんですよ。でも、十分な回復はできていません。早くあなたが行ってあげてください」
「……はい! 俺、すぐに戻ります!」

 振り返り、レオニーさんと正面で向き合う。

「あの子のこと、これからもお願いします」

 周囲の霧が濃くなり、俺を飲み込んでいく――。

「あなたの分も、リアムを見守って幸せにしますから……。安心して、第二の人生を送ってください」

 そう伝えると、レオニーさんはとても嬉しそうに微笑んだ。

 ――私もリアムも、あなたに出会えてよかった

 霧の中に消えていくレオニーさんの安心した顔を、俺はずっと忘れないだろう。
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