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ようやくまともな説明を聞く
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フェンリルの背にしがみついて、どれくらい時間が経っただろう。
そこそこの早さで森を走り抜けていくから、風が寒い。
寒いというか、顔とかむき出しのところは痛い。
なので途中からは周りを見るのはあきらめて毛並みに顔を突っ込んでいた。
いや、べつにもふりたいから顔を突っ込んだんじゃないんですよ。
あくまで顔が痛いからそれを和らげるためで、ってなんで私言い訳してるんだろう。
最果ての小屋は古びた小さなログハウスだった。
「着いたぞ我が主よ。降りろ」
「あ、ああ、ありがとうございます」
フェンリルは私を下ろすとログハウスのドア前でスッと人型になった。
「えっ、いま人に?え?」
いままで乗っていたモフモフが人になった。
「どうした。早く中に入れ。瘴気にやられるぞ」
「あ、は、はい」
急いで小屋に入る。
「やあ、待ってたよ。君が今回の聖女のリリィちゃんだね」
小屋に入るとだれもいないはずなのに暖炉に赤々と火がともって、紅茶を楽しんでいる先客がいた。
「ああ、僕は魔公国の第一王子、アベル。さっきまで乗ってきてたフェンリルが第二王子のカミオね」
「えっ、えっと、リリィです。お初にお目にかかります」
この状況が良くわからないが、とりあえず頭を下げておこう。
「あー、畏まんなくていいよ。とりあえずお茶どうぞ。魔族が良く飲むものだけど、人間でも大丈夫な茶葉を用意させたから。ああ、カミオのはいつものがあるよ」
手際よく私たちは座らされると、一通り机に並んだお菓子の話を聞かされた。
どうやら自分で作るのが好きで、今日も彼のお手製らしい。
この人パティシエなのかな。さっき第一王子って言ってたよね?
「そろそろ本題を話さないか、アベル。そろそろ菓子の話は聞き飽きたぞ」
「あー、そう?リリィが楽しそうに聞いてくれるからもう少し」
「早くしろ」
フェンリル、いやカミオ様は話の終わらなさにイラついていた。
この話は今日に限ったことじゃなくて、昔から飽きるほど聞いているのかもしれない。
「はいはい。まず確認だけど、リリィ。そっち国にいたときに、カミオでもだれでも良いから魔族のこと何か聞いてる?」
「いえ、特に何も。カミオ様のことも先ほどまでフェンリルとしてのお姿しか知りませんでしたし」
「あー、分かった。カミオ、後でお話ね。
で、リリィ。とりあえずこれからのことについてカミオから何か聞いてる?いまさっきまで人形と獣形を使い分けられることすら知らなかったみたいだけど」
アベルさま、ちょっと怒ってますよね?ニコニコしてるけど言い方が当てこすりすぎる。
「いえ、特には」
「んー、簡単に言うとね、こちらの国に来て聖女をやってほしいんだ」
「えっそれはどういうことですか?」
魔公国の聖女?
でも私は人間で、今までの感じからすると人間と魔族は違った種族なんだよね?
「あー、そういう反応ということは……そっちの国と魔公国の歴史的な関係、聖女の仕組みと役割何も知らない感じ?」
「まあ、そもそもこちらに召喚されてすぐにフェンリル、いやカミオ様?を召喚して、そこからすぐにここに追放されることになりましたから。よく考えたら私ここの国の名前も王様も知りません」
「なんというか……異邦人を呼び出しておいてその対応は……今代の王は頭が弱いんだね」
新しいお茶をもらいながら色々説明してもらった。
人間と魔族、精霊はもとはすべて同じ種族から出ていて、超常的な力を失ったのが人間、魔法としてその力を保っているのが魔族。その中でも人間に貸し出される魔族は精霊と呼ばれるらしい。
「え、精霊はイコール魔族なんですか?しかも貸し出されるって言うのは?」
「僕らの方では特に区別はしてないよ。
ただ、人間側が魔公国の者を魔族、教会の聖女が呼び出したものを精霊って呼び出したのが広まった感じかな。
「なるほど」
「貸出って言うのはさっきちょっと触れた、魔族の出す瘴気に関係してる。
人間は力を失ったから、その力を持ち続けている僕らといるとその力で具合が悪くなったりするんだ。
それを人間は瘴気って呼んでいる。
で、この国同士は地続きでしょう。
国境があるのとおなじようにその瘴気を遮るものも必要になる」
「どんどん広がるってことですか」
「まあ、そんなにすぐではないけどね。
で、その遮るものとして、こちらから派遣した魔族、もとい精霊が国を覆うように自分の瘴気で結界を張るんだ。
聖女に召喚された魔族、精霊の瘴気は人を蝕むことが無いからね。
それに派遣されるのは力のある魔族だから、変な気を起こした弱い魔族が攻め込もうとしてもそれを大方防いでくれるし」
「は、はぁ」
「ああ、その精霊としての派遣は、先の戦争の時の協定によるものなんだよね。まあ、詳しい歴史的なことはこれから帰る屋敷にまとめた本があるから読みたければ読めばいいよ」
異世界召喚されてから初めてこの世界のまともな情報を得た気がする。
これ、初日に説明あればもう少し気が楽になったんですけど。
そこそこの早さで森を走り抜けていくから、風が寒い。
寒いというか、顔とかむき出しのところは痛い。
なので途中からは周りを見るのはあきらめて毛並みに顔を突っ込んでいた。
いや、べつにもふりたいから顔を突っ込んだんじゃないんですよ。
あくまで顔が痛いからそれを和らげるためで、ってなんで私言い訳してるんだろう。
最果ての小屋は古びた小さなログハウスだった。
「着いたぞ我が主よ。降りろ」
「あ、ああ、ありがとうございます」
フェンリルは私を下ろすとログハウスのドア前でスッと人型になった。
「えっ、いま人に?え?」
いままで乗っていたモフモフが人になった。
「どうした。早く中に入れ。瘴気にやられるぞ」
「あ、は、はい」
急いで小屋に入る。
「やあ、待ってたよ。君が今回の聖女のリリィちゃんだね」
小屋に入るとだれもいないはずなのに暖炉に赤々と火がともって、紅茶を楽しんでいる先客がいた。
「ああ、僕は魔公国の第一王子、アベル。さっきまで乗ってきてたフェンリルが第二王子のカミオね」
「えっ、えっと、リリィです。お初にお目にかかります」
この状況が良くわからないが、とりあえず頭を下げておこう。
「あー、畏まんなくていいよ。とりあえずお茶どうぞ。魔族が良く飲むものだけど、人間でも大丈夫な茶葉を用意させたから。ああ、カミオのはいつものがあるよ」
手際よく私たちは座らされると、一通り机に並んだお菓子の話を聞かされた。
どうやら自分で作るのが好きで、今日も彼のお手製らしい。
この人パティシエなのかな。さっき第一王子って言ってたよね?
「そろそろ本題を話さないか、アベル。そろそろ菓子の話は聞き飽きたぞ」
「あー、そう?リリィが楽しそうに聞いてくれるからもう少し」
「早くしろ」
フェンリル、いやカミオ様は話の終わらなさにイラついていた。
この話は今日に限ったことじゃなくて、昔から飽きるほど聞いているのかもしれない。
「はいはい。まず確認だけど、リリィ。そっち国にいたときに、カミオでもだれでも良いから魔族のこと何か聞いてる?」
「いえ、特に何も。カミオ様のことも先ほどまでフェンリルとしてのお姿しか知りませんでしたし」
「あー、分かった。カミオ、後でお話ね。
で、リリィ。とりあえずこれからのことについてカミオから何か聞いてる?いまさっきまで人形と獣形を使い分けられることすら知らなかったみたいだけど」
アベルさま、ちょっと怒ってますよね?ニコニコしてるけど言い方が当てこすりすぎる。
「いえ、特には」
「んー、簡単に言うとね、こちらの国に来て聖女をやってほしいんだ」
「えっそれはどういうことですか?」
魔公国の聖女?
でも私は人間で、今までの感じからすると人間と魔族は違った種族なんだよね?
「あー、そういう反応ということは……そっちの国と魔公国の歴史的な関係、聖女の仕組みと役割何も知らない感じ?」
「まあ、そもそもこちらに召喚されてすぐにフェンリル、いやカミオ様?を召喚して、そこからすぐにここに追放されることになりましたから。よく考えたら私ここの国の名前も王様も知りません」
「なんというか……異邦人を呼び出しておいてその対応は……今代の王は頭が弱いんだね」
新しいお茶をもらいながら色々説明してもらった。
人間と魔族、精霊はもとはすべて同じ種族から出ていて、超常的な力を失ったのが人間、魔法としてその力を保っているのが魔族。その中でも人間に貸し出される魔族は精霊と呼ばれるらしい。
「え、精霊はイコール魔族なんですか?しかも貸し出されるって言うのは?」
「僕らの方では特に区別はしてないよ。
ただ、人間側が魔公国の者を魔族、教会の聖女が呼び出したものを精霊って呼び出したのが広まった感じかな。
「なるほど」
「貸出って言うのはさっきちょっと触れた、魔族の出す瘴気に関係してる。
人間は力を失ったから、その力を持ち続けている僕らといるとその力で具合が悪くなったりするんだ。
それを人間は瘴気って呼んでいる。
で、この国同士は地続きでしょう。
国境があるのとおなじようにその瘴気を遮るものも必要になる」
「どんどん広がるってことですか」
「まあ、そんなにすぐではないけどね。
で、その遮るものとして、こちらから派遣した魔族、もとい精霊が国を覆うように自分の瘴気で結界を張るんだ。
聖女に召喚された魔族、精霊の瘴気は人を蝕むことが無いからね。
それに派遣されるのは力のある魔族だから、変な気を起こした弱い魔族が攻め込もうとしてもそれを大方防いでくれるし」
「は、はぁ」
「ああ、その精霊としての派遣は、先の戦争の時の協定によるものなんだよね。まあ、詳しい歴史的なことはこれから帰る屋敷にまとめた本があるから読みたければ読めばいいよ」
異世界召喚されてから初めてこの世界のまともな情報を得た気がする。
これ、初日に説明あればもう少し気が楽になったんですけど。
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