婚約者候補は辞退させてくださいませっ!

涙乃(るの)

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「見学してもよろしいのですか?」

「えぇ、もちろん。計算作業をしているのですが。あぁ、こちらは口外されないでくださいね。」

と、口元に人差し指を当てて、片目をつぶる。

その仕草に、思わずドキリとする。

な、な、なんて仕草をっ。

ニコライ様は、女性の扱いに慣れていらっしゃるわ。

そんなことをされたら、反応に困ってしまいます。

これはお仕事のことなのですから、真面目に聞かなければ。


ほんのりと頬が色づくのを感じながら、続きの説明を受ける。

「本来は、神官や見習いなど神殿で働く者が携わる作業なのですが、マリーベル様も体験の一貫として特別にどうぞ。」

ニコライは説明を終えると、マリーベルを空いた椅子へとエスコートする。

その後ろに護衛が立つ。

計算?

全く分からないわ。

ニコライはマリーベルの隣へと腰掛けた。

ソファーの時といい、今といい、隣に座るなんて、なんだか恥ずかしいわ。


きっと、学園生活はこんな感じなのでしょうね。


貴族の一部の者達や一般市民の成績優秀な者達は学園へと入学する。
学園へ入学しなくても、家庭教師に習ったり、独学をする者もいる。

学園を卒業していなくても、試験に合格すれば王城に勤めることもできる。

もちろん、マリーベルは学園に通ってはいない。

私は勉強が苦手で、基本的にはエレナがやってくれていたわね…

「ニコライ様。お恥ずかしながら、計算が苦手で分からないのです。

もしよろしければ、私にもお手伝い出来そうな部分だけで構いませんので、教えていただけますでしょうか? 本当に申し訳ありません」

ニコライ様は、嫌な顔をせずに簡単に計算の仕方を教えてくれた。

それだけでなく、私にできそうな作業を任せてくださった。

ニコライ様に教わると、不思議なほどすんなりと頭に入ってくる。



「ニコライ様の説明は、とても分かりやすいですわ。ありがとうございます。これなら、私にもできそうですわ」


「そう言っていただけると、教えがいがありますね。
マリーベル様もいずれご結婚されて、女主人として邸内のことをされると思いますので、良い経験になるとおもいますよ。」

「そう……ですわね。」

結婚か。

アーサー様の怖いお顔が浮かんでしまったわ。

手が震えそうになるのを、必死にごまかしながら、真剣に書類と向き合う。

今は、この作業に集中しましょう。

黙々と作業を続けていると、あっという間に時が過ぎていた。

こんなに大勢の人達と一緒の部屋にいても、

隣にニコライ様がいてくださるだけで、どこかホッとする。


あんなに気恥ずかしく思っていたのに。

一緒に書類作業を行うことで、連帯感というか親近感を覚えるわ。なんだか不思議。

こんなに何かに没頭したことなんて、あったかしら。

それは初めて経験するとても充実した時間だった。






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