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 額に手を当てられている感触がして、俺は朧げに瞼を開けた。

「時雨、さ?」

「春、大丈夫? ひどい熱だよ?」

 そう言われてみるとさっきよりも体中が気怠くて頭がぼんやりする。どうやら本格的に風邪をひいてしまったようだ。

 時雨さんが「ちょっと待ってて、春」と言って、キッチンに行ってお粥を作って戻ってきてくれた。

「時雨さん……バレンタインチョコは……?」

 俺は一番気になっていたことを訊いた。

「だから病院すっぽかしたの? はい、診察券」

 時雨さんがフッと笑う。
 俺にとっては一番気になる事だったのに、笑われてしまってちょっとだけ寂しくなりながら診察券を受け取る。

「時雨さんが……たくさんチョコ貰って帰って来るのが嫌だったんです……それに……俺、バレンタインだってことすら忘れてて、時雨さんに何も用意してなくて……」

 正直に打ち明けると時雨さんがまたクスっと笑った。
 笑うところじゃないのに! と思ったけれどそんなことは言えなくて。

「あんなの、全部看護師の休憩室に置いてきたよ。僕は春が居てくれたら他に何もいらないよ? ほら、お粥食べて、早く風邪薬飲もう?」

「時雨さん……抱いて?」

 俺はそんな言葉を口走る。
 時雨さんが欲しかった。
 俺だけの時雨さんなんだって証が欲しかった。

「だーめ。風邪が治ってからね?」

 そう言ってお粥をフーフーしながら俺の口元に運んでくる。
 お粥を食べて風邪薬を飲ませて貰って、気付いたらまた眠ってしまっていた。

 時雨さんが俺の頬に口付けてくれたような気がしたけれど、これは夢かなと幸せな優しさに涙が一筋こぼれた。
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